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その願いには応えられない

前回同様不安で一杯ですが、投稿します!

宜しくお願いします!

 

「マスター、今日だったよね?」

 

 領主館の一室、そこにある座り心地の良いソファーで寛いでいると、男の子が思い出したかのようにそう話しかけてきた。

 

 確か名前は、アルカードと付けたんだったっけ。

 この子の言う今日というのは、以前話をしていた期日の事だろう。

 

「そういえばそうだね」

「だよね、だよね! ならもう早く行こうよ!」

「……今すぐにかい?」

「今すぐに」

 

 アルカードはもう待ちきれないとばかりに、興奮したように捲くし立ててくる。思い出した風を装ってはいたが、あくまできっかけ作りにすぎなかったらしい。

 うーん、今はお昼前か……本当は夜に出た方が何かと都合が良いんだけど、この様子ではそこまで待てなさそうだ。

 

 ……それに、僕としても気になることがある。

 昨日あたりから、急にそこかしこに緑色魔力を感じるようになった。何者かは知らないが、この街にやってきて何かをしているのだろう。

 

 ふむ……。

 アルカードが速やかに街の流入を封鎖したとは言え、どうしてもそれまで途絶えず続いていた商人や冒険者の出入りまでは防ぎようが無かったので、ここに僕達がいることは他の街にもバレている。

 あれから結構な時間も経過しているし、その間に討伐を目的とした冒険者が何組か来た事を考えると、恐らく昨日から来ている何者かの目的も、吸血鬼退治で間違いないと思う。

 

 となるとこのまま夜になるまで待って、相手に時間を与えるのは危険か?

 今の所、辺りに感じる魔力に害意は感じられないが、それも何かしらの準備をしているだけかもしれない。

 

 僕としてもここまで手間暇をかけて収穫ナシというのは避けたいし……仕方ない、イレギュラーが起こる前に少しだけ予定を早めるか。

 

「分かった、行こうか」

「それじゃ僕はあの冒険者3人を呼んで来るよ。揃ったらすぐに出発しよう」

 

 アルカードはそう言って、ぱたぱたと走って出て行く。

 

 ここ数日暇だ暇だと不機嫌そうにしていたのに、今日はとてもはしゃいでるように見える。

 まぁそれも当たり前か。彼は今日行う予定の本当の意味を知らないんだから。

 

 

 

 

 ほどなくして全員が揃い、移動を開始する。

 目的地は街の中心地……丁度この街の領主達が完全に血晶化した、あの袋小路になっている場所だ。

 

「……」

「マスター?」

 

 歩き始めて数分、違和感を感じて足を止める。

 

 おかしい、何かがおかしい。

 街中にある血色魔法の気配が、不自然なほどに纏まってる。幸いこちらでない方向へ向かっているので、特に気にしなくてもよさそうだが……なぜ今日に限ってなんだ?

 それに近くから大きな緑色魔力の気配も感じる。昨日から入りこんでたのは、こいつらなのかな? 今は動く様子が無さそうだけど、これは単純に休憩してるのか、はたまた機を窺っているのか。

 

 ……うん、面倒だな。

 この距離なら後に憂いを残すより、先に始末した方が良さそうだ。

 

「……僕ちょっと、敵になりそうなのを駆除してくる。君らは先に行ってて良いよ」

「え、何かいるのかい?」

「昨日から変なのが入りこんでるみたいだね」

「そんな報告は受けてないんだけど……って、あ、ちょっとマスター!」

 

 呼び止める声を意図的に無視し、人では絶対に出せない身体能力を用いて魔力の元を辿る。

 ここまで来て横槍が入るのは何としても避けたい。杞憂なら良いんだけど、相手がもし並以上の冒険者であれば、僕が負けるとは思わないけど、それでも少し不味い事になる。

 

「あぁもう、あとちょっとなのに……」

 

 僕はそうぼやきながら、感じる緑色魔力を目指して走る足に力を篭めた。

 

 

 

 

 

「くふ、くふふっ」

「……アイシャ、急にどうしたの?」

「おっと失礼しました。いやぁ予定通りに事が進むのって、気分が良いっすね」

 

 前を歩くアイシャが突然笑い始め、少し不気味に思って聞いてみると、そんな答えが返ってきた。

 どうやら見えないところで既に状況が動き始めているようだ。

 

 今はあのレストラン跡地を出て、先頭にアイシャ、真ん中でルウとマカちゃんを挟み、最後尾に俺と雪華が並んで列になって歩いている。

 

