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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season10 ― 言わなかった後悔、言わなくてよかった光 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season10 ― 言わなかった後悔、言わなくてよかった光 ―
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第2章 ― 給湯室で交わされた、ふたりだけの言葉 ―

給湯室は、社内のざわめきから少し離れた場所にあった。

昼下がりの光が細い窓から差し込み、

ステンレスのカウンターをやわらかく照らしている。


美乃(よしの)は手際よくカップを並べ、

お湯を沸かしながらふと横目で(たまき)を見た。


「……緊張してる?」


「え?そ、そんなこと……ないつもりですが……」


(たまき)はぎこちない笑顔を作りながらも、

自分の声が少し震えていることに気づいた。


美乃(よしの)は、ゆっくりと(たまき)の前に立つ。


「……(たまき)さん。さっきの会議でね。ずっとあなた、不安そうにしていたわ」


「……あ……すみません……」


「謝らなくていいのよ。

 むしろ、ちゃんと見ていたいと思ったの」


お湯が沸く音だけが静かに響く。


美乃(よしの)はカップにコーヒーを注ぎながら、

さらりと切り出した。


(たまき)さん。私ね、昔、(しゅう)くんのことが好きだったのよ」


(たまき)の手がピタリと止まった。


「……っ……」


「でもね、言わなかった。言えなかった。

 後輩に想いを押しつけるのは、なんだか違う気がしたから」


美乃(よしの)は淡々と話すが、その声の奥にかすかな痛みがあった。


「最近、偶然会ったのは、8年ぶりくらいかしら。

 そこで初めて言ったのよ。

 “好きと言わなかったことを後悔してる”って」


(たまき)は胸がぎゅっとなる。


(……そんな人がいたんだ……)


美乃(よしの)はカップを1つ(たまき)のほうに滑らせた。


「そしたら(しゅう)くんね。言ったのよ。

 “俺は、大切な人と結婚しました”って」


その“大切な人”という言葉が、

(たまき)の胸にまっすぐ落ちた。


「……(しゅう)……」


「その時、わかったの。

 あぁ、この人は(たまき)さんがいなくなったら壊れるな、って」


(たまき)は息が詰まるような思いがして、視線を落とす。


たまきさん。あなたの手、離しちゃダメよ。

 ……でないと、(しゅう)くんが壊れてしまう」


美乃(よしの)はやさしく、でも確信をもって言った。


その言葉は、(なぎ)が言った言葉と同じだった。


「……(なぎ)くんも……同じこと言ってました……」


「あのかわいいSEくんね。ふふ、わかるわ。

 彼、よく見てるもの。あなたたちのこと」


(たまき)は顔があかくなる。


美乃(よしの)は少しだけ微笑んだ。


(たまき)さん。あなたのその“まっすぐさ”が、

 (しゅう)くんの光になっているわ。

 だから――自信を持って」


(たまき)は小さく息を()んだ。


美乃(よしの)の声には嫉妬も後悔もない。

そこにあるのは、ただただ“祝福”だった。


「……北澤(きたざわ)さん……ありがとうございます……」


美乃(よしの)でいいわ。

 さ、コーヒーできたし戻りましょう。

 (しゅう)くん、そわそわしてるだろうし」


「え……そ、そんな……」


「ふふ、(たまき)さんのことになるとすぐわかるわよ。あの子は」


美乃(よしの)が扉を開け、(たまき)が続く。


(たまき)の胸にはまだ、ぽかぽかとした熱が残っていた。


その言葉が、自分の光を強くしていくのを感じながら。

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