第二十六回
五隻の野心、暗雲の船団
釜山の港に、五隻の巨船が並んだ。
旗艦『清風号』を筆頭に、俊足の『白露』、重武装の『玄武』、補給を担う『豊穣』、殿を務める『影月』。海を往く城塞のような陣容だ。だがビアンの目には、壮麗な船体よりも、乗り込んでくる二百人が放つ「不協和音」の方が強く映っていた。
(下書き:この船団は、一つの意志では動いていない)
甲板から観察し、鉛筆を走らせる。富を求める商人や荒くれ者の文字は、欲に任せて太く歪んでいる。王宮の記録に名を刻もうとする武官の文字は、銀のペンのように鋭く他者を排除する。過去から逃げる者の文字は、消しゴムで擦ったように薄く震えている。
「淑媛様。この者たちは、いざとなれば王の命よりも己の利を優先するでしょう」
ヨンギが腰の刀を確かめながら低く告げた。銀の法が通じない大洋で、二百の野心を抑え込む重圧を既に感じていた。
出帆の儀。粛宗から授けられた航海日誌の第一頁に、ビアンは最初の一筆を書き込んだ。
(下書き:西へ、あるいは南へ。銀のペンが記した境界線の、さらにその先へ)
彼女が求めているのは、金でも名誉でもない。この広い世界のどこかにある、まだ誰も清書していない「真実の景色」だ。
「錨を上げろ! 帆を張れ!」
五隻がゆっくりと岸を離れる。見送る民の歓声が遠ざかり、代わりに聞こえてくるのは波の音と、二百人が吐き出す期待と不安の吐息だった。
この航海は美談だけでは終わらないだろう。食料が尽き、海図が裏切り、仲間が牙を剥く空白の時が必ず訪れる。足元では白い豊山犬が波しぶきに鼻を鳴らし、それでも臆さず船首の方を向いていた。
「行きましょう。世界の果てに、何が書かれているのかを確かめに」
東洋の歴史がまだ一度も記したことのない、地球一周の壮大な「下書き」が、今、波間に刻まれ始めた。