「ところで作戦なんだけど……」

「あぁそうだったっすね。えぇと、私が前に吸血鬼の護衛が4人いるって話したのは覚えてるっすか?」

「うん、多分その内の3人は、リアが話してた冒険者だよね」

「そうっす。ついでに言えば、4人目も彼女の話にあった全身真っ黒な何者かっすよ」

 

 えぇと、なんだっけ。確かリアが毒色魔法を使わされて、記憶が曖昧になってた頃にやって来た人だっけ。吸血鬼がマスターって呼んでたやつ。

 

「この中で冒険者の3人は5、6級程度なので捨て置ける戦力だと思うんすけど、黒いやつは厄介そうっす。私の『百の飛び回る小さな私(ハンドレット・スモールアイ)』にも気づいてる様子なんで、もしかしたら吸血鬼以上にヤバいかもしれませんね」

「5、6級を捨て置けるんだ……って、向こうにはさらにそんなのまでいるのか。それって人なの?」

「うーん、それがよく分からないんっすよねぇ……ローブみたいなので全身真っ黒、フードを被りっぱなしで顔も見えないんで、正直わかりかねるっす」

 

 となると、もしかしたら魔物だという可能性もあるのか。

 吸血鬼がマスターと呼ぶくらいだし、充分考えられるな。そしてその場合は吸血鬼以上……つまり、4級や5級よりも上の等級指定されている魔物なのかもしれない。

 

「けど、大丈夫っすよ。今しがたその黒いのは吸血鬼の元から引き離したんで、今残ってるのは冒険者の3人と吸血鬼だけっす」

「えと、どうやって?」

「血晶化に罹ってない良い囮が3つも手に入ったんで、有効に使わせて貰ったっす」

「囮が3つ? あぁ……」

 

 多分それはリアを誘拐しに来た、あの冒険者達の事を言っているのだろう。

 あいつらの身を案じてやる気分にはなれないが、それを別にしても6級の冒険者では足止めどころか、相手にすらならないんじゃないだろうか。

 

「そいつらで勝てるのか?」

「いやいや、戦わせたら一瞬で終わるんで、必死に逃げてもらうんすよ。一応緑色魔法で逃走のサポートはするつもりなんすけど、それでどれだけ時間が稼げるか……まぁダメだった場合には他にも手を打ってあるんで、すぐに合流される事はないと思いますよ」

「なら時間制限があっても、そこまで急ぐ必要は無いってことだね」

「ま、早ければ早いに越した事はないんすけどねー」

 

 いやぁ、アイシャって本当に有能だな。仮にもし俺が『百の飛び回る小さな私(ハンドレット・スモールアイ)』を使えたとしても、ここまでの準備を出来る気がしないよ。

 5級冒険者って皆こうなのかな……いや、何となくだけど、アイシャが特別じゃないかと思う。

 

「それじゃそろそろ配置につくっすよ。私とマカさんは後方で待機、リューヤさん達3人は誘導に従って、指示する場所へ向かってください。彼女の治療を優先ってことなんで、無力化して捕まえたらすぐに場所を移す流れでお願いします」

「分かった。それじゃルウは俺が抱えて走るとして、雪華は大丈夫?」

「ん」

 

 アイシャの指示に頷きを返し、雪華にも問題ないことを確認する。

 さてさて、これまでアイシャに任せっきりだった分、頑張ってきますかね。

 

「おにーさん!」

「うん?」

 

 と考えていたら待機組みのマカちゃんに呼び止められたので、歩き出そうとした身体を反転させて向き直る。

 

「どうしたの?」

「あの、えぇと……」

 

 俺が近づくとマカちゃんは一瞬口ごもり、そしていつもより元気の無い声で口を開いた。

 

「その、ね? 今更わたしが改めて聞くのもおかしいと思うんだけど、相手は吸血鬼で、それにもっと危険なものもいるかもしれないんだよね?」

「そうみたいだね」

「怪我しちゃうかもしれないよ? もしかしたら、怪我だけですまないかも……」

「あはは、マカちゃんは心配性だね」

「……ちがうの」

「でも俺の強さは知ってるでしょ? それにリーフェさんからも大丈夫だって言われてるし、何の心配も要らないよ」

 

 元気付けようと軽めな口調でそう伝えながらぽんぽんと頭を優しく撫でてあげるが、彼女はますます悲痛な表情を浮かべると、顔を伏してしまった。

 

