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想定通りには進まない

 

 カーベルの街を後にして2日が過ぎた。

 ここまでの行程に問題は無く、今も目的地を目指して進行中だ。

 

「おにーさんごめん、お願い」

「うん、おいで」

 

 あの日以降の変化と言えば、遠慮がちだったマカちゃんがよく俺を頼るようになってくれていた。

 具体的には、体力面で他の面子と劣る彼女が疲労で歩き続けるのが難しくなると、すぐに自分からおんぶをお願いしてくるようになった。

 

 俺はマカちゃんが背にしがみついてきたのを確認すると、小さく柔らかな膨らみの感触を感じつつ立ち上がる。

 会った当初から態度の柔らかかったマカちゃんだが、俺にペンダントを渡してからより甘えてくれるようになったと思う。どういった心境の変化なのかは分からないけど、このままこれまでのような変な遠慮も無くなれば良いな。

 

 そんな風に考えていると、ふと視線を感じてそちらへと目を向ける。

 

「……ん」

 

 雪華だった。

 彼女はなんだか羨ましそうな表情でマカちゃんを眺めている。

 

 ……そういえば雪華にはいつも抱っこしかしてあげてなかったっけ。

 もしかしたらおんぶされてるマカちゃんを見て、興味がわいたのかもしれないな。

 

 でもそれを言い出さず、眺めるのに留めて我慢している所が、いじらしくてすごく可愛らしい。

 ……俺としては抱っこの方が視界も含め色々と楽しめるので一番好きなのだが、雪華が喜ぶのなら今度おんぶとか肩車もしてあげる事にしよう。

 

 

 

 

 

「あっ、リューヤさん」

「どうした?」

 

 マカちゃんを背負ってしばらく歩いていると、先頭を歩いているアイシャが足を止めず、思い出したかのように声をあげた。

 なんだ? 別に近くには何もいないようだけど。

 

「もうすぐ街に着くんで、前もって今回の討伐の流れについて確認しておきたいんすけど」

「あぁ……」

 

 そうだった。吸血鬼を倒しに行くという事で纏まったものの、具体的な流れについては話し合ってなかったな。

 確かに現地に着いてから慌てるよりも、道中の余裕ある間に確認しておいた方が良いか。

 

「街に着いたら、まずは吸血鬼の情報を集めよう。……ちなみにマカちゃん、吸血鬼って何か特徴はあるの?」

「うん、瞳と体毛が血に染まったみたいに真っ赤だから、一目見て分かると思うよ」

「へぇ~」

 

 さすがマカちゃん、俺の知りたい情報は何でも知ってるな。本人に言えば、「そんなの皆知ってる」と返されそうだから言わないけど。

 それにしても見た目にそれだけの特徴があるのなら、案外迷わずすぐに見つかりそうだな。

 

「まぁ妥当っすね。けど、そう簡単に情報は集まらないんじゃないっすか?」

「え? なんで?」

 

 見た目に特徴あるのなら、誰が見ても分かるってことだろ? それで情報が集まらないとなると……もしかして、吸血鬼って引きこもりなのか?

 

「んー、リューヤさんも吸血鬼の狩りの手口くらいは聞いた事あるっすよね?」

「あぁ、聞いてるよ」

「……だったら分かるんじゃないんすか?」

 

 アイシャは俺の反応に、呆れの色を乗せてそう言ってきた。

 

 ……えぇと、つまりはどういう事だ?

