るうだけどルウじゃない3
つまりさっきまでのは演技で、こっちが素ってことなのか?
……何だか軽く人間不信になりそうなくらいの変わり身だな。
「その、ごめん。ルウ、なんだよね?」
「そうよ? ……あぁけど、このままルウと名乗るのはあの子に悪いわね。アレで案外気に入ってたみたいだったから……よし、なら私はリアって名乗ろうかしら。ふふっ、残りものね」
俺が信じきれず改めて聞くと、ルーテリアは返事だけでなく、そんな事を言い始めた。
んー、本格的に何を言っているのかわからなくなってきたぞ。
「ん、どうしたの? よくわからない、って顔をしてるわよ」
「その、なんと言うか……さっきまでと急に様子が変わったから、なんだか同じ人だと思えなくて」
「へ? アナタ、何言ってるの……?」
「え?」
……俺、なにか変な事いったか?
怪訝な表情でそんな風に返されると、逆に面食らうんだが。
「私とさっきまでの私は違うわよ? 同じ人に見えないんじゃなく、全くの別人よ?」
「は? えっと……?」
頭がこんがらがってきたぞ。
ルウはルーテリアで、でもルウはルウが気に入ってるから今はリアで、けどやっぱりリアもルウで、つまりルーテリアは別人……えぇ?
だ、だめだ。誰かに噛み砕いて説明してもらわないと、全く理解出来そうにない。
「……ねぇ雪華、俺にも分かるよう、上手く纏めて説明してくれないかな?」
「ん」
「いや、説明してもらうのにその人選はどうかと思うけど……」
マカちゃんが何やら含んだ言い方をしてきたが、それはマカちゃんの勘違いだ。雪華は俺なんかよりも、ちゃんと物事を把握できる賢い子なのだ。
確かに他の人だと言葉の意味の咀嚼に難を要するかもしれないが、その辺り雪華マスタリーである俺にはあまり関係ないので、一番意を汲んでくれそうな雪華に聞けば間違いないだろう。
「るう、りあ、違う。るうまもの、りあは……ひと?」
「なるほど……経緯は分からないけど、複雑な感じなんだね」
「え、今ので分かったの?」
逆に今のは結構分かりやすい方だったと思うんだけど、マカちゃんには伝わらなかったらしい。
ふふん、仕方ないな。俺が雪華の言葉をマカちゃんにも説明してあげよう。
「うん、まだ良く分からない所もあるけど、おおよそはわかったよ。……多分ルーテリアは魔物に襲われるか何かして、取り込まれちゃったみたい。ちなみにその魔物がルウね」
「ん、そう」
「へぇ~……って、何でちょっと嬉しそうなの?」
雪華のことで優越感を感じていたのが、ついつい表情に出てしまっていたようだ。
まぁそれは良いとして、この子についてどうしようか。彼女を理解するたびに、扱い辛さが増していっている気がする。
そう思いつつルーテリアへ視線を戻すと、彼女も今の話を聞いていたようで、少しムっとした表情で口を開いた。
「そうね、私が人じゃなくなったのはその通りよ。けど少しだけ違うわ」
「違う?」
「えぇ、私がルウに襲われて取り込まれたのではなく、ルウにお願いして取り込んで貰ったのよ。だから、あの子を悪いように言うのは止めてくれないかしら」
え、自ら望んで取り込まれたってこと?
いやいや、ルウがどんな魔物なのかは知らないけど、わざわざ自分から魔物に食べられるような事をお願いするなんて、正直意味が分からない。
……まさか「この子に物理的に食べられたいくらい好きなの! 大好き!」みたいなある種猟奇的な性癖があってとか、そういう世界の話だろうか。もしそうならあまり立ち入らないほうが良さそうな気もする……いや、逆にそれもアリか?
