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ヴェスペルの娘達  作者: さくしゃ
第三色 『心をこめて花束を』 ~Liese’s lecture 「The last day」~
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34/96

horror

 何故自分は、こんな所にいるのだろうと思う。


 「ちょ、弟子離れちゃいやだからね!迷子になったら探すの面倒なんだから!」

いつもは穏やかに落ち着いた声が、今は半分ひっくり返って震えている。


 屋敷の奥へとつながる薄暗い廊下。けれど、迷子になるはずもない。

何故なら変装を解いたエルモの服の裾は、師匠の手の中にしっかり握りこまれているからだ。


 だから、これは単なる強がり。


 基本的におおらかでいなせなリーゼだが、それでもやはり怖いものはあるらしい。

くすりと笑んで、エルモは手を差し出そうとする。が、寸前でやめる。

ここで手を出したら、それなりに高いリーゼの矜持はぐずぐずだろう。

「師匠こそ、手離さないで下さいね。ボクははぐれるの、怖いですから」

「うん……うん!」

何度も繰り返し頷くリーゼ。


 エルモは片手で掲げた明かりを一層高く掲げ、辺りを見渡す。

その瞬間だった。エルモの足元を、何かがすりぬけていく。ひょるん、と足首に何かが巻きつき、すぐに離れる。誰もいないはずの奥の扉が、


ぎぃ…………ぎぃい……


 ゆっくり、音を立てて開く!

ひっ、先に吐息を飲んだのは、はたしてどちらだったのだろう。

「ねぇ……………」

風に紛れそうな声が、ゆっくりと奥の扉から聞こえてくる。


 ちなみにエルモは、怖い話とか怪談とか、とても苦手だ。


 年上の神学生たちが孤児院の子どもたちに話して聞かせる聖典の中の猟奇譚や怪談話は、誰より早く耳を塞いで端っこに震えるタイプ。


 「うわあああああ――――――――!何か出たああああああああああー――――――――――!」


だから、遠慮なく悲鳴を長く伸ばし、エルモはリーゼの手を引ったくるようにして今来た道を全力で駆け戻ったのだった。



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