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*プロローグ*






古からローランディア大陸の中央圏に位置する、魔法に長けた豊かな大国として名を馳せたヨグラン王国。




国力と歴史を象徴する壮麗な王城で開かれたガーデンパーティ。


初代王が王妃に与えたという通称、女王の庭(クイン・ガーディエン)、隅に植わる垣根の葉一枚までが芸術品のようにあしらわれた見事な庭園。

王妃が集めた色とりどりの薔薇の花が盛りを迎え、春の盛りをことほぐという企画で、本日は王国の貴婦人やその子女達が集まるパーティが滞りなく開かれた。




「っ!」



カチャ…

その席で、私、イザベルは唐突に思い出したのだ。

脳裏を駆け巡っていく、あまりの情報に処理が間に合わず、良い香りを放つティーカップを落としそうになった程。

勿論、すんでのところで堪えたが…。





「イザベル様?どうかなさいまして?」



「いいえ、何でもありませんわ。盛りを迎えた薔薇の良い香りが芳醇で…流石、王妃様ですわね」



「ええ。本当に素晴らしいですわよね…」




談笑していた貴族令嬢に微笑み返し、私はカップの持ち手をグッと握り深呼吸をした。



多分、きっかけは王妃様と第一王子であるフレデリク王子の登場だ。

正しくは、金髪碧眼の、麗しい天使のように整った顔のフレデリク王子の顔を見た瞬間、頭のなかを映像が駆け巡ったのである。




フレデリク・アルナイル・ヨグラン

この少年を見たことがあるから。



いや、これまで会ったことがないわけではないが、そういう意味ではない。

正確には多分この王子の数年後の姿。

しかも、直接ではなく、画面の向こうの存在として。



そしてぐるりと周囲を見渡して悟った。

ここは前世で発売されていた乙女ゲームと瓜二つの世界だ。

恐らく、自分は転生者?







前世の私は、日本という国で、普通の会社員として働いていた。


異性との出会いも少なく、あくせくと日々の生活を送りながら、夢や希望や癒しを趣味…まぁ、いろいろあったが、特にゲームや二次元の世界に求める日々を送っていた女…

うわー、なんか地味に寂しい。

しかも、こういった展開…当時の私は何度も電子図書なんかで見たことがある!

