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るうだけどルウじゃない

 

「この子は向かった先にいた子で、ルーテリアだよ」

「るう?」

「……あい、よろしくです」

 

 そう返事したルーテリアは、とても居心地悪そうだ。

 

 ……悪い事をしてしまったかな。

 出合った当初の時から薄々感じていたが、このルーテリアという子は、あまり初対面の相手と接するのが得意でないようだ。

 今も彼女から見れば見知らぬ2人……雪華とマカちゃんから注目を浴びてしまい、俺の後ろへと隠れるように小さくなってしまった。……なにこれ可愛いかも。

 

「るうちゃんだね、私はマカ。よろしくね?」

「ん、セツカ」

「……あい」

 

 なんだろう……何故かわからないけど、空気が重たいような?

 マカちゃんは親しみを篭めた笑顔でルーテリア……もう2人ともるうって呼んでるし、ルウで良いか――へと話しかけているのだが、逆に雪華はどういうわけか、普段以上に表情を消してルウを見つめている。

 

 ……うん、どうやらこの空気の原因は雪華のようだな。

 でも急にどうしたんだろう? ルウが雪華に何かしたわけでもないと思うし、全く心当たりが無い。

 

「えぇと、どうかしたの?」

「リューヤ、るう触った?」

 

 う、雪華の声がちょっと恐い。それに質問で返されるとは思わなかった。

 何だろう、別に悪い事はしてないはずなんだけど、反射的に謝ってしまいそうだ。

 

「触れてないよ」

「ん、なら良い……るう」

 

 なら良いって……うぅむ、雪華が分からないぞ。

 

 そう内心首を傾げていると、その隙に雪華は腕の中からひょいっと脱出してしまい、感じていた温かみが消えていく。

 あぁ、俺の癒しが……。

 

「ふぇ? おにーさん?」

 

 とりあえず空いてしまった手で隣にいたマカちゃんの頭を撫でながら、雪華の行動を見守る事にする。あんまり無理やり構って嫌われるのもいやだしね。

 マカちゃんは俺に頭の上へ手を置かれると、数秒間ほど不思議そうな表情をしていたが、すぐに「ま、まぁいいけど……」と小さく呟き、抵抗せず撫で続けさせてくれた。

 

 そして俺から離れた雪華がどこへ向かったかと言えば、後ろに隠れていたルウへと近づき、じりじりと距離を詰めようとしていた。逆にルウはそんな雪華に圧倒されてか、少し目に涙を浮かべつつ後退りしようとしている。

 

「リューヤに、なにかした?」

「し、してないです」

「なにかする?」

「しないです」

「……」

「ぅ……ほんと、です……」

 

 答えを聞いた後もじーっと眺め続けている雪華。

 

 ふむ、異性で年上の俺なんかより、同性で見た目年齢も近しい彼女らなら打ち解けやすいのかと思ってたんだけど、そう単純ではないらしい。

 とはいえ考えてみれば当たり前か。あくまで近しいのは見た目年齢だけであって、本来の年齢は多分雪華がずっと上だろう。実際に幾つなのかは聞いたこと無いけど、下手したら俺よりも年上かもしれない。

 

 さて、どうしたものかな。

 状況的に見て、天涯孤独になってしまったこの子を勢いで連れて来てしまったのは良いが、このままギスギスした関係になってしまうのは頂けない。

 かといって今更どこかに置いていく訳にもいかないし、そんな責任放棄みたいな事をするつもりもない。一番良いのは雪華と友好的になってくれる事なんだが……雪華がルウの何を警戒しているのか分からないので、なんとも言えない。

 

 そう思って見ていると、ふいに雪華の纏っていた固い雰囲気がなくなった。

 

「ん、わかった」

「……あぅ」

 

 結局よくわからなかったけど、雪華は何かに納得したようだ。

 雰囲気が緩んだのを感じたのか、ルウは涙目のままではあるが、ほっとした表情をしている。ちなみに俺自身もこの状況には困っていたので、かなりほっとした。

 

「おにーさん、セツカちゃんどうしたの?」

「ん? うーん、多分ルウに対して何かしらの警戒をしてたんだとは思うんだけど……具体的には分からないかな」

「……ふぅん、おにーさんでもわかんない時あるんだ」

「っ!?」

 

 それまでぼーっと眺めて受け答えしていたが、マカちゃんの何気ない言葉に、俺は胸を押さえて1歩後退る。

 彼女に悪気や悪意といった意図はなく、純粋に「あぁ、そうなんだ」程度で口にしているのは表情を見たら分かる……が、その何気ない言葉は、俺へ致命傷に近いダメージを与えるのに充分な威力があった。

 

 俺が、雪華をわからない……?