「そういうことじゃないのに……」

「え?」

 

 ぼそっと呟いた言葉は、耳に届いても意味までは分からない。

 だがそれを契機に、マカちゃんは抑えていた感情を吐き出すようにして、叫ぶように捲くし立て始めた。

 

「そうじゃなくって! ……おにーさんは恐くないの? 冗談じゃなくて死んじゃうかもしれないんだよ? 恐いよね、帰りたいよね? こんな事本当はやめたいよね!?」

「え、っとマカちゃん? 急にどうしたの?」

「だって相手は吸血鬼なんだよ? ゴブリンなんかとはワケが違う。一歩間違えるだけで、私と同じ血晶化に罹ってしまうの……ねぇお願い、無理だって、もう諦めようって言ってよ! ……そしたら私だって……うっ、うぅ……」

 

 マカちゃんはそう言うと、今度は声を押し殺しながら泣き始める。

 逆に俺はといえば突然の彼女の豹変に対し、理解が追いつかずただ焦りを募らせる。

 

 本当にどうしたんだろう?

 マカちゃんは何とか命を繋ごうと俺に頼み込み、やっとそれが目前となったのに、今になって急にやめようだなんて。

 

「うぇ、ひぐっ……この街の惨状、見えてないわけないよね。リアちゃんの言ってた話、ちゃんと聞いてたよね? ぐすっ……私からお願いした事だけど、こんなのリューくんだって危ないよ、怪我しちゃうよ……うぅっ……だから、ね? 私は大丈夫だから……その、あ、諦めちゃっても……良いんだよ?」

「……マカちゃん」

 

 なるほど、そういうことか。全然気づかなかった。

 これまでは何とか空元気で頑張ってくれていたようだけど、その裏側では自分の命と俺達の安全を天秤にかけて思い悩んでくれていたのか。

 だけどいざ戦いに向かうこのタイミングで、その天秤が一気にこちら側へと傾いてしまったらしい。多分この機会を逃したら、もう言える機会が無い事も後押ししたんだろう。そして今、彼女は持てる勇気を振り絞って、自分を犠牲にしてでも引きとめようとしてくれている。

 

 ……彼女の泣き顔を見るのは、これで2度目か。

 

「私なんてこの道中何も役に立てて無いし、それどころか途中でおぶってもらったりして、迷惑ばっかりかけてる……吸血鬼だって倒せば済む話だったのに、私が血晶化に罹ってるせいでもっと面倒なことにしちゃってるし…………それで分かったんだ。私、居ない方が良いんだって」

「……」

「元々孤児な私は、外で優しくしてもらった事なんてなかったんだ。でもリューくんは初対面なのにとっても良くしてくれて、頭も撫でてくれたし、優しい事も一杯言ってくれた……もう充分かなって、そう思ったの」

「――っ」

 

 マカちゃんの言葉に耐え切れなくなり、俺は咄嗟に彼女の身体をぎゅっと抱きしめる。

 

「リュー、くん?」

 

 この世界は人に優しくないらしい。

 こんな小さな身体に入りきらないほど、色んなものを我慢して詰め込まなければならないなんて、間違っている。

 

「……ごめんね、もっと早く言い出せば良かったのに……私に勇気が無かったから、この居心地の良い場所に最期までいたいなって、考えちゃったから……」

「そうだね、うん。それで良いと思うよ」

「え……?」

 

 俺は彼女の耳元でそう伝え、肩に手をのせたまま少しの距離を開けると、彼女の揺れる瞳を見つめながら、無い頭を必死に振り絞って言葉を選ぶ。

 

「マカちゃんの気持ち、すごく嬉しい。それって俺を大事に想ってくれてるって事だよね?」

「そ、そんなの当たり前だよ!」

「ありがとう。俺もマカちゃんのことをすごく大切に想ってるよ。だからマカちゃんが望んでくれるなら、最期までここを居場所にしてくれたって構わない……いや、その方が俺としては嬉しいかな。……けど」

 

 そこで言葉を区切り、浮かべていた笑みを引っ込める。

 

「その最期は、今じゃない」

「……だ、だけど」

「俺は約束を違えるつもりはないよ」

 

 マカちゃんは今まで言い出せなかった事や、俺達を巻き込んだ事に胸を痛めているようだったが、そんなの俺は望まない。

 

 最初彼女から助けを求められた時、確かに迷いはあったがそれでも俺が自分自身で決めた事だ。

 決して彼女から強制されたわけでも、ましてや他の要因があって仕方なくやっているわけでもない。助けようと思ったから、助けたいと考えたから助ける。ただそれだけだ。

 