異世界転生がうんたらかんたら…的な。






『っ!……っ』





こんな……こんな…n番煎じな出来事がこの世に本当に起こりえるなんて…それも我が身なんてあんまりだ…

盛大な拍手喝采のなか、私は急遽知らしめられた己の立場に愕然とした。






前世では、乙女ゲームはいくつも攻略した。

同じ趣味を持っていた妹とも手持ちのゲームをレンタルしあったり、スマホで招待しあったりして楽しんでいた。



その妹が持っていた乙女ゲームの一つで、借りてプレイしたことがある…

『星物語~咲き誇る恋の宵夢~』の世界。



魔法や精霊などの息づく世界で、庶民育ちの主人公が王立学園を舞台に、四人の王公貴族である見目麗しい少年達と恋をする…というまさに王道ストーリー。

攻略対象全員の好感度を一定基準まで上げながら好みの相手の育成をして、最終的に一番好感度の高い相手と結ばれるという…ありがちなもの。

星物語というのは攻略対象のセカンドネームが皆、星に絡んでいたからだろう。


そして、自覚済みの意識の中に浮かぶ、今朝鏡に映した自分の顔…






腰まである波打つゴージャスな赤毛に、太陽を思わせる金色の瞳、きめ細かい真珠のような肌に、血色の良いローズ色の唇。

パーツが完璧な配置に並ぶ美少女……だが、目の形はつり目気味、鋭角的に整った顔だ。近寄りがたい雰囲気というか。




イザベル・ローゼスピカ・オフィーリヤ。

ただし、現年齢10歳。




由緒正しく、ヨグラン王国でも最も古い家柄のひとつに数えられるオフィーリヤ侯爵家の長女で、フレデリク王子の婚約者。

ゲームにおいてフレデリク王子ルートのメインライバルになる…いわば、悪役令嬢。



主人公に嫌がらせをしたとして、卒業パーティで婚約者やヒロイン、その側近達に断罪されるキャラクターだ。

良くて修道院送り、最悪は、ヒロインを殺そうとしたという殺人疑惑をかけられ輸送中に暗殺される結果。



それを思い出したときの、私の絶望やいかに。

だが、今は王妃と王子が近づいてきた為、必死に表情を隠して挨拶をする。




「イザベル、よく来てくれました」




「王妃様、フレデリク様、本日はお招き頂き、ありがとうございます」




「ふふ、貴女の好きな薔薇…ルージュ・クラシカルが今、見頃なの。

今日は楽しんでいらしてね」




「はい、ありがとうございます。是非拝見して参りますわ……

フレデリク様も、お元気そうで何よりですわ」




王妃様が柔和な笑みを浮かべて、朗らかな声を寄せてくださる。

対してフレデリク王子はというと、『ああ』の一言だけで、婚約者を見ようともしない





「用向きが出来ましたので…」





しかも、その直後にそう言って、親しい貴族令息の元へと向かっていった。






「フレディッ……

もう、あの子は……イザベル、気にしないでね。きっとフレデリクも照れてるのよ」




「いえ、王妃様。大丈夫ですわ」




「イザベル……」






王妃様が何か言いたげな顔をしていたが、私の気にしてないという顔を見て、渋々文句は引っ込めたようだ。





二人の婚約は、三年前、お互いが七歳の時に、王家と侯爵家で決められた政略的婚約であるので、王子とイザベルの間には義務感のようなものしかなく、王子は婚約者に興味を示さなかった。





それどころか…

お見合いの際、二人きりにされた途端





『そなたが、この僕の婚約者…か……ふぅん……』




『まぁ、精々喜ぶが良い。次期王位を継ぐこの僕に仕えられることを……』







ぶっちゃけ、当時

何ですの、この俺サマ至上的な思考……まだ決まってませんわ、自信過剰。

と思ったが、確かに王位の可能性は濃厚だし、流石に本音は言えないので、一礼するだけで肯定も否定もしなかった。



あちらの喋りに適当に相槌を打ってたような気がする。

そうしたら、極め付きに…





『そなた、つまらない女だな………

まぁ顔は見られなくはないが、キツイ顔付きだし期待外れか……

まぁ仕方ない。父上のご命令だ』の言。





ほんっとーに思い出してもいけすかな……コホン、えー…気持ちに素直でいらっしゃる。



それ以来、空気のような扱いだ。どうやって好意を持てと?



