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宣誓!人類の味方となるダンジョンにする事を誓います! 〜チュートリアルを装った攻略させないダンジョン作り〜  作者: 天沢与一


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府中ダンジョンマスター、蓮見朝陽の場合(三人称)⑤

 探索者がダンジョンに入るようになったので、蓮見はダンジョンに行く時間を深夜にずらした。


 1週間ぶりに出会った父親は相変わらず怒鳴り散らかしていた。いじめっ子たちの時より元気だ。


 1ヶ月後に行くと、流石に声にハリはなくなっていたが、それでもまだ上から目線で助けろと言っていた。今なら許すとも。プライドからそうさせるのだろうか。


 結局、父親が謝罪の言葉を口にしたのは、捕えてから3ヶ月経った頃だ。ようやく今まですまなかったと謝った。蓮見はその謝罪を無視した。当然だ。父親も、ついでにいじめっ子たちも、蓮見が何を言っても辞めてくれたことはないのだから。


 謝罪を受け入れてもらえず、もうここから出られることはないと悟った父親の心はついに折れた。最初の頃はいじめっ子たちより元気だったのに、一言も発せなくなるのは父親の方が早かった。


 蓮見はその間、通信制の高校に通いながらライセンス無しの探索者として活動している。


 潜るのは深夜帯とはいえ、売り場で探索者とかち合う時があるので、探索者の知り合いもそこそこ増えた。みんな良い人たちで、ライセンスを持っていない事を察していても、蓮見を1人の探索者として扱ってくれている。


 今まであんなに生きにくい世界だったのに、その原因を排除しただけで自由で生きやすい世界になった。


 状況が変わったのは、5月22日。


 町田と梅田のダンジョンマスターが、自分たちはダンジョンマスターだと名乗る動画をあげた日。


 世間から“ダンジョンマスター”という存在に注目が集まった。


 町田にも梅田にもいるなら、他のダンジョンにも、とダンジョンマスターを探す動きが出始めたのだ。


 蓮見は名乗る気など無かった。けれども、静観していられない事情ができてしまった。



「久しぶりだね……朝陽くん」



 中学校を卒業して以来、会っていなかった峯川が蓮見の家にやってきたのだ。



「……久しぶり。峯川さんは女子校に進学したんだっけ。今日はどうしたの?」


「うん。そうだよ。朝陽くんは通信制のところだよね。それで……探索者もしてるって聞いたけど……ほんと?」


「うん。誰から聞いたの?オレはライセンス持ってないからあんまり言いふらさないでくれると嬉しいな」


「友達のお兄ちゃんが探索者やっててね。そこから私と同い年の探索者がいるって知ったの。特徴から朝陽くんなんじゃないかなって思って……大丈夫、言わないよ。それでね、ちょっとだけ気になったことがあって……朝陽くんはいつからダンジョンに入るようになったのかな?」


「いつからって言われても……結構前からとしか」


「そう……ライセンス制度が出来る前って事でいいのかな」


「そう思ってくれてもいいよ」



 沈黙が続く。


 滅多にならないインターホンが鳴った時から、蓮見は嫌な予感がしていた。そして相手が峯川で、もしかしたらそうなるかもしれないと思っていた。そしてそれが現実になって欲しくないと願っていた。



「……思い切って聞くね。嘘をつかないで答えてほしい。朝陽くんってダンジョンマスターなの?それもこの家の隣にあるダンジョンの」


「どうしてそう思ったのか聞いてもいいかな」


「否定しないんだね。もし、朝陽くんが今探索者しているなら変だなって思ったの。だって、朝陽くん。ダンジョンが怖くて3人を見捨てたんでしょう?なら、ダンジョンが怖くて逃げたって言うのが嘘だったんじゃないかなって」


「オレが違うよって言ったところで、どうせ信じてくれないじゃん。だから、理由を聞いてひとつひとつ否定していこうと思って。まぁ、でも……ダンジョンが怖くて逃げたってところが嘘なのは認めるよ。あいつら、オレを盾にするつもりで無理矢理ダンジョンに連れ込もうとしたんだ。だから逃げたんだよ。このままじゃダンジョンで殺されると思ったから」


「今の発言が正しかったとして、盾が逃げたのになんで3人はダンジョンに入っていったのかな」


「あいつらがダンジョンに入ったのは宝石目当てだと思うけど。オレが持って帰ってこれたから、自分たちだけでも出来ると思ったんじゃない?」


「じゃあ、なんで私に嘘を言ったの?」


「もしあいつらが帰ってきた時に、ダンジョンの所為にしとかないとマズイと思って」


「帰ってこない事に動揺していたのに?」


「それは……」


「私はね、朝陽くんは1人でダンジョンに入って無事だったのに、3人は帰ってこなかったっていう部分もおかしいなと思ってたんだ。でも、ダンジョンに詳しく無いからそういうこともあるんだろうなと深く考えずにいた。けどさ、今いろんな探索者達が府中ダンジョンを攻略して、情報がどんどん出てくる度に、どうしても3人が全員帰ってこなかった理由がわからなくて……だって、1階層はモンスターの出現頻度がそこまで高く無いから、1人がやられても2人は逃げれるわけでしょ?だから朝陽くんがダンジョンマスターで3人を罠に嵌めたんじゃないかと思ってるの。朝陽くんから聞いた話より、そっちの方がしっくりくる」



