111話 久々の町田ダンジョン
先日の改装更新の際に最近ダンジョンのことほったらかしにしていたなぁと自覚したので、今日は久々にダンジョンまで足を運ぶ事にした。だいたい3週間ぶりくらいかな。
向かう途中、建設現場を通る。
3月までは普通に住宅が何軒があったところがあっという間に更地なって、この前までやってた基礎工事が終わったのか、今見たら鉄筋の枠組みができていた。
ここには探索者ギルド町田支店が建つ予定だ。
他のダンジョンの近くも今はどこもこんな感じだと思う。
防衛省の大臣が探索者ギルドの設立をすると宣言してからどんどん事が進んでいっている。
探索者ばかり優遇するな、探索者という武器を常に持ってる危険人物達の為の組織を作るな、みたいな反対意見は全て無視して、建物の建設がスタート。それと同時に支店長になる人物を立候補制と推薦制でとりあえず人を集めている。条件は探索ライセンスさえ持っていればいいらしい。あ、あと、住民票がダンジョンのある市や町にあること。
この条件だけだと別に俺も支店長に立候補できちゃうんだよね。するつもりは一切ないが、ふざけたリスナーが勝手に推薦してそうだな。本名じゃないと無効になるからされても困らないけど。
職員は最初は対策局の職員が出向という形で入るが、いずれは探索者ライセンス持ちという条件で応募者を募り国との関わりは最低限にしていくらしい。
最初は国主体の人員配置になるが、3年以内に民営化というかNPO法人化させると言っていた。
実現できるかどうかどうかは別として、建物自体は半年以内に完成しそうだ。
ギルド設立が宣言されたからか、最近また探索者が増えた気がするし、このままうまくいってほしいところである。
……そういえばこれどこまで進んだら成功って事になるんだろうか。
今度聞いてみよう。
建設現場はダンジョンから徒歩3分のところにあり、すぐにダンジョンに辿り着いた。
今日は探索者として入るので、隠遁者スキルを使っていない。
下の階層に行く前に練習場を覗く。
環境変化がない方に行ってみたが、人でいっぱいだった。的に向かってひたすら矢を撃っている人もいれば、剣で打ち合っている人達もいる。
入り口付近にある誰かが置いたファミレスの予約表みたいな紙にも数名の名前が書かれていた。土曜日だからとはいえここまで人数が溢れるのはもう一つの練習場ができる前以来だな。
この様子じゃ環境変化がある方も人でいっぱいだろう。
もう一個練習場増やすか、それぞれの練習場を大きくしてもいいかもなぁ……後で考えよう。
練習場を後にして、下の階層に向かった。
中途半端な時間なのでモンスターは湧いていない。5階層まで来ると、何組かここで次の鍵が来るのを待っているパーティがいた。
目があったのでペコリと会釈して壁際に寄る。
1組は見たことあるけど残りの2組は見覚えがないな。装備もあまり使い込まれてなさそうだし、最近探索者になったんだろうか。
近い方のパーティに対して少し聞き耳を立ててみるとこの後の階層の話をしていた。宝箱が置いてある9階層に行きたいらしい。
探索者が宝箱に憧れる気持ちはわかるけど9階層のはな……今となっては夢のある階層ではない。
前は人気だったダンジョン産カメラは使い勝手が良くて画質も綺麗なダンジョンで使えるカメラが市販されるようになってから買取額が一気に落ちたし、スキルの書は1番安いやつしか出ず、あまり強い物ではない。ダンジョンが増えてから他のところでもっと良いスキルの書が落ちるようになったので、これもあまり高くは売れなくなってしまった。
初心者向けの武器とか初級回復薬も同じだ。
どれも自分で使う分には良いんだけどな。
強いて言うなら当たりはマジックバッグ(小)くらいだろうか。探索者の必須アイテムとなりつつある今ではまだまだ供給が足りておらず、買取額は大きい。
