↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
10/10

デストロイファームの賑やかな日常

 朝一番でギルドに顔を出すのも、すっかり日課になった。カウンター周りの慌ただしさにも、もう驚かなくなっている。


 ギルドのカウンターで、俺は袋を受け取った。


「はい、これが報酬です。きちんと確認してくださいね」


 中には、控えめな量の銅貨が入っている。Fランクの討伐依頼だったから報酬もそう多くはない。それでも、贅沢さえしなければ一週間はこれで持つはずだ。


 受付の女性に礼を言って袋を懐にしまう。


「相変わらず地道な依頼ばかりですけど、無理はしないでくださいね」


「ええ。気をつけます」


「はい。気をつけてください。また来てくださいね」


 受付の女性は笑顔で見送ってくれた。


「お疲れ様です、タケル様!」


 ギルドの外に出るともみじが待っていた。


「いい子で待てたか?」


「もお! 子供扱いしないでください!」


 ぴょこぴょこと抗議する姿が余計に小さな子供に見えるんだよなあ。


「リンは?」


「マリーさんに会いに酒場に行くと言っていましたよ。でも、絶対嘘です」


「だろうな。絶対飲みたいからだよな。お金どうしてるんだろうな、あいつ」


「金貨をしまってある洞窟があるんですって」


「ドラゴンが財宝を持ってるって、本当だったんだな」


 最初にそれを知った時は驚いたものだ。もっとも、その財宝のほとんどが、酒代に消えているらしいのだが。


     ※


 リンがうちに来てから、少し経った。


 初対面がいきなり襲ってきた印象だったから、てっきり恐ろしい奴だと思っていたが、実際に暮らしてみると、リンは存外いい奴だった。豪快で、面倒見が良くて、たまに子供っぽいところもある。


 この一帯に、モンスターも人もいなかった理由。もともとこの地形は、凶悪なモンスターや、良からぬ人間が集まりやすい場所らしい。だからこそ、力ずくで縄張りを守り、寄り付かせないようにしていたのだという。


「デストロイ・マウンテン」という名前で呼ばれていることを伝えると、リンは豪快に笑っていた。


「その名、狙い通りじゃったわい」


 おかげで、俺たちの周りは驚くほど静かなままだった。畑を荒らす害獣も出なければ、変な輩が土地を狙って近づいてくることもない。今にして思えば、ずいぶんと恵まれた立地だった。


「リンにも、先生をやってもらうのもありかもな」


「それ、いいと思います!リンさんのお話、みんな聞きたいと思います」


 モンスターの気持ちが理解できるのは、俺よりもリンだ。この場所で長く生きてるみたいだし、この世界の歴史や地理なんか、俺も学ぶことが多いはずだ。


 給料は、酒、か? まあ、今度あいつに聞いてみよう。


     ※


 市場でもみじと買い物をしていると、あちこちから声をかけられるようになった。


「お、もみじちゃん。今日いい魚入ったから見てってよ!」


「こっちも新鮮な肉があるよ」


「そっちのお兄さんも、たまには顔出しなよ!」


「はは、覚えておきます」


 この街に来た頃は、こんな風に声をかけてもらえるとは思っていなかった。捨てられたテイマー、なんて陰口を叩かれることも覚悟していたのに、実際はまるで違う扱いだった。


 おじさんたちにとって、もみじはちょっとしたアイドルみたいな存在になっているらしい。気持ちは分からなくもない。声をかけられるたびに、もみじの耳がぴょこぴょこと動くのが、見ていて素直に可愛かった。


 夕方になり、リンも俺たちに合流した。」


 両手いっぱいの荷物を抱えて、俺たちはファームへの帰り道を歩き出す。


「もみじは可愛いのお」


「ふえぇっ!?」


 リンが上機嫌に呟くと、もみじが変な声を上げた。


「リン、お前酔ってるだろ」


「酒なんて飲むのも久しぶりだからのぉ。これも主殿のおかげじゃ」


「まあ、そっか。ドラゴンの姿じゃ無理だよな」


「昔はなぜか置いていってくれていた時期もあったんじゃがの」


「それって、貢ぎ物とか、そう言うのじゃ……」


「まあ、怖いと思われとったのかものお」


「こんなに飲兵衛だったって知ったら驚くな」


「なんじゃとぉ!? 普通じゃろ?」


「リンさんは綺麗ですし、お酒も似合っています!」


 もみじが慌ててフォローを入れる。


「やっぱり可愛いのお、もみじは。でもすまんのお」


「? 何がだ?」


「ワシは主殿と契りをしたゆえ、ワシは主殿のものなんじゃ」


「……は?」


「え、えええええ!?」


「どうじゃ? 主殿。 今宵はワシの酒に付き合うであろう?」


「だ、ダメです! タケル様は私のご主人様です! 夜はもみじに絵本を読んでくれるんです!」


「い、いや、あの」


 リンの体がぐいと迫り、もみじは必死にそれを引き離そうとしている。


 これは逃げたほうが良さそうだ。


「よーし! そろそろ晩御飯の時間だから急いで帰るぞ!」


 俺は誤魔化すように、全力でダッシュした。


「あ、待ってください! タケル様〜!」


「主殿、今夜は逃がさんからな」


 二人分の足音が、後ろから追いかけてくる。荷物が揺れて、買ったばかりのパンが袋からこぼれ落ちそうになった。


 ――ピコン。


【もみじの愛情が1上昇しました】

【リンの愛情が1上昇しました】


 国からは見放され代表候補からも外された時、俺はこの世界で好きに生きようと思った。


 のんびり静かに暮らしたいと願って始まったはずが、いつの間にか、こんなに賑やかな毎日になっている。


 きっとこれが、幸せな日々ってやつなんだろう。


 夕暮れの道を、三人分の笑い声がどこまでも駆け抜けていった。

お読みいただきありがとうございました!

☆評価、ブックマークいただけると今後の励みになります!飛び跳ねちゃいます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。