異教の街(3)
連れ帰った少年は最初こそ落ち着きのない表情で俯いていたが、少し慣れてくると顔をあげて辺りを見渡すようになってきた。
神殿と孤児院は朝御飯の支度の真っ最中で、台所を中心に騒がしい。その騒がしい台所に座らせているのだから、物珍しいのも当たり前だ。
朝のお茶を運んできた女性神官が、にっこりと少年に向かって微笑みかける。
「よろしければ、お茶をどうぞ」
すると、少年も同じようににっこりと笑い返す。
「あらやだ、可愛い」
その場に居合わせた、別の女性神官がそんな言葉を漏らした。すると、そちらに向かってもにっこり。きゃあっと女性達が色めき立つ。それは美丈夫の旅芸人が故あって一晩の宿を借りに来た時の反応とよく似ていた。
「順応性高いですねー」
神学生が戻ってきて、感心したように呟いた。手には着替えを持っている。彼の視線に気がついた神学生は、すっくりと背を伸ばし
「どうしようかと思ったんですけれど、神学生でもないですし、これで」
どうでしょうか、と示されたのは数年前に意匠を変えた神学生の制服だった。清貧を旨とする神殿で、誰も来ていない物は勿体ないから、と当然捨てずに保管していたものだ。だから問題ない。肌着も同様に清潔なものを用意してある。
「ああ、これで構わないだろう。あれは、順応というより、今誰かに声をかけられたら笑う、ということを学習したようだ」
「それは、どういう……?」
見ていなさい、と言い置き、ぽん、と教父が少年の肩を叩く。振り向いた少年は、こちらの姿を認めるとにっこり笑った。
「これより、着替えを、します。あの者について、部屋に案内してもらいなさい」
一音一音、丁寧に噛みしめるようにして、語りかける。
そして、神学生へは「一番幼い子ども達の部屋に案内してあげなさい」
「一番幼い子ども達のところ、ですか?」
「ああ、着替えとはどういうものなのか、誰か手本を示してやった方がいい。そしてそれは、子どもの方がゆっくりだろう」
ここには、子どもも大人も、年を取ったのも若いのも、男も女もいる。
彼が生きていゆく上で必要なものを、全て学びとれるはず。
「それから、これからは必ず誰か彼の傍に付き添うように。くれぐれも乱暴なふるまい、乱暴な言葉遣いは禁ずる」
それは、この神殿では異例ともいえる忠告だった。ここには、乱暴なことをするものなど誰もいない。人はみな、まじめで実直だ。それなのに。目を瞬かせる神学生へ、彼は
「人を一人、初めから育てなおす為にはこの位の気遣いが必要なのだよ」




