るうだけどルウじゃない2
いや、少し落ち着いて考えようか。
俺やマカちゃんの血晶化していない部位からは何の魔力も見えないのだが、雪華とルウからは魔力がハッキリと見えた。
この違いの共通点として思い浮かぶのは、やはり人か魔物かというところだ。
でもこの竜の瞳、魔力であればなんでも見えるんだよな? となれば理由は想像つかないが、ルウが全身に魔法を掛けている可能性もあるんじゃないだろうか。
そしてそれが雪華にも見えて、あれだけ露骨に警戒していたと予想出来る……けど、これは魔物だった場合でも同じ事が言えるんだよなぁ。
うーん、情報が少ない。これだけだと判断が難しいな。
「リューヤ」
俺が頭を抱えていると、いつの間にか雪華が近くに来ていたようで、袖部分を引っ張ってくる。
「あぁ雪華、どうかしたの?」
「……ん」
雪華は答えず、袖を繰り返しくいっと引っ張るだけだ。
とりあえず屈んで欲しそうに見えたので、俺は雪華と目が合う高さにまでしゃがむと、待ってましたとばかりに胸へと飛び込んできた。
「おっと」
「リューヤ、顔、変」
「あー……」
顔に出てしまっていたようで、それを見て元気付けようとしてくれたみたいだ。
そうだな……よし、せっかくだし雪華にも相談してみよう。
竜の瞳について、管理者から簡単にしか聞いてないので、ぼんやりと便利な目としか分からないというのも判断が出来ない原因だろう。
だが雪華なら普段から使ってるはずだし、もうちょっと詳しい事も聞けるかもしれない。
……あ、でもどうやって説明すれば良いんだ?
まだ俺の『無色の染料収集家』について、雪華に説明してないんだよな。機会があれば伝えたいんだけど、これまでの間は必ず誰かしら傍にいたので、中々説明出来る場面が無かったんだ。
今なら一緒にいるマカちゃんも含めて明かしても良いとは思ってるんだが、連れて来た男が邪魔だな……拉致しておいて酷い言い草だとは思うけど。
仕方無い。
ちょっとびっくりするかもしれないが、ルウの事も捨て置けないし、ストレートに聞いちゃいますか。
「ねぇ、ルウの体がなんか全体的に青くて、一部少し暗めな紫が見えるんだけど、雪華には何かわかる?」
「へ?」
「? ……ん…………んっ!?」
マカちゃんは不思議そうな表情を返してきたが、案の定、正確に伝わった雪華はとても驚いたみたいだ。
俺の言葉に数秒ほどこてんと首を傾げ、一度ルウへと視線を送りまた俺へ戻した時には、雪華にしては珍しく、大きく目を見開いていた。
「リューヤ、いろ、見える!?」
「うん、雪華のお陰だよ」
「……えっと?」
興奮気味に言い寄ってくる雪華に、頭を優しく撫でながら答えてやる。
普段あまり表情の変わらない雪華の貴重な表情だ。心の写真にしっかりと焼き付けておこう。
「見える、セツカとおんなじ?」
「そうだね、同じだ」
「リューヤと一緒、うれしい」
「俺も嬉しいよ」
「あのー、私もいるんだけどー……」
雪華はあまり細かい事を気にしないみたいで、口元に弧を描きながらそう言ってくれた。
そんな風に言われれば、俺だって勿論嬉しく感じる……けど雪華は、俺が何で見えるのかについて気にならないのかな?
