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広がる世界。


全速力でペダルを漕いで家に帰り着くと、駐車場にはもうパパの車が止まっていました。息を荒げている玲と顔を見合わせてゴクリと唾を飲み込みました。


「僕、今日は寄らないで真っ直ぐ帰るよ。」


「うん。」


「じゃぁ、つぶちゃんバイバイ。」


「バイバイ。」


手を振りさよならをして自転車を戻し、玄関のドアに鍵を差し入れガチャリと扉を開けます。いつものようにくつを脱ぎ、手を洗いリビングに入るとパパとママがリビングテーブルに座っていました。ふたりの間には携帯会社の紙袋。私は胸の高鳴りを抑えてなるべく普段通りに言いました。


「ただいま。」


「おかえり。あら、今日は玲くんは一緒じゃないのね。」


「真っ直ぐ帰るって。」


「そりゃ珍しい。それよりまどか、携帯電話。」


パパがソワソワした素振りで紙袋を持ち上げました。


「じゃーん。これにしましたぁ。」


パパが紙袋に手を入れて中身を出したとき私は目を開けていられなくて固く、固く閉じていました。


「まどか、どうした?気に入らないか?」


パパに言われて目を開けると、そこにはしっかりスマートフォンが握られていました。私は力が抜けてヘナヘナと床に座り込みました。


「どうした!?」


その様子に心配したパパが走り寄ってきました。


「嬉しくて。」


それだけ言うのが精一杯でした。パパは安心した顔で私の頭をぐしゃぐしゃと撫で回します。頭が左右に揺れるほど撫でられ我に返った私は


「止めて。」


と冷たく言いました。こういうとき意に介さないのがパパです。


「なぁんだ。冷たいんだなぁ。まどかは。」


ちょっと拗ねたような顔をしつつ面白がって私を見ています。


「まどか、こっちにいらっしゃい。」


ママです。山が動きました。

これから大切な話が始まる。そんなときのママの話し方。

私は黙ってテーブルに座りました。


「これが、今日からまどかが持つ携帯電話です。スマートフォンね。」


「はい。」


「さっき、パパと話し合ったんだけど、基本的に管理はまどか自身に任せます。パパもママも基本的にあなたの携帯を見ることはしないし、悪いことはしないって信用しています。お友達としかできない会話、パパやママには覗かれたくない大切な秘密もあるだろうから。でも、もし携帯を持つことでまどかの言動がおかしくなったと感じたときは中身を見させて貰います。これは約束ね。」


「はい。」


「よし、じゃぁ。パパから携帯を受け取って。」


振り向いてパパの方を見ると涙ぐんでいます。どうやらママと私の会話でやられちゃったらしい。単純な愛すべき人です。


「ほら、まどかの携帯だよ。何か急に手の届かない場所に行かれるみたいでパパ、ちょっと寂しいな。」


「今日、お友達にラインっていうアプリを教えて貰ったからパパとママもやろう。」


「ライン?若い子達の間で流行ってるんだって。聞いたことあるな。パパとママともやってくれるのかい?」


「当たり前じゃない。」


「まどかぁ。」


もしもパパに犬のようなしっぽが生えていたなら、きっと振りすぎて千切れて落ちちゃうんじゃないかと思うくらいの喜びようです。全身で嬉しいと言っているようでした。


「じゃぁ、3人でアプリのインストールしなきゃね。こっちにいらっしゃい。」


ママに呼ばれリビングテーブルに座ります。3人で自分のスマートフォンを握りラインのアプリをインストールしました。


アプリの画面を開くと、メンバー欄にはパパとママしかありません。ふたりの方を見るとママが


「まどかの番号、ママ達の携帯にはもう入力してあるから。」


そっか。と思いました。携帯の番号を入れないとメンバー欄には表示されない仕組みのようです。私は慌ててポケットから今日貰ったメモ用紙を取り出し携帯番号とメールアドレスを入力しました。


ピコン。っという音と共に玲、莉那、香織の3人がメンバーに追加されました。画面を真剣に覗き込む私を見てママが笑いながら言いました。


「まどか、今スッゴく嬉しいでしょう?」


「えっ?」


「全身から嬉し~い!!って出ちゃってる。」


「えっ、何かそれパパみたいで嫌。」


「そっくりよ。良いじゃない喜びが伝わりやすくて。ねっ、パパ。」


「そうだなぁ。でもすごく冷静に物事を見てる様な所はママ譲りだろう?ふたりの良いところを受け継いだんだろう。本に夢中なのはたまにどうしたものかと思うけどな。」


「そこはまどかのオリジナリティでしょう。まどか個人としての内面もあるわ。まぁ、何にしても貴方は私達の宝物よ。」


何だかくすぐったくなるような会話の中で心がふわふわと浮き上がる様でした。私はパパとママに携帯の画面を見せ、莉那と香織の説明をしました。


「ふたりとも本が大好きで、私よりも読んでいるかも。ふたりと知り合って私ね、ちょっと世界が広がった気がするの。」


「そっか。それはいいお友達だ。大事にしなきゃな。」


「うん。」


3人で話しているとピコンっと音がして画面を見ると玲からのメッセージでした。


『つぶちゃん、やったねスマートフォン!』


「一番乗りはやっぱり玲くんなのね。」


ママが笑って言うと


「先を越されたかぁ。あの丸ぽちゃの奴めが。」


パパが若干憤慨しています。

その内、香織と莉那からもメッセージが入ってきて4人のトークルームを作ることにしました。これでいつでも4人で他愛のない会話が出来ます。まぁ主に本の事中心ですが。



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