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龍王の卵に転生した俺は各地の天才をスカウトして王国を築く  作者: バナナ


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王命を捨てる評議

北空から押し寄せる風圧は、グラウが束ねた六本の風路を通り、空環城の外周塔へ分散された。


 昨日までなら、一つの突風が市場の屋根を剥がし、橋上の避難列を谷へ落としていた。今は革製の伝圧紐が順番に震え、第一塔、第三塔、南の排気塔へ圧力を逃がしている。


 中央塔の床には、風路ごとの石札が円形に並べられていた。


 青札は正常。


 黄札は負荷増大。


 赤札は即時停止。


 その中心で、グラウが白い骨翼を半ば広げている。灰白色の粗い体毛は汗と砂で固まり、翼の根元にある古傷からは、巻き直したばかりの布へ赤い染みが広がっていた。


 それでも彼女は休もうとしなかった。


 各塔から伸びる革紐を爪先で挟み、伝わってくる震えの強弱を読み分けている。目で見るより早く、どの風路へ圧が偏ったかを判断しているのだ。


 「北二番、開きすぎ。半分戻して」


 グラウが短く命じる。


 塔の上で待機していた空牙狼が、結び杭を一段戻した。革紐の震えが鋭い高音から、低く長い唸りへ変わる。


 「西の荷揚げ路、閉じないで。そこを止めると市場へ逆流する」


 別の紐を嘴で押さえながら、彼女は南塔へ翼を向けた。


 ミーナが人型の腕で風路図へ印を付ける。黒銀の長髪の間から翼猫の耳が覗き、背には獣型と同じ銀黒の翼が畳まれていた。負傷した片脚をかばっているが、声は落ち着いている。