前世の世界であれば、あ、そう好みじゃなかったんだねっ、じゃあご縁がなかったことで……で解決する話だろうが、この世界ではそうはいくまい。



昔とは異なり、ある程度は恋愛結婚も許容され、いっそ推奨され始めているが、王族や高位貴族にはまだまだ難しいのが現状。



それでもゲーム内のイザベルは、フレデリク王子に執着していた。

だが、それは彼自身というよりは次期王妃としての立場に執着していた、というのが正解だった。

王子もそれが嫌で距離をとっていたという設定だった。

ゲームをしていたあの頃は、なんて利己的な女だと思っていたが、今、こうしてイザベルの記憶も合わせて考えると、その気持ちは当然かもしれないと思い直す。





前世の日本人としての記憶は思い出したが、今までのイザベルの記憶も失ったわけではない。


イザベルにも、矜持が、それまでの人生があったのだ。

今なら分かる。

幼い頃に道を決められ、王妃になる為に、難しく厳しい教育や教養を身に付けるように命じられ、血の滲むような努力をしていた。

思い返せば、ゲームでその事が物語られていた。

彼女は、課せられた王妃教育を成し遂げてきていたのだ。

成績は常に上位にいたし、華麗な身のこなしやダンス、芸術、マナーは完璧だった。

ヒロインを苦しめたが、決して無能な令嬢ではなかったのだ。

重ねて、王妃とはこうあるべき…という価値観も強要され、自由は少ない。



にも関わらず、婚約者からは相手にされず、近づいてくるのは権力の甘い汁を望む取り巻きぐらいで、心許せる友もいなかった。

きっとそんな日々が、あの頃まで続いていたのだろう。




それなのに急に現れた、天真爛漫…言い換えれば自由奔放な、貴族の常識もマナーも知らないヒロインに婚約者の心を独占され、立場まで危うくされかけ…いや、された。



それまでの努力全てを否定された気持ちになった……

想像するに易い。

婚約者の心に関しては、既に諦めていたのかもしれないが、『王妃』という目標までは失いたくなかった。奪われたくなかった。

それで、ヒロインを追い落とそうとした………





なるほどねぇ…




ゲームをしていた頃とは違い、この世界の常識を携えた今だから分かる見方……

そして、ヒロイン視点から外れた視点から見るシナリオと時の流れ……

それらを重ね合わせて出た結論は、変わり身が早いと言われればそれまでだが…


おかしくね?だ……


だって、マナーもなっていない身分違いの女と、浮気した婚約者(しかも、一時的とはいえハーレム要員の一角)に断罪されるって…どうよ。

悔しすぎるでしょ。

ないわーって思うじゃない。

いっそ情けないよ。

被害者と加害者逆じゃね?

百歩譲って加害者になったとして情状酌量の余地ありまくりでしょ、殺人未遂はアウトだけど!でも、私ならしないもん!




と、ここまで考えて、私、現在進行形のイザベルは来るべき未来への備えを考える。



1婚約者と関係改善

2味方をつくる

3お妃教育と共に生きていく力を身に付ける

4ヒロインと関わらない





1については………正直言って、婚約破棄は寧ろ本望だ。

王妃の柄じゃないというのもあるが、何よりフレデリク王子とは合わない。

合わない者同士の結婚生活など、できればしたくない。国を背負う結婚なんて大役なら尚の事だ。


ただ、この婚約は政略。国の思惑が動いている。自分達個人の感情や事情で、無くす事は出来ない。

関係改善は試みようとは思う。成長すればもう少し違うかもしれないし。



そして断罪…

そちらは是が非でも、勘弁してもらいたい事項だ。

それについては、4の『ヒロインに関わらないことにする』のが一番。

ゲームのイザベルのようにならず、ただ、侯爵令嬢としての模範的な振る舞いを続ければ良い。

それで解決する筈…だ。一応。



だが、ここで心配なのは

今ある世界が、恐らくゲームと同じ世界観が現実になったものだということ…

強制力のようなものが働く可能性がある。

そうだとしたら、私がヒロインに何もしなくても、断罪が起こりえるかもしれない。

何せ、そもそもゲームでのクライマックスである【婚約破棄】をするには、理由が必要だ。



何かを破棄する側は誰だって正当な理由で行いたいのだ、それも、正義の立場で。

私がヒロインに被害を与えないなら、その理由が生まれない。

それならどうする?

誇張、罪の捏造など、権力と有能な手下があれば容易い。

そして、王子という立場はその筆頭である。



流石に、自国の王子様をそこまで疑いたくはないが、前世で読んだ小説やコミック、二次創作では、そんな卑怯な愚か者も少なくなかった。

ヒロインにそそのかされた形式にはなっていたが。



まさか…とは思うが、疑うに越したことはないのだ。

相手がどんな手を取るか不明だが、推測して、用心することは重要なのだ。


生き残るために!!




