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龍王の卵に転生した俺は各地の天才をスカウトして王国を築く  作者: バナナ


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同じ綱を引く者たち

評議が終わるより先に、点呼板が三枚まとめて裏返った。


空環城中央塔の会議室には、昨夜決めたばかりの救難規則が石板へ刻まれている。単独の王命は使わない。住民代表、職能代表、拒否刻印の三者が危険と判断すれば、俺の決定でも止められる。俺自身が提案し、評議で承認された規則だ。


その新しい規則を試す最初の仕事が、北環居住区の崩落だった。


青壁側の集合住宅と水車工房の間で地盤網が二本切れ、旧王権の支配機構が避難扉を閉じた。点呼板に登録された住民は三十四名。南の退避広場へ着いた札は二十九。残る五名の位置は、崩落と青白い支配線に遮られて分からない。


「王、提案を」


グラウは中央の風路図へ骨翼の先を置いた。獣型の灰白い身体は煤に汚れ、傷の残る片翼を低く畳んでいる。前の戦いで風圧を束ねる役を引き受けてから、彼女は自分で突撃するより、各班へ風と情報を送ることを優先するようになった。


俺は反射的に「全員、北環へ向かえ」と言いかけた。


喉元まで出た命令を飲み込む。支配機構は、俺が一つの意思で皆を動かそうとするほど強くなる。昨夜の評議で、その仕組みを確認したばかりだ。


「救出案を三つ出す。第一は青壁側の主廊下を盾列で進む。速いが、支配線の正面だ。第二は白壁側の地下水路。狭いが、ポロなら先へ行ける。第三は上空の分散路だが、風路が不安定で負傷者を運べぬ。各班で選べ。拒否してよい」


「主廊下は私たちが行く」


レナが先に答えた。王国辺境調査隊の盾役で、傷だらけの大盾を背負っている。隣では斥候のユフィが乾いた笑いを浮かべ、治療役のドーラが包帯箱の残量を数え、救出された斥候エドが旧昇降路の図を広げていた。


「人間だけで、とは言っていない」


空牙狼の長セラが低く唸った。銀灰の巨体を伏せ、引き綱を牙で持ち上げる。後ろには荷運びに慣れた狼が四頭。どれも支配刻印を拒むための白布を首へ巻いている。


レナは一瞬だけ狼たちの牙を見た。セラも、人間の剣へ視線を止めた。盟約を結び、市場を共に守った。それでも、狭い崩落路で背を預けるのは別の話だ。


「盾の後ろへ入るなら、私の合図に合わせて」


「風下で鼻を塞がれたら、あんたの合図は聞かない。綱の震えで合わせる」


二人の言葉がぶつかる。


俺は仲裁しようとして、また止まった。答えを俺が決めれば速い。だが速いだけの答えが、北環で同じ方向を向くとは限らない。


ユフィが二本の綱を拾い、青い布と白い布を結んだ。


「声は水音で消える。青綱を一回で停止、二回で押す、三回で退く。人間にも狼にも同じ意味。これなら?」


レナが綱を握り、セラが反対側を咥えた。二人は互いの力を確かめるように一度だけ引く。


「採用」とグラウが記録板へ刻んだ。「主廊下は混成救助班。地下水路はポロ、エド、苔背鼠の掘削班。ミーナは風路分散と煙抜き。ガンツは地盤網。ドーラは中央治療所。王は中央接続と全体位置」


「俺の役割だけ、ずいぶん座っていれば済みそうだな」


「重度魔力消耗で亀裂の入った卵を、瓦礫の先頭へ持っていく案は却下済み」


グラウの返事に、ミーナが俺を低い救難荷台へ固定した。今日は人型ではなく、黒銀の翼猫の姿を選んでいる。狭い風路を読み、翼と尾で姿勢を変えるには獣型の方がよいからだ。


「陛下の仕事は、皆が選んだ経路を勝手に一本へまとめないこと。難しいでしょうけど」


「王を何だと思っている」


「近道を見ると、そこへ全員を押し込みたくなる卵」


否定しきれないのが悔しい。


北環居住区へ近づくにつれ、空気は石灰と焦げた金属の臭いを帯びた。青壁と白壁に塗り分けられた避難廊下は、中央で大きく折れ、上階の住居が斜めに落ち込んでいる。割れた水管から温水が流れ、石床の青白い支配線へ触れるたび、低い唸りが城全体へ広がった。


