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お嬢様は狙われる理由に事欠かない

 

「さて」

「……」

 

 翌朝、こんな血みどろな環境でもしっかりと休む事が出来た俺達は、拉致した男の処理に頭を悩ませていた。

 どうでも良いけど慣れって恐いな。1日しか経過してないはずなのに、もうこの腐臭や景色に耐えられる自分がいる。……人として大丈夫かと思う反面、この世界では都合良さそうなので、あんまり考えないようにしよう。

 

「こいつ、どうするっすかねぇ……」

「……聞きたい内容はもうリアに話してもらったんだし、解放してあげないか?」

 

 今俺達は目を覚ました男を壁際へと座らせ、それを囲むようにして見下ろしている。

 

 俺は自分が拉致してきた引け目からそう提案してみるが、アイシャに小さく首を振られてしまった。

 む、だめか。今こうしてるだけでも罪悪感がすさまじいんだが……アイシャは何かこの人に、確認したい事でもあるんだろうか?

 

「とりあえずいくつか質問をしてみるんで、答えてください。まずはそうっすねぇ……お前はこの街の住人っすか?」

「違う」

「……リューヤさん、どうっすか?」

「はい?」

 

 唐突な水の向けられ方に、思わず(ほう)けた声が出てしまった。

 いやいや、なんでそんな、「この人が言ってる事は本当?」みたいな目でこっちを見るんだ? 正直意味が分からないんだが。

 

「……なぁアイシャ、なんで俺に聞くんだ?」

「多分この街の住人なら、身体のどこかに血晶化が出てると思うんすよね。もしそれがあれば、こいつは噓を言っていると言うわけっす」

「あ、なるほど」

 

 アイシャの言葉に納得した俺は、早速『竜の瞳』で男の身体を見てみる……うん、血色魔法の痕跡なし。ついでに魔物特有の魔力も見えないので、完全にただの人だな。

 それにしてもこんな状況なのに、捕らえられている男に別段怯えた様子が無い。見た感じ冒険者っぽいけど、同業者なら危害を加えられないとか暗黙のルールがあるんだろうか?

 

「その人は血晶化してないな」

「まぁそうっすよね。ところで、どうやって確認したんすか?」

「……さぁね」

 

 あ、こいつの探りを入れるような今の反応、もしかして俺が魔力を直接見れるって話を聞けてなかったのか。

 そういえばあの話をしたのは、『百の飛び回る小さな私(ハンドレット・スモールアイ)』を消した直後だったっけ。という事は途中、再配置までは盗み聞かれてないのかも。……けどこうして確認してくるってことは、ある程度方法について予想をつけてるんだろうな。

 

「はぁ、ガード固いっすねぇ……まいいや。それでこの街の住人でないお前は、何しにこんな街までやって来たんすか?」

「依頼の遂行のためだ」

「ほー、つまりは冒険者っすか。依頼の内容は?」

「……」

「だんまりっすか。とは言ってもこんな街に用がある相手となると、吸血鬼くらいっすかねぇ。そこでおにーさんに1発で沈められて、言い辛くなってる感じっす?」

「……まぁ、そんな所だ」

 

 俺達以外にも、この依頼を受けた冒険者がいたのか。

 ……って、この場合ってどうなるんだ。片方のパーティが倒しちゃえば、もう片方が達成出来なくなるって事だろ? いや、でも討伐対象は倒せてるんだし、自動的に受けたパーティ全てが達成になるとか?

 よし、分からない事はマカ先生に聞いてみよう。

 

「ねぇ、マカちゃん」

「えっとね、こうのは割とあるんだよ。特に等級の高い討伐依頼では、その魔物がいる付近の街で依頼が受けられるから、魔物討伐よりも別パーティからの妨害の方がキツいみたい」

 

 あ、そうなんですね。

 けどちょっと待ってほしい。なんで内容言う前に答えが返ってくるんだ?