とりあえず、色々とこの世界の知識を確認し、整理する必要がある。







まず、婚約に至った経緯。

これは王室の事情にある。



ヨグラン王家では、男児が生まれた場合、皆、生母が誰であれ王妃の子となるのがベースにある。

フレデリク王子はマリアンヌ王妃の養子で、第二妃のメアリ妃が産んだ御子なのだ。



マリアンヌ妃はフュロンド辺境伯の令嬢。

母君は現国王の伯母、グローリア王女と、血筋的にも立場的にも王妃の身分に申し分ない。


一方、メアリ妃の生家は新興のフェルナン子爵家。歴史は新しく爵位は低いが、事業に成功している富豪。富の高さから社交界では一定の立場を持っている。

血縁上フレデリク王子の血縁的後ろ楯は、古参の派閥が薄いのだ。


そしてマリアンヌ王妃の御子には、双子の王女がいらっしゃるが、王子はいない。ヨグラン王国は王女にも継承権はあるが、男子優先。そこは区別されている。

そのため、現時点においてはフレデリク王子が現王室唯一の王子で、最有力王位継承者なのである。

ここまでで分かるように王子の婚約は、二人の妃の生家の力関係を鑑み、将来的なバランスをとるためのもの。


仮に、マリアンヌ王妃に王子が誕生した場合、よほど、才能や資質の高さを公に示さない限り、フレデリク王子の立場は弱くなる。

まぁ、時勢によっては、逆も然りな事だが。

当代はともかく、王妃が必ずしも最有力な生家を持つとは限らないし、長期間権力が一ヶ所の家などに集中し過ぎるのも良くない。




しかし……結論、そうまでやってフェアに近い仕組みにしても、権力争いの火種は入ってくるというわけである。

まぁ、とにかくそういうわけで王と王妃が心配した末、最古参で格式も高いオフィーリヤ家との繋がりを…ということになったわけだ。



余談だが、王の最初の王妃はマリアンヌ妃ではない。

前王妃であられたのは、ナディア妃という妃で、既にお亡くなりになっている。

メアリ妃より少し前に嫁いだナディア妃はヨグラン王国の出身ではなく、西に位置する小国ラビア帝国の王女であられた。

だが、彼女は十年前に出産した際、産後の肥立ちが悪く、回復せずに亡くなった。御子も、死産だったという。

御子は男児だったというが、もしも、彼が生きていたなら、同時期にメアリ妃も出産していた為、フレデリク王子と同い年だった。今の王室の現状は大きく違っていたことだろう。

ナディア妃がお亡くなりになって三年後、マリアンヌ王妃が嫁ぎ、今の王室になった。

マリアンヌ王妃が嫁いで一年後までは、異例ではあるが、フレデリク王子は生母のメアリ妃に養育されたと聞く。

一度も出産せずに一人の人間の母親になることになったのだから、マリアンヌ妃はさぞ大変だったことだろう。



そういえば、改めて考えると、ゲームのなかでフレデリク以外の王子の影はなかった。

出なかっただけかもしれないが、王女殿下二人以来、当代王族の誕生はなかったのかもしれない。



【星物語】は、当のフレデリク王子を含む攻略対象五人がそれぞれ抱える悩みや屈託をイベントで癒し、好感度を上げることでハッピーエンドを目指す、オーソドックスなゲームだった。

ヒロインはそのように動くだろう。



ゲームの王子の友人で側近候補である他の攻略対象の四人。

それぞれ優秀な人材だ。

宰相の息子

魔法師団団長の息子

第一騎士団団長の息子兼騎士団元帥の孫

外務大臣の養子

定番だが、肩書きからして豪華な面子である。



ゲーム内ではそれぞれの攻略対象に、ライバルの悪役令嬢が宛がわれていた。

攻略対象は、それぞれの悪役令嬢達とはあまり仲が良くない設定だった。

そしてたしか、大なり小なり悪役令嬢と屈託の要因が結び付いていたような……



その屈託をヒロインが癒し、好感度を上げていくのだから、その屈託を事前に解消してしまえばヒロインに攻略対象達が食い付く理由がなくなるのでは?少なくとも王子以外…




彼等を味方につけよう…

いや、味方でなくても、ヒロインに溺れさせず、公平な貴族に持っていくのだ。


よし、決定!

外堀を埋めるため、この手段でいこう。

そのためにはまず、彼等の悪役令嬢達と交流を持つ必要がある。

彼女達の性格があれなら、他の方法も考えるが。



そして、最後に自分への戒めだ。

先入観はほどほどに。

ここは、あくまでゲームに酷似している、であって、この世界が現実であることは変わり無い。

リセットなんて出来ないのだ。

取り巻く環境がどこまで同じで、どこが違うかなど分からない。

慎重にいこう。





物語は学園が舞台。

であれば、断罪への運命はまだ、始まっていないのだ。

勝機はある。



さあ、断罪回避作戦、始動だ!