マカちゃんに見えてないことや、先ほど『百の飛び回る小さな私』を見つけた時のアイシャの反応から見て、多分普通は人には見えないものだと思うんだけど。
……まぁ良いか、嬉しそうだし。
具体的な説明は今度必ず行うとして、今はルウだ。
「それで雪華、ルウの事は分かるかな?」
「ん、あおいろ、こきいろの魔力」
「魔力……って、魔法使ってるって事?」
「ん……」
俺がそう質問を重ねると、雪華は若干眉根を寄せる。
違うようだ。
「まもの、いろ見える。人見えない」
「え、でもマカちゃんからも見えてるけど」
「マカのはしゅいろ……ちいろまほう。まほう、魔力見えなくても見える」
なるほど、大体わかってきた。
魔法は基本的に使えば肉眼で見えるものなので、マカちゃんの血晶化した部分のように、しっかりと現象として人の目で捉えられるようだ。
……そう考えるとアイシャのアレ、完全に見えなくしてたけどどうやったんだろうか。オリジナルの魔法だと言っていたし、俺に緑色の適正が無いのもあって原理について全く見当もつかない。一体彼女は何者なんだろうか……。
そうして情報を整理していると、近くから弱々しく悲しげな声が聞こえてきた。
「うぅ、さっきから2人で何話してるのかな? 見えるって何のこと? ねぇ、私にも分かるようにして欲しいな……」
あ、やば、マカちゃんが話しに入れなくて、いつの間にか眉尻を下げて俯いてしまっていた。
無視してたつもりは無かったが、そろそろフォローしないと可哀想だな。核心部分はまだ喋れないけど、概要だけは説明しておくか。
「ごめんごめん、別にマカちゃんを仲間はずれにしたいわけじゃないから、そんな顔しないで」
「ん、マカ見えない?」
「……うん、見えないよ」
ちょっ、雪華さん、そこでさらに追い詰めるような事を言わない。しかも若干誇らしげな表情をするのも止めなさい。
あーあ……マカちゃん更に顔を下げちゃったよ。
「あんまり詳しいことは今説明出来ないけど、簡単に言っちゃうと、俺と雪華には魔力が直接見えるんだ」
「えっと……? 魔法が見えるってこと?」
「うん、魔法も当然見えるけど、魔法になる前の魔力が赤とか青なんかの色で見えるんだよ」
「す、すごいね、そんな魔眼聞いたことないよ……あっ、だからさっきアイシャさんの『百の飛び回る小さな私』も気づいたのかな」
「そういうことだね」
マカちゃんはようやく話に入る事が出来て、嬉しそうに顔をあげてくれた。
「それで分かった事なんだけど……どうやらルウは魔物みたいなんだよ」
「へぇー、そうなんだ」
「……え? あ、うん」
あ、あれ? 驚くか、雪華みたいに警戒し始めるかと思ったけど、普通に受け入れてしまったぞ。
思わず返事に詰まったせいでマカちゃんに不思議そうな目を向けられたが、俺の胸中をすぐに察してくれたようで、少し苦笑を交えつつ答えてくれる。
「え、だってセツカちゃんも魔物でしょ? ルウちゃんも別に襲ってくるわけじゃないから、私としてはあんまり気にならないかな」
「あー、なるほど。もう雪華で結構慣れたんだね」
「うん、それに……私だってもうすぐ……」
マカちゃんはそこで言葉を止めたが、後に続くはずだった内容は容易に予想出来た。
そんなマカちゃんの様子に、あまり気休めにならないかもしれないが、俺は彼女の目を見据え改めて宣言する。
「大丈夫だよ、俺が吸血鬼をテイムして、きっとすぐに治すから」
「……そうだね、ありがと。変な事言ってごめんね」
俺の言葉にそう返すマカちゃんは笑顔を浮かべるが、表情はあまり浮かない。
やはり自分の命が懸かっている以上、普段からとてつもない重圧を受けているのだろう。それこそ俺には想像出来ないほどの恐怖だと思う。
いつも気丈に振舞っているように見えても、ふとした瞬間に漏れ出てしまうほどに、マカちゃんの心は消耗してしまっているようだ。
血晶化のリミットもそうだが、それがなくてもなるだけ急いで吸血鬼を捕まえないといけないな。
……その為にも、まずは目の前の問題から対処していこう。
「ルウ」
「あ、あい……」
俺は雪華を放して立ち上がり、ルウへと向き直る。
彼女を放置して会話を進めてしまったので、俺の声に返事はしたものの、とても居心地が悪そうだ。
それもそうか。
少し離れているとはいえ、今までの会話の内容はバッチリ聞こえているはずで、その内容の当人からしてみれば居心地良いわけが無い。
ただ、このままという訳にもいかないんだよなぁ。
この子がただの無力で小さな女の子なら保護するだけで良かったんだが、魔物となれば話が違ってくる。
雪華はあの少しの会話で納得したみたいだけど、俺としては雪華やマカちゃんを守る義務があるので、彼女の目的だけでも知っておきたいところだ。
とはいえ既に若干怯えてしまっているので、まずはこちらが危害を加えない事を理解して貰ってから、その辺りの話し合いをしていこう。
そう考えを纏めて近づいてみるが、ルウは泣きそうな表情で一歩下がる。
あ、あれ……?
