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ジェノクレスの遺産  作者: 桂はじめ
Chapter 3
25/25

ソアラ

「急患だ!」

 ソアラを抱きかかえた葉月は、ビクトルがいる病院へ駆けこんだ。

 全身が濡れたままの三人が血相をかえて怒鳴り込んできた異常事態に、患者が減って静かだった病院のロビーが騒然となる。

「葉月てめぇ、病院は静かに……」

 怒鳴りながら駆けつけたコリーンは、葉月の腕の中でぐったりしているソアラを見て言葉を失った。

 彼女の看護師としての経験は、この少女が危険な状態にあるということを告げている。

「って、どうした!?」

「ビクトル先生を!」

 コリーンに詰めよるディアナ。

「ビクトルは、いま止血剤の調合を……」

「それは、いつ出来上がるんだ?」

 アルは静かに問うた。

「それは……」

 まるで、コリーンの返答を待つかのように、ロビーがしんと静まり返った。

 その場にいる全てのものの視線がコリーンに集まる。

「最低でも一週間はかかる……」

 コリーンは、苦虫を噛み潰したような表情でこたえた。

 ソアラの顔は青白く、呼吸は既にか細いものとなっている。

 誰がみても、そんなにもたないことは明らかだった。

「ビクトル先生に手術を……っ!」

 ディアナは嘆願した。

「でも、止血剤が……」

「俺たちは約束を果たしたんだ。止血剤の有無なんて知ったことか!」

 葉月が詰めよる。

「薬の調合を待っていたら、ソアラは確実に死ぬ」

「…………」

「ソアラを救えるのはビクトルだけだ。止血剤があるかどうかなんて、今は関係ない。違うか?」

「…………」

 コリーンはうつむいて、しばし思い悩んだあと、

「いや、アルの言うとおりだ」

 顔をあげていった。


「ビクトル先生!」

 看護師の声と薬剤調合室のドアを叩く音がひびく。

 ビクトルとラナは、採集したコケをすり潰して止血剤の原料を作っていた。

「ビクトル先生!」

 再びドアを叩く音がひびく。今度は先ほどより強く叩いている。

 ビクトルは舌打をしてマスクを外すと、乱暴にドアを開いた。

「集中しているんだ、邪魔をするな!」

「ひっ」

 怒鳴られて怯む看護師。

「ビクトル先生」

 ラナは優しくささやき、小さく首を振ってビクトルを諌めたあと、看護師に向きなおった。

「どうしました?」

「び、ビクトル先生に急患です」

「俺に?」

 そういえば、ロビーのほうが騒がしかった気がする。

「先生の知り合いだという若い人たちが、女の子を抱えて来院してるんです」

「ディアナさんたちじゃ」

「恐らくな……」

 ビクトルの表情がくもる。

 彼らの用件は容易に想像ができた。例の少女の病状が悪化したから、慌てて連れてきたのだろう。

「その少女の状態は?」

 ビクトルは看護師に問う。

「血の気はなく、呼吸も細い状態です」

「お前から見た緊急度は?」

「今すぐ処置を施さなければ、明日まで持たないかと……」

「そうか……」

 両手にはめた薄いゴム手袋を外たビクトルは、深いため息をついた。

「先生……」

「ああ、分かってる」

 ビクトルは、そっと添えてくるラナの手を軽くはらい、看護師に向きなおる。

