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ヴェスペルの娘達  作者: さくしゃ
終色 『あなたに贈る色は』 ~romance dawn~
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異郷の街(7)

少年の様子がおかしい、と告げてきたのは世話役を任せたあの神学生だった。


 「ぼうっとしているというか、心ここにあらず、と言うか。どうも授業中もそんな感じみたいです」


 そう言えば、ここ数日、食事時もぼんやりとしていることが多いようだった。

相変わらず子ども達に混ざり食事をとる少年。

配膳などの時間は積極的に手を動かし、他の子どもたちの模範となっているが、いざ食事の時間となると口にものを入れたまま固まっていることもあった。


 授業中も、やはり同じ様子。一生懸命集中しようと、黒板を睨みつけている。

しかし、その顔がふっと机の方に向くと、なかなか起きてこない。

そして慌てて顔をあげ、の繰り返し。


 「様子がおかしいというよりは、何かに悩んでいるようですね」


 報告をくれた神学生にそう告げた、その晩のこと。

夜中にふと目を覚ますと、廊下を歩く何者かの気配があった。

そっと扉に手をかけて様子を窺うと、ぼんやりと光る明かりが、まず目に入った。

ゆっくりと揺れながら光は近づいてくる。


それは粗末な寝間着姿のまま、ふらふらと歩いている、少年だった。


辺りの様子を窺いながら、そっと少年が手をかけたのは、図書室。

図書室への出入りは禁じていないし、読書の時間は就寝までにたっぷりとってある。

更に所定の手続きを踏めば貸し出しも可能だ。

夜中に出歩く禁を犯してまで、少年が図書室に忍び込む理由はない。


……禁書の類に、触れようとするのでなければ。


 少年の心は頑是なく、まだ善悪の区別をつけられない。

吸収がはやく、好奇心も強いため、禁じられたものに手を伸ばせば、それにのめり込んでしまう可能性があった。


 心配して、翌日は図書館を訪れた。

書庫には少年の姿があり、ある本を前にして固まっている。

それは禁書でも何でもなく、貸し出しも行える書物であることに先ず安堵する。


 少年は、書物に指をかけ、そして熱いものに触れたようにぱっと手を離した。


 もう一度手を伸ばし掛け、その手が力なく落ちる。


 また両手を持ち上げ、書棚に手をかける。


 それでもその書物に触れることなく、必死に何かを堪えるように、こうべを垂れた。


 まるで、何かを希うように、慕うように。

それから、さっと顔をあげると書庫を出て行った。

彼が出て行ったことを見届けてから、彼が執心していた書物を改める。

古い、橙色の書物。彼には読めない異国の言葉で書かれたそれは


「……想鎖術?」





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