退避広場には二十九名が集まっていた。人間の商人、苔背鼠、翼猫、空牙狼、石工の蜥蜴。種族ごとに固まる余裕さえなく、濡れた毛と血のついた服が入り混じっている。


ドーラは到着するなり、負傷者を種族で分けず、呼吸と出血で三列へ並べた。


「歩ける者は青布。支えが要る者は白布。意識がない者は赤布。誰の家族かより先に、今すぐ死ぬかを見る」


「弟が中にいるんだ!」と人間の男が彼女の腕を掴んだ。


ドーラは振り払わず、その手を包帯箱へ置いた。


「だから、この箱を持って。戻った人を受ける場所がなければ、救助班が弟さんを連れてきても助けられない」


男は唇を噛み、箱を抱えた。命令ではなく、役割を渡されたことで足が止まる。


最初の進入は主廊下から始めた。レナを先頭に盾役が三人、その後ろへセラたち空牙狼、ガンツの工作班、最後に俺の荷台。ネリィの警戒糸が天井と床へ張られ、中央塔のグラウまで振動を送る。


廊下へ十歩入ったところで、支配機構が動いた。


青白い線が壁から盛り上がり、竜の前脚を模した四本の石腕になる。一本目がレナの盾へ叩きつけられ、二本目が空牙狼の綱を狙い、残る二本が天井の支柱を引き抜こうとする。


「盾列、伏せる!」


レナが叫び、大盾を斜めへ立てた。人間の後ろへ狼たちが身を滑り込ませる。石腕の一撃が盾を床へ沈め、レナの膝が曲がった。


セラが横から石腕へ噛みつく。牙が青い継ぎ目へ入ったが、腕は折れず、逆に狼の身体を壁へ振り回した。


「綱、二回!」


ユフィが青綱を引く。人間と狼が同時に前へ押し、石腕を壁へ戻そうとする。


一度目は失敗した。


人間は盾を基準に前へ進み、狼は綱の震えを追って斜めへ力をかけた。方向がずれ、レナの盾とセラの肩がぶつかる。空いた隙間から三本目の石腕が伸び、工作班の石箱を叩き割った。


中に入っていた地盤楔が水路へ散る。四本目の腕が一本を掴み、支配線へ吸い込んだ。機構は楔の形を覚えたらしく、壁の継ぎ目を自ら固め始める。


「止めろ! このまま押せば、敵に補強材を渡す!」


ガンツが赤札を掲げた。人型の彼女は灰褐色の手で測量器を床へ置き、石腕ではなく廊下全体の傾きを読む。


俺は「押し切れ」と命じそうになった。あと数歩進めば、住居区の入口へ届く。だがガンツの赤札は王命より先に停止できる条項だ。


「全員停止。代案を出せ」


ガンツは青壁側へ落ちた水を指した。


「石腕は支配線から出る。線は乾いている場所で硬く、水が触れた場所で脈が遅い。ポロの水路班へ、下から流れを変えてもらう。腕を壊すんじゃない。根元を鈍らせる」


グラウへ伝わる警戒糸が二度鳴った。中央から返る風が、廊下の煙を白壁側へ押す。続いて床下から、ポロの声が響いた。


「右の水門を半分開けます! 全部開けたら住居区へ流れるから、半分だけ!」


エドと苔背鼠たちが地下で古い弁を回す。温水が青壁の溝へ流れ、支配線の光が一段弱まった。


ミーナが低い風を送り、水を腕の根元へ広げる。セラは噛みつくのをやめ、綱を根元へ巻く。レナは盾を立て直し、今度は前ではなく下へ押した。


人間と狼の力が同じ方向へ重なる。


一本目の石腕が床へ沈み、二本目の関節が止まった。三本目はガンツの作った空の楔を掴んだが、脆い灰石だったため内部で砕け、動きを詰まらせる。四本目だけが適応し、天井へ逃げて支柱を引いた。


轟音とともに、主廊下の中央が落ちた。


レナの盾列とセラたちは前へ渡り切った。だが俺と工作班の間に、三歩幅の亀裂が開く。下には旧水路が見え、白い泡を立てて流れている。


「陛下を投げる?」


ユフィが真顔で言った。


「却下だ!」


「冗談。半分だけ」


恐怖時ほど乾いた冗談を言う女である。


ガンツは獣型へ戻り、赤銅の巨体で倒れかけた梁を支えた。人型の精密さでは線を測り、獣型の力で重みを受ける。工作班が梁の下へ綱を通す間、肩の古傷から血が滲んだ。


「ガンツ、交代しろ」


「まだ測った限界の内側。あと十二息」


彼女は短く答え、数を自分で読み上げた。十息目で仮橋が渡り、十一息目に俺の荷台が通る。十二息目、ガンツは梁を放し、崩落側へ飛び退いた。


主廊下を越えた先で、五名のうち二名を見つけた。翼猫の老女と人間の少年が、倒れた市場棚の下で身を寄せている。二人とも脚を挟まれ、青白い支配線が棚の周囲へ絡んでいた。