 

「……確かにその事を聞こうと思ってたんだけど、何で分かったの?」

「おにーさんって大体こういう決まり知らないから、今のタイミングで話しかけてくるってことはそうなのかなって」

 

 そう返してくるマカちゃんは、口元に手を当ててくすっと小さく笑う。

 ……何となく手のかかる子供みたいに扱われている気がするが、いつも彼女にフォローしてもらってる気がするので、何も言い返せない。

 

「それでね、もし依頼がかぶって他パーティに先を越された場合なんだけど、特にお咎めは無いから安心しても良いよ」

「そ、そっか。それも気になってたから説明はありがたいんだけど……よく分かるね」

「ふふっ」

 

 俺の言葉にマカちゃんはますます笑みを深めると、ちょっと自慢気な表情で雪華に目を向ける。その行動について俺はよく分からなかったが、向けられた雪華が頷きを返すところを見ると、何かしらで通じているみたいだ。

 

「最後の質問っす。この街には何人で来たっすか?」

「…………1人だ」

 

 っと、俺がマカちゃんに質問している間に、男への尋問が終わったみたいだ。

 んじゃそろそろ解放してあげて、本来の目的だった吸血鬼退治――にィ!?

 

 ガッ!

 

「なっ!?」

「……もー、だめだめ。噓ばっかりじゃないっすか」

「ま、待て! 何のことだ?」

 

 これで質問も終わりだと気を緩めていると、アイシャはゆったりとした動作でしゃがみこみ、突然ナイフを取り出したかと思ったら壁に……丁度男の顔の真横へと突き立てた。

 さっきまでアイシャの口調も手伝ってか、かなり軽い感じで質問が進んでいた思っていたのに、今の行動でその雰囲気が一気に霧散した。ありていに言えば、ちょっと恐い。

 

「お前が寝てる間、私が何も調べてないと思ってたんすか? 私の中で尋問って言うのは、既に答えの出てる回答に対して、どう受け答えをするか見るものっす」

「……なんだと?」

「情報はもう既に手に入ってるんすよ。証拠示しましょうか? ……フェルグ、性別は見たまんま男で年齢は20、6級の冒険者で3人パーティ。とある依頼を受けて少し離れたエスコルビアって街からやってきた……間違いないっすよね?」

「……」

 

 ……えぇ? 尋問って普通、知りたい情報がある場合とか、または確たる証拠というか決め手を手に入れる為にやる事だよな?

 それを先に全て集めておいてわざわざ行うのは、どう考えても順番が逆なわけで。もっと言えば尋問する必要すらも無いわけで……うーん、反応を見るためのものだって言ってたし、単純に彼女の性格が悪いのか、それもと何か他に別の理由でもあったのだろうか。

 

 ……後者である事を祈るばかりだな。

 

「えーと、リューヤさん? そんな変な人を見るような目で見ないで下さいよ。ちょっとゾクゾクってなるじゃないっすか」

「……その発言だと、ますます変な人疑惑が深まってしまうんだが」

「あははっ」

 

 アイシャは楽しそうに声を弾ませながら、今度は立ち上がって俺に顔を寄せてくる。

 

「この男の依頼内容なんすけど、その子……ルーテリアの誘拐なんすよ」

「おい待て、吸血鬼退治というのは?」

「目の前に獲物がいるのに、本当の事を言う馬鹿はいないっすよ」

「…………あい?」

 

 俺達が揃って彼女の方を見たからか、ルウは少しだけ首を傾げ、不安そうな表情で見上げてきた。

 

 けど、なんたってルウを攫おうとしてるんだ?

 あぁいや、攫うというのは語弊があるか。アイシャはこういってるが、もしかしたらこの街から助け出しに来たのかもしれないし。

 

「なぁアイシャ、どういう事なのか詳しく」

「昨日、丁度人探しをしてる男女2人組みを見つけましてね、そこで特徴を聞いてたら何だか捕まえてる男だったみたいなんで、直接会いに行ってみたんすよ」

「そ、そうなのか」

「それでちょっとばかし話しを聞かせて貰ったところ、ルーテリアって子を連れてくる依頼を受けてたみたいなんすよね」

 

 通りで帰ってくるのが遅かったのか……知らないところで結構動いていたんだな。

 

「けどリアはこの街の貴族令嬢だろ、なんで他の街からそんな依頼が出るんだ?」

「……あー、まぁ彼女のあの話を聞いてたんならもうお分かりかとは思うんすけど、彼女の偽両親、娘を売ろうとしてたみたいなんすよね」

「えーと、つまり?」

「もろもろ省略すると、吸血鬼騒ぎで取引自体がなくなっちゃったんすけど、買う予定だったお客さんは諦めきれず、冒険者を雇って連れてこさせようとしているって事っすね」

「なるほど? ……ちなみにその雇い主さんは、善意でその依頼を出してるのか?」

「善意でわざわざ? あはは、そんなわけ無いじゃないっすかー。その依頼を出している貴族様は特殊な性癖がある方みたいなんすよね。幼くて可愛い子を見ると痛めつけたくなるとかなんとか。だからもし彼らの依頼が問題なく達成されていれば、あの子は屋敷に連れられて一生弄ばれてたんじゃないっすかね。長いか短いかは別として」

