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魔物に育てられた人間  作者: イリス


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第二章 夏 第17話 収穫祭

第二章 夏


第17話 収穫祭


エルフィナが去ってから数日。


村は再びいつもの日常へ戻っていた。


朝になれば畑へ向かう者がいる。


森へ狩りに行く者がいる。


子供たちは遊び回る。


平和な毎日。


けれど。


イリスは時々思い出していた。


エルフィナの言葉を。


「本当に良かった」


あの意味。


結局聞けなかった。


聞こうと思えば聞けたのかもしれない。


だが。


もう彼女はいない。


旅人だからだ。


今はどこか遠い場所を歩いているのだろう。


そんなことを考えていたある日。


村は少しだけ賑やかになっていた。


収穫祭。


秋を迎える前の小さな祭りだ。


春祭りほど大きくはない。


けれど村人たちは楽しみにしている。


広場には屋台が並ぶ。


焼き肉。


焼き芋。


果物。


お菓子。


良い匂いが漂っていた。


フィアは朝から全力だった。


「全部食べる!」


「無理」


ソラが即答する。


「挑戦してみないと分からない!」


「分かる」


セリナが断言した。


ミィは既に食べている。


リリィは木彫りの竜を片手に焼き菓子を持っていた。


ユナも今日は少し楽しそうだった。


村へ来たばかりの頃では考えられない。


今では普通に笑う。


普通に話す。


普通に遊ぶ。


その姿を見るとイリスも嬉しくなる。


広場は賑やかだった。


村人たちも笑っている。


子供たちも走り回る。


平和だった。


本当に。


その時までは。


夕方。


日が傾き始める。


祭りも終盤へ向かっていた。


フィアは焼き肉を頬張っている。


ソラは呆れている。


セリナは何故か祭りの由来を本で調べている。


ミィは眠い。


いつも通りだった。


その時だった。


リリィが走ってきた。


珍しく慌てている。


息も切れている。


「イリス!」


全員が振り返る。


リリィはさらに叫んだ。


「たいへん!」


フィアが反応する。


「ソラ?」


「なんで!?」


ソラが抗議する。


リリィは首を振った。


「違う!」


珍しい。


ソラ以外らしい。


リリィは村の外を指差す。


「狼」


静寂。


イリスたちの表情が変わる。


灰牙狼。


以前森で見た。


あの魔物だろうか。


フィアも真面目になる。


「どこ?」


「入口」


リリィは答える。


次の瞬間。


全員が走り出した。


広場を抜ける。


村人たちも異変に気付いている。


入口には人だかりができていた。


ガロンもいる。


ダルクもいる。


村長も。


そして。


そこにいた。


灰牙狼だった。


以前見た個体かどうかは分からない。


だが。


様子がおかしい。


傷だらけだった。


身体中に傷がある。


血も流れている。


呼吸も荒い。


そして。


背中に一本の矢が刺さっていた。


イリスは足を止める。


フィアも。


ソラも。


ユナも。


誰も喋れない。


灰牙狼はふらふらと歩く。


村人たちを見る。


威嚇もしない。


襲いもしない。


ただ。


苦しそうだった。


やがて。


その場に崩れ落ちる。


ドサッ。


静寂。


祭りの音も消えた気がした。


ガロンが近付く。


ダルクも。


慎重に。


警戒しながら。


そして。


ガロンは矢を見る。


表情が変わる。


ダルクも同じだった。


村長も。


ユナの顔から血の気が引く。


何かを知っている顔だった。


ガロンは矢を抜く。


先端には紋章が刻まれていた。


赤い鷹。


誰もが見たことのある。


あの旗と同じ。


ユナが震える声で呟く。


「赤鷹騎士団……」


風が吹く。


収穫祭の空気は完全に消えていた。


ガロンは矢を見つめる。


ダルクも。


村長も。


皆が理解していた。


これは偶然ではない。


人間たちが。


赤鷹騎士団が。


この森へ来ている。


その証拠だった。


そして。


それはつまり。


平和だった霧の村へ。


外の世界の脅威が近付いているということだった。


夏が終わる。


長かった夏が。


楽しかった夏が。


終わろうとしていた。


そして物語は。


次の季節へ進む。


 ――第二章 夏 完――

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