「彼らは?」

「コリーンがビクトル先生の診療室に通してます」

「分かった。すぐに行くと伝えてくれ」

 看護師に伝言を託したビクトルは、調合室の椅子に腰掛け、額に手をあててうな垂れた。

 時計の秒針が動く音だけが部屋にひびく。

 ラナは、ビクトルの様子をじっと見守ることにした。


 ビクトルの診療室に通され、しばらくの時間が過ぎた。

 看護師からすぐに来るといわれてから、もう十分以上が経過している。

 ベッドに横たわったソアラの顔色は、先ほどよりも血の気が失せていて、体温も低下してきている。

 葉月は、時間を気にしながら診療室の中をウロウロと歩き回っていた。

「あの医者、逃げ出したんじゃねぇだろうな」

「葉月さん!」

 ディアナは葉月をたしなめてみたものの、ビクトルを信用しきれていない自分がいて悲しくなった。

 ソアラのか細い呼吸の音が、場の空気をいっそう重たくする。

「……っ!」

 アルがドアへ視線を向けた。

 廊下の向こうから、靴の音が反響してきこえてくる。

 それは、診療室へと近づいてくる。そして、診療室の前で止まったとき、ドアが静かに開かれた。

「すまん、遅くなった」

 部屋に入ったビクトルは、ディアナたちに一目もくれずソアラへ近づいた。

 もはや、一刻の猶予もないことは、一目でわかった。

「あったぜ、ビクトル」

 遅れてコリーンが駆け込んできて、手にしたファイルを渡した。

 コリーンからファイルを受けとったビクトルは、すぐに中の書類に目を通した。

「それは?」

「ソアラのカルテだ」

 全力で走ってきたのだろう。コリーンは、息を切らせながらアルの質問に答えた。

「もしかしたら、あるんじゃないかと思ってさ。ラナとカルテ保管室を漁ってたんだ」

「ラナちゃんは?」

「今ごろ、あたしが散らかしたカルテを片付けているぜ」

「お、俺もラナちゃんを手伝って――」

「部外者は立ち入り禁止だ」

 診療室を出て行こうとする葉月の首根っこを捕まえるコリーン。会って間もないはずなのに、もう葉月の扱い方が卓越してきている。

「率直に言う」

 カルテを読み終えたビクトルは、ディアナたちに向きなおっていった。

「手術の成功度は極めて低い。加えて止血剤もない」

「だから、手術は出来ないと……?」

 抑揚のない声でアルが問う。

「素直に言わせてもらうなら、こんなリスクの高いオペなんてしたくない」

「で、でも、このままじゃソアラちゃんが――」

「分かっている」

 ディアナの言葉をさえぎるビクトル。

「この子を救えるのは、俺だけだ。しかし……」

「失敗が怖いのか? あんたの娘のときのように」

「アルさん!」

「……そうか、コリーンにでも聞いたのか」

 ビクトルは、自虐的な笑みを浮かべた。部屋の隅では、コリーンが目を伏せている。

「そうだ。怖いんだよ。また、この手で命を奪ってしまうんじゃないかってね」

 ビクトルは、両手を見つめて声を震わせた。

 その様子を見て、アルは鼻で笑う。

「命を奪うつもりで奪ったことしかないから、俺には分からないが、助けようと手を尽くした結果の死よりも、出来ることもやらずに見殺しにしてしまうほうが、よっぽど罪深く、後味も悪いんじゃないか?」