「そうか、それを彼らは知らずに……」

「こいつの仲間から聞いた情報なんで、知らないはずないっすよ。名目としては吸血鬼の住まう街からの人命救出って事らしいっすね」

「あ、そうなのか。へー」

 

 やば、思わず自分でも驚くほど、ハッキリと冷たい声が出てしまった。

 

 でもそうか、知っててやってたのか。へぇ……。

 これはもう弁解も何も出来ないな。お陰で拉致してきた罪悪感は綺麗に消えたけど、同時にこの男を見る目が変わってしまった気がする。

 

 ……ん? という事は、わざわざアイシャがさっき尋問していたのは、この男やその仲間が今後どう動くのかを見るためだったという事か。

 そう考えると、アイシャって実はすごく良いヤツなんじゃないか? リアの事をどうでも良いと思っていたのなら、俺の言葉ですぐさま男を解放しても良かったはずだ。昨晩あれだけ仲悪そうだったのを考えると、特にそう思えてくる。

 

 いや、彼女に対する警戒心を捨てて冷静に考えてみれば……そもそも出発当初からいくらギルド長のお墨付きとは言え、こんな実力も未知数で低ランク冒険者の俺とパーティを組んでくれてる時点で、悪い人では無いと思う。道中もなんだかんだと言って気を使って貰えてた気がするし……。

 

 と、いけない。

 いきなり機嫌の悪そうな声を発して黙り込んでしまっていたせいか、気づけばアイシャが口を噤んでしまっていた。……悪い事したな。

 

 今の話で経緯は分かったものの、それでも1つの疑問が残っていたので、俺はなるべく空気を換えるようにと明るい声を心がけて口を開く。

 

「いきなり変な声出してごめん。けどよく彼らはルウがリアだって分かったね。今ってその……だいぶ幼くなってると思うんだけど」

「理由は簡単っす。彼女って長い間引きこもりだったわけじゃないっすか。実は引きこもる前にお見合い用ですかね? の絵を描いてもらってまして、それを先方に見せたみたいなんすよ」

「え、それって詐欺じゃ……」

「ま、どいつもこいつもクソなやつらばっかりって事っすね」

 

 アイシャはやれやれといった様子で肩を竦めるが、これって結構マズいよな?

 見せた相手がソイツだけだとは限らないし、他に冒険者を雇って同じように狙っているのかもしれない。ルウが幼女姿でなく少女姿にもなれれば危険は下がるが、今の見た目のままならいらぬ火の粉を被る事になりそうだ。

 

「……わかった。少しルウと相談してみる」

「それは良いっすけど……この男、どうするんすか?」

「とりあえず解放しないのは確定なんだけど……ごめん、アイシャ。俺こういった事よく知らないから、任せても良いかな?」

「了解っす」

 

 アイシャが笑顔で頷いてくれたので、負担を掛けるのを申し訳ないと思いつつ、全面的に任せる事にした。

 俺は俺でその間にルウの問題を片付けておくとしよう。

 

 

 

 

 アイシャと男をその場に残し、俺はルウはもちろん雪華とマカちゃんも連れて、別の部屋……ここは厨房かな? へと入る。

 ちなみにルウだが、今朝目が覚めると既にリアからルウに代わっていたみたいで、俺としてはほっとしていた。別にリアが嫌いだとかそういった話ではないんだが、昨晩見たアイシャとの組み合わせを考えると、今はルウでいてもらった方が助かるんだよね。

 

「さて、ルウにちょっと聞いてみたいんだけど、良いかな」

「あい、なんです?」

「ルウは魔物だったよね、確かウィンプジェリーだっけ……それで聞きたいのは、今リアの姿になってるみたいに、別の人や形になったりは出来るのかな?」

「えと、それは無理、です」

「そっか、じゃあ成長したリアにはなれる?」

「それも無理です……」

「あぁいや、気にしないでね? ……『害撃拒絶(リジェクション)』」

 

 ルウは俺の質問に対し、眉をハの字にして申し訳なさそうに答える。

 その様子があまりにも気落ちしたように見えたので、魔法で手を保護しつつ励ますように撫でてやる。

 