 「市場上空の横風、三割低下。避難列は動かせるわ」


 「まだ早い」


 グラウは即答した。


 「北から二波目が来る。最初より重い」


 俺にも分かった。


 空環城の上空で、雲が一筋ずつ引き裂かれている。風ではない。竜族の支配機構が空へ刻んだ巨大な魔力線が、周囲の気流を引き寄せているのだ。


 昨日、グラウは分散していた風路を一つの指揮系統へまとめた。


 自分一人で風を受け止めたのではない。


 各塔の空牙狼、ミーナの空路班、地上の伝令、ガンツが補強した杭、ポロが湿度を調整した革紐。その全てから情報を集め、必要な場所へ必要な量だけ返した。


 彼女は風を起こす者ではなく、風を扱う者たちをつなぐ司令塔になった。


 そのおかげで、空環城はまだ立っている。


 だが、次の一撃へ耐えられる保証はなかった。


 都市核から伸びる光の根が、中央塔の床下で脈打っている。


 支配機構は空だけを奪っているのではない。北部の魔物を従属させ、水路を閉ざし、地盤へ命令を送り、今は風路まで自分の一部に変えようとしている。


 俺は都市核へつながる円卓の前に立っていた。


 赤金色の鱗には浅い亀裂が残り、四肢にも重い疲労がある。それでも、核から流れ込む力は強かった。


 使い方さえ選ばなければ、今すぐ全ての塔へ命令を届けられる。


 空環王国の住民だけではない。


 支配機構へ接続された魔物たちへも、俺の王命を上書きできる。


 北の竜勢力が従わせた飛行魔獣を伏せさせ、閉鎖された水門を開き、地盤網を固定し、風路塔を一斉に動かす。


 ただ一言。


 王として、従えと命じればよい。


 都市核の奥から、古い声が囁く。


 ――王は一つでよい。


 ――迷いは国を裂く。


 ――臣民の意思を待つ間に、弱者は死ぬ。


 胸の奥が熱くなった。


 今この瞬間にも、地下水路では避難民が泥水の中を進んでいる。西の工房区では崩れた梁を支える者がいる。市場には飛べない幼獣と、怪我をした商人が残っている。


 俺が即座に命じれば救えるかもしれない。


 評議を開き、意見を集め、拒否権を確認している時間などない。


 「アルド」


 ミーナの声で、俺は核から視線を外した。


 彼女は風路図ではなく、俺を見ていた。


 「今、何をしようとしたの?」


 「全塔へ王命を通す」


 答えると、中央塔の空気が冷えた。


 ガンツが工具を置く。人型の彼女は褐色の作業服を着ており、額には獣型の名残である岩角が二本残っている。片肩を包帯で固めながら、都市核と俺の間へ立った。


 「どの命令だ」


 「水門を開き、地盤を固定し、飛行魔獣を停止させる。敵の支配命令を俺の権限で上書きする」


 「住民だけか」


 「接続されている全個体だ」


 ポロが息を呑んだ。


 成人女性の人型を選んだ彼女は、小柄な身体へ薬瓶と水質札をいくつも下げている。苔色の髪の間で丸い耳が震え、頬には地下水路を走り回った泥が残っていた。


 「従属させられている魔物も、アルドさんの命令で動かすんですか」


 「一時的だ。危機が終われば解除する」


 自分の声が、ひどく正しく聞こえた。


 「今だけ自由を預かる。死なせぬためだ」


 グラウの骨翼が、床を一度叩いた。


 「それを、前の王も言ったんじゃないの」


 革紐が震える音の中でも、その言葉だけは鮮明に届いた。


 俺は彼女を見た。


 グラウは司令塔の位置から動いていない。動けば二波目の風圧へ対応できないからだ。だが赤茶色の目は、風路ではなく俺へ向けられていた。


 「前の王は永続的な支配を望んだ。俺は違う」


 「違うと決めるのも王だけ?」


 「時間がない!」


 思わず声を荒らげた。


 中央塔の紐が一斉に鳴る。グラウが翼を広げ、反射的に三本を押さえた。


 北から二波目が来た。


 雲の裂け目から見えない壁が落ち、空環城の上層を押し潰す。外周塔が低く軋み、橋の吊り綱が弓のようにしなった。


 「第一塔、放せ! 第三は維持!」


 グラウの指示で、空牙狼たちが杭を切り替える。


 ミーナは風路図から市場上空の弁を開いた。ガンツが床の補強具へ楔を打ち、ポロは乾き始めた革紐へ水を吹きつける。


 俺は王域認識を広げた。


 北塔に十七。


 市場に四十三。


 地下避難路に六十八。


 工房区に二十二。


 位置は分かる。だが敵の支配機構に触れられた者は、俺の王域から一つずつ消えている。


 仲間ではなくなったのではない。


 本人の意思が、外から塗り潰されているのだ。


 北塔にいた空牙狼の一頭が、突然杭を逆へ引いた。


 第三風路へ逃がしていた圧が市場へ戻る。


 屋根が二枚剥がれ、避難列の頭上へ飛んだ。


 「伏せて!」