 峯川が蓮見の家に訪れたのは、蓮見がダンジョンマスターだと確認するためだった。


 正義感の強い女の子だから、自分が相談を受けた事の真実を追求せずにはいられなかった。そして自分の予想が当たっていたら自首を勧めるつもりでいた。


 まだ、蓮見は人としてやり直せると思っていたから。



「もう一度聞くね。朝陽くんってダンジョンマスターなの?」



 峯川からの追求から逃れない。そう思った蓮見は護身用にポケットに入れていた睡眠薬を反射的にかけた。



「キャ!な……に……」



 すぐに効果が出て、峯川は気絶するように眠る。


 ダンジョンマスターだとバレるだけならいいが、3人の事まで知られるのはマズイ。蓮見の嫌な予感は当たってしまった。


 峯川が持ってきていたカバンを漁ってスマホを出した。寝ている状態じゃ顔認証が通らず、父親の時と同じく擬態薬を使わないといけないようだ。


 縛ってスーツケースに詰め、深夜になってならダンジョンに誰もいない事を確認して、いつもの部屋まで連れていく。ケースを開けると目が覚めていたのでもう一度睡眠薬をふりかけ、ドラヴァインに拘束させた。


 血をとって家に戻り、擬態薬を使う。


 ようやく峯川のスマホを開くと、親からの心配のメッセージがいくつもきていた。それだけで両親から愛されていると伝わってくる。蓮見には持っていないものだ。


 とにかく、蓮見の正体を知った峯川は帰せない。


 トーク履歴を漁った限り、誰にも蓮見の事は言っていないようだが、街中の監視カメラに映っていた情報から蓮見の元まで辿り着くかもしれない。


 それは避けたい蓮見は、もう一度ダンジョンに行った。

 擬態薬は姿形は擬態した相手そのものになるけど、服装は変わらないから。


 ドラヴァインに手伝ってもらいながら、まだ眠っている峯川の制服を脱がし、ついでにもう一本分の擬態薬を作った。近くの公園の公衆トイレまで行って、擬態薬をまた飲んで、脱がした制服に着替える。


 最後の目撃情報を誤魔化すために、蓮見の家とは全く違う方向のコンビニに立ち寄って、わざわざ酒を買おうとした。制服を着ているから当然断られる。そして結局何も買わずにコンビニを出た。これで店員の印象には残ったはずだ。


 その後は、川に向かった。橋の真ん中に靴と鞄を残しておけば、ここで何かあったと思われる。


 スマホは蓮見の指紋をつけてしまったので、入念に吹いて、その上から擬態した峯川の身体でベタベタと指紋をつけた。スマホのデータを初期化してからそれを川に投げ入れる。いくら防水仕様のスマホとはいえ、長時間水に晒されたら壊れるだろうし、壊れてなかったとしても初期化したからデータは何も残らない。


 本当はスマホなんて情報が詰まった媒体を残しておきたくなったのだが、カバンがあるのにスマホだけ無いのは変に思われるかもしれないので仕方なく残した。


 橋の下で元の服に着替えて、身を隠しながら擬態薬の効果が切れるのを待った。変身が解けてから、なるべく人目やカメラがなさそうな場所を通って家に帰った。制服は後でダンジョンで処理する。



(これで大丈夫。大丈夫なはずだ……)



 蓮見は祈りながら一晩を過ごした。


 そして、穏やかな朝を迎えた。


 すぐに女子高生が消えたと地元のニュースになったが、誰も蓮見の元を訪ねてこなかった。蓮見の工作は成功していた。


 しかし、蓮見はライセンス無しにダンジョンに潜っている。峯川の他にも蓮見がダンジョンマスターなのではと疑う人が出てきてもおかしくない状況だ。


 どうすれば良いか考えて、蓮見は身代わりを立てることにした。


 幸いにして、ダンジョンマスターを名乗る動画は腐るほどある。そういうブームだからだ。


 ちょうどよく、昨日の夜に府中ダンジョンのマスターを名乗る動画が上がっているのを見つけた。内容を見ると、いじめっ子たちのような雰囲気を感じる男がふざけた感じでダンジョンマスターだと名乗っていた。想像通りの人ならダンジョンマスターだと思われても、撤回するなんていうダサい事はしないだろう。


 蓮見はこいつを身代わりにすると決め、1階層で花のドロップ率を上げると言っていたから、その通りにドロップ率を変えた。


 すぐにそれは探索者達の間で広まり、この動画の主が本物だという声が広まった。


 ここからは蓮見も知らない話なのだが、アンダーグラウンドの世界では、すでに花の効果が知られていた。花を使って商売したいやつがうじゃうじゃいて、ダンジョンマスターの存在が広まってから府中ダンジョンのマスターはそういう奴らに狙われていたのだ。


 蓮見が身代わりにした繰上宇宙(くりがみそら)は目立つ奴だ。すぐに花を利用したい奴らの組織に拐われて、居なくなった言い訳としてフェイク動画が作られた。


 繰上が自身がダンジョンマスターじゃないといくら言ったって、ドロップ率が実際に変わっているのだから信じて貰えるわけもない。


 こうして繰上は世間から姿を消した。


 一方で蓮見は悩んでいた。


 身代わりにした奴が一晩経ったら急に動画をもう投稿しないとか言い出したからだ。不思議な事に、ダンジョンマスターではないと否定することは無かったが、これは身代わりに成功したのだろうかと。


 失敗しているのなら、別の人間を探さなくてはいけない。

 成功しているのに、別の人間を身代わりにしたら、あいつはなんだったんだと思われる。


 見極めが難しかった。


 悩んだ末に、蓮見はしばらく静観する事にした。

 世間があいつが違うという風潮になってから動けばいいのだ。


 動画の撮影者を名乗る人物が現れた時は流石に焦ったが、撮影者を名乗る人物がもう1人出てきて、結局なあなあになった。


 この騒動があったおかげで、今更繰上がダンジョンマスターではないと疑う人もいない。

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