「ふぁ……りあも、撫でてもらったです」

「そうだね、ルウは撫でられるの嫌かな?」

「嫌じゃないです……りあ、撫でられてるとき嬉しそうだったです。るう、ちょっと羨ましかったです」

「なら良かった。ルウもリアも、良い髪質してるよね…………ん、髪?」

 

 自分で言いながら気づいた。

 ルウの髪って、ルウが身体を変化させた一部だよな? だったらもしかして、その辺りを少し弄れないだろうか。

 

「……ルウさ、この髪の毛を伸ばしたり出来る?」

「ふぁ……? う、わかんない、です」

「ちょっと試してみてくれるかな」

「あい」

 

 手を離して少し待つと、ルウの前髪が徐々に伸び始めてきた。そうして目元が完全に隠れ、鼻の少し上まで来たところでストップをかける。

 

 ……おぉ、これならわかんないんじゃないか? 髪の長さを変化させるだけで、結構印象って変わるものなんだな。

 

「うぅー、見えないです」

 

 魔物だった元の姿は想像できないが、今の形状では目でしか物を見ることが出来ないのか。

 俺はそんな感想を抱きつつ、わたわたするルウを横目に大容量収まるくん4号の口に手を突っ込むと、目的の物を引っ張り出す。

 

「あのぅ……」

「ごめん、もうちょっとだけ大人しくしててくれる?」

「……あい」

 

 見え辛くて不安なのだろう。さっさとやってしまうか。

 取り出したのは、俺が着用する予定だった服。真っ白いシャツなのだが、俺はそれを軽く宙に投げると、白晶を抜き放ち細長い形状に裁断する。

 

 ……少し丈が短くなったが、まぁ着れない事も無いだろう。

 俺はさっと服をしまいこむと、切り離したものを掴み、開いた手でルウの前髪を真ん中から横に分けながら手に取った。

 

「ふぁ!?」

「これでこうして……よし、出来た!」

「う? 見えるです」

 

 前髪をたらしていた横髪と一緒に括り、片目だけ見えるようにしてあげると、不思議そうにしてる目と合った。

 おぉ、これも可愛い……今度雪華の髪も少し弄ってみようかな。

 

「……あれ?」

 

 と考えていたのも束の間、リボンにしていたものがボロっと崩れ落ち、再びふぁさぁっとルウの目が隠れてしまった。

 

「あう!? 見えないです!」

 

 ……えっと、何が起こった?

 ルウの慌てたような声を聞きながら外れてしまったリボンもどきを観察してみれば、所々茶や黒色に変色しており、今もなお徐々に縮んでいっている。

 

「ん、毒色」

「あぁ、これがリアの言ってた毒色魔法なのか……あれ? けどそれならルウが今着てる服とかはなんで大丈夫なんだろう」

「リューヤ、服ちがう」

「えっ?」

 

 服じゃない?

 あっ、そういえばルウはリアの記憶を元にして姿を変えてるんだったっけか。だったら服も一緒にそのイメージとして再現していると考えればおかしくないか。

 ……え、じゃあなんだ? ルウってばもしかして、着てるように見えるけど実は裸って事?

 

「……リューヤ?」

「おにーさん?」

「あいや……そうだルウ、服を作ってるように、リボンも身体の一部で作れないかな?」

 

 雪華とマカちゃんから同時に視線を向けられた俺は、ごまかすようにルウへとそう聞いてみる。実際今のままでは前が見えなくて困るだろうしね。

 

「うぅ……無理です」

「あれ、そうなの?」

「あい、りあはリボンつけたこと無いみたいで……ごめんなさいです」

「あぁ別に謝らなくても良いんだよ。けどそっか、今付けたので出来ないとなると、何かしら条件とかもあるのかな?」

 

 例えば習慣的にその格好をしないといけないとか。または取り込まれる前のものしか受け付けないといった可能性もあるな。

 うぅむ、しかしそうなると困った。このままでは流石に危ないし、何より目隠しを続けるのは可哀想だ。何とかならないかなぁ……。

 

 そうして頭を悩ませていると、雪華がゆさゆさと肩をゆすってきた。

 

「もっかい、りぼんつくる」

「えっと……」

「ん、できる」

 