「何でかしら、アナタが今とんでもなく失礼な事を考えてるような気がするわ」
「気のせいだよ」
「そう? ……まぁ確かに、こんな話を急にされても理解出来ないというのはわかるわ。けど街の状況を見たのなら、少しくらいは想像出来るんじゃない?」
街の状況か。
血晶化が蔓延している上に魔物だって入り放題だし、もはや人が住まう環境としては、スラム街の方がまだ整備されてるんじゃないかと思う。……スラム街見たこと無いけど。
そんな最悪な治安の中で、もし魔物に取り込まれる事を望むシチュエーションがあるなら、どういった時だろうか。うぅむ、俺には想像もつかないぞ。
「うーん、考えてみたけど分からないよ」
「あら、もう降参なの? 情けないわね」
「ぅ、そうだね、ごめん」
「はぁ、まぁいいわ。仕方が無いから教えてあげる」
「……よろしくお願いします」
……なんだろう、小さい子からこんな風に蔑まれたり呆れられたりするのは初体験だが、悪くないかもしれない。雪華にこんな態度を取られたら涙が出そうだが、ルーテリアはお嬢様気質というか、こういうのがよく似合ってる気がする。見た目はとても幼い女の子に見えるのに、凄いなぁ。
ってそうじゃなくて、ようやく彼女からちゃんとした説明をして貰えるんだ。彼女の目的に関わる事かもしれないし、しっかりと聞いておかないと。
「…………ったのよ」
「え?」
俺が聞く姿勢になったのを確認すると、彼女は急にそっぽを向いて唇を尖らせ、ぼそぼそと小さく呟き始めた。
その様子を見る限り、説明してくれる気はあるものの、あまり口にしやすいことではないらしい。
そりゃそうか。軽い調子で話してはいるものの、人が魔物になるなんて内容として結構重い部類だと思う。
ただ困った事にルーテリアがそんな感じで話し始めたので、最初からいきなり聞き逃してしまった。
多分聞き直したら怒るだろうなぁ。とはいえ、それ聞けないと話進まないし……。
「えとごめん、もう1回お願い」
「っ、だからっ……悔しかったのよ!」
「……? それがルウに取り込まれた理由?」
恐る恐る聞きなおすと、思ったとおり彼女は感情的にそう吐き出した。
だけど考えていたのとは違って、聞き逃した俺に対して怒りを向けてくると言うより、その場面を思い返して苛々しているように見えた。
……悔しい、ね。確かに彼女との時間を振り返れば、多少だけど心当たりがあった。
最初に彼女と出合った場所……正確にはルウの居た場所か? あそこにはルーテリアの両親が血晶化した状態で並べられていたはずだ。
つまり両親をあんな姿で殺された事に、憎しみを感じているのだろう。それで彼女は魔物になって復讐しようとしていたのか。だとしたらきっと、色んな感情が渦巻いているんだと思う……俺なんかではとてもではないが、心中を察するのも難しいな。
「そうか……殺された両親の仇を取ろうと、魔物に取り込まれたって事なんだね?」
「え、違うけど……」
「え?」
と思ったら違うらしい。
きょとんとした様子で、「なにいってるの?」とでもいわんばかりの表情を向けられてしまった。
え、ちょ、何これ。
結構感情移入して少しうるっと来てたのに、勘違いとか恥ずかしすぎるんだけど。
「勘違いしないでね。私は、私自身が何も出来ずに殺されそうになった事に腹が立っているの。あんな人達の事なんてどうでも良いわ……そもそもあいつらがこの惨状の元凶でもあるんだし」
「は? いや、ちょっとまって、元凶ってどういう事?」
「あれ、言ってなかったかしら。私、ここの領主の娘なのよ」
一欠片も聞いてないよ……え、って事はなんだ? 確か吸血鬼って、その街で一番立場の高い人から襲うって聞いてたけど、もしかして……。
「じゃあルーテリアは、こんな状況になった一部始終を知ってる、とか?」
「えぇ、知ってるわよ? あ、あと私の事はリアって呼びなさいよね。ルウの名前は、あの子にあげたのだから」
「え? あ、はい。じゃあその話をして貰っても良いでしょうか、リアさん……」
マジか。
驚きすぎてつい思わず、敬語になってしまった。
「仕方ないわね……さっきの私の話も関係ある事だし、話してあげるわ」
「ありがとうございます……」
こうして俺は、思わぬ相手から情報を得られる事に微妙な感情を抱きつつ、リアの話を大人しく聞くことにした。
あれ? 俺が心をすり減らして拉致してきた男、いらなくない?