少年は助けに来た空牙狼を見て、悲鳴を上げた。


「嫌だ、食われる!」


セラの耳が後ろへ倒れる。彼女は怒鳴らず、一歩下がった。


「この牙で棚を引く。近づくかは、お前が決めろ」


少年は答えられない。老女も、人間の盾へ不安そうな目を向けた。過去に冒険者へ追われた翼猫なのだろう。


レナは割れた大盾を床へ置き、その取っ手へセラの引き綱を通した。


「狼はあなたへ触れない。私の盾を間にする。私はこの綱を一緒に引く」


今度は老女へ、ドーラが白布を見せた。


「私は人間です。でも、その脚の血を止める。断るなら、薬だけ置いて離れます」


老女は長く迷い、前脚を一度だけ布へ置いた。それが同意だった。


救出は一度では成功しなかった。棚を持ち上げると、支配線が重みを別の柱へ移し、少年の脚へ石板がずれる。レナが盾を差し込んだが、縁が割れて腕を切った。セラは綱を離さず、肩へ棚の角を受ける。


「停止!」


ガンツの赤札が上がる。


少年が泣き叫ぶ中、止めるのは残酷に思えた。だが押し続ければ脚を潰す。


ユフィが床へ伏せ、支配線の走り方を見た。


「棚じゃない。奥の柱が本体。青壁の三本目、根元に空洞がある」


ポロが床下から答える。


「その下、水が通ります。私が一息だけ圧を上げる。柱が浮いたら引いて!」


グラウの合図が、警戒糸を通って三短音で届く。


ポロが水圧を上げ、ミーナが上から風を吸い、柱の重みをわずかに抜く。レナとセラが同じ綱を引く。ガンツが空洞へ楔を入れる。棚は横へずれ、少年と老女の脚が抜けた。


少年は運ばれる直前、自分からセラの背へ手を伸ばした。セラは振り返らず、歩幅だけを小さくする。老女はドーラの肩へ前脚を置き、人間の治療所へ運ばれた。


残る三名は、地下だった。


ポロの水路班から、赤い救難札が上がる。水車工房の下にある旧昇降筒で、苔背鼠の幼獣、人間の石工、空牙狼の若者が崩れた歯車へ挟まれている。上からは入れず、水路側の細穴しか残っていない。


俺たちは白壁側へ回った。そこは人間一人が横向きで通れる幅しかなく、天井には錆びた歯車が幾重にも噛み合っている。床下を水が走り、一定の間隔で逆流した。支配機構が水車を使い、崩落区画を中央塔へ引き寄せようとしている。


