第12章 狙われた影
■ 背後から忍び寄る気配
カフェテリア。
夕方の柔らかい光が差し込む中、
凪と環はコーヒーを買いに並んでいた。
凪が財布を出しているわずかな隙――
環の背後に、
気配が立った。
振り返ると、
そこには 中原裕也 が立っていた。
目は笑っていない。
顔だけが薄い笑みを浮かべている。
「如月さん……だよね?」
環は息をのむ。
声が出ない。
その瞬間――
「環さん!」
凪の声。
凪はコーヒーを落としそうな勢いで駆け戻り、
中原の前に立ちはだかった。
「中原さん、何してるんですか?
環さんに用なら、僕を通してください」
中原は肩をすくめ、
すっと後ずさった。
「いや……ちょっと挨拶しただけだよ」
そのまま足早に立ち去る。
残された環の手はぎゅっと震えていた。
「……環さん、大丈夫ですか」
「……うん……でも……怖かった……」
凪はすぐに柊へ電話した。
「柊先輩。環さんが……中原裕也に接触されました」
電話の向こうで柊の声が低くなる。
「……わかった。すぐ戻る」
◇◇◇
■ 標的は“環”
会議室に戻ると、柊は環を抱くように迎えた。
「環……大丈夫か」
「……柊……」
「中原裕也……か」
柊の目が鋭く細まる。
「徳山が“次の一手”を打ったな」
凪も険しい顔で言う。
「環さん、やっぱり狙われてます。
坂井の次は中原……
残るのは徳山だけです」
◇◇◇
■ 環を守るための決意
柊は即座に宣言した。
「今日から環を絶対に1人にしない。
トイレ、コピー、カフェテリア……全部俺か凪が同行する」
「僕も守ります。
環さんを危険にさらすわけにはいかない」
環は胸がいっぱいになり、
2人の優しさに涙が浮かんだ。
「……ありがとうございます……」
◇◇◇
■ そして、その時は来た
それから数日後。
たまたま会議室での資料作成を
環が“ひとり”でしていた時だった。
柊と凪は別の会議へ。
環は鍵を閉めて作業を続けていた。
その時――
コン、コン、コン。
ドアを叩く音。
環は息を呑む。
柊も凪も、ノックはしない。
必ず声をかける。
(……誰?)
返事をせずに様子を伺う。
数秒後――
コン、コン、コン。
また3回。
環は少しずつ後ずさり、
会議室の奥へ身を引いた。
やがて、
コン!コン!コン!
強くなるノック。
ガタガタッ!
ドアノブが激しく揺れた。
(やめて……やめて……)
環の呼吸が浅くなる。
足が震える。
ガン!ガン!ガン!
ドアを殴る音。
金属のきしむ音。
(柊……凪くん……)
環は机の影にしゃがみ込み、
耳を塞いだ。
どれくらい時間が経ったかわからない。
すると――
「環、柊だ。開けて」
(……柊……!!)
環は走ってドアを開ける。
柊が勢いよく入り、
環を抱きしめた。
「環……!震えてる……どうした……!」
「こわ……かった……ずっと……ノックされて……
ドア……ガタガタって……」
柊は背中をさすりながら言った。
「大丈夫だ。
もう誰にも触れさせない」
少し遅れて凪も駆け込んでくる。
「環さん!無事でよかった……!」
◇◇◇
■ 犯人の正体
凪はドアのログを素早く解析した。
「……柊先輩。
やっぱり“中原裕也”です。
ドアの前に立ったIDが残ってます」
柊の目が鋭く光る。
「徳山……追い詰められて焦ってるな」
その時――
環の涙を拭きながら、柊は静かに言った。
「環……怖かったな。
でも……これで確信した。
徳山は、環を“揺らす”ことで俺たちを潰そうとしている。
だからもう……一歩も近づけさせない」
環は柊の胸に顔をうずめて、
かすかに頷いた。
「……柊……ありがとう……」