 そしてその気持ちは、前よりもっと強まっている。

 

「悪いけど、こればかりはマカちゃんにお願いされても叶えられないよ。強いて言えば、これは俺がマカちゃんを助けたいっていう我がままだね」

「……なんで? 私、何もあげられてない。お金なんて無いし、たまにする説明だって偉そうに一般的なお話してるだけで、別に私じゃなくたって出来るのに……ただ泣きついて、宿にまで押しかけて、利用しようとして……うぅ、ひっぐ……」

 

 喋りながら感情が昂ぶったのか、落ち着いた涙がまたも溢れ出す。

 それを見た俺は再び彼女の身体を抱き寄せ、背中を優しくさすりながらゆっくりと話しかけた。

 

「マカちゃんは自分の事を役立たずだって思ってるみたいだけど、それは全然違うよ。俺はマカちゃんの笑顔で元気を貰ってるし、髪を撫でてると幸せな気分になれるんだ。それに話していると楽しくて、説明してくれる時も分かりやすいから、すごく助かってるんだよ?」

「けどそんなの、私じゃなくても……」

「いーや、俺はマカちゃんが良いの。……俺だってこの世界では身寄りなんて無いんだ。だからマカちゃんは、俺の中でかけがえの無い存在なんだよ」

 

 そう言って最後にぽんぽんと背中を軽く叩くと、彼女から離れて正面から向き合う。

 

「だから、ごめん。マカちゃんは望まないかもしれないけど、俺は君を助けるために最善を尽くすよ」

「……うぅ、ぐすっ……あはは、私が謝ってたのに、なんでリューくんが謝ってるの。これじゃあ逆だよ」

 

 俺の言葉にマカちゃんは目元をごしごしと擦り、顔を上げる。そこには無理やり笑みを作ろうとして、失敗している顔があった。……だがそれを見ても、俺の決心がぶれることは無い。マカちゃんに伝えたとおり、もうこの優しい子は俺の中で、決して代えのきかない大切な存在となっているんだ。

 

「……行って来る」

「うん、分かった。もう言わない……でも絶対戻ってきてね、約束だよ? リューくん」

「今度は呼び方が元に戻らなかったね」

「……あ」

 

 それを指摘して、思わずといった様子で口に手を当てたマカちゃんを見ると、何だか心地良い気分を感じた。

 ……前はリューヤさんだったのに、今はリューくんか。それだけ距離が縮まったのだと思うと、嬉しいな。

 

「ふふっ、その約束、絶対に守るよ」

 

 ……もうこれ以上、彼女を悲しませたくは無い。

 交わした2つの約束を守るために、そしてまたあの人懐っこい笑みを向けてもらうためにも、これから行うことは何があっても達成させよう。

 

 そう決心すると、マカちゃんに背を向け足を進める。

 

「待たせたね」

「ん」

「あい……ふぁ!?」

 

 俺が声をかけると、雪華が詠唱なしで『害撃拒絶(リジェクション)』を俺の身体に張ってくれたので、躊躇なくルウを抱えあげる。俺の魔法制御ではまだここまでの事は出来ないので、雪華が気を聞かせてくれたみたいだ。

 そんな時、耳元で小さな呟きが聞こえた。

 

「私が足止めしてること、忘れてないっすよね? ……今の時間、決して安くないっすよ」

 

 気づけばアイシャの『百の飛び回る小さな私(ハンドレット・スモールアイ)』が耳元にあり、そこから俺だけに聞こえる声量で話しかけられたみたいだ。

 

「ごめん……それに、何も言わずに待っててくれてありがとう」

「あんなのに割り込めるわけないじゃないっすか……そんなことより、足止めのこともあるんで少し早いペースで行ってもらいますけど、問題ないっすよね?」

「大丈夫。いくらでも飛ばしてくれて良いよ」

 

 俺はそう伝えるともう一度だけマカちゃんへと視線を送り、そしてすぐに飛んでいく緑玉を追いかけようと雪華とともに走り出した。

 

いつもご拝読、ブクマありがとうございます!

 

こちら貫徹して書き上げたものなので、若干テンションに左右されてるかもしれません。

また変なところがあれば、遠慮なく突っ込んで下さい。

 

次回あたり久しぶりに軽い戦闘が入る予定となりますので、リューくんには頑張ってもらいたいと思います。

宜しくお願いします!

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