「あの……るうは退治されるですか?」
う……想像以上に恐がらせてしまっていたみたいだ。
ルウが魔物だと分かった今も、見た目が小さな女の子に泣きそうな顔でそんな事を言われるのは辛いな……。
「えーと、何でそう思ったの?」
「……魔物は、人に見つかったら退治されちゃうです」
この言い方は……もしかすると、実際に魔物が冒険者に討伐されるところを見た事あるのかもしれない。それで俺にも自分が魔物である事を隠していたのか。
そしてそれがバレてしまった今、彼女は俺の隙を伺うように視線を向けてきているが、逃げ出そうとはしない……というか、出来ないのかな。
ここに来るまでの道中で、俺の身体能力を見てしまってるせいで、逃げる事自体を諦めてしまっているようだ。はぁ、まずはこの誤解を解かないと話自体出来なさそうだ。
「安心して、俺はルウを退治したりなんてしないから」
「……うぅ」
と言ってみたが、これだけで信用できるわけないよなぁ……。
ルウと会った当初、目の前で男を倒してしてしまった上にここまで拉致してるところまで知られているわけだし、逆の立場なら信用できるはずない。
そうなると言葉だけでの説得は難しそうだ。
何かしらで、ルウに危害を加えないって証明出来るものがあれば良いんだけど…………あ、一つだけあるな。
「雪華ー」
「ん?」
呼びかけに振り向いた雪華を、小走りで歩み寄り優しく抱き上げる。
そしてまたルウへと向き直って、雪華をぎゅっとしているところを見せ付けた。
「俺はモンスターテイマーと言って、特定の魔物と仲良くする人なんだよ。ほら、雪華も魔物なんだけど、痛いことされているように見えるかな?」
「……う、見えないです」
「うん、だからルウにも、変なことはしないよ」
やや強引に雪華という魔物との触れ合いを実例としてあげてやると、ようやくルウも迷う素振りを見せ始める。よし、もう一押しか。
「それにルウも、危険を冒してここまで来たって事は、何か事情があったんじゃないの?」
「……あうぅ」
その言葉にルウはピクリと反応し、おずおずと顔を上げて俺と目を合わせてきた。……上目遣い、ちょっと可愛いな。
「あの……ほんとに、ほんっとーに、るうを退治しないです?」
「うん、しないよ」
「絶対です?」
「もちろん」
「じゃあ、るうを守ってくれるです?」
「とうぜ……ん?」
あれ? 最後に何かおかしな事言わなかったか?
ルウの上目遣いに、ほんのちょっとだけ思考が持ってかれた事が否定出来ない。その間になんて言ったんだ?
そう思って見てみると、ルウは顔を俯け、大きく息を吐いた。
「はぁー……」
「え?」
それが合図となったかのように、ルウの青い髪の中に紫色が混じり始めた。
慌てて竜の瞳で確認すると、先ほどまで青が大部分を占めていた魔力が今は徐々に暗めな紫……濃色へと塗り替えられていっている。
「お、おい? ルウ、どうしたんだ?」
突然の自体に俺はうろたえるが、雪華はじっと見たまま動かず、マカちゃんは後方から珍しいものを見るような表情で眺めていた。あれ、慌ててるの俺だけ?
「――ふぅ」
そうこうしている内に彼女の変化は終わったようで、1つ小さく息を溢すと、顔を上げて俺を眺めてきた。
なんだ? 一部の髪と魔力の色の割合が変わっただけなのに、何だか雰囲気が大きく変わったな。
顔つき……というか目つきが、先ほどまでのあわあわした困った感じではなく、すっと通ったような目になってる。気持ち目じりも釣りあがったような?
未だ事態に追いつかない頭でそんな事を考えていると、ルウは薄っすらと笑みを浮かべ、口を開いた。
「言質、とったわよ?」
「……は?」
えーと、ちょっと待て。
雰囲気どころか口調まで変わってるのにも疑問がわくが、その前に……言質、と言ったのか? え、俺なんか言ったっけ?
「守ってくれるって、言ったわよね?」
「あ、あぁ……」
なんだ、最後に確認したのはコレだったのか。言質とか言い始めるから、もっと大変な事かと思った。
ならまぁ良いか。
守る事について特に異論は無い。元よりルウを連れて来たのはその為でもあったんだし、やり方がすこしセコいような気がしないでもないが、大目にみよう。
むしろそんな事より、さらに気になることが出来てしまった。
「ふふっ、約束したからね? ちゃーんと守って貰うわよ」
「うん、それは良いんだけど……ルウ、なのか?」
俺がそう聞くと、彼女は楽しそうに口元に手を添えて小さく笑い、そして答える。
「えぇ、私は間違いなくルーテリアよ」




