第七話 ボタニカルパニック 前編
知らない物は増えていく。
だって当たり前じゃないか。
こういうゲームって新規の要素が追加されるものだ。
「やっぱり駄目だ。強制脱出も発動しないっていうか今までの緊急クエスト同様終わるまで表示されないみたい」
「それにキャンセルボタンもないし完全に参加扱いになっている」
「こっちも。パーティーは私とリョーマとこの子の3人でイベント終了まで固定ね」
どうしたものかと二人で考え込んでいると……
「あの……なんだかすみません。私が巻き込んじゃったん……ですよね?」
申し訳なさそうに、自信なさげにアキラはそう言った。
「あぁ、いや今回は誰も操作していないようだし完全に偶然、トラブルのようだからしょうがないよ」
続けて花耶がフォローした。
「こうなっちゃったからにはイベントを攻略するしかないわね。どっちみちこのまま24時間ぼーっとしているのももったいないし」
「そういうわけだからとりあえずスキルと武器と携帯アイテムだけ整理しよう」
「今回のクエストの敵は植物属性ばかりだから火属性武器が有効だね。後は予防結界スキルと状態異常回復のアイテムだけ携帯アイテム枠にまとめておこう」
「俺がいつも、っていってもまあ最近使い始めただけなんだけど、その使っている片手剣は属性とかはあまり関係ない。だからと言って別に属性の有利さ以上にダメージが出るわけでもないからアイテムは変更する」
魔装填ボーガンランス【スピカ】に持ち替えた。これはカートリッジを変えることで各属性の魔法矢を射出することができる。
「んじゃあこれに火カートリッジ(通常)をセットして、後は携帯アイテム枠には麻痺治し、毒治し、火傷治し、眠り治し、万能回復薬あたりでいいかな」
携帯アイテム枠は普段入れているアイテム枠と違い、入れることができる量に限りがあるがそのかわりに即時取り出すことができる。
なので戦闘中に迅速に使用することができる。
「花耶のテンペストは……」
「まあこれは相性最悪」
「しょうがないからこれを使うわ」
【ボルケニックライフル】
こちらも【スピカ】と同じく魔法弾型の武器だ。スピカはランスの周りに取り付けられた8つのボーガンから魔法弾を次々と発車することができる高速連射性能がある。ボーガンというよりは機構はガトリング砲に近い。
対してボルケニックライフルは連射性能はそこまで優れていない。
だが射程と魔法収束率は凄まじい。
「チューニングは完全じゃないけれどもまあなんとかなるでしょう。さすがにガーディアンが来たら厳しいかもしれないけれど。そうなったらスピカの連射で弱点を露出させてそこを狙い撃つしかなさそうね」
「えっと、アキラちゃんは普段どんな戦い方をしているのかな?」
パーティー内の仲間がどういう戦い方をするのか把握するのは大事だ。
「私は、攻守両方の系統強化と味方の結界サポート、あとは身体強化による体術です」
これは意外だった。
体格はお世辞にもガタイが良いとは言えない、むしろ華奢な方だ。そのちょっとした心配を感じ取ったのかすかさず、
「あ、でも大丈夫ですよ。こう見えてもほら!」
アキラの体が浮いた。
「浮遊スキルと跳躍強化スキルを取得しています。さすがに上空を飛ぶなんてことはできませんがこうやっていろんな方向から打撃や蹴りを当てることができるんです」
浮遊スキルはかなり珍しい。
ゲーム内で2番目の標高の山頂での修行によって習得することができる。
そこに到達するまでの難易度と結局は強力な武器を手に入れれば何とかなるというプレイヤー内での常識からあまり習得するプレイヤーはいないがアキラはそれを習得していたのだ。
「それに、」
そういってこちらを持ち上げるような動作をすると、
「うわ!」
「え!?何!」
思わず花耶がスカートを抑える。
「あまり知られていないんですがスキルのレベルを上げることで他のプレイヤーを浮かすこともできるんです」
「ただ、これが役に立つかって言われると私にはどうも考えが付かなくて……」
これも驚いた。
確かに他のプレイヤーを浮かしたところで、って思うが使いようによっては応用の幅が広いんじゃないだろうか。
「いや、面白いよこれは!」
ゆっくりと地面に下ろされながら彼女を誉めるとこの言葉は予想していないようで少し驚いたがその後、ニコって笑って
「ありがとうございます!あまりこのスキルで褒められたことはないのでびっくりしましたがとっても嬉しいです!!まあ見せることがほとんどなかったんですけどね」
「ねえ、アキラちゃん、これって……」
そう言いかけたときにカテゴリー3以上のアラートが鳴った。
「ごめんね、話は後!構えるよ」
キングマンドラゴラが出現した。
ラッキーだ。こいつの毒袋はほしかった。
それは猛毒の翠弓の素材になる。これがあれば一部の敵は高ランクだろうと毒だけで大分弱らすことができて体力を温存しながら戦うことができる。長い旅になることだからそういった戦い方も重要になってくるだろう。
火カートリッジセット。キングマンドラゴラに矛先を向けてロック、そして射出する。
次々と放たれる火属性の魔法矢がキングマンドラゴラに命中する。
すると、キングマンドラゴラが毒を吐く予備動作に入った。
「予防結界発動!!!」
アキラが予防結界を使ってくれた。
完璧なタイミングだ。
猛毒の微細粒子がこちらに向けて放たれる。
が……問題ない。
全て結界が防いでくれた。
すかさず花耶のボルケニックライフルがマンドラゴラの口を貫通した。
「やりました!」
「いや、浅いわ!」
急所から少しずれたようだ。それでもかなりマンドラゴラは削れた。
「それなら!!」