 アルはそれだけいうと、すぐにそっぽを向いて窓の外を眺めはじめた。

「ビクトル……」

 ビクトルの肩に手を伸ばそうとしたコリーンだったが、かける言葉が見つからず、ふたたび俯いてしまう。

「コリーン、手術の準備だ」

 ビクトルはいった。先ほどまでの弱気な表情とは打って変わり、瞳に迷いは感じられない。

「ビクトル!」

「急げ、時間がないぞ。ラナのほかに何人か手の空いている看護師を集めろ!」

「わ、分かった!」

 慌てて部屋を駆けでていくコリーン。彼女の声にも覇気がもどった。

「さあ、あんたらは退いていてくれ。すぐにこの子を手術室へ運ぶ」

 それから間もなく、ソアラは手術室へと運ばれていった。


 ラディは、月明かりに照らされた荒野をふらふらと歩いていた。

「こ、殺してやる……。」

 呪詛のように唸るラディ。

 腕が無くなった肩から血をしぶかせ、ここまでの軌跡を点々としるしていた。

「皇帝も帝国も関係ない……。男どもは……ずたずたに引き裂き……女は陵辱の限りをつくし……殺してやる……」

 膝の力が抜け、ガクリと崩れ落ちる。

 血を失いすぎた。

 もう一度、力を振り絞って立ち上がろうとする。しかし、身体が思うように動かない。

 ラディは仰向けになり、恨めしいほどに美しく輝く月を見上げた。

 荒野を抜ける風の音は、まるで死神の笑い声のように聞こえる。

 自らの死が刻々と近づいていると実感できた。

 死ぬのが怖いとか、悔しいという気持ちはない。ラディの心を支配しているのは、ディアナたちへの恨みだけだった。

 やつらに復讐できるのなら、どんなことでも甘受できる。

「私がその力を与えてやろうか」

 その声は、頭上から降ってきた。

 まるで心の中を覗かれたかのような言葉だ。

 ラディはかろうじて動く頭だけを動かし、声の主を仰ぎみる。

 いつ、どこからやってきたのか気付かなかったが、そこには男が立っていた。

 男の姿は月明かりを背負ったせいでシルエットしか見えず、目だけがやたらと白く映えていた。

「お前……は……?」

 服装は、ジランディア帝国科学省の白衣に見える。

「私が誰かなど、どうでも良いことだ。大切なのは、お前が力を求めるか、だ」

「力……」

「そうだ。お前には時間がないぞ。早く決めろ」

 ラディに迷いなどなかった。やつらに復讐できるのなら、何にだって耐えられる。

「俺は、力が欲しい……」

「良くいった」

 懐から注射器を取り出した男は、それをラディの心臓に突き刺した。

「がはっ」

「心配するな。仮死状態にするだけだ」

 男はラディが動かなくなるのを確認すると、彼を担いで闇の中へと消えた。


 しんと静まりかえった廊下。

 手術室のドアは硬く閉ざされたまま、既に八時間以上が経過していた。

 腕組をして長椅子に座る葉月は、貧乏揺すりが止まらない。

 アルは壁にもたれたまま、静かに目を瞑っている。

 ディアナは落ち着かず、椅子に座っもすぐに立ち上がり、廊下をウロウロ歩き回っては、また椅子に座るの繰り返しをつづけていた。

 窓から見える空は、少しずつ白んでいく。

「少しは落ち着け」

「でも……」

「まあ、気持ちは分からんでもないがな」

 アルは、小さくため息をついた。

 空が完全に明るくなるころには、廊下をあるく看護師の姿が増えてくる。

 気を利かせた看護師がディアナたちに白パンをもってきた。

 礼をいって受け取るディアナ。

 アルたちもパンを受けとり、頬張り始めた。

 ディアナは、手にしたパンを見つめる。昨日の昼から何も食べていないから空腹のはずなのに、パンが喉を通りそうもない。

 そんなとき、手術室のドアがあいた。中から出てきたコリーンの表情が暗い。

「コリーン……」

「ああ、ディアナか」

「手術は……」

「手術は成功したぜ」

 ディアナと葉月は、ホッと胸をなでおろした。

「なら、なぜそんな顔をしている」

 壁にもたれたまま、アルは静かにいった。

「ソアラが目を覚まさないんだ」

 コリーンの言葉は、三人に重くのしかかった。

「このままじゃ、またあいつが壊れちまう」

 コリーンは、今にも泣き出しそうだ。

「だれが壊れるって?」

 ビクトルは、目頭を押さえながらゆっくりと手術室から出てきた。

 表情に疲労の色がみえる。

「コリーンから聞いただろ。あの子の親御さんを呼んできてくれ」

「それは……」

「どうした?」

 しばし口ごもったあと、ディアナは事情を説明することにした。


「そうか……」

 ソアラが眠る病室でディアナから説明を受けたビクトルは、大きなため息をついた。

「手術は成功した。あとは、この子の生きたいという強い意志が必要なんだ」

 ビクトルは、ソアラの寝顔を眺めながらいった。

 ディアナの説明からすると、ソアラは身寄りをなくしてしまっていることになる。

 ベッドの横では、溶液が切れた点滴の袋をラナが別のものにかえていた。

「どうにかならねぇのか?」

 葉月の言葉にビクトルは、首を左右に振ってこたえた。

「こればかりは、医者がどうにかできる問題ではないからな」

 ビクトルは最大限の手を尽くしてくれた。だからこそ、彼の言葉には重みがある。

「手を握って呼びかけてみてはどうですか?」

 空になった点滴の袋を丸めながら、ラナは優しい口調でいった。

「周りの人の想いが伝われば、もしかしたら目覚めるかもしれませんよ?」

「わたし、やってみます!」

 ラナの言葉をうけ、ディアナはソアラの小さな手を握った。


 暗闇の中を漂うソアラ。

 自分が浮いているのか、地に足が着いているのか、自分でも良く分からない。

 何の気力も起きない。このままここで漂い続けたい。

 そんな想いが心を支配している。

 ふと、遠くのほうで光がみえた。

 ――行かなきゃ。

 ソアラは、無意識に思った。

 ただ、無心で光に向かった。

 別の方向からは、微かに自分の名を呼ぶ声が聞こえる。

 でも、ソアラは光に向かわなきゃと思い、歩く足を速めた。

 光に近づくと、光の中に人影があることに気付く。

 ――お母さんとお姉ちゃんだ!

