十節
鉄の森に入る少し前。
俺はとある実験を行っていた。
目の前には敵性トレント。敵意を剥き出しにした枯れ木は、今にも飛び掛からんという気迫だ。
そして、少し離れた位置に甲冑が立つ。
「よしミラ! 準備はいいか?」
遠くからでも聞こえるように、声を張って話す。
【ミラからメッセージが届きました】
【件名:問題ありません】
聞こえてはいるらしい。
大きな声を出せばいいのに、わざわざメッセージを飛ばしてくるなんて律儀なやつだ。まあ人間にとっては文字を打つよりも声を出す方が手間が少ない、と感じるが、彼女のようなAIにとってはこの方が楽なのかもしれない。
そう思いつつ、俺は館内に控える手下を操作する。
操作と言っても、やる事は簡単だ。
館内のモンスターはイメージをするだけで、自由に動かす事ができる。
加減無く、力任せに、早く、鋭く。
モンスターを加速させていく。
その時思い浮かべたのは、弾丸だ。
螺旋回転を描きながら、真っ直ぐに飛んでいく。全てを突き抜けて、風穴だけを残してひたすらに走り続ける。
そうして──最高速度に到達した。
その瞬間、目の前のトレントに向けて館の入り口を作る。
「くらえ、トレントカタパルトォォォオオ!」
発光。
次の瞬間、空間の裂け目からもう一つの枯れ木が飛び出した。
速い、なんて言葉じゃ足りない。
想像していた以上のスピード。
空中を進んでいるにも関わらず、衝撃波が地面を抉る。
余波で俺まで吹き飛ばされそうになった。
──トレント同士が衝突。
刹那、爆ぜる。
爆風が肌を叩きつけるように吹き抜ける。
「うぉぉぉおおお!!!」
理屈ではない、内から湧き出る恐怖。
生理的な危機を感じて、自分でも知らないうちに叫んでいた。
久しぶりに感じる恐怖。
サイトウの攻撃を間近で見た時も、こんな感覚があった気がする。
やがて爆風が収まる。
恐る恐る視線を向けると、そこには何も無かった。
【トレントを倒しました】
【経験値1650を獲得しました】
【ドロップアイテム:なし】
【トレントの魂が喪失しました】
そこには面影は無く、痕跡すらも無かった。
「あ、あはははは……」
乾いた笑いが漏れる。
──周囲の木々が根こそぎ薙ぎ払われ、森の一部が消し飛んでいた。
あるのはただただ、大きな穴だけだった。
「あ、あはははは。
ちょっとやり過ぎ……か? まあ全力のカタパルトを見てみようって回ですし」
俺の呟きにリスナーが応える。
『確かに見てみたかったけど』
『見たいとは言ったけど』
『正直ここまでは思ってなかったw』
だよね。
俺も思ってなかったよ。
『これ、上位帯くらいの火力あるぞ』
『木っ端微塵。トレントだけに。』
流れるコメントを見ていると、ガシャリガシャリと音を立ててミラが近づいてきた。
「オーナー・チリアクタ。
先ほどの攻撃についての報告を。
衝突時の運動エネルギーは、現環境における上限レベル帯の防御能力を突破できるものでした。
──結論として、同攻撃は高難度エリアにおいても十分な撃破性能を有します」
「……マジ?」
「マジです。
しかし当該攻撃は過剰火力です。効率は悪いですが、殲滅力は極めて高いと判断します」
従来のカタパルト攻撃は、ゴブリンのHPを考慮して威力を弱めていた。
彼は俺の忠実なる僕なので、代わりにテイムしたばかりのトレントで試し撃ちしたが──
結果的にそれは正解だった。
ゴブリンナイトに“騎士の誇り”という保険があるとは言え、定期的にバグに遭遇している俺だ。どうせロクな結果にならないのだから。
とにかく。
「カタパルトにゴブリンを使うのはやめよう……」
*****
時は戻り、鉄の森隠しボスの部屋。
目の前に座すは長髪の巨人、アングルボザ。敵にとって不足なし。
「ミラ、アレをやるぞ」
「承知しました。
射線確保のため、距離をとります」
金属が擦れ合う音が離れていく。
ミラが充分な距離をとったのを確認し、俺は準備を始めた。
実験の時の、あの恐怖。
あれを──叩きつける。
「──それは我が敵を屠りし最強の刃」
館のトレントを操作、加速を行う。
全力で、手抜かり無く、丹念に。
「立ち塞ぐ壁砕く強靭なる槌」
館の中で枯れ木は廻る。
人であれば内臓が混ざり、身体中の穴から汁が溢れるほどの重力加速。
だが、そんな心配はしなくて良い。
「爆ぜよ、消えよ、塵となれ」
狙いが定まらないのが唯一の弱点な訳だが、今回の的は大きい上に動かない。
外れる心配は不要だ。
──何の躊躇いも無く打てる。
館の中で加速が終わる。
実験した時と同等か、それ以上の弾丸が出来上がった。
「トレントォォォ!! カタパルトォォオオ!!」
【視聴者:329】




