第45話 ケジメをつける
お互いにぶつかり合う強酸ブレスと【滅龍波】。
両方のエネルギーが壁に四散され、次々と穴を作っていった。次第に薄暗かった広場が明るくなっていく。
互いの力が均等なのか、押したり押されたりの状態が続いている。
ならばもう一押しだ!
「行けええ!!」
倍プッシュ。つまり【滅龍波】にさらなるエネルギーを込めた。
すると【滅龍波】が徐々に強酸ブレスを押す。
少しずつ、少しずつエレシュキガルの方へと向かっていった。
《……ア゛アアア!!?》
今までとは違うエレシュキガルの鳴き声が聞こえてきた。恐らく奴は動揺しているのだろう。
奴はそれでも強酸ブレスを吐き続けたが、ついにそれが終わりを迎えた。
《ギイイイ!!?》
【滅龍波】がエレシュキガルに到達し、その骸骨じみた頭部を弾けさせた。
続けて俺は【鋼魔龍】を胴体へと向けた。胴体も龍属性の強大なブレスによって、あたかも軽いもので出来ていたかのように砕かれる。
奴を構成していた骨が俺たちにも飛び散っていく中、ついにエレシュキガルという存在がいなくなって……。
「……やった……」
残ったのは、エレシュキガルを構成していた骨だけ。
……俺たちは、勝ったんだ。
ファフニールと同類と言われている魔龍を、その災厄と言うべき存在を、たかが人間である俺たちの手で倒したんだ。
これは夢? いや、紛れもなく現実だ。
しかもとんでもない功績を残した……現実だ!
「フユマ……」
「フユマ、やったね!」
「叔父貴!」
レイアや人間体に戻ったリミオ、ジンが駆け付けてくる。
皆、清々しい顔をしている。勝利の美酒を味わってくれているんだ。
「皆……」
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
急に地響きが強くなったと思えば、落石が何回も発生してきた。
エレシュキガルの戦闘でやり過ぎたみたいだ、ここはもう危ない!
「行こう!」
長居は無用だ。すぐに広場を後にした。
通路も落石に覆われていき、崩壊寸前だ。
やがて入ってきた穴が見つかったので、そこから飛び降りる。幸いダンジョンは三角形に積み上げられているので、そのまま地面に落下というのはなかった。足が痛いが。
それで地面に着地しつつダンジョンを離れるにつれて、崩壊の轟音が次第に収まった。
振り返ってみると、ダンジョンの上部が無残にも崩れていた。
「崩れちゃったね……」
「まぁ、時間が経てば別の魔物が入ってきてダンジョンを修繕すると思うよ? それまでダンジョンとしての機能はないも当然だけど」
ダンジョン内の魔物はアンデッド化して全滅。ダンジョンマスターであるグランドドラゴンもああなった以上、しばらくはこのダンジョンは無人のままだろう。
で、数日くらい経てば魔物の群れがやってきて、ダンジョンは元通りと。ダンジョンを巡って争っている魔物のことだ、無人のダンジョンを見つければすぐに移住しようとするだろう。
「……そういえば」
サーベイさんはどうしたんだろう? ダンジョンから脱出することに手いっぱいで、周囲をよく確認できてなかった。
そう思ったと同時に地面が揺れ出した。確認してみれば、地面に倒れたグランドドラゴン……の死骸があった。
「おう兄弟!! 今グランドドラゴンを倒したところだ!!」
そしてグランドドラゴンの奥には、口から火の粉を出したサーベイさんと部下たちがいた。火球で仕留めてたみたいである。
一方で、今まで戦っていたハンターたちは遠くの方で集まっている。
それはそうだ。強力な魔獣が現れたかと思えば、ハンターじゃなくダンジョンマスターや他のアンデッドを倒していった。ハンターたちからすれば何をしたいのか分かりづらいだろう。
明らかに困惑そうな雰囲気が出ているし、まぁそっとしておこう。
「お父さん、怪我大丈夫?」
「ああ、何とかな。アンデッド化したからそれなりに手ごわかった」
グランドドラゴンも相当な強敵らしいけど、大したダメージを受けずに倒したサーベイさん……すごいですわ……。