 モンスターテイマーなのに、テイムさせて貰っている子の事が、わからない……だと?

 

「……」

「あーえっと、おにーさん? もしかして気を悪くさせちゃったのかな……ごめんね、私そんなつもりじゃ」

「え? あ、いや大丈夫だよ。むしろ気づかせてくれてありがとうね」

「……気づく?」

 

 マカちゃんは俺を見て首を傾げている。

 まぁ、彼女には分からないだろう。なにせ彼女はモンスターテイマーではなく、冒険者とは言え普通の女の子だからね。

 

 でも俺はモンスターテイマーだ。

 自分がテイムさせて貰っている子の事を知っておく義務があるし、知らなければむしろ失礼だろう。誰かにそう聞いたわけではないが、多分グラン師匠に聞けばきっと頷いてくれるはずだ。

 つまり俺は、雪華についてなんでも知っておかなければならない……いや、知らないと気が済まないのだ。

 

「うん、俺はモンスターテイマーだからね。自分の子の事は、しっかりと分かってないとダメだなって」

「へー、結構真面目に考えてるんだね。それで、わかりそうなの?」

「ちょっと待ってね、少し考えてみるから」

 

 本人に聞くのが一番早いと言われそうだが、それでは意味が無い。

 ……いや、無くはないけど、俺は雪華に「リューヤは何も言わなくても分かってくれてる!」と思われたいんです。はい。

 

 さて、それじゃ真剣に考えてみるか。

 雪華が急に警戒を露にしたのはルウを見てすぐだった。それも連れて来た経緯や名前を知る前から、ずっと目を細めてルウを見ていた気がする。

 

「となるともしかして、雪華には何か別のものが視えてるのか? ……ってそうか!」

 

 俺は自分の言葉である事に気づき、見ることに集中する。

 竜の瞳。雪華が持っている力で、『無色の染料収集家(カラーレス・コレクター)』により、俺も使えるようになった魔視と未来視の目だ。

 

 よし、これでルウを見れば、きっと雪華の様子がおかしかった理由も分か……ん?

 

 ルウへと目を向ける途中、視界の端にあるものが映り、そこで視線が止まる。

 

「……アイシャ?」

 

 そこには緑色の魔力が玉の形状で纏まり、空中で静かに佇んでいた。

 これは……あぁ、やっぱり間違いない。アイシャの『百の飛び回る小さな私(ハンドレット・スモールアイ)』だ。

 

「えっ? どこ?」

 

 マカちゃんに見えない事から、恐らく普段通りの着色(・・)をしていないのだろう。俺もさっきまで見えなかったし。

 

「ほら、そこに浮いてる」

「あ、見えた……って玉の方だったんだね」

 

 その緑玉は俺に指差されてようやく観念したようで、薄っすらといつも通りの色を帯びて輪郭を現した。

 

 ……あっぶねぇ、全然気づかなかった。もしここで雪華の事を色々喋ってたら、ドラゴンである事もアイシャに伝わってしまっていたかもしれない。

 全く油断も隙も無い。仲間として動いてくれているのはとても頼りになるが、こうした盗聴まがいな事をされるのは考えものだな。

 

 俺はため息を吐きながら、目の前に浮かぶ玉へと手を向ける。

 

「……で、アイシャ。何してんの?」

「あ、あははー……というか良く気づけましたね。どうやったんすか?」

「秘密だ」

 

 またされるかもしれないのに、教えるわけがないだろう。

 