「エド、道は分かるか」


「昔の昇降路と同じなら、奥に保守穴がある。でも、図では塞がれている」


「図が正しいなら、俺は前に遺都で二度死んでる」


ユフィが乾いた声で返し、壁の傷を探る。彼女は白い石粉が途切れた場所を見つけた。


「ここだけ新しい。支配機構が後から塞いだ」


ガンツが測る。人型の指で継ぎ目をなぞり、すぐ首を振った。


「壊せる。でも先に歯車が落ちる。支えが三点要る」


レナが盾を一枚。セラの群れが引き綱を二本。ガンツが中央の梁。人間と魔物が別々に支えれば、どれか一つが外れた時、残る二点で持つ。


最初の持ち上げで、また失敗した。


レナは「押せ」の声で盾を上げ、空牙狼は青綱の二回を待った。半呼吸のずれで歯車が斜めになり、保守穴の縁がさらに崩れる。中から幼獣の泣き声が聞こえた。


俺の焦りが、殻の中で竜圧へ変わる。


全員に「今すぐ伏せろ」と命じれば、動きを一つにできる。支配機構の声より強く、俺の王命で上書きすればよい。


――命じろ。一つにせよ。救うためなら許される。


旧王の残響が、俺の声に似せて囁いた。


怖かった。三人を失いたくない。王命を拒んだ結果、救出が遅れたと言われるのも怖い。


「アルド」


ミーナが俺の荷台へ額を当てた。獣型の青灰の目が、逃げずにこちらを見る。


「命令にする?」


俺は一度、息を吸った。


「しない。合図を一つにする。選ぶのは各自だ」


グラウへ警戒糸を三度鳴らす。中央から風圧が返り、青綱と白綱を同じ周期で震わせた。


「聞け。これは服従命令ではない。三息後に持ち上げる。危険だと思う者は綱を離して下がれ。残る者は、自分の名と役割を声に出せ」


最初にレナが名乗った。


「レナ。盾を上げる」


セラが牙を綱へ食い込ませる。


「セラ。右の引き綱」


「ガンツ。中央梁」


「ユフィ。継ぎ目を見る」


「エド。中へ入る」


ミーナは風路、ポロは水圧、ドーラは退避口の治療。声が一つずつ重なるたび、支配線の青白い光が揺らいだ。自分で選んだ役割は、外から押しつけられた刻印より強い。


「一、二、三!」


盾、梁、二本の綱が同時に動く。歯車が水平へ持ち上がり、ユフィが継ぎ目へ楔を打つ。エドが保守穴へ滑り込み、獣型のポロが水路側から反対へ入った。


機構も適応した。歯車を止められると、水車の流れを逆転させ、保守穴へ濁流を送る。ポロの小さな身体が浮き、エドの足場が崩れた。


「水圧が七息で戻る!」


ポロが叫ぶ。


「三名の固定を外すのに十息いる!」


エドの返事。


足りない。


俺は都市核へ意識を伸ばした。合議核接続なら、保守扉を一時的に開けられる。ただし俺一人では動かない。住民代表、職能代表、拒否刻印の三承認が要る。


「セラ、住民代表として保守扉の開放を承認するか。中の三名だけでなく、支配機構の水圧もこちらへ抜ける危険がある」


セラは綱を咥えたまま、短く頷いた。


「承認。群れの若者だけではない。三人とも連れ出す」


「ガンツ、職能代表」


「承認。開放は五息。六息目で閉じる。閉じなければ梁を切る」


「レナ、拒否刻印の保持者」


レナは血の流れる腕で盾を支え、俺を見た。


「承認。ただし、王命への切替は拒否する。この救出は私たちの意思で続ける」


「承知した!」


三つの承認が都市核へ届く。俺の殻から青白い線が伸び、支配機構の線と接触した。力比べはしない。保守扉という一つの機能だけを、五息だけ借りる。


石壁の奥で、重い錠が外れた。


濁流が横の排水路へ吸われ、保守穴の水位が下がる。ポロは幼獣の腰綱を噛み切り、エドは人間の石工を肩へ担ぐ。空牙狼の若者は後脚を歯車に挟まれていたため、自分で噛み切ろうとした。


「脚を捨てるな!」


俺が叫ぶ。


「間に合わない!」


若者の声は震えていた。


ユフィが継ぎ目へ顔を寄せる。


「歯車の歯を一本だけ外せる。ガンツ、左下!」


ガンツは中央梁を支えながら、人型へ変わる余裕がない。代わりにレナが短剣を抜き、ユフィの示す歯へ差し込む。セラが反対の綱を一度緩め、歯車の重みをずらす。


一本が抜けた。


若者の後脚が外れ、エドが首の革を掴んで引く。


「四息!」


グラウの風圧が警戒糸を通じて告げる。


ポロと幼獣が水路から出る。エドと石工が続く。最後の空牙狼が保守穴へ身体を入れた瞬間、支配機構が扉を閉じようと反転した。


「五息、閉鎖!」


ガンツが叫ぶ。


俺は接続を切る。保守扉が落ち、若者の尾の先をかすめた。セラが綱を噛み、全身で引く。レナは盾を横へ倒し、扉と床の間へ挟む。盾の中央が完全に割れたが、一呼吸の隙間が残る。


若者が転がり出た。


直後、扉が盾を砕いて閉じた。


全員がしばらく動けなかった。


幼獣の泣き声。人間の石工の荒い呼吸。空牙狼の若者が痛む脚を床へ置けず、牙を鳴らす音。レナの腕から落ちる血。セラの肩へ食い込んだ棚の傷。ガンツの震える前脚。


ドーラが最初に我へ返り、三人を順に診た。


「命に関わる出血なし。石工は肋骨二本、幼獣は低体温、狼は後脚の裂傷。治療所へ運ぶ。喜ぶのは運んでから」


誰も勝鬨を上げなかった。


退避広場へ戻ると、点呼板が一枚ずつ表へ返された。三十、三十一、三十二。主廊下で救った二人が加わり、三十四。


最後の札が返った瞬間、人間の男がセラの前へ来た。棚の下にいた少年の兄だった。彼は狼の牙を怖がるように一度立ち止まり、それでも頭を下げた。


「弟を、運んでくれた」


セラは傷ついた肩を舐めようとして、ドーラに止められた。


「礼なら、次の救難綱を引け。私たちだけでは重い」


別の場所では、翼猫の老女がレナの割れた盾へ前脚を置き、修理用の銀糸を差し出していた。言葉は少ない。けれど、救出前には互いを警戒していた手と前脚が、同じ壊れ物へ触れている。


