第7章 沈みゆく闇の輪郭
■ 美乃、自宅待機
翌朝。
アストリア全体に1通のメールが配信された。
「北澤美乃、当面の間、業務待機とする」
その文面を環が読んだ瞬間、
胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
「……美乃さん……」
柊は黙って画面を見つめたあと、
静かに言った。
「環、心配するな。
美乃さんはやっていない。必ず証明する」
凪も力強くうなずく。
「僕たちが、絶対に取り返しますから」
3人はアストリアの会議室に入り、
本格的な調査を始めた。
◇◇◇
■ 凪の領域の“静かな発動”
PCを開いた凪の表情が、
すっと変わる。
仔犬のような愛嬌は消え、
指先ひとつで空気が張りつめていく。
「……不自然ですね。
改ざんログ、“きれいすぎる” んですよ」
「きれいすぎる?」
「普通、不正ってどこかに“手癖”が残るんです。
でもこれは、あまりにも整いすぎている。
“誰かに見つけてもらうための改ざんログ”みたいに」
柊と環が息をのむ。
「つまり……」
「“美乃さんを犯人に見せるための改ざん” です」
凪が打ち込む指は、音もなく高速で動き続ける。
「そして……この時間帯。
美乃さん、会議室で他部署と打合せしてたはず。
ログの時間にも“証人”がいます」
「じゃあやっぱり、誰かが……」
「ええ。
“美乃さんに罪を着せるために計画的に動いた人間”が
確実にいます」
◇◇◇
■ 反対派の焦り
同じ頃。
別フロアのオフィスで、
反対派の徳山・中原・末松が密かに集まっていた。
「坂井の件で、社内が騒いでいます」
「長岡が動いたらまずいぞ」
「北澤を引きずり下ろすはずが……逆効果になってきてる」
徳山は額に手を当て、不快そうに唸る。
「……如月柊。
あれが予想以上に厄介だ」
中原がひそひそと声を潜める。
「それに……如月環。
あの女、妙に嗅ぎ回っている」
末松が青ざめた顔で言う。
「こないだも……カフェテリアで話を聞かれて……」
徳山が睨みつける。
「……バカが。
余計なことをしてくれたな、末松」
◇◇◇
■ 環の違和感
会議室に戻った環は、
凪と柊の横で資料を整理していた。
――そのとき。
(あれ……?)
胸の奥にかすかなざわめきが走る。
「環、どうした?」
「……なんか、変なんです。
今日のアストリア……“静かすぎる”気がして」
凪が顔を上げる。
「……わかります。
“見張られてる”感じ、あるんですよね」
「凪、おまえも感じてたのか」
「はい。なんか……空気が。
誰かの視線というか……
“焦ってる人の気配”。そんな感じがします」
◇◇◇
■ 徳山の“次の一手”
徳山は部下を呼びつけ、
低い声で命じた。
「坂井が失敗した以上……
次はもっと“確実”な手を打つ。
如月環を――“黙らせろ”」
「……よろしいんですか?
それはもう、ただの――」
「構わん。
あの女を野放しにすれば、全部がバレる」
その視線は鋭く濁っていた。
「如月柊が守る?
上等だ。
だが……“守る相手が増えれば、隙も増える”」
徳山の口元がゆがむ。
「その隙、見逃すな」