~・~・~・~・~・~・~







「ーーーーと決意したわけよ!」




「とりあえず良うございましたわね…私達全員が一応は転生者だったわけですから…」



「ほんとーに、何度も言いますけど、こんな偶然ってあるのですわね~。

いや、どちらかと言うと、必然と言うのかしら?」



「ふぅん………まぁ、悪役令嬢ってのもピンと来ませんけどね……

私、普通に貴族しているだけですし」



「私もですわっ、勝手に悪役にされても困りますの!」






そうオフィーリヤ侯爵家のサロンで話すのは、あの出来事から三年の間に、篤い友好関係を気づいた、攻略対象それぞれの悪役令嬢達である。






といっても、元々、イザベルは、他の四人とも面識はあった。

とは言っても深く関わったりはしたことがなく、顔を合わせれば挨拶をする程度。



これまでの記憶のイザベルは弱味を見せないために、決して誰かとの関係に比重をおいたりしなかった。

なので、記憶を戻した途端、歩みよりを見せたイザベルの変化に、当時は驚かれたものだ。






そんな努力を経て、交流を持てた四人。

だが、驚くほどに馬が合った。

そして、皆、想像していた以上に悪役令嬢らしくない。

普通の良識ある令嬢達だったのだ。ホッとした。



そうした三年の付き合いのなかで発覚した事実。

記憶の程度はどうあれ、全員が転生者というのだから驚きだ。


だが、前世で【星物語】をやっていたのはイザベルだけ。

他の四人は乙女ゲーム自体をプレイしたことがないので、話を知らない。




王子以外の四人の攻略対象者


一人はファウゼン侯爵家嫡男。

宰相の長男に当たるゼフュード・サジタリウス・ファウゼン。

藍色の髪に緑色の瞳を持つ、眼鏡をかけた知的イケメン。



二人目はフォースクィン侯爵家嫡男。

魔法師団団長の長男、エヴェルリグ・アクエリアン・フォースクィン。

黄緑色の髪に琥珀の瞳の、幼可愛い系な美少年。

魔術師としては天才だが、外見通り可愛さを全面に押し出した甘え上手な弟タイプだ。



三人目はオルグレン侯爵家次男、騎士団元帥の孫で、第一騎士団団長の息子、ウォルター・シリウス・オルグレン

銀髪に青い瞳の、中性的な美形。

騎士候補生で口数は少ない。



最後に、ラステイル侯爵家の嫡男。

外務大臣の養子であるレナルド・アルタイル・ラステイル。

黒髪に紫の瞳を持つ大人イケメンだ。

仲間内では大人の余裕がある兄タイプ。




これら四人の攻略対象に出てくる悪役令嬢達…。

正直、タイプは違うが、皆かなりの美少女達だ。ヒロインとも張ってると思うのだが







「ゲームの世界、悪役令嬢なんて、いまいち信じられませんでしたけど。

思い当たる節はありますね…皆、殿下と交流をお持ちです…」



「現に私達、こーりゃくたいしょう?の婚約者方とは疎遠ですものね……このまま行くと、断罪されかねない」



「本命ルートの悪役令嬢が一番酷な扱いにはなるけれど、全員が少なからず罰を受けるわ。修道院か、危険な勤務地に飛ばされるとか……最悪、殺人未遂で死刑ね」





「馬鹿馬鹿しい。私がそんな非道な真似をするというのですか?」



「あくまでゲームの中の話……

あなたがそんな方ではないことぐらい、心得ておりますわ。

ただ、どこまで矯正が入るか分からない。冤罪で陥れられる可能性も捨てきれないの……

だから、比較的動きやすい位置に婚約者のいるあなた方は回避するために、確執を無くす必要があるのよ」



「それを本当にやってのけたら、そこまでの相手だったということでは?」



「でも、実家に迷惑をかけるのは嫌でしょう?」




「それは………」




「私と違って、皆さま方はお相手が貴族だから、まだ誤解や距離をつめやすいのよ。幸い、まだ学園に入っていないことだし、自由な時間も確保されてるわ」




「確かに……王族相手では頻繁にお会いするのは難しいですものね。あちらが望まない限り…お妃教育もあるとなると、更に時間が」




「ん、そういえば、悪役令嬢というのは、皆、婚約者という立場ですの?」



「あぁ、別に縛りはないわ。その時点で、最も因縁のある令嬢か、近しい立場の令嬢がそれに当たるの…ヒロインのライバルだから、必然的に婚約者が多くなるのでしょうね」