 ミーナが翼を開く。銀黒の風が屋根を横へ押すが、負傷した脚が床を滑った。


 ガンツが彼女の腰帯をつかみ、倒れる寸前で支える。


 グラウは逆流した紐を嘴で噛み、古傷のある翼へ巻きつけた。


 「切る!」


 彼女が叫ぶ。


 「待て。その塔には三頭残っている!」


 俺は止めた。


 「紐を切れば、北塔は孤立する!」


 「切らなければ市場が潰れる!」


 グラウの嘴から血が落ちた。革紐の圧が強すぎて、口の端が裂けている。


 選ばなければならない。


 北塔の三頭か、市場の四十三か。


 数字だけなら答えは明らかだ。


 俺は口を開いた。


 都市核が待っている。


 王命を通せば、どちらも救えるかもしれない。


 ――命じよ。


 古い声が重なる。


 ――民は王の手足。


 ――手足へ許可を求める者はいない。


 「アルド!」


 今度はポロだった。


 彼女は地下水路から持ち帰った石札を、俺の足元へ投げた。


 札には泥で四つの印が描かれている。


 避難路の分岐を選んだ住民代表の印。


 水門を閉じると決めた水利班の印。


 負傷者を先へ送ると決めた治療班の印。


 そして、通路を戻って取り残された者を探すと決めた探索班の印。


 「地下では、ぼく一人で決めませんでした。急いでたけど、役割ごとの人に聞きました。だから、ぼくが流された後も避難が続いたんです」


 「今はその一息すら危険なのだ!」


 「一息も待てない仕組みを作ったのは、誰ですか」


 ポロの声は震えていた。それでも退かなかった。


 「王様が全部決めないために、代表と拒否刻印を作ったんでしょう」


 胸へ刺さった。


 俺たちは、王が間違えた時に止める制度を作った。


 住民が命令を拒否できる刻印を作った。


 都市核へ接続するには、王、職能代表、住民代表の三つの承認が必要だと決めた。


 その規則を作った本人が、危機だからという理由で飛び越えようとしている。


 だが市場では、また屋根が軋んだ。


 「議論している間に死者が出る」


 俺が絞り出すと、ガンツが楔を打つ手を止めずに答えた。


 「だから緊急評議を作った」


 「全員を集める時間はない」


 「全員ではない。各現場の代表一名だ。伝圧紐と水路管と地盤打音でつなぐ。ここへ来させる必要はない」


 彼女は中央塔の床を指した。


 ガンツが昨日、地盤網へ埋めた六角形の共鳴板。その周囲には、ポロの水路管、ミーナの空路鈴、グラウの伝圧紐が集まっている。


 風、水、地盤、警戒。


 もともとは異常を伝えるための設備だ。


 音の組み合わせを決めれば、離れた場所から意思を返すこともできる。


 「評議を開けば、王命が遅れる」


 「開かなければ、王国が終わる」


 ガンツは俺を見なかった。


 「敵を止めても、お前一人が全員を動かした時点で、ここは空環王国ではなくなる」


 北塔から三度、短い衝撃が届いた。


 グラウが歯を食いしばる。


 「切るか、切らないか。今決めて」


 俺は王域認識をもう一度広げた。


 市場の四十三。


 北塔の三。


 地下の六十八。


 工房の二十二。


 その一人ずつに、名前がある。


 水を止めるポロを信じた者。


 空路を選ぶミーナへ背を預けた者。


 ガンツの赤札で工事を止めた者。


 グラウの指示に従い、自分の風を預けた者。


 俺へ命令されるために集まった者ではない。


 自分で暮らす場所を選び、その選択を守るために俺を王と呼んだ者たちだ。


 ならば、俺が守るべきものは命だけではない。


 命を守るという名目で、彼らが選ぶ権利を奪えば、支配機構と同じになる。


 「グラウ、北塔を切り離せ」


 俺は言った。


 彼女の瞳が細くなる。


 「三頭は?」


 「救出策を評議へかける。市場への逆流は止めろ。今すぐだ」


 グラウは革紐を骨翼の刃へ掛けた。


 一撃。


 張り詰めた紐が切れ、中央塔の壁へ鞭のように跳ねる。北風路の振動が消え、市場へ流れ込んでいた圧が急速に弱まった。


 同時に、北塔との直接連絡も途絶えた。


 三頭の空牙狼が、支配機構の空域へ取り残された。


 胸が痛んだ。


 だが、決めたのは俺一人ではない。現場の司令塔であるグラウが、市場を守るために必要と判断した。俺はその判断を承認した。


 次は、救う方法を皆で決める。


 「緊急評議を招集する」


 俺は都市核から一歩離れた。


 古い声が低く唸る。


 ――王権を放棄するか。


 「違う」


 俺は核へ答えた。


 「一人で決める権利を拒む。それが俺の王命だ」


 ガンツが六角共鳴板へ工具を打ち込んだ。