アキラが火系統強化を花耶に施した。これもナイスサポートだ。
俺も続けてボーガンを射出して牽制する。
そして、花耶が2発目を撃つ。さっきよりもより急所に近い、というか急所ど真ん中だ。
「ギャアアアアアアアアッッッ、ギャアアア、ァ、ァ…」
この倒れる時の鳴き声は相変わらず慣れないな…
〈カテゴリー3キングマンドラゴラを討伐しました。3ポイントを獲得しました〉
初の連携は驚くほどうまくいった。花耶の攻撃も凄いがアキラちゃんのサポートも素晴らしかった。
そのことを二人に伝えると互いに何が良かったか、こういう場合はどうするかなどを話し合った。なんか久々にパーティーらしい戦いだったなぁと少し懐かしさに駆られつつその楽しさを思い出した。
うん、確かに俺はパーティー行動をとる際にめんどくささとか煩わしさに目が行くようになってしまった。
でも楽しさも確かにあったんだ。
そういったポジティブな側面よりもネガティブな側面ばかり気にしたのは効率ばかり求めすぎた結果なのかもしれないな。
少しだけそんな事を思った。
でも今は関係無いか。
少なくともこのイベントが終わるまではもう少し、パーティークエストを楽しもう。
「ところでアキラちゃんさ……」
浮遊についてもしもの時の作戦を提案してみた。
「……一応、できますがその、、、距離とかタイミングが少しばかり難しいと思います」
この返事も少しばかり申し訳なさそうだった。
「あっ、ごめんよ。色んな応用ができそうでちょっと気になっただけだから」
「んー確かに面白そうだし剣と合わせれば立体的な攻撃ができるけれども速度と跳躍バフでなんとかできそうね」
そうなんだよなぁ。
特にこういった森の中の木を足場と見るなら身体強化系でなんとかなってしまう。
本人自身が使うならまだしも他人を動かすとなるとどうしてもイメージとのズレが生じてしまうだろう。
でも花耶も興味があるようで
「敵を浮かすことはできるの?」
「対象が3つまでなら敵でも大丈夫です! ただ、重い敵は無理なので上位カテゴリーにはあまり通用しないです。なので自分か味方を浮かすのに使うって修行先の師匠はおっしゃっていました」
「なるほどね。確かに制限はあるみたいだけどそれでも相当面白いわね。習得の儀も大変だったでしょ」
そう言って花耶はアキラの頭をなでる。
花耶は前に妹が欲しいって言っていたが、アキラちゃんみたいな子には優しいんだよなぁ。
そういえば昔住んでいたところにも一回り幼い少女がいたがあの子とは相性が良いようなそうでないような、などとまた少しばかり昔を思い出していた。
その後も、順調にモンスターを討伐していった。
キングマンドラゴラもグリーンザウルスも複数、それ以下のカテゴリーの敵も多く討伐した。
気が付けば陽が落ちてしばらく経った。
「そろそろ休息モードに入らない?」
「そうだな」
休息モードは緊急イベント時に使える特殊な休憩だ。
時間が設定されていて強制的に位置変更もされるイベントでは休みにくい。
ただし、休息モードになれば設定した時間内はモンスターとの戦闘を避けて一定空間内に安全を確保できる。
ここで眠ったり各種回復やアイテム・スキルの調整をするのだ。
「アキラちゃんもお疲れ、はいこれ」
回復薬と食料アイテムを渡す。
「いえ!そんな頂くわけにはいきません」
「いーの、いーの頑張ってくれたし。それにちょっと長めにクエストに駆り出しちゃったしね」
「私からもはい」
花耶はそう言ってSP回復薬を渡す。
「こういう時は素直に貰っておきなさい」
「じゃあ、ええっと、お二人ともありがとうございます」
「「どういたしまして」」
「そういえばさ、アキラちゃんがどうしても欲しいって言っていたアイテムって何なの?あっあまり言いたくないことだったら無理して言わなくていいからね」
「あぁ、いえ、こういうのは共有しておいた方がいいかもしれないので話します。私は万能蘇生の新芽を狙っています。確率は低いのですがお世話になった人がちょっとまずい状況で……」
そう言って彼女はうつむいた。
なるほど。
誰かは分からないが助けたい人がいるんだな。
「そうか、じゃあ起きたら全力で探すか」
もう俺の欲しいアイテムは獲得した。
「私も欲しいのは手に入ったしそうと決まれば狙うのはボタニカルガーディアンね」
花耶も同じみたいだった。
そして少しばかり雑談した後に8時間休息の時間20分前にアラームが鳴るようにして眠りに就いた。
*
ピピピピピピピピピピピピ
アラームの音で目が覚める。
ツンツン
(ん?)
アキラちゃんが俺と花耶を指で突いてそれから少し遠くを指さした。
「あの?あれって何でしょう?」
何だろう?遠いな300、いや、400mは離れている。
「いや、ちょっとわからない」
「私も、なんだろう」
そんなに離れていたらまだ薄暗くて見えないはずだがどういう訳か‟それ”は淡く光っている。
あの辺はさっき何体かモンスターを倒した位置か。
それぞれがクエスト再出撃前の準備を整えながら何回かそれを見た。どうやら少しずつ近づいているようだ。
そして〈休息モードを解除します 5,4,3,2,1〉
安全領域が解除された。
と、次の瞬間カテゴリー3以上のアラームが鳴る。
グリーンザウルスか、それともボタニカルガーディアンか。
だが出現もしなければ周囲にいない。
「あの……リョーマさん、カーヤさん、あれ……」
先ほどの白いそれがさらに近づいてきた。
あれは……人?
大体の形と大きさを把握した瞬間、3人のISが反応した。
それのステータスを示して。
【緑の叡智神 アンテーア】
カテゴリー
……
…………
………………
「5」
それは美しく、神秘的、そして…




