73話 府中ダンジョン
装備を整えたら歩いてダンジョンに向かう。
その間、奈那さんから府中ダンジョンの攻略情報を聞いていた。
「府中ダンジョンの特徴と言えば、真っ先に挙げられるのは時折ドロップする黄色い花だ。他のダンジョンには無いドロップアイテムで、地球上に存在しない花だから注目度が高い」
「そうなんだ!お花ドロップするってなんかいいね!」
「その次に挙げられるのがモンスターだろう。なにせ植物系のモンスターしか出現しないからな。1階層ではハナダマという丸いつぼみを待つモンスターが出現する。触ると自爆するので一撃で倒すのがおすすめだ」
「なるほど!気をつけなきゃだ!」
「他にこのダンジョンの有名なモンスターだと5階層のソーンローズだろうか。薔薇の見た目をしており、その場からは動かないが棘を飛ばしてくるので注意が必要だ。棘は手のひらくらいは普通に貫通する。初級魔法で問題なく倒せるので見つけたら即攻撃、がいいな」
「今日って5階層まで行く?」
「今日は1階層だけよ。何回も伝えたと思うのだけれど」
「このように府中ダンジョンは大体が植物系のモンスターが多く、たまに虫系モンスターも出現するが大体が植物に擬態できる能力を持っている。要するに緑あふれるダンジョンということだな。環境変化がかかってるのは11階層以降からだが」
「へぇ、いろんなモンスターが出るんだね」
「あんたのところの方がバリエーションは豊富よ」
長ったらしい奈那さんの話を瑛士がいい感じに相槌を打っている。
奈那さんは相槌なんて無かったかのようにいつも通りずっと話し続けている。
「さて、何故か花がドロップする。植物系のモンスターがでる。この2つの特徴は探索者では無い一般人でも知っている人が多い。ここで問題だ。探索者の間でもう一つ有名な特徴がある。それは何か」
「えぇー!なんだろう!」
あ、急に問題を出された。
探索者の間で有名な特徴か。
攻略情報を事前に調べているので、ある程度府中ダンジョンのことは知っている。
まさかここで花を高く買い取る人がいるなんて言うことは言い出さないだろうし、普通に転移罠がある、とかだろうか。
府中ダンジョンは1階層から転移罠があるのだが、1階層の罠は1階層に、2階層の罠は2階層にと同じ階層内にしか飛ばされないので、あんまり脅威では無い。
下層で仲間とうっかり引き離されると面倒なくらいだろうか。
転移罠は他のダンジョンでも設置されているが、1階層からあるのはなかなか珍しい。あの罠一個2万ポイントも使うんだよな。そんな序盤からホイホイ置けない。
場所的にそんなに拠点ポイントは高く無いだろうし、ハナダマは1匹300ポイントしかかからないから、最初は罠に力を入れようとしていたダンジョンだったんだろうか。
あー、違うわ。依存性のある花で人を釣るから、他はどうでもよかったのか。
転移罠は見せかけ。植物系で揃えたのは花をドロップさせるための理由作り……的な?まぁ実際のところはわかんないけどね。
「ねぇ、蒼斗は答えわかる?」
「わかる。町田にも梅田にも無い特徴だよ」
「えぇ、俺自分のダンジョンの特徴とか覚えてないし、それ以外って言われてもわかんないや。答え教えて!」
「流石に自分のダンジョンのことは把握してろよ。転移罠、ですよね?」
「ふふふ。流石だ。正解だよ」
「おお!すごい!」
「いや、これから行くダンジョンの情報くらい普通調べるだろ」
「何もわからない状態で挑む方が楽しく無い?」
「ゲームじゃないんだからもうちょっと危機感を持て」
「おや、それは悪い事をしたかな。詳しく話しすぎてしまった」
「ううん!人から話聞くのは好きだし大丈夫!」
「それに瑛士はお姉ちゃんの話を何一つ覚えてないと思うわ」
「そんなことない、とは言い切れないかな?」
和気藹々と話しているうちにダンジョンについた。
府中ダンジョンは住宅街にあり、民家の1階に埋まるように建造物部分がある。繰上はここの住人に恨みでもあったのだろうか。