 ソアラは本能的に悟った。

 光へ近づくにつれ、光は温かみをおびた。

 心地よい温かみだった。

 人影は、その形をはっきりとさせる。

 笑顔で手を振っているように見えた。

 ――お母さん! お姉ちゃん!

 しかし、声にならない。まるで何かに掴まれたように、両足も動かなくなった。

 必死に手を伸ばす。手を伸ばせた届く気がした。母や姉が手を差し伸べてくれることを期待した。

 でも、ふたりは動かない。

 ――なんで!?

 ふたりの顔がはっきりと見えた。

 ふたりは泣いていた。

 手も振ってなんかいない。帰れとジェスチャーしていた。

 ふたりの姿は、光とともにゆっくりと離れていく。

 ――やだ、やだよ!

 次第に速度を増し、やがて光は消えて、ソアラは再び闇の中にあった。

 ソアラを呼ぶ声が聞こえる。母のものでも、姉のものでもない。

 でも、心地の良い声だ。 

 ソアラの身体は、急激な速度で声のほうへ流された。

 ――助けて!

 必死に手を伸ばす。心の底から助けを請う。

 そして、何かがソアラの手をしっかりと握り返してくれた。

 母のような暖かい手。抱き包まれているかのような、心から安心できる感触。

 そして、ソアラの意識は光に包まれた。


 ソアラは、ゆっくりと目をあけた。

 ぼんやりと霞む視界にディアナの顔があった。

「ソアラちゃん!」

 ソアラの手は、ディアナが握っていた。

「猫のお姉ちゃん……?」

「良かった……」

 ソアラは部屋を見まわした。

 部屋のどこにも母の姿がみあたらない。

「お母さんは……?」

 その問いに答えられるものは、だれもいなかった。

 しかし、ソアラの混濁した記憶は、少しずつパズルのように組み合わさっていく。

「あ……」

 それが形になったとき、自分の身の上に起きた出来事が思い出された。

「そっか……私、一人ぼっちになっちゃったのか……」

 瞳の奥からこみ上げた涙は、大粒の雫となってポロポロと滴り落ちた。

 ソアラにかける言葉が見つからず、ディアナは彼女を強く抱きしめることしかできなかった。

 ソアラの嗚咽が部屋の中を満たす。

 アルは静かに部屋をでた。それを見た葉月もつづく。

「もし、良かったらなんだが――」

 おもむろに口を開くビクトル。

「俺にその子を引き取らせてもらえないか?」

「は? ビクトル、何を言って――」

「もちろん、無理にとはいわん」

 コリーンを無視して話を続ける。

「娘を失ってから、俺はずっと腐りきった生き方をしてきた。その中で大勢の人たちを傷つけただろう。だから、罪滅ぼしというわけではないが、自分が生まれかわるきっかけとして、ソアラを養女むすめとして迎えたいと思っている」