 多分今の言葉から考えると、俺が予想した引きこもり説は違うのだろう。吸血鬼の狩りとは全く関係なさそうだし。

 となれば、吸血鬼の手口について考えてみるとしよう。冒険者ギルドでリーフェさんから話があったが、旅に出てからもマカちゃんから色々と教えてもらっていたので、それも含めておさらいだ。

 

 吸血鬼。

 冒険者ギルドでは4から5級に指定される魔物だ。

 主な食料は他の生物の血液で、人は勿論のこと、野生の動物や魔物、さらには同種の吸血鬼同士に至ってまでヤツらの食料となるらしい。その特性のせいで、どんな相手とも相容れない孤独な種族だとかなんとか。

 

 そんな吸血鬼たちだが、戦闘能力はそれなりに強い。

 ドラゴンで3級指定となっているので、ヤツらの等級を考えればそれより1つ劣るとは言っても、化物レベルなのは容易に想像がつく。

 

 具体的に言えば、ヤツらの厄介な点は2つある。

 まずは身体能力。人の数倍はあると言われており、さらに知能の面でみてもこちらと同等程度なので、種族として見れば完全に人の上位版だろう。これだけでも普通の低級冒険者では戦いにすらならない。

 次に血色魔法。この魔法は吸血鬼特有のものらしく、その名の通り血を操る魔法で、自らの血を硬質化させて武器にしたり出来る。また、吸血鬼の血は他の生物にとっては毒になるようで、少しでも浴びたり血で作った武器に切り裂かれでもすれば、今のマカちゃんと同じように血晶化が始まってしまう。そうして血晶化に掛かってしまえば、後は血色魔法で症状を促進されて……と非常に嫌らしい魔法だ。

 

 おっと、軽くおさらいするつもりがつい脱線しすぎてしまったな。だがお陰でアイシャの言いたい事も分かってきた。

 吸血鬼のやり方は、この血色魔法を使って血晶化を撒き散らしてまずは相手の命を握る。後はそこで自分のしたいように暮らすというものだった。

 

 当然、街の人もそんな相手など許せないのだろうが、反抗すれば血晶化を促進されるので逆らうにも逆らえない。

 だからと言ってその吸血鬼を倒してしまえば、後に自分達の症状を抑えられるものもおらず、短い時間で緩やかに朽ちていくだけ。となれば、誰が討伐に来ようとそう簡単に情報を開示しないだろうな。

 

「……討伐以外を名目にして、情報を集めるしか無さそうだな」

「そうなんすよねぇ、このままじゃ街にさえ入れてもらえない事だって考えられるんすから」

 

 ぐぬぬ、確かにその通りだ。考えてみれば当たり前じゃないか。

 まずいな、俺はてっきり場所さえわかれば後は倒すだけ、って考えていたんだが……そうもいかないようだ。

 

「それで、その名目はどうするんすか?」

「……考え中だ」

 

 やばい、今の今まで気づいてすらいなかったので、そんなの何も考えてないぞ。

 

 名目かぁ。

 実は自分たちも血晶化してるので、助けてもらいに来ましたとかどうだろう? 実際マカちゃんは血晶化してるわけだし、助かりにきてるのも本当なので、それを理由に押し通れたり……しないだろうな。

 まず証拠を求められても俺や雪華は見せられないし、うまくいったとしてもその後に吸血鬼を倒してしまえば、街の人たちを見殺しにする事になってしまう。そんなのはマカちゃんが納得しないだろう。

 

 うわぁ、これいよいよ手詰まりだぞ。どうすりゃいいんだ?

 

「えぇと……リューヤさんって確か、モンスターテイマーっすよね?」

「え? あぁそうだけど」

「ならあるじゃないっすか、都合の良さそうな名目」

「へ?」

 

 悩んでいると、アイシャは事も無げにそう言ってきた。

 えっと、俺がモンスターテイマーだったら解決する内容なの、か?

 

「……討伐相手をテイムすれば、話が纏まると思いません?」

「あっ!」

 

 そうか、その手があった! ……っじゃない、確かそれはダメだったはずだ。

 冒険者ギルドでリーフェさんも言っていたが、吸血鬼たちに血色魔法を使って血晶化を消せと命令しても、相手は死んでもそんな事しないらしいしな。

 だからこそ俺もマカちゃんを元に戻すのを諦めて……待て、本当にそうか?