 む、雪華がそう言うのならやってみるか。

 俺は先ほど取り出したシャツをもう一度引っ張り出すと、同じように細長い形状にカットして雪華へと手渡してやる。……さらに丈の短くなった俺のシャツ、これはもう着られないな。

 

下賜(グラント)、『害撃拒絶(リジェクション)』……ん」

 

 雪華が目を閉じて静かに詠唱をすると、手に持った生地が一瞬だけ淡く光り、すぐに収束した。

 それを雪華から受け取った俺は、改めて恐る恐るルウの髪へと手を伸ばし、リボンを括り付けてやる。

 

「……今度は大丈夫そうか」

「見えるです!」

 

 うん、今度は毒色魔力での劣化は見られないし、問題無さそうだ。

 今の魔法は『害撃拒絶(リジェクション)』と言ってたので、多分その魔法の効果をそのままリボンに付与したんだろう。

 

 それにしても毎度困るたびに雪華に助けられてる気がするな。

 思い返せば彼女がいなかったら詰んでた場面も多かったし、もう雪華がいないと生きていけないかもしれない……というか、そんな想像するだけで寂しさに負けてしまいそうだ。

 

「魔力ほじゅう、必要」

「どのくらい保つの?」

「ん……あした、きれる?」

「そっか」

 

 会話をしながら俺は地面へ座りこみ、ぽんぽんと膝を叩いて雪華を招くと、ちょこんと乗っかってきてくれた。……まぁ重さで言えばズシン。という感じだけど。

 そのままよしよしと頭を撫でて、感謝の気持ちを伝える。

 

「雪華、いつも助けてくれてありがと。大好きだよ」

「ん……」

 

 雪華は気持ち良さそうに目を細め、ゆったりとした時間が流れる。

 さきほど雪華がいない事を想像してしまったためか、感じる体温と感触が凄く心地良い。

 

 そうしていると、ふいに2つの視線を感じて顔を上げる。

 その先では、マカちゃんがちらちらっと、そしてルウはじーっと見つめるような視線をこちらへ向けていた。

 

 

 

 

 

「……あの、何してるんすか?」

 

 それから少ししてアイシャが部屋に入ってくると、呆れた表情でそう言ってくる。男の方の処理はもう終わったようだ。

 

「え、あ……アイシャ? えーと……すみません」

 

 そうしてその言葉を向けられた俺は、何も返せる言葉が無く、ただ謝罪を口にしながら頭を下げた。

 

 ……理由は簡単で、今は膝上に雪華、そして両側にマカちゃんとルウが擦り寄ってきており、ちょっとした幼女天国みたいになっている。

 あの後マカちゃんやルウの視線を受けた俺がそのまま放置なんて出来るわけもなく、3人を順番に撫でているうちに自然とこうなってしまったのだが……まぁうん、アイシャに仕事を任せてこんな事をしている状況については、本当に謝る他ない。

 

「えへ、えへへ……」

「気持ち良いです」

「ん……」

 

 3人とも喜んでくれてる様子なのはとても喜ばしく嬉しい事なのだが、アイシャから向けられる冷たい視線がとても痛い。先ほどの件で見直した彼女だが、多分彼女からは悪い意味で見直されてる気がする……。

 

 そうビクビクしながらその視線に耐えていると、アイシャは軽く溜息を吐きながらも、冷たかった視線を引っ込めてくれた。

 

「はぁ、目を離すとすぐこれですもんね……まぁ良いっす。それじゃそろそろ討伐に行くっすよ」

「えっと、作戦とかは?」

「これまでに集めた情報で既に立ててるっす。向こうさんも既に動き始めたんで、急いで下さい」

「わ、わかった」

 

 ……うぅむ、さっきの男の処理と言い、情報収集に作戦の段取りと、頭脳労働を全て任せきってしまっていて、今更ながらかなり申し訳ない気分になってきた。

 

「アイシャ、その……」

「ま、リューヤさんはまだ9級冒険者なんで、経験も無いでしょうしそこまで気にしなくて良いっすよ。その代わり、戦闘では期待してるっすからね?」

「……うん、期待に沿えるよう頑張るよ」

 

 一言謝ろうと思ったが、アイシャにそう言われて何も言えなくなってしまったので、代わりにそう告げる。

 

 これ絶対呆れられてるよなぁ……本当ならマカちゃんを助ける為に俺がもっと積極的に動かないといけないはずなのに……はぁ、せめて戦闘ではしっかりと役に立てるよう頑張ろう。

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