「それでもう1回聞くけど、何してんの?」

「……えぇと、別に悪気があってやったわけじゃないっすよ? ほら、何かあった時に連絡できないと困るじゃないっすか。それにそこの男が目覚めたら戻るつもりだったんで、その確認用でもあるっす」

「ふーん」

 

 確かに外へ出るとき、男が起きたら戻ってくると言っていたので、一応辻褄は合う。

 ……けど見えなくしていたのは、絶対わざとだよな? 見えないように配置できるって事も聞いてなかったし、状況からして、これは間違いなく確信犯だろう。

 前に雪華について質問してきた時すんなり納得していたように見えてたけど、今の行動を鑑みると、多分こうやって自力で情報入手しようと考えていたんだろうな。

 

「はぁ……とりあえずアイシャ、区切りが付いたら適当に戻って来い。悪いけど今は席を外して貰うぞ? 『魔呪無力化(ディスペル)』」

「へ? あ、ちょっとー!?」

 

 その言葉を最後に、玉は実体をなくしその場から掻き消える。

 ……念のため他にもないか見ておいた方がいいだろうな。とりあえず周りも注意して見ておくか。

 

 この竜の瞳なら、魔力を色として捕らえる事が出来るので、全方向見渡せばアイシャの『百の飛び回る小さな私(ハンドレット・スモールアイ)』がどこに隠れていようと見つけることが出来る。

 ならなぜ先ほどまで気づかなかったかと言えば、この竜の瞳はオートで機能する訳でなく、使う事を意識しないと発動しないからだ。これまでは有事以外では使っていなかったが、今後は注意が必要だな。

 

 それにしても毎度感じるが、魔力を直接見たり、あるいは未来予測した光景を映したりと、本当に凄い目だろ思う。この力を貸してくれてる雪華には感謝が尽きないよ。

 

「消しちゃって良かったのかな……街もこんな状況だし、もし外にいるアイシャさんの方で何かあったら困るんじゃないかな?」

「んー、大丈夫なんじゃない?」

「そうかなぁ……」

 

 マカちゃん優しいね。

 初対面であんな事言われてたのに、そんな相手の心配が出来るなんて……それに今まさに盗聴されてた事にも、全く怒る素振りを見せていない。

 こういう所は俺や雪華では真似できないな。俺は基本的に性格の好き嫌いがあるし、雪華はそもそも他人に対してあんまり興味のないように見える。

 

「アイシャは一応5級冒険者だ。それに彼女なら、危険があれば事前に察知出来るし、心配ないよ」

「あはは、一応って失礼だよ。けどそうだね、確かにそう言われたら安心かも」

 

 納得してくれたようでよかった。

 さて、それではようやく本題に入ろうか。

 

 せっかくなので、試しにまずは目の前にいるマカちゃんを竜の瞳で見てみよう。

 

 わき腹から腰辺り、腕は肘まで行かないところまで赤色に染まっている。あと背中側がほとんど真っ赤だ。

 この赤くなってる位置は……多分血晶化してる部分かな。血色魔法の1つだと聞いてるし、魔力を帯びてても不思議じゃない。

 

 続いて雪華。こちらはマカちゃんのような一部ではなく、全身が薄く白色の霧のようなもので覆われているように見える。

 常時白色魔法を身に纏っているのだろうか?

 

 最後は問題のルウ。

 これでもし何の異常も感じられなければ、雪華の態度が変だった理由について手がかりがなくなってしまう。そうなればもはや他に思いつかないので、直接本人に聞くしかない。

 

 不安と期待がない交ぜになった気持ちでルウへと目を向けてみると、そこには期待通りの……それでいて不安になりそうな、ある意味俺の気持ちの両方に応えたかのような光景が広がっていた。

 

「なんだ、これ」

 

 彼女の全身からは、青と紫を混ぜたような……だが決して混じりきってるわけではなく、全体的に青色なんだけど、一部のみ紫色だけの場所もあったりと、統一されていない配色になっていた。

 

 俺はもう一度マカちゃんを見て、血晶化していない部分に色が付いていない事を確認すると、一瞬ありえないような予想が頭を過ぎった。

 もしかしてこの子(ルウ)、人じゃない……?

 

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