第44話 フユマ陣営VSエレシュキガル
『久しぶりだな、エレシュキガル。相変わらず周りの生物をアンデッドにしているみたいだな』
【鋼魔龍】からファフニールの声がしてきた。何か字面だと矛盾しているみたいだが本当だ。
それとその言葉には警戒と敵意とか、そんな戦闘によくある感情は秘めていない。
むしろそれは『楽しさ』。前にエレシュキガルのことを説明した時と全く同じだ。多分こいつは強敵と久々に出会って、嬉しく思っているようだ。
『……なるほど。何で身体の大半が失ったのに再生できたのかと思ったが、どうやら雑魚魔物を媒体にしたようだな』
「えっ?」
『胴体を見てみろ。ドラゴンが取り込まれているのが見えるはずだ』
胴体を覗いた時、我ながらギョッとした。
骨で構成された胴体から顔や翼が生えていた。いや埋め込まれている。
あの姿形は……確かスカイドラゴン。そういえばスカイドラゴンがこのダンジョンを乗っ取る為に襲撃していたとか何とか。そいつがそれを失敗したあと、何らかの原因でエレシュキガルに接触したのだろうか。
いやそれよりも、胴体に埋もれたそいつには生気がなかった。アンデッドとは違った意味で魂が抜かれてみたいで、死んでいるのか生きているのか把握できない。
『エレシュキガルは失った生体エネルギーを補う為、あの雑魚を取り込んだらしいな。残念だがあいつは宿主と運命を共にする』
言われてみれば奴から青白いエネルギーが放出されて、エレシュキガル全体に行き渡っている。
あの青白いのが恐らく生体エネルギー……。
「なんて恐ろしい奴だ……」
『それが魔龍というものだ。人間にも魔物にも多大な被害を与える、強大で災厄の如き存在。こいつはその中で下級だが、実力は今までの敵とは比べ物にならない』
「…………」
『だが安心しろ……貴様は死ぬことはない。むしろ思う存分戦える』
こんな恐ろしい存在を前にしているにも関わらず、俺のことを信頼している。
どこからそんな自信が出てくるのだろうか。
《ア゛アアアアアアア……!!》
『おっと、長話は終わりのようだ。奴は貴様から漂う私の匂いに気付いたみたいだ』
エレシュキガルが鎌首をもたげ、俺を睨んだ。
その直後、奴の胴体から何かが伸びる。鋭い骨が密集した触手のようなものだ。
「おわっ!!」
俺が避けた途端、触手が地面に突き刺さった。
その触手から青黒い煙が出て、地面をみるみるうちに溶かしてしまう。
『奴の操る瘴気だ。それを受けたら最後、アンデッドとして生きなければならない。炎属性魔法で打ち消せば話は別だがな』
「これで魔物たちやハンターたちをあんな姿にした訳か!! おわっ!!」
またもや迫ってくる! 俺はそのうちの1本を【鋼魔龍】で叩き落した。
レイアはザズリアから蒼炎【砲】を出して、触手を蹴散らしている。そこからエレシュキガル本体へと火球を浴びせ、大爆発を起こさせた。
「……っ!」
晴れた煙の奥からエレシュキガルが現れる。奴には大した傷が見当たらない……つまりノーダメージ。
それを確認したレイアの顔が悔しそうに歪む。そう思っている俺も同様にだ。
「蒼炎でも駄目なのか!?」
『魔龍だからな。そう簡単にやられん』
さらに俺たちをあざ笑うように、エレシュキガルが再び触手を繰り出してくる。
リミオがそれらを鉤爪で薙ぎ払ったあとに、エレシュキガルめがけてジャンプ。胴体に飛び乗る。
「バラバラに引き裂き……っ!?」
その時、奴の胴体から脈打つのが見えた。
リミオが離れた瞬間、その胴体から鋭い棘が次々と生えてきた。それをかわしたリミオだったが、しかし1本の棘が彼女の肩を貫いて……!
「ぐっ!?」
「リミオ!!」
「大丈夫!! レイア、肩のここ焼いて!!」
「でも……!!」
「いいから!! このままじゃ瘴気が全身に!!」
傷口から黒い瘴気が少し出ている。確かに炎で焼かないと大変なことになる。
レイアが一瞬戸惑ったが、意を決してリミオへとザスリアを向けた。そこから出たのは蒼炎……ではなく普通の炎属性魔法。
それが傷口に当たると、リミオの獰猛な顔つきが歪む。同時に瘴気の放出も止まったようだ。
もしここで蒼炎を出したらリミオの腕が吹っ飛ぶ。なのでそれよりも威力の低い炎属性魔法を放ったという訳か。
「本当に大丈夫なのかリミオ!?」
「ドレイクには回復力があるから平気!! それよりも奴が!!」
《ア゛アアアアアアア……!!》
エレシュキガルが広間内をぐるり一周する。そして頭部を捉えるのに必死だった俺たちに、突撃をかましてきた。
鋭い牙を生やした大口を開けながら迫ってくる。
俺たちがかわすと、その長い首を曲げてまた迫ってくる。まさに外見に違わない蛇のような執念!