ちなみにここに住んでいた住人はすでに引っ越している。
「なんか、すごいところにあるね」
「そうだね。消えた建物の部分がどうなったのか私も非常に気になるよ」
「……どうなったんでしょうねぇ」
なんて会話をしながら、さりげなく瑛士と横並びでダンジョンに入る。
中は特に何も置いていない、階段だけがある空間だった。
そのまま1階層に降りて、右の道を進んだ。
「あまり人がいないわね」
「このダンジョン、序盤はあまりモンスターが出ないらしいからな。初心者以外はさっさと11階層まで進むらしい」
「11階層から環境変化がかかり、モンスターの出現率も上がる。おそらく本番はそこからなのだろう。町田ダンジョンで例えると、ここはまだチュートリアルみたいなものだな」
「そうなんだ。俺はさっさとモンスターと戦いたいなぁ」
「明日は下に降りるからそれまで我慢しとけ」
「はぁい」
しばらく歩くと、二足歩行で歩くなんか気持ち悪い生物に遭遇した。頭が赤色の丸いつぼみで、下半身はおそらく茎でできている。
これがハナダマか。
瑛士が戦いたがっていたので任せてみると、茎と頭の間を一刀両断した。なかなか様になっているが、ハナダマが自爆する部分ってつぼみの部分では?斬るところ間違ってそう。
「あ」
思わず声が出た。
案の定、瑛士に斬られたハナダマが爆発したからだ。1mほどの規模の爆発だったが、近くにいた瑛士は巻き込まれて軽く吹っ飛んだ。
「ちょ、大丈夫!?あれだけお姉ちゃんが説明してたのになんも聞いてなかったわけ!?」
「いたたたた。大丈夫、かすり傷程度だよ」
「もう、しょうがないわね。“回復”」
寧音の魔法で瑛士にできた傷はみるみる治っていった。
回復魔法か。取るとしたら確か10万だったかな。なかなか貴重なスキルだ。奈那さんが言ってたダンジョン攻略に便利なスキルってこのことだろうか。まぁ確かに便利だけど別に回復薬この場で出せるしなぁ……
「なに?」
「いや別に」
「そう?なんかこっち見てた気がしたから」
「回復魔法を見てただけだけど」
「ふぅん」
やけに視線に敏感だな。他のスキルの効果か?
全員のスキル構成を知りたいところだが、他人にスキル構成を聞くのは御法度とされている。探索に便利なスキルを持っていたらその人の取り合いになるし、良いスキルを持っていなかったら仲間外れにされる可能性がある。ようはトラブルになりかねない。
流石に同じパーティー内なら開示するらしいけど、今回は臨時のパーティーだし、魔法スキルを持っているくらいしか伝えてない。向こうからも似たような感じで言われている。
その後は特に何も言われる事はなく、普通に1階層の探索を続けた。
基本的に1体ずつしかモンスターは出てこなかったので、結局俺は何も手を出さないまま終わってしまった。別に瑛士と違って戦いたいわけじゃないからいいけどね。
最後は宝箱のある部屋にたどり着いて、開けると中から回復薬1本が出てきた。対して珍しくもないアイテムだったが、宝箱を開けられたことに瑛士は満足していた。
まだ全然疲れていないけど、今日はもう帰る。
本番は明日だ。
ダンジョンを出ると、すでに夕方になっていた。だけど、夕飯にはまだ早い時間だ。
「あのさ!ダンジョンショップ巡りしていい?」
「構わない。ホテルの夕飯が18時からだから、それまでに戻ってきてくれ」
「わかった!」
「じゃあ寧音、瑛士の面倒見るのよろしく」
「え、なんで私なのよ!?」
「蒼斗は来ないの!?」
「俺は奈那さんと話したい事あるからホテルに戻るよ」
「そっかー。わかった!」
「私は了承していないのだけれど?」
「寧音ちゃんも部屋戻っちゃうの?」
「それは……仕方がないわね。特にやる事もないし着いていってあげるわよ。その代わり、さっと見てさっと帰るから」
「ありがとう!」
ということで、俺たちは二手にわかれた。




