想鎖術
『想鎖術』
それが、この世界にある理の一つ。
「口で説明するより、実際に見せてあげる」
リーゼは朝食後、エルモを伴って家の裏手にある果樹園を訪れていた。四季を問わずにとれる苹果の一つをもぎ取り、袖で拭ってからナイフで半分に割る。
「これ、どうかな?」
「どうって、おいしそうですけれど……」
齧ってごらん、とリーゼはエルモを促し、促されるままにエルモがそれを頬張る。
「甘くて、おいしいですけれど」
「じゃあ、今度はそれを言葉で表現してごらん」
言葉を発するリーゼは樹上だ。腰につけた大きな籠へ、次々に苹果を放り込む。
決して大きな果樹園ではなく、全体の本数も二十本ほど。
若木が多いせいもあり、幹の表面はなめらかで、一つの樹になる苹果の数もまだ少なめだ。
それでも、丹精に育てているから十分に持ち重りがしているようで、枝はしなっていた。
「ええと、外側はつるつるで紅くって、内側は白い。それで、甘いです」
観察したことをおっかなびっかなと答える少年に、微笑みかける。
「うん、それが正解だ」
最初にしては上出来。あまり始めの内から変な言い回しを覚えてしまうと、物ごとを見誤ってしまう可能性があるから。
むつかしい顔で黙りこくる少年の前にリーゼは樹からするする降りる。苹果はこれで十分。あまり取り過ぎると、次から樹が使えなくなってしまう。
「じゃあ、これならどうかな?」
腰に括りつけた籠から無造作に苹果を一つ掴みだすと、眼前に掲げた。
一つ呼吸を余分に挟み、目を閉じる。閉じた瞼の内側、想像の世界に苹果を思い浮かべる。
声もまた、大切な要素の一つ。咳払いさえ殺し、限りなく声を澄ませる。