俺は安堵すると同時に、怖くなった。


歯車の下で、俺は本気で王命を使おうとした。全員の身体を一つに動かせば救える、と考えた。結果だけを見れば、命令より合意は遅い。レナの盾も割れ、セラもガンツも傷ついた。


「王」


グラウが中央塔から降り、俺の荷台の前へ立った。風圧を束ね続けた彼女の呼吸は荒く、骨翼の古傷が赤い。


「さっき、命じようとしたでしょう」


「した。救うためなら許されると思った」


ミーナの耳がわずかに伏せる。怒られる覚悟をしたが、彼女はすぐ責めなかった。


「それで、やめた理由は?」


「俺の命令で助かった者は、次も俺の命令を待つ。今日、レナとセラは互いを信用しきっていなくても、同じ綱を引いた。ポロとエドは別の入口から同じ三人へ届いた。俺が一つにしたのではない。違うまま合わせた。それを失いたくなかった」


グラウはしばらく黙り、記録板へ新しい規則を刻んだ。


「混成救助班は、種族で二列に分けない。人間と魔物を一組にする。方向は青壁、白壁。合図は綱の回数。救助対象への接触は本人の同意を取る。意識がなければ治療役が判断する」


ガンツが横から付け加える。


「支えは三点。三点のうち一つが外れたら停止。王が急げと言っても停止」


「そこを毎回強調する必要があるか?」


「毎回必要」


レナまで即答したため、俺は抗議を諦めた。


救出の代価も数えた。レナの大盾一枚、地盤楔六本、風袋二つ、青綱三本、白綱一本。治療布は残り四割。セラの肩、レナの腕、ガンツの前脚、グラウの翼が負傷。死者はゼロ。


ゼロという数字だけを見て、成功だと胸を張りたくなる。だが割れた盾も、震える脚も、誰かが払った代価だ。次に同じ救出をするなら、盾を一枚増やし、風袋を三方向へ分け、保守扉を開く前に排水先を確かめる必要がある。


ユフィが崩落区画から持ち帰った石片を、俺の前へ置いた。青白い支配線が表面を走り、裏には古い保守記号が刻まれている。エドが泥を拭い、中央塔の図と重ねた。


「この記号、昇降路の停止盤と同じだ。北環の支配線は中央塔へ戻っていない。地下の王冠室へ集まっている」


ポロが水路図を開く。三日前まで塞がれていた細い流れが、今回開いた保守扉の先へ伸びていた。


「ここからなら、王冠室の下へ行けます。支配機構が水路を閉じる前に」


その時、空環城すべての青白い線が一斉に暗くなった。


止まったのではない。


救出区画、風路、地盤網、水門から光が引き抜かれ、中央塔のさらに下へ集まっている。城の鼓動が一つに束ねられ、俺の殻へ冷たい圧が届いた。


――救難による異種協働を、王権への反逆と認定。全域服従へ移行。


旧王の残響が、今度は城中の壁から響いた。


退避広場の住民たちが、種族を問わず膝を押さえる。拒否刻印が熱を持ち、白い布が焦げ始めた。支配機構は人質を失い、残った力をすべて国そのものへ向けたのだ。


俺は救難荷台の上で、王冠室へ続く細い水路を見た。


「全員を救い出した。これで、住民を盾にされずに中枢へ行ける」


声は震えていた。重度魔力消耗のまま、殻の亀裂も残っている。レナの盾はなく、グラウの風袋も足りない。万全からは遠い。


それでも、広場には同じ綱を引いた者たちが立っていた。


「次は命じない。評議へ提案する。支配機構を止めるため、王冠室へ入る者を募る」


俺の言葉が終わる前に、レナが割れた盾の取っ手を拾った。セラが青綱を咥え、ポロが水路図を抱え、ガンツが赤札を腰へ挟む。ミーナは獣型の翼を広げ、グラウは傷ついた骨翼で中央の風を受けた。


誰も跪かなかった。


挿絵(By みてみん)

【主人公ステータス】

対象:アルド

種族:龍王卵

個体ランク:S

レベル:14

HP:161/191

魔力:58/257

攻撃:92

防御:120

速度:20

技能:鑑定Lv4(対象情報の識別)/竜圧共鳴Lv1(竜圧感知を包含)/竜印炉接続Lv1(竜印設備への接続)/戦果配分Lv1(共同戦果の配分)/王域認識Lv1(同意した仲間の位置と移動方向の把握)/合議核接続Lv1(三承認制による都市核接続)

状態:重度魔力消耗、殻に浅い亀裂

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