フレンズ。
「ありがとう。またね。」
私の乗っていった自転車をガレージに入れてくれた玲にお礼を言って別れを告げる。
「うん、じゃぁ、また。」
ずいぶんアッサリした別れだと思うけど、私達にはこれくらいがちょうどいい気がする。でも、ずっと繋いでいた手にまだ玲の温もりが残っている気がしてドキドキした。
「フウッ。」
玄関のドアを開ける前に、息を吐いて気持ちを切り替える。
「ただいま。」
「おかえりなさい。大丈夫なの?」
心配顔のママが尋ねてくる。
「大丈夫。」
私が、短く答えると諦めたように話題を変えてくれた。
「早く手を洗って。夕食を食べましょう。」
「はい。」
言われた通りに手を洗いテーブルに向かうとパパが先に座っていた。
「おかえり。」
そう言っただけで黙っている。やがてママの作った食事が運ばれて来て、「いただきます」と食事を始めた。誰も話さない食卓の沈黙を思いきって破る。
「パパ、ママ、心配させてごめんなさい。」
「いいの。ママはまどかのことを信じてるから。」
「パパもだよ。」
「ありがとう。話したいことがあるの。」
「なんだい?」
「あのね、夏休みの間に小説を書かせてほしいの。」
「小説を?アイデアが浮かんだの?」
「うん、今夜中川さんに大まかなプロットを送ってみる。」
「また徹夜する気か?」
パパが険しい顔になり箸を置いた。私は慌てて取り繕う。
「徹夜はしない。大まかなアイデアをパソコンにまとめて送るだけだから。」
「ならいいだろう。でも、夏休みの執筆も徹夜は駄目だ。」
「はい。ごちそうさま。」
しおらしく答えてちょうど食事を食べ終え、お皿をキッチンへ運び、ザッと洗って洗いかごへ入れたところで大切なことを打ち明けた。
「それと、私、玲と付き合うことにしたから。」
言い捨ててキッチンから自分の部屋に駆け上がった。
「あらぁ。」
と言うママの声と
「何だって?!」
と言うパパの声が入り混ざる。
私は一応部屋の鍵をかけてパソコンに向かう。
画面に打ち込んだ文字は
『フレンズ』
玲の存在を女の子に変えて恋愛色は一切無い友情ストーリーを大まかに打ち込んで送信ボタンを押した。そこで、私は丸2日程お風呂に入ってないことを思いだし、バスルームでシャワーを浴びた。強い眠気に襲われてそのままベッドに倒れ込む。深い眠りから私を呼び戻したのはスマートフォンの着信音。画面には中川葉子と表示されている。
通話ボタンを押し、電話を受ける。
『もしもし、おはよう。』
「おはようございます。」
『送られてきたプロット、見たわ。』
「どうですか?」
『素晴らしい。恋愛要素はないけれど、背伸びしていない所がいいわ。得たものがあったのね。』
「得たもの?」
不思議に思い聞き返す。
『題名通りよ。友達。いい友達に恵まれたのね。』
思考がピンと繋がって鮮明になる。
「はい、気が付いてなかったけど、だいぶ前からすごくいい友人に恵まれていました。」
言いながら、玲だけじゃなく莉那と香織の顔が浮かぶ。私は本当にいい友人に恵まれていた。
コンコン。
電話の途中で部屋をノックされ、ママの声が響く。
「まどか、起きてるの?そろそろ用意しないと遅れるわよ。」
「はい。」
『忙しい所、ごめんなさいね。どうしても貴女に伝えたくて。』
「いいえ。」
『じゃぁ、夏休みの間に執筆よろしくね。さようなら』
「はい、さようなら。」
中川さんとの電話を切り、急いで制服に着替える。階下に降りて顔を洗い朝ごはんを食べているとパパが現れた。
「お、おはよう。」
どこか余所余所しい。そんな姿を見てママは笑いをこらえている。私は思い切り明るく返事を返した。
「パパ、おはよう!行ってくるね。」
一足先に食べ終えて家を出る。
「いってきます。」
「行ってらっしゃい。」
いつもと同じ声が玄関に響いた。ローファーを履き外に出ると道路の向こう側に玲が立っていた。私に気が付くと手を振って
「つぶちゃん、おはよう。」
と言った。
「部活は?」
いつもならとっくに朝練に出掛けている時間なのに目の前に居る玲にビックリして問い掛ける。
「つぶちゃん、今日は月曜だよ。」
「そっか。」
道路の向こうで笑いをこらえている玲に走り寄る。
「一緒に行こう。」
言いながら玲が手を差し出してきた。
「うん。」
少し戸惑いながら手を繋ぐ。互いにぎこちなくて笑ってしまう。
そのまま駅まで向かい電車に乗り、降りたところでまた手を繋いだ。
「おはよう!」
後ろから声がして振り返ったら莉那と香織が居た。
手を繋ぐ私達を見てニヤニヤしている。
そして心底嬉しそうに言ってくれた。
「めっちゃお似合いなんだけど!!」
二人声を揃えて言うと、香織がニコニコしながら言葉を添えた。
「そう言えば今日、梅雨が明けたって。」
「すごーい、ラッキーじゃん。写真撮ろう!二人が付き合った記念。4人で。」
「えっ、何で4人なんだよ。」
莉那の提案にあからさまに不満の声を洩らす玲。
「いいよ。4人で撮ろう。入って。」
私は鞄からスマートフォンを取り出し、画面ぎゅうぎゅうに4人の顔を入れて写した。画面には弾けるような笑顔が収まっている。それを見てみんなで爆笑した。笑いすぎて涙が出るくらい。
「みんな、友達になってくれてありがとう。」
幸せすぎて不意に口に出した言葉に莉那が反応する。
「何言ってんのよ。お礼なんて言わないで。ウチらはまどかと一緒に居るのが楽しいから一緒に居るんだからね!」
「そうだよ。」
香織も追随してくれる。
「僕はずっと昔から大好きだ。」
玲が言うと「のろけすぎなんだよ」と2人からどつかれている。
私は本当に心から幸せな思いで3人を見つめた。
本の虫で、ともすれば本で要塞でも作ってしまいそうな私を救い出してくれてありがとう。
END。
恋愛小説家。読んでいただき本当にありがとうございます。書き始めから完結までだいぶ時間が掛かってしまいましたが書き上げることが出来ました。途中で筆を置いた期間も小説の事が思い出され、書かなきゃなと思うことが何度もありました。でも書けず、また投げ出しということを何度も繰り返した作品でした。キャラクターは動いてくれるのにそれを上手く文章に表せない。もどかしい日々でした。完結させたあと思うのは、書き上げられて良かった。達成感で一杯です。
拙い文章ですが、楽しんで読んでくださる方がいたら幸いです。