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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season10 ― 言わなかった後悔、言わなくてよかった光 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season10 ― 言わなかった後悔、言わなくてよかった光 ―
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第3章(前編) 影の兆し ― 静かに満ちていく違和感 ―

アストリア本社の午後。


窓の外には薄い雲が広がり、

柔らかい光が会議室を染めていた。


休憩を終え、会議室に戻った4人は

新システム刷新の具体的な要件確認を始めていた。


美乃(よしの)の落ち着いた説明はわかりやすく、

メンバーの信頼を集めているのがすぐにわかる。


だが――

部屋の隅に漂う、微かな違和感。


(しゅう)は気づいていた。

(なぎ)もまた、いつのまにか黒縁メガネの奥の目つきが

(なぎ)領域(テリトリー)”に入る一歩手前の鋭さになっている。


(たまき)だけはまだ、

ただ素直に美乃(よしの)の言葉を聞いていた。



◇◇◇



「では、この部分が新システム導入後に懸念される点です」


スクリーンに映る現行システムのログ。


美乃(よしの)が資料をまとめたスライドを提示すると…


(しゅう)の眉が、ほんのわずかに動いた。


(なぎ)は腕を組みながら覗き込み、

視線を一点で止めた。


(たまき)だけが、

少し不思議そうに資料を見つめている。


「……美乃(よしの)さん、ここ。ログに妙な空白がありますね」


(なぎ)の声色が変わる。


「ええ。私も変だと思って、調べてみました。

 当時の担当者に聞いても『そんな仕様は知らない』と言われて…」


美乃(よしの)の表情はごく自然。

疑わしいそぶりもない。


しかし(しゅう)は、その“自然さ”が逆に気になった。


「……これ、誰かが意図的に痕跡を消している可能性がありますね。

 少し前のログを書き換えたような……」


(なぎ)の言葉に、(たまき)が小さく息をのむ。


美乃(よしの)は静かに頷いた。


「やっぱり……そう思うわよね」


(しゅう)はスライドをもう一度見つめ、

軽くペン先をトントンと机に当てた。


その癖が出るのは、

“確実におかしい” と判断した時だ。


美乃(よしの)さん、ここまで調べたのはあなたですか?」


「ええ。システム刷新の提案を進める中で見つけたの。

 ただ……私はアクセスできる範囲が限られてるから、そこからは追えなかったわ」


その言い方は淡々としていた。

けれど、その奥にかすかな緊張が見える。


(なぎ)はゆっくり眼鏡に触れ、

まっすぐ美乃(よしの)を見た。


「……ひとつ、聞いてもいいですか?」


「なにかしら?」


美乃(よしの)さん、このログにアクセスしたのは、

 あなたじゃないですよね?」


そのひとことに、室内の空気が止まった。


(たまき)の肩がビクッと震え、

(しゅう)はすぐに(たまき)の左手をそっと包んだ。


美乃(よしの)は――

静かに、しかし迷いなく答えた。


「……ええ。私じゃないわ。

 私はこの“空白”に気づいただけ」


(なぎ)はゆっくり頷く。


そして、(しゅう)の表情が引き締まり――


「……美乃(よしの)さん。

 あなた、内部で“何かされている”可能性が高いです」


(たまき)が不安そうに(しゅう)を見上げる。


美乃(よしの)は静かに微笑んだ。


「……まあ、そうでしょうね。

 あれだけ反対されているのだもの。

 何かあるとは思っていたわ」


(なぎ)はペンを指でカチッと鳴らし、

(なぎ)領域(テリトリー)”へと完全に入った。


「ここからは僕たちの仕事です。

 美乃(よしの)さん――あなたを守りながら進めます」


その声はふだんの明るさとは違い、

澄んでいて、冷静で、芯が強い。


(たまき)はその横顔に

ふと胸がぽかぽかしてきた。


すると美乃(よしの)が、

まるで(たまき)の心の動きを見抜いたように微笑んだ。


「……あなたたち3人、本当にいいチームね。

 私、少しだけ安心したわ」



◇◇◇



でも――


このとき美乃(よしの)はまだ知らなかった。


自分が“疑われる側”にされるという罠が

すぐそこまで迫っていることを。


アストリアには、

静かに(ふく)れあがる影が(うごめ)いていた。


そしてすぐに――

その影が、美乃(よしの)を飲み込もうとしていることを。

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