「あれこれ騒がれて五月蝿いのは迷惑だわ……そのヒロイン?が、ゼフュード様をご所望なら、私、喜んで身を引きますのに」







青いドレスを着た、切れ長の碧眼に水色のボブの下から長いストレートヘアを背に流すような髪型をした令嬢が表情を動かすことなく、あっさりと告げる。

彼女は宰相子息、ゼフュードの婚約者であるシプリダ。

シプリダ・リゲルロータス・ウィンザミア。

ウィンザミア伯爵家の長女である。





「ロータス……」




「ロータスはゼフュード様の事、そんなに嫌いですの?」




「別に、嫌いではありませんわ。

ただ…結婚願望もないし。私はこんなだから、ゼフュード様も、こんな妻を持たされるのも気の毒でしょう?」






「そんなこと無いと思うのだけど………ゼフュード様とは最近はお会いしているの?」




「兄様とは会っているようですけど、私は殆ど。会っても挨拶程度ですわね……

十歳ぐらいまではお茶会をしたこともあったけれど、ここ最近は全然」




「まぁ…」




「というか、避けられてますわね。気にしておりませんけども」




「まぁ……それは私も似たようなものがありますわね……エヴェルリグ様とのことに関して」




シプリダの話に苦笑を浮かべたのは、緑色のドレスのイゾルダだ。


イゾルダ・マイアウェスティリア・シラークス。前髪をポンパドールにした、ウェーブがかった焦げ茶色の長髪に、垂れ目気味なエメラルドグリーンの瞳の持ち主で、右目もとの泣き黒子がセクシーである。


この面子の中では、イザベルと並んで最年長に当たる。





「ウェスのところはやっぱり相変わらず?」



「私の場合、こちらが動けば、逆効果になってきたのはご存知でしょう?ローゼ様……

年々酷くなってる気がしますわ、困ったことに」




「ウェス………」





「あー、私もそうですね。あまり気にしてなかったんですが」




「オーキッド?」







思い出したようにあっけらかんと言ったのは、動きやすい上衣と脚衣を纏った、ハニーブロンドのショートカットに、ルビーを思わせる赤い瞳が鮮やかな令嬢、クレシダ。



クレシダ・ミラオーキッド・シャニオン

シャニオン侯爵家の長女で、第二騎士団団長の三子である。

彼女は、オルグレン家のウォルターと婚約している。







「避けられるというよりは、会話がなくなったというか、話さなくなったというか……経緯の心当たりが無いんですよね。

大きな喧嘩もした記憶がないし……

まぁ、私もオルグレン家に行っても、修行に熱中してて気づいてなかったんですが」




「オーキッドは割と鈍いですからね……」




「私は……言うまでもありませんわね」




「キャメリア」





どこか諦念を滲ませ、鈴のような愛らしい声音の主は、ルシーダ・リラキャメリア・ラステイル。

クライム侯爵家の長女、外務大臣の娘でレナルドの義妹に当たる。

人形のごとき精緻に整った美少女顔に、ウェーブがかったアッシュグレーの髪と薄桃色の瞳が映えている。


複雑な生い立ちであるレナルドと、義理の妹のルシーダ。ここは割と最初の……私も預かり知らぬ時代から拗れているため、どう慰めて良いのか分からない。


いや、ここばかりはレナルドにも同情の余地がある。

好意を持った相手にとことんツンを発揮し、目の無いところで壮大にデレを発揮しているルシーダゆえに、双方、相手が悪かったとしか言えない。



つまり、現時点で四ヶ所すべてにフラグが立っているのだ。

彼女達も励まねば、婚約破棄と明るいとは言えない未来が待っている。

ここは力を合わせて、フラグをへし折っていかねばならない。




「将を射るためには馬を射ないと……射るのは難しそうですから、もらうことにしましょう!……皆様、宜しいわね」



「分かりましたわ」



「はぁ……やるだけやるわ」



「壁には立ち向かってこそですからね」



「……うぅ。皆様がそう仰るなら」





こうして五人の令嬢は新たなる同盟を組んだ。

レリゴー!

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