マカちゃんは多くを望まない4
ドラゴンの強さについて話していると、管理者が魔法についても言っていた事を思い出し、これまで黙っていた雪華へ直接聞いてみる事にした。
「そうだ、雪華は魔法が使えるんだっけ?」
「ん、しろいろ」
「セツカちゃん魔法使えるの!?」
「ん」
すると雪華はやっと自分の出番がきたと感じたのか、張り切って答えてくれた。
驚いているマカちゃんへの「ん」も、何となく「どうだ!」という幻聴が聞こえてくるような雰囲気だ。
とりあえず撫でておこう。
「それで雪華、白色魔法ってどんな魔法なの?」
「ん、しろいろは――」
「確か光の属性で、治癒とか解呪、盾や結界に魔法無効化などなど、属性の中でも一番防御面に特化してる魔法った筈だよ」
「…………むぅ」
うん、マカちゃん丁寧な説明をありがとう。
でもせっかく雪華が張り切って説明しようとしてたのに、それを邪魔しちゃダメだよ。……ほら、すっごいむくれてる。
「……マカ、嫌い」
「えっ、なんで!? ご、ごめんね? おにーさんどうしよう!? セツカちゃんが、セツカちゃんが!」
「マカちゃんが出番を奪っちゃったからね」
「え? あっ!? ど、どうしよう!?」
俺はマカちゃんの焦る姿を見て、内心ため息を吐く。
マカちゃんって結構、こういう所あるよな……多分この短い間で一番雪華を怒らせてる気がする。
まぁ怒ってる雪華も凄く愛らしいので、これはこれで俺にとっては楽しいんだが。とは言えこのままにもしておけないし、フォロー入れておくか。
「わかったからちょっと落ち着いて、えー、コホン……あー、さっきマカちゃんが説明してくれたけど、ちゃんと理解出来なかったなー。そうだ! 雪華、俺にもう1度教えてくれないかな?」
「わからない? しろいろ?」
「うん、手間が掛かって悪いんだけど、いいかな?」
「……ん、仕方ない」
雪華は「もう、しょうがないリューヤだ」とでも言いたげな表情をしつつも、どことなく嬉しそうな声音で説明を始めてくれた。
俺がその一言一言に合いの手を入れつつ褒めてやると、すぐに機嫌を直してくれる。
そうして説明が終わると雪華は俺に寄りかかり、上目遣いで見上げてきた。
自ら俺に説明できた事が嬉しかったみたいで、満足そうな表情だ。
「わかった?」
「うん、良く分かったよ。ありがとう雪華」
「ん」
あぁもう、可愛いなぁ。
雪華の可愛さはとどまる気配がないな。天井知らずだ。
「……仲良いね」
「えっと、どうしたのマカちゃん」
そうやって雪華を撫でながら可愛がっていると、今度はマカちゃんの機嫌が斜めになったみたいだ。いや、なんでやねん。
というか今のは、そもそもマカちゃんのフォローにまわったのに、そんなジト目を向けられる覚えは無いんだが。
でも何となく抗議しても意味がなさそう……よりもむしろますます機嫌を損ねそうなので、話題を変える事にしよう。
「そうだ雪華、良かったら魔法を見せてくれないかな?」
「あ、そうだね。私も自分が使えなくて見たこと無いから、お願いしたいな!」
「ん」
お、ナイスだマカちゃん。
ここでもし、「あ、私も使えるよ~」とか言って何か始めたらどうしようかと思ってたよ。
えらいえらい。頭撫でてあげよう。
「……『害撃拒絶』」
「えっ?」
雪華が一言紡ぐと、俺の手とマカちゃんの頭の間の空間に淡く光る白色の壁のようなものが形成され、俺の手が止まる。
「雪華、これ」
「どうしたの?」
「ん、魔法」
「え? どれ?」
俺は驚いて雪華とその白い壁を交互に見やるが、マカちゃんには見えないみたいできょろきょろしている。
そのまま恐る恐るつついてみると、特に何かが当たるような感触は返ってこない。
「……ん」
「あ! 私にも見えた! へぇ、これが魔法かぁ」
眺めていると、雪華が気合を入れたと同時に淡かった光が強くなる。それでようやくマカちゃんにも見えるようになったようだ。
何で俺だけ見えたのか一瞬考えるが、そういえば『竜の瞳』があったんだった。これのお陰で魔力あるものは見えるのだろう。
「ちなみにどういった効果なの?」
「防ぐ」
「打撃とか? それとも魔法?」
「危ないの全部」
それは凄いな、これまで雪華を戦闘から遠ざけていたけど、これからは遠くから支援してもらった方が良いのかもしれないな。
「他には何かあるの?」
「ん、一杯」
「へぇ、じゃあ見せて――」
――コンコン
ん? なんだ?