「正気か!?」

「俺は正気だ。コリーン、お前は妹が出来るのが嫌か?」

「い、嫌じゃねーけど……」

 ビクトルは、ふたたびソアラに向きなおった。

「俺にきみの面倒をみさせてくれないか? きみの意思を聞かせてくれ」

「こんなズボラでチャランポランでスットコドッコイなヤツの娘になったら、あたしみたいにすげぇ苦労するからな! 良く考えるんだぞ!」

 コリーンは必死な顔でいった。

 あまりに突飛な申し出に、ソアラの涙がぴたりと止まる。

「あの……」

 全員の視線がソアラに集まった。

「少し……考えさせ」

 ソアラは、困惑した表情のまま、ボソリといった。


 ソアラの母の埋葬がおわったあと、ソアラの術後の経過をみるため、ディアナたちは数日この街に滞在した。

 術後の経過は良好で、ソアラは少しずつ体力を取りもどしていった。

 それを見届けたディアナたちは、次の目的地へ向けて旅立つことにした。

「行っちまうのか?」

 コリーンは、寂しげな表情でいった。

「うん、自分の出生の秘密を知りたいから」

「そっか……」

 それ以上の言葉が出ないコリーン。重たい空気が流れた。

「ソアラちゃんは……?」

「ああ、養女の話は保留。でも、当面はビクトルが後見人として世話をすることになったよ」

「そう……」

 ふたたび口ごもるふたり。

 そんな様子を眺めていたアルは、呆れたようなため息をついた。

「ディアナ、そろそろ出発するぞ」

「あ、はい」

 慌ててコリーンに向きなおったディアナが別れの言葉を言うより早く、コリーンが口をひらいた。

「まあ、近くに来ることがあったらさ、また寄ってくれよな。あたし、ずっと待ってるからさ」

 コリーンは、照れくさそうに鼻の頭をかいた。

「うん。必ず寄るね。コリーンも元気で」

 そして、ふたりは笑顔で硬い握手をかわした。


「ところでアル。次の目的地はどこなんだ?」

 葉月は、おもむろに口を開いた。

 だが、アルは答えない。

「おい、アル」

「当てはない」

「そうか、当てはない……って、おい!」

「騒がしいやつだな」

 足を止めたアルは、鬱陶しそうに振りかえった。

「あれか、俺たち当てずっぽうで歩いているのか!」

「だからどうした」

「だからどうしたって、だから、コイツは……あ゛ーーー!」

 頭をかきむしり、地団駄を踏む葉月の姿を、ディアナは苦笑いで見つめた。

 そんなとき、不意に声をかけられた。

「お姉ちゃん、ディアーネ姫でしょー?」

 そこには、可愛らしい水色のエプロンドレスを着た十歳くらいの少女がいた。

 目鼻立ちがはっきりした、ブロンドの少女だ。

「ディアーネ……?」

「あ、今はディアナさんって名乗ってるんだっけー」

 にっこり微笑みかける少女。

「サラはね、サラっていうんだよー」

 サラは、屈託のない笑顔をみせながら、ディアナの頭から足先まで見回した。

「その耳と尻尾、気に入ってもらえてる?」

「え……?」

「それ、サラがプレゼントしたんだから♪」

「何……を」

「それがあるからねー、お姉ちゃんの居場所、サラには手に取るように分かるんだー」

 サラの言っていることを、ディアナは全く理解できなかった。

 でも、なぜか嘘を言っているようには思えなかった。

「それよりも、あのオジサン、お姉ちゃんに用があるみたいだよー」

 サラが指さした先には、ボロボロのローブを纏った男が目深までフードをかぶり、フラフラとこちらへ近づいていた。

 不意に強い風が吹き、砂煙があがる。

 その瞬間、サラの姿は消え、笑い声だけが風に乗って流れてきていた。

「あ、アル……」

「ああ……」

 それまで無言だったアルと葉月が声を絞り出した。

 ふたりとも冷や汗を顎から滴らせている。

「あの、ふたりとも……」

 困惑するディアナ。ふたりとも足が震えていた。

「一歩も動けなかった……」

 苦虫を噛み潰したような表情でアルがつぶやく。

「次元が違う……ありゃ、人間じゃねぇぜ……」と葉月。

 蛇に睨まれたカエルとは、まさにこの事だと思った。

 サラが指さした男は、ゆっくりとディアナたちの前へやってきた。

 アルと葉月はディアナの前に立ち、剣の柄に手をそえて構える。

 フードの下には、包帯に巻かれた顔があった。

 表情は一切読み取れない。

「ニックスファードで待っている」

 それだけ告げると、男は砂煙の中へ消えた。

 ディアナは、男の声をどこかで聞いたことがある気がした。

 でも、どこの誰の声だったかまでは思い出せない。

 それよりも――

「ニックスファード……」

 キャロルやレイクが暮らしている街の名だ。

 言い知れぬ不安と悪い予感がディアナの心を占めた。

「アルさん……」

「ああ、次の目的地が決まった」

 ディアナたちは、ニックスファードへ向けて歩き始めた。

何年ぶりでしょう……。

本当にごめんなさい。

がんばって少しずつでも続きを書いていこうと思います。

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