そして俺が逃がさないようにしていたザックとガリアは、腰抜かしながらも健在だ。【ワープ】は発動にタイムラグがあるから妨害されるし、そもそもワーウルフの中にそのスキルを持っている奴もいるから、どこかに行ってもすぐ戻される。
そして魔獣ケルベロスが目を光らせているので、言う通りにしなきゃならない。
あの2人からすればまさしく「詰んでいる」に違いない。
「フ、フユマ!! 何か知らんだけど、こいつらと知り合いなんだろ!? 俺たちを解放するよう言ってくれよ!!」
「というか何で俺たちがこうならなきゃいけないんだよ!! 頼むよフユマ!! ていうかリーダーはどうなったんだ!?」
……こうならなきゃならないか。
ザックもガリアも、言いたい放題しやがって。
「……クズが」
「「えっ?」」
「サーベイさん、ここだと周りの目がありますし場所を変えましょう。【エリアポイントテレポート】を使いますので」
「おお、その方がいいな。やってくれ」
俺は【鋼魔龍】からソードに戻したあと、スキルを使って人気のない森へと移動した。
意図的という訳じゃないが、ここは俺を捨て石にした場所でもある。果たして2人が気付いているかどうかは知らないが。
「さてと……お前らがフユマを捨て駒にしたっていうクズ共らしいな。それらしい表情をしているよ」
「……えっ、えっと……あの、何でケルベロスがフユマを……」
「んなこと聞いてねぇだろうが。ともかくよ、これは仁義がなってねぇな」
その言葉をさえぎったサーベイさんが、2人へとにじり寄った。
2人がその接近にビクつく。
「仲間なら最後まで信頼し助け合う、敵なら徹底的に倒す。そういった線引きはお前ら人間にもあるはずだ。だというのにお前らはフユマを仲間として引き入れ、そしてこいつの信頼を踏み潰すようなやり方をした。これで仁義があるってのなら相当な大物だ、なぁ?」
仁義ってどういうことだと思ったのだが、話からして人として持っている道理とかそういうのかもしれない。
確かにこいつらにはそういうのがない。あるのは人を踏みにじろうという浅ましくも腐った性根だけだ。
「儂の弟にそんな過去があって、そしてその犯人が目の前にいる。これで何もしないって訳にはいかないよな……?」
「そ、そんな……!!」
「という訳で兄弟、ケジメはお前が付けた方がいい。どうするかはそちらに任せる」
「……そうですね」
さて、どうしたものか。
2人がこちらをすがっているような目で見てきた。これはあれだ、俺が助けてくれる的な期待の目だろう。
「そういえばサーベイさん、戦利品を裏取引してるとか聞いたんですけど、それってヤバいやつなんですかね?」
「まぁ、高値で取り引きされているがギルドや商業とかを通してないらしいからな。儂らはともかく人間側にとっては犯罪スレスレってところだ」
「やっぱり犯罪スレスレになると色々厳しいんですかね?」
「儂の協力者はな。屈強な連中が多いし、掟に従わなければ……ってのもある。ハンターになれる実力もあるが、その犯罪歴でギルドから拒否されているらしい」
「そうですか。よし、じゃあ2人とも。ハンターやめてサーベイさんの裏取引を手伝え」
躊躇とか慈悲とかはなかった
俺がそうやって決めた途端、ザックたちが狼狽する。
「ハァ!? 何でハンターやめなきゃいけないんだよ!?」
「ていうか話からして何かやばいじゃんかよ!? お前には人の心がねぇのか!?」
「それ、お前らが言えたことか? どっちが人の心がないんだよ。それとも俺にしたことは大したもんじゃないって思っているのか?」
ガリアの言葉に対して、俺はひどく冷静になった。
今言ったことを思っているのなら見上げた根性だ。
「第一、こうやって報復される覚悟なかったんなら最初からやるなよ。まぁ、もう遅いけど」
「そ、そんな……フユマ、それはあまりにも!!」
「見苦しいぞてめぇら。フユマが決定したのなら、あとは儂がそうするだけ。その間、自分がしたことを反省するんだな」
「「…………」」
やがて絶望したかのように、2人が放心状態になった。
これでこいつらがのうのうとのさばるのは終わりだ。俺みたいな被害者が出るなんてというのは、二度と来ないのだ。