ドアをノックするような音が聞こえた気がするけど。
そう思ってマカちゃんを見ると、マカちゃんにも聞こえたようでこちらを見ていた。
「今誰か扉叩いた?」
「あ、おにーさんにも聞こえたんだ。じゃあ私出るよ」
「うん……って、ちょっとまった! マカちゃん、服! 服!」
忘れていたが、今マカちゃんって薄布1枚だけ纏ってる状態だった!
そのままマカちゃんが外へ出れば、絶対に事後だと思われてしまう。うん、それは完全にアウトだ!
「え?」
「だから服を――」
「――『閃光』
そこでタイミング悪く雪華が魔法を使ったらしく、突然視界が真っ白になった。
「なっ!」
「きゃっ!?」
全く構えていなかった俺とマカちゃんはもろにその光を浴びてしまい、一瞬可愛らしい声が聞こえたかと思うと、柔らかい感触が顔を包む。
「何か凄い音が聞こえましたが、大丈夫です……か」
光が収まる頃には、小さくて可愛らしい膨らみが目の前にあった。
ふむ。
どうやらあの一瞬で、立ち上がろうとしたマカちゃんが自分の纏っている掛け布団に足を取られ、そのまま盛大にバランスを崩すと同時に体を隠していた布団が床に落ち、中腰だった俺の顔に胸からダイブしてきてこうなったみたいだ。
……うん、ごめん噓ついた。
本当は「みたいだ」というか、俺にはその光景がばっちり見えていた。
多分これも身体強化された恩恵の1つだろうが、俺の目は輝度の調整を即座に行ったようで、マカちゃんが目を抑えながら足を取られ、こちらに倒れてきているのが見えたからこそ、怪我させないように優しく受け止めたのだ。紳士的に。
そういえば洞窟に居た時も真っ暗で見えなかったはずなのに、穴から這い出た後は薄暗くとも見えていたな。それも雪華の力だったのかと、今更ながら実感する。
……さて、それよりアレだな。そろそろ現実に戻るか。
なんと言うか、さっきからマカちゃん越しにレインさんっぽい人が見えるような気がしてならないんだよね。
「いたた……あっ! おにーさんごめん!」
「びっくりした……大丈夫? 怪我無い?」
「うん、おにーさんが下になってくれたから……痛くなかった?」
むしろ慎ましいながらも確かな柔らかさが感じられて、とても気持ちよかったです。
と、そんな心の声はしっかりと心の中へとしまっておき、俺はマカちゃんの一部固い背中に手を添えて起き上がると、部屋の隅へと目を逸らしつつ返事を返す。
……正直言えばハプニングは嬉しかったのだが、あられもない姿になっているマカちゃんを直視し続けるのは、かなり気が引けたのだ。
「平気だよ。それで、えぇと……何かで隠そっか」
「……へ? きゃぁああ!!」
「はっ!?」
俺が言うと、ようやく自分の状況に気づいたマカちゃんは悲鳴をあげ、即座に内股になって大事なところを隠しながら、両手で胸を覆う。それと同時にレインさんが我を取り戻した。
……さて、何だのアニメみたいな展開。
事故なのは事実なんだけど、レインさんの目からはきっとそんな風には見えないんだろうなぁ。
俺はやや絶望的な気持ちになっていると、やがて裁判長からのお声が掛かる。
「……リューヤさん」
「は、はいっ!」
俺は反射的に背筋をビシっと伸ばしながら、自分でも分かるほど上ずった声で返事を返し、でも視線はレインさんから逃げるようにして部屋の隅を見続ける。
やばい、何故かは知らないけど、変な汗が噴出してくるのを自分で感じる。
この状況、一体どう説明すれば……。
「えっとこれは、その……不幸な事故でして」
「なるほど、そうだったんですか」
「えっ?」
何とか必死に言い訳をしようと考えていたのだが、レインさんがすんなり納得の言葉を返してきたので、思わず外していた視線を彼女に向ける。
否、向けさせられてしまった。
「っ」
俺はそれを見た瞬間、思わず息を呑む。
そこには笑顔なのに、目が全然笑っていないレインさんがいたのだ。……これはもう、どんな言い訳や抵抗も無駄なようだ。
「では少し、外でお話しましょうか」
「………………はい」
そうして俺はレインさんに連行され、重い足取りで部屋を出たのであった。




