✦ Interlude ― 美乃モノローグ ―
[事件後・夜のオフィス]
夜更けのオフィスは、昼とは別の顔をしていた。
人影のないフロアに、小型ライトのやわらかな光だけが落ちている。
レポートを書き終え、保存ボタンを押した瞬間、
私はふうっと長い息を吐いた。
――終わったのね。
胸の奥の張りつめていたものが、ゆっくり溶けていく。
同時に、あの日の言葉が思い出される。
「好きと言わずに終わる。これほど後悔するとは思わなかった」
…そう思っていた、ほんの少し前まで。
でも違う。
今日、はっきりわかった。
私は “言わなくてよかった” のだと。
もしあのとき、彼に「好き」と言っていたら、
彼はきっと立ち止まっただろう。
優しい人だから。
強いのに、誰よりも壊れやすい心を持っていたから。
あのとき言っていたら、
柊くんは環さんという “光” に出会えなかったかもしれない。
そう思うと、少し怖くなる。
私はレポートを閉じ、そっと目を閉じた。
会議室で見た2人の空気が胸をよぎる。
環さんが柊くんを見るときの、あのやわらかさ。
柊くんがそれを受け取ったときの、あの深い安心の色。
視線が交わった瞬間、光が重なる。
あれを見てしまったら…誰だって悟るわ。
ああ、この2人は “お互いの光” なんだって。
私は静かに笑った。
こんな場所で、
自分がかつて好きだった人の “幸せな顔” を見ながら、
その隣にいる人の手を取りたくなってしまうなんて。
「ありがとう、環さん。
あなたがいてくれてよかった。」
あの給湯室で話した言葉に偽りはない。
後悔よりも、ずっと強い安堵が今は胸にある。
柊くんが壊れずにすんだこと。
環さんという光に出会えたこと。
そして――その光を、
私自身が見届けられたこと。
こんな幸せな “幕引き” があるなんて、
あの頃の私には想像もできなかった。
私はPCを閉じ、静まり返ったオフィスをあとにした。
2つの光が重なる場所へ導けたのなら、
たぶん私はあのとき、言わなかったことで
正しい未来を選んでいたのだと思う。