『今だ!! 【滅龍波】を放て!!』
「……! 【滅龍波】!!」
俺は【鋼魔龍】を、エレシュキガルに向けながら叫んだ。
【鋼魔龍】が凶暴な口を開けた途端、口内から発する赤い光。
その光が直線に放出され、エレシュキガルの頭部を貫いた。
《ギャア゛アアアアアアアアアアアアアアア……!!》
右半分が砕かれる。そして吹っ飛ばされるように大きくのけぞった。
さらに赤い光がダンジョンの壁を貫いて、大きな穴を開けた。薄暗かったこの場に光が灯る。
「……ブレス……」
そうとしか言いようがない。
赤い光は疑いようがなく、魔物がよく放つブレスだ。
しかもこれは……これは……。
『【滅龍波】。私がまだ下半身があった頃、よく使用していた龍属性のブレス。このスキル【鋼魔龍】はそのブレス……いや、龍属性魔法を放つ為の武器でもあるのだ』
「俺が……俺が龍属性魔法を……」
魔法には【炎】【雷】【水】【風】そして【龍】が存在する。
俺が使用したのは、その中で最も高位の【龍】。
「俺が……龍属性を!!」
魔物連戦のスキル獲得時、その情報が伝わっていたしステータスカードにも表示されたのだが、さすがに半信半疑の気持ちだった。
何せ人間には滅多に発現しないという属性魔法。それを持っているのは、一部の強大なドラゴンやそれこそファフニールのような魔龍くらいだろうとしか思ってなかった。
それがファフニール経由とはいえ、人間の俺が持っている。
一体何の冗談と思うくらいだよ! よく自分の身体が龍属性で崩壊しないなと思うよ!
いつかは手に入れたいと思っていた魔法がこうして使用できる。
そして恐らく唯一の龍属性使いとして……歓喜なんてもんじゃない!!
『もちろん発動には3回制限はあるが、威力は他魔法とケタ違い。そして龍属性はドラゴンや魔龍の力であると同時に、それらのカウンターになりえる。つまり裏を返せば……』
「龍を倒せるのは龍だけ……」
『ああ。そしてその龍属性魔法を持つフユマが、このエレシュキガルを倒せる唯一の人間といっても差し支えない。
だからフユマ、奴を倒せ。お前の力で魔龍をねじ伏せろ!!』
「……!」
……ファフニール。
全くこいつは……そう激励されたら、すごいやる気が出てくるじゃないか。
「分かった!! レイア、リミオ、力を貸してくれ!!」
「うん!」
「了解!!」
俺たちは何としてでも魔龍を倒す!
名声などの為ではない。ただ自分たちの為だけに!
《ア゛アアアアアアアオオオオオオオンンン!!》
頭部が半壊したエレシュキガルが俺たちに向くと、口から黒い液体が放たれる。
例のごとくよけると、地面や壁が煙を上げながら溶けていく。どうやら強酸性のようだ。
「レイアがあのスカイドラゴンを壊す。援護して」
『ああ、その方がいい。奴は不完全体――その雑魚を倒せば、大幅に弱体化する。ただその前に雑魚の身体を出した方がいい』
「じゃあ俺があぶり出す!」
レイアが目に付けたのが、生体エネルギー補給装置であるスカイドラゴンだ。俺も協力することに。
そしてそのことに気付いたのか、またもやエレシュキガルが骨の触手を繰り出してくる。
襲いくる触手に対し、リミオがレイアの前に立ち、尻尾で跳ね返す。
俺はもちろんこれで!
「【滅龍波】!!」
極太の龍属性ブレス!
スカイドラゴンがいる胴体に直撃。すると骨が弾け、内部のスカイドラゴン全体が露になる。
……うむ、これはむごい。
スカイドラゴンの身体には無数の触手が繋がれていて、そこから血が垂れ流れている。まさに生き地獄……これは死んだ方がマシなくらいだ。
その姿が明らかになった直後、リミオの陰からザズリアを突き出すレイア。
「蒼炎【剣】」
長大な炎の剣が伸び、スカイドラゴンを突き刺す。
炎属性をも超えた蒼炎によって、スカイドラゴンの身体が木っ端微塵。エレシュキガルの体内で奴の肉片と鮮血が飛び散っていった。
《ウ゛ウウウウウウウ!!》
するとどうだ。エレシュキガルの身体を構成していた骨が、ボロボロと落ちているではないか。
生体エネルギー補給装置が絶たれたことで大きく弱体化したんだ。これで奴も思うようにはいかない!
《アアアアアアアアアアアア!!!》
強酸ブレスを吐き続けながら暴れ狂うエレシュキガル。壁を強酸で溶かし、巨大な身体で地面を破壊し……ダンジョンそのものが悲惨なことになろうとしていた。
さらに俺たち目掛けて細い腕を振るってくる。
振るうたびに地面や壁が抉れる。その狂ったような猛攻に引き下がらざるを得なかったが、
《ア゛アアアアア………ガアア!!?》
その細い腕が粉々に砕けた。
勝手にとかじゃない。急にやってきた銀色の矢によって!
「叔父貴、遅れてすいません!!」
「ジン!!」
駆け付けたジンがソードガンを放っていたのだ!
次々と矢を喰らったエレシュキガルが、身体の骨をばらまきながら悶える。……そうか、そういうことか!
「ファフニールの武器だから効果があるんだ!」
『その通りだ。【メタル斬り】や【武器形態変化】を含めた私のスキル、それらが魔龍への武器となるのだ』
「だからジンを呼んだ訳か! ジン、ドンドン撃て!!」
「はい!!」
――バシュッ!! バシュッ!!
ジンのソードガンの連擊がエレシュキガルを怯ませる。
彼の攻撃でエレシュキガルがひどく暴れていった。その影響でダンジョンの地響きがさらに大きくなっていく。
こうなるともう崩落の一途を辿るだけだろう。もはや一刻の猶予もない。
俺は【鋼魔龍】をエレシュキガルに向けた。そして奴もまたこちらを向いてくる。
「これで終わりだ!! 【滅龍波】!!」
俺の【滅龍波】。エレシュキガルの強酸ブレス。
その2つの力が直進し、激突し合った。




