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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season10 ― 言わなかった後悔、言わなくてよかった光 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season10 ― 言わなかった後悔、言わなくてよかった光 ―
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第1章 ② ― 彼女は静かに、その光の名を思い出す ―

新たな依頼のため訪れたアストリア。

そこでしゅうたちの前に現れたのは、意外な人物──柊の元先輩・北澤美乃きたざわよしのだった。

彼女の静かな微笑みの裏に、どんな想いが眠っているのか。

3人の新たな日々が始まる。

好きだった。

でも、言わなかった。

きっと、それでよかったのだと思う。


あのころの私は、

彼の「強さ」を見ているつもりで、

本当は、

その奥にある“壊れやすさ”に気づけていなかった。


――あの子を失ったら、この人は立ち直れない。


再会したあの日、

しゅうの瞳の奥に “誰か” が生きているのを見た時、

ようやく私は理解した。


彼が守りたいと思った光。

彼を支えている光。

守られているのはむしろ彼のほうだということを。


だから、私はもう迷わない。


あの子に伝えよう。

「柊くんの手を、離さないで」と。

それが、私にできる最後の『告白やさしさ』だから。



◇◇◇



そんな想いを胸にしまったまま、

私は今日、責任者として新システム会議へ向かう。


そこで、また彼らに会う。


あの日とは違う意味で、胸が少しだけ高鳴った。



◇◇◇



■ アークシステムズ側:会議へ向かう3人



「着きましたよ〜アストリア本社!」


なぎが明るい声をあげ、

フロントガラス越しに見えるガラス張りの高層ビルを指さした。


「わぁ……かなり大きい会社なんですね」


たまきが窓から見上げながらつぶやく。


「まあ、規模だけはな」


しゅうは軽く肩をすくめながらも、

表情はいつもより少し硬い。


「柊先輩、緊張してます?」


凪がニヤッと横目で見てくる。


「してないよ。普通だ」

「ふ〜ん……」

凪が疑うように言う。


環はそのやりとりに、ふふっと笑った。


「じゃ、行こっか。凪、資料持って」

「はーい!」


エレベーターに乗り込み、

目的階数のボタンを押す。


静かな空間に、凪のひと言がぽつり。


「ねぇ柊先輩。

 今日の責任者ってどんな人なんですか?」


「……さぁな。聞いてない」


「へぇ。珍しいですね、先輩が知らないなんて」


柊は答えない。

ただ、少しだけ息を整える仕草をした。


(まさか……あの人じゃないよな)


環は、柊のわずかな表情の変化に気づいた。

胸がきゅっとする。


エレベーターの扉が開いた。

受付の女性に案内されて、会議室へ。



◇◇◇



■ 会議室:プロジェクトメンバーとの対面



中に入ると、

新システムのプロジェクトメンバーがずらりと並び、

次々と名刺交換が進む。


明るく礼儀正しい主任・中根なかね

落ち着いた深見ふかみ、元気な中野なかの

柔らかい雰囲気の若月わかつきと、クールな片倉かたくら


会議は順調に進み、

一通りの説明が終わった。


そのとき――


会議室の扉が「コン」と軽く叩かれた。


「遅くなりました」


入ってきたのは――


北澤美乃きたざわよしの


たまきの胸が、すっ、と冷たくなる。

しゅうの身体が、一瞬だけ止まったのがわかる。


「責任者の北澤です。

 本日はよろしくお願いします」


その声は、以前の再会のときと同じ、

落ち着いていて、どこかあたたかい声。


なぎは柊の横顔を見た。

柊は、一瞬だけ視線をそらし、

すぐにいつもの柔らかい表情に戻した。


その変化を…

環も、凪も見逃していなかった。


「では、プロジェクトメンバーの皆さんは一度退出を。

 少し個別に話したいことがあります」


メンバーが出ていき、

会議室に残ったのは、美乃よしの、柊、凪、環の4人だけ。


美乃が微笑んだ。


「お久しぶりね、柊くん」


柊の喉が、わずかに動いた。


「……ええ。お久しぶりです」


凪は、(うわぁ…気まずい…!)という顔で環を見る。

環も、同じ気持ちで小さく会釈する。


(こうなるんだ……やっぱり)


環の胸が、ほんの少しだけ痛んだ。

けれど、美乃の瞳はまっすぐで、やわらかかった。



◇◇◇



■ ― 彼女は静かに、その光を見つける ―



会議室に残った4人のあいだに、

わずかな空気の揺れが生まれていた。


「……それで、今日はもう1つお話があります」


美乃が静かに切り出した。


テーブルに資料を置き、

柊と凪に向けて淡々と説明を始める。


アストリアで起きているシステムの問題。

刷新プロジェクトとは別に、極秘で調査してほしい内容。

管理職を巡る対立。

それに伴う不審なアクセスログ。


環は説明を聞きながら、

胸の奥に小さな“不安の棘”が刺さるような感覚を覚えた。


(……この会社、何かある)


柊と凪の表情も、いつの間にか真剣になっていた。


説明が一通り終わった頃、

会議室の空気が少し重くなっていた。


そこで、美乃はすっと表情をやわらげた。


「……少し長くなりましたね。

 休憩にしましょうか」


その声は、急に空気を軽くした。


「環さん、コーヒーを入れるの手伝ってくださる?」


「……あ、はい。もちろん、お手伝いします」


美乃は環に、自然な笑顔を向ける。


その笑顔は、どこか“本心を隠しているような”

そして“何かを伝えようとしているような”

そんな不思議な温度があった。


環は胸がきゅっとするのを感じた。


「じゃあ行きましょうか。給湯室はすぐそこよ」


2人が会議室を出ていくと、

室内には柊と凪だけが残った。


扉が閉まった瞬間、凪が小声で言う。


「……柊先輩。そわそわしてません?」


「してない」


「してますよ〜。環さん、緊張してるかなぁって顔です」


「……バカ言え」


柊はわざと凪をにらむが、

その表情には、ほんの少しだけ「安心」が混じっていた。


――彼女が笑っていたから。

美乃よしののまっすぐな視線と、どこか切ない眼差し。

たまきの胸に生まれた小さなざわめきは、まだ名前を持たないまま。

この出会いが、彼女たちの未来を大きく揺らす予感だけが、静かに灯っていた。

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