 

「……いや、いけるな」

「ん?」

 

 俺は必死に興奮を抑えながら頭を働かせ、雪華へと視線を向ける。

 今回こうやって旅に出られた事や、そもそも俺が異世界に来てすぐ死なずに済んだのは、この可愛い小さな女の子の力を貸してもらっていたからだった。

 

 どうしてこんな簡単な事を忘れていたのだろうか。

 そう、俺には『無色の染料収集家(カラーレス・コレクター)』という能力のようなものがある。この力があれば……そして討伐予定の吸血鬼を一時的にでも配下に加えられさえすれば、俺にも血色魔法が使えるようになる。

 つまり、マカちゃんを脅かしている血晶化を、彼女が人のままの状態で完治させる事だって出来るのだ。

 

「アイシャ、よく気が付いた!」

「え? あ、ちょやめっ」

 

 嬉しさのあまりついアイシャの頭を撫でてやると、少し嫌そうな顔をされて手を払われた。おっと、はしゃぎすぎたか。

 

 それにしても……全く、馬鹿か俺は。

 これまで散々恩恵を受けていたのに、この能力が頭から抜けてたのは自分でも思うところがあるのだが……まぁ良いか。これでマカちゃんを助けられるんだから、むしろ気づけた事を喜ぼう。

 

「その方法なら終わった後に街の人たちを助けられるし、相手にも助かる道があれば情報も集まりやすいだろう」

「……思いつきにここまで食いつかれるとは思わなかったすね。というか、本気っすか?」

「え?」

 

 アイシャの言葉に、思わず疑問の声を返す。

 言っていることがよくわからない。今考えたとおり吸血鬼をテイム出来れば全て丸く収まるのに、何が問題なんだろうか?

 

「俺はもうそのつもりなんだけど……」

「リューヤさん、吸血鬼をテイムなんて無理っすよ」

「無理?」

「そっす。私も出くわした事があるわけじゃないんで聞いた話になるんすけど、あいつら性格最悪らしいっす。とても命令を聞くとも思えないし、テイムして使役するなんてまず想像つかないっすね」

 

 なるほど、性格の問題か。

 そういえばリーフェさんも吸血鬼に対して全く良いイメージ持ってなかったしな。

 まぁでもそれなら問題ない。捕まえさえすれば、その後に俺自身が血色魔法を扱えるようになるはずなので、相手がどんな性格していようと関係はないのだ。

 

 そんな俺の考えをよそに、アイシャの話は続く。

 

「だから捕まえて血晶化を治すよう説得とか、考えない方が良いっすよ」

「話はわかった……けど、マカちゃんを人のまま治せる方法があるなら、出来れば一度だけでも試してみたいと思う」

「……はぁ、だから無理なんですって。それにもし間違ってテイムに成功してしまえば、私が困るんすよ。ほら、昇級条件で討伐証明を持ってかなきゃだめっすから」

「あ、そうか」

 

 ……やべ、こっちは完全に忘れてた。

 アイシャの目的はそもそもがソレだったな。

 

「なら、テイム後はマカちゃんと街の人を治して、そのあと討伐するってのはどうだ?」

「諦め悪いっすねぇ、正直テイムするのは手間が掛かって嫌なんすけど……まぁ仕方ないっすか」

 

 アイシャは俺に見えるようにしてため息を吐くと、止めていた足を進め始める。どうやら納得してくれたみたいだ。

 

 ……しかし、どうするかな。

 今俺がした提案は、モンスターテイマーの心得から反してしまうので、自分から言っておいてなんだがあまり気は進まない。

 テイムした魔物は相棒であり家族であり恋人……いや、今この話をこじれさせるよりマシな選択のはずだ。目的地ももうすぐなのに、ここで何かを言ってアイシャの気が変わってしまうのは最悪だ。

 

 俺は目先の目的をまずは優先しようと、浮かんでくるもやっとした気持ちに対しては結論を保留とする事にした。

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