 低い音が地盤網を走る。


 一打、緊急。


 二打、代表招集。


 三打、全権委任なし。


 ポロは水路管の弁を開き、同じ合図を地下避難路へ流した。水が三度脈打ち、遠くの石鐘が答える。


 ミーナは空路鈴を鳴らした。短く、長く、短く。市場、高塔、伝令所へ、評議の開始を告げる。


 グラウは残った五本の伝圧紐を爪で押さえ、それぞれへ違う強さの風を送った。


 中央塔へ来られない者たちが、音と風と水で参加する。


 最初に返ったのは地下水路だった。


 石管が二度震える。


 ポロが耳を当てる。


 「避難班代表。支配された魔物への強制命令は反対。水門の一時開放は賛成。ただし地下側で止められる弁を残してほしい」


 次に市場の空路鈴が鳴る。


 ミーナが数える。


 「住民代表。飛行魔獣の停止は必要。でも全個体への王命ではなく、襲撃中の個体だけ。解除時刻を先に決めること」


 工房区から地盤打音が返る。


 ガンツが床へ手を当てた。


 「工作班代表。地盤固定は都市核へ任せない。ガンツの地盤網で区画ごとに行う。時間はかかるが、後から解除できる」


 最後に、北塔の方向から弱い風が一度だけ届いた。


 切断したはずの紐ではない。


 空そのものを伝って、細い風が中央塔の窓へ入った。


 グラウが目を閉じる。


 「取り残された三頭のうち、一頭が自分で風を送った。まだ完全には支配されてない」


 彼女は窓辺へ歩きかけ、古傷の痛みで脚を止めた。


 「救出班を出す。私が行く」


 「却下だ」


 俺はすぐ答えた。


 グラウの目が険しくなる。


 「司令塔が現場へ行けば、残る五風路を誰が見る」


 俺は円卓の石札を動かした。


 「北塔救出は空牙狼二頭と、ミーナの伝令班。グラウはここで風をつなぐ。お前の仕事は自分で助けに行くことではない。戻れる風を作ることだ」


 「王が決めたの?」


 彼女の問いには棘があった。


 俺は一度、言葉を止める。


 また単独で命令していた。


 「提案だ」


 言い直した。


 「空路代表はどう見る」


 ミーナは北空の雲と、グラウの傷を見比べた。


 「賛成。私が救出班へ風向きを送る。ただし北塔へ入るのは一度だけ。支配波が三段階目へ上がったら、三頭を連れられなくても退く」


 「警戒代表は?」


 グラウは悔しそうに嘴を鳴らした。


 それでも、伝圧紐を握り直す。


 「賛成。私が行くより成功率は高い。救出班が退く風路を二本残す」


 「住民代表へ確認」


 市場から鈴が二度鳴った。


 承認。


 ガンツが赤札を北空路の横へ置いた。


 「停止条件も記録した。支配波三段階、残り風袋一、中央塔負荷八割。どれか一つで撤退だ」


 評議の決定が形になった。


 全個体への王命は使わない。


 水門は区画限定で一時開放し、地下側に停止弁を残す。


 地盤は都市核で一括固定せず、ガンツの網で区画ごとに支える。


 飛行魔獣への干渉は襲撃個体だけ、十息後に自動解除。


 北塔の三頭は救出を試みるが、停止条件へ達したら退く。


 そして、都市核へ命令を送るには、王、職能代表、住民代表の三承認を必要とする。


 俺は円卓の中央へ前脚を置いた。


 グラウが風路代表として骨翼を石へ当てる。


 市場から伸びる鈴糸を、住民代表が引いた。


 三つの承認が重なる。


 都市核の光が立ち上がった。


 今までの支配光とは違う。


 一本の太い命令ではなく、複数の細い線が、それぞれ別の区画へ向かう。


 地下水門では、閉じ込められていた水が一段だけ流れた。ポロの停止弁は残り、異常があれば現場で閉じられる。


 地盤網には必要な区画だけ魔力が入り、工房の柱が持ち上がる。ガンツの赤札区画には接続されない。


 市場上空では、急降下していた従属飛行魔獣三体の翼が十息だけ硬直した。墜落させるのではなく、滑空できる角度を残している。


 北空へ、ミーナの伝令班が飛び出した。


 グラウは五本の風路を操り、救出班の前へ細い追い風を作る。支配機構から横風がぶつかるたび、別の塔から圧を借り、進路だけを守った。


 「左から来る!」


 彼女の叫びと同時に、救出班が高度を落とす。


 黒い支配波が頭上を通過した。


 北塔には三頭の空牙狼がいた。


 一頭は杭へ噛みつき、自分の身体を固定している。もう一頭は支配され、仲間へ牙を向けていた。最後の一頭は倒れ、翼だけが風に揺れている。


 救出班は最初の一頭へ近づいた。


 支配された個体が襲いかかる。


 中央塔の都市核が、俺へ新しい命令権を提示した。


 ――敵対個体を停止させよ。


 俺は使わなかった。


 「対象は敵ではない。支配されている住民だ」


