第七十六話 予期せぬ歓迎
「じゃあ結局のところバロウを倒さないとダメってことですか?」
この場所で巻き起こっていたことを彼らのギルドの拠点の一つに向かいながらあらかた説明してもらった。
「ええ、本来なら時間経過でなんとかなりますがこうも感染者が多いといたちごっこなので。それにNPCにも感染していて彼らは一見ダメージを負っていないように見えて状態異常としてはしっかりとそれを保有してしまっているんです」
続けて、
「この周辺の人が皆協力してくれればいいのですが中には感染者を意図的に増やそうとする人物もいて……所謂荒らしプレイヤーの一種ですが今回の場合はかなり悪質でして」
「そのうちの一人がさっきの」
「はい、その通りです。あなたは一瞬だけしか武器で触れていなかったので大丈夫でしたが彼女はその……」
さっきから水面ちゃんは一言もしゃべってはいなかった。元気が無いのは目に見えて分かる。でも気になったことがあったのでどうしても聞いてみたかった。
「水面ちゃん」
「うん?」
「さっきの男が、その……呪術系の状態異常ってことひょっとして気づいていた?」
「まあね、これはそういった相手のステータスも瞬時に把握できるから」
そう言って彼女の独自武器、戦況把握と相手の観察特化のレンズに触れるような仕草をした。
アキラちゃんもプレイヤーに元々付属している観察装置は持っているし望遠機能などもかなり強化している。
ただ、戦闘向きかどうかを考えると水面ちゃんのそれとは性能が数段階も劣ってしまう。それ故、あの瞬間気づけたのは水面ちゃんだけだったようだ。
「あの建物の中に入られたらそれこそ一気にやられる人もいるだろうし、その前にアーちゃんを狙おうとしていたから咄嗟に……」
この都市に来るまでに彼女はアキラちゃんの事をそう呼ぶようになった。
年齢は俺や花耶よりもアキラちゃんの方がもちろん近いがそれゆえに魚崎市では互いに距離感を掴めなかったようだった。
それがいつの間にか打ち解けて二人だけでおしゃべりをする様子も何回も見た。
だから、我が身を顧みずにすぐに動いてしまったのかもしれない。
あの時あの場所。
少しでも時間をずらしていれば、そもそもここに皆を連れてこなければ、例え一緒に来ていたしてももう少し別の場所に皆といれば、などという考え後から後から湧いてくる。
落ち込んでいるというよりは呆然としてここに来るまでのイキイキとした表情が曇ってしまった水面ちゃんを見ると「こうしていれば」は尽きない。
そんな俺の様子を悟られてしまったのか、
「お兄ちゃん何しんみりしてんの?」
「いや、別にしんみりなんて……」
「こうなっちゃったのはしょうがないよ。私も後先考えずに出たわけだから。でも幸い回復薬とリジェネで何とかなるし時間が経てば治る。それよりもちょっと気になることがあってね」
「え?」
そう言って案内してくれている人に話しかける。
「もうすぐ中部総合の拠点の一つに向かうんですよね?」
「ええ、そうです。君のその呪術が解除されるまで申し訳ないがそこで安静にしていてもらいたくてね。何、感染時間自体は1時間も無いからすぐです」
それを聞いて安心した。なら別に少しだけ予想外のアクシデントに巻き込まれた程度だ。確かに戦闘中にバロウと戦うものならそのスリップダメージは深刻だがよくよく考えたら戦わずに待つだけの場合は回復して過ごせばいいのだからさほど気にしなくてもいい。
ただ、その継続時間なのにさっきのような感染者がいるってことは……
「ってことは潜伏している感染状態のプレイヤーってかなり多いんですか?」
花耶が先にそのことを聞いた。
「その通りです。正直こちらもどれくらいいるのか全く把握できていなくて。隔離して治してもまた新たな感染者が出てくるばかりで……」
ただ単に感染者が多いってのはさっきも聞いたが把握できていない数自体が相当数いるのは深刻だ。
「どの地域に多いかわかりますか?」
水面ちゃんが尋ねる。
「ここはまだ少ない方でバロウが見つかった発生源の東側はもっと多いです」
「えっ、そんな……!?」
アキラちゃんが驚くのも無理がない。東側ってのはつまりこれから俺達が進もうとしている方向だ。
「えっと……ここから豊丘市までって確か電車は通っていないんですよね」
豊丘市。
水面ちゃんたちが暮らしていた隣街でそこに着けば彼女が過ごしていた特区まではすぐだった。
「残念ながら。大方あなた方の話を察するにこれからそちらに向かわれる予定なんですね?」
「はい……、そうです」
「でしたら、その……、私達のギルドとしては見過ごすことは難しくて。できれば事態が終息するまで安全な場所で過ごしていただきたいのですが……」
そうこう言っているうちに目の前には建物。
彼の腕章にもある中部総合を表すエンブレムがビルの窓につけられていた。
世界的に見ても圧倒的に大規模なゲームがLOADだ。
その国内最大規模のギルドともなれば大会でかなりの賞金も貰えるだろうしスポンサーも付く。
そもそもこのビルのオーナーがプレイヤーだってことも普通にあり得るわけでこういった拠点を見ると改めてLOADを介したコミュニティーの広さを実感する。
中に入るとフロントには他にも中部総合の人と思われる人がいた。
「あー、お疲れ。その人達が例の?」
「ああ、犯人も後で来る」
そして、俺達の方に向き直る。
「いやー、助かりました。感染者を捕えてくれたんですね。僕の方からも改めてお礼をさせていただきます。あ、僕はここの拠点を任されている丹波です」
「どうも、八雲です」「水鳥川です」、とそれぞれ簡単な自己紹介をしていると……
「あれ? あれれれれーー?? その声と名前は……!!」
フロントの奥の方から女の子の声がしてこっちに近づいてくる。
「あーーー!!! やっぱりぃー!! みなちゃんじゃん!!」
「うっ……あんたは……」
「えっ知り合い?」
花耶が咄嗟に水面ちゃんに尋ねる。
「うん、まあね。前一緒にVR宇宙とかで戦ったんだ」
そう言えばこっちの方に住んでいた時は一時的に中部総合のギルドにいてなんかデカい戦争に参加していたとかなんだかって話をしていたな。
「そうだ、丹波さん! せっかくだからあの子にも一緒に見つけてもらおうよ」
「いやいや、ちょっと待ってよ。どうしてそうなるの?」
普段は見れない彼女の慌て口調だった。
「だってみなちゃんもうちのギルド所属でしょ?」
「‟元”よ、‟元”!!」
「細かいことは気にしなーい! それにこの子強いからさ、きっと戦力になるよ、丹波さん」
水面ちゃんはなんとか応対しているがアキラちゃんも花耶ももちろん俺もそのやりとりを追っていくだけで精一杯だった。