 代わりに評議で承認した限定干渉を送る。


 翼だけを十息止めるのではない。


 支配機構から流れ込む命令線を、一呼吸だけ遮断する。


 グラウがその瞬間を読んだ。


 「今!」


 救出班の空牙狼が、正気へ戻った個体の首へ革輪をかける。もう一頭が倒れた仲間を背へ載せた。


 三頭全てを連れて離脱する。


 だが支配波が二段階目へ上がった。


 中央塔の五本の紐が同時に赤く震える。


 グラウの古傷が開き、白い骨翼から血が飛んだ。


 「まだ行ける!」


 彼女が叫ぶ。


 ガンツは赤札を取った。


 「中央塔負荷八割」


 停止条件だ。


 救出班は北塔からまだ半分しか離れていない。


 「続ければ帰せる」


 グラウが俺を見る。


 「あと一風路だけ借りれば――」


 俺の中にも同じ欲があった。


 ここまで来たのだ。三頭とも見捨てずに戻したい。停止条件を少し越えるだけなら、成功するかもしれない。


 だが、それは水蛇戦でも、炉の暴走でも繰り返した考えだった。


 成功のために、決めた限界を後から動かす。


 「撤退を承認する」


 俺は言った。


 グラウの瞳が揺れる。


 「救出班へ帰還風を送れ。新しい風路は開かない」


 「三頭目が重い」


 「だから全員で速度を落とす。一頭を置いて速く戻るな」


 ミーナが空路鈴を鳴らす。


 救出班は隊形を変えた。二頭で倒れた仲間を支え、正気へ戻った一頭は自分で翼を動かす。


 速くはない。


 支配波が背後から迫る。


 グラウは最後の風袋を使わず、残った五風路からほんの少しずつ圧を借りた。一つの塔へ負担を集中させない。市場、南塔、工房上空、庭園、旧外環。


 住民たちが自分の持ち場から、救出班へ一息ずつ風を送る。


 細い風が空環城の上で一本の道になった。


 三頭の空牙狼は、その道を滑り、中央塔の下へ落ちるように帰還した。


 受け止めたのは冒険者のレナだった。


 市場警備へ残っていた彼女が盾を斜めに構え、落下の勢いを地面へ逃がす。ドーラとポロの治療班が駆け寄り、支配線の残りを確認する。


 全員、生きていた。


 歓声が上がりかけた。


 その時、都市核の奥で何かが割れた。


 俺たちの限定命令を拒むように、黒い光が円卓を横切る。


 北の支配機構が、空環城の核へ直接接続したのだ。


 古い龍王の紋章が空中へ浮かぶ。


 ――評議は遅延である。


 ――拒否は分裂である。


 ――王命を一つに戻せ。


 円卓の三承認線が、黒い根に絡まれていく。


 市場の鈴が途切れた。


 地下水路の返答も消える。


 地盤打音が一つずつ沈黙した。


 評議そのものを壊し、俺一人だけを核へ残そうとしている。


 グラウが血のついた翼で、切れかけた伝圧紐を押さえた。


 「王。次はどうする」


 皆の視線が集まる。


 俺は都市核へ前脚を伸ばしかけ、止めた。


 ここで俺一人が接続すれば、支配機構と直接争える。


 だが勝っても、また単独の王命が残る。


 「評議を移す」


 俺は答えた。


 「核が円卓を奪うなら、街全体を評議場にする。鈴が切れれば声を使え。水路が止まれば壁を叩け。風が塞がれれば旗を振れ。誰か一つの設備へ、国の意思を預けるな」


 ガンツが工具を拾う。


 ポロが水路図を抱える。


 ミーナが市場へ続く翼を開く。


 グラウは傷ついた骨翼を高く掲げた。


 俺たちは中央塔を守るためではなく、中央塔がなくても国を動かすために散る。


 その最初の一歩を踏み出した時、北の空から人間の救難鐘が鳴った。


 支配機構の黒い風に押され、王国冒険者の避難船が空環城の外壁へ墜ちようとしている。


 船上には人間だけではない。


 従属から逃げてきた魔物たちが、同じ甲板へ身を寄せていた。


挿絵(By みてみん)

【主人公ステータス】

対象:アルド

種族:若き天空竜

個体ランク:A

レベル:Lv.53

HP:614/614(ランク:A)

魔力:755/755(ランク:A)

攻撃:199(ランク:C)

防御:205(ランク:B)

速度:163(ランク:C)

技能:鑑定(ランクD・Lv.2)/竜圧制御(ランクD・Lv.4)/天空飛行(ランクD・Lv.3)/領域知覚(ランクE・Lv.4)/小隊指揮(ランクD・Lv.5)/都市核接続(ランクF・Lv.2)/合意接続(ランクE・Lv.3)/合意制ダンジョン管理(ランクD・Lv.2)

状態:右翼膜裂傷治療中。龍語の単独使用と逆命令を禁止。更新停止は二名承認制。捕虜一名に記憶欠落。命令網の三端末を特定。

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