ただ、そもそも9階層にある10部屋のうち、宝箱からアイテムが入手できるのは2部屋のみ。宝箱の入れ替えは1時間毎なので、1日粘っても開けられるのは2、3個だ。他のパーティも居るからな。せっかく宝箱を開けてアイテムを入手してもマジックバッグ以外は大した額で売れないんじゃ、真面目にモンスター狩ってた方が稼げる。
前は9階層だけで生計を立ててるやつがいたが、今では何処かへ消えてしまった。
9階層専門の探索者の存在は他の探索者からウザがられていたので、俺が何かする前に勝手に消えてくれて助かった。
でもカメラが出るのは時代遅れ感あるよな。流石に他の物が出るように変えた方がいいんだろうか。また9階層専門の探索者が集まってこないように、そこそこの金額で売れて、当たり感のあるやつが良い。
うーん、無難に宝石とか……だとカラット数の調整が難しいか。そこそこの金額に抑えるには小さくしなきゃいけないのに、小さかったら宝箱開けた時にガッカリするだろう。
だとすると……カメラと同系統のアイテム、は下手に設置するとまた人が群がってきそうだし辞めておこう。
他になんかないか探すためにダンジョンの管理画面見たいのに、他の人が居るから出来ない。
一回帰ろうかな。いやここで今更帰るのは変か。
それに……
「あれ、今日は結構いるな」
「練習場埋まってたからじゃね」
「あー、なるほど」
「それより鍵」
「あぁ、さっさと開けようか」
上から団体でゾロゾロ降りてきて、その先頭にいたパーティが慣れた様子で4本の鍵を使った。
今日は初心者ツアーじゃなかったか。初心者っぽいパーティここにいるもんな。
5階層のボスは基本的に鍵を開けたパーティが倒す。特にルールになっているわけじゃないけど、暗黙の了解的なやつだ。
離れた位置で待機してオークが倒されるのを待つ。あまり顔に見覚えはないけど先ほど鍵を開けたパーティはこのダンジョンに慣れているのか、オークは数分もしないうちに倒された。
みんなで6階層に降りて、ここからは各々の探索になるのだが、俺はここから気をつけなきゃいけない。
モンスターが俺を見つけても襲ってこないからだ。
だからモンスターが俺を見つける素振りを見せる前に索敵系のスキルを使って先に俺がモンスターを見つけて倒す必要がある。それかさっさと他者の視線がない場所に行って、隠遁者スキルを使うかだけど、それじゃここまでスキルを使わずに来た意味がない。
「すみません。8階層までご一緒させてくれるパーティありませんか?11階層目的なんですけどソロなので8階層が面倒で」
「お、じゃあ俺らと来るか?」
仲間内でどうするか話す前に鍵を開けてオークを倒したパーティのリーダーっぽいヤツが真っ先に声を上げた。
「いいんですか?」
他の人の意見を聞かなくて、という意味を込めて聞き返す。
「別にいいぜ。なぁ?」
パーティメンバーが各々頷いている。本当に良いようだ。
じゃあここに混ぜてもらうか。
「助かります。よろしくお願いします」
「どうせ10階層も9階層の鍵待ちになるんだから、10階層まで一緒に来たらいいよ」
「じゃあ10階層までぜひ」
これで探索者の生の声を聞くという目的は達成できそうだ。
同行することになったパーティは4人組で、構成は両手剣1人、片手剣と盾持ちが2人、クロスボウ使いが1人だった。前衛3人と後衛1人はもっとも一般的な構成とと言われている。
互いに自己紹介をし合い、先に進んだ。
彼らは全員同じ大学の3年生でダンジョンサークルの仲間らしい。
「蒼斗くん、若いのにソロってすごいねぇ」
リーダーと正式に紹介された両手剣使い、アツシという男に話しかけられる。
「若いからこそじゃないですかね」
「あー確かに!おっさん1人じゃキツいか」
「おっさんのソロも居るだろ」
「たとえば?」
「しらね」
「蒼斗くん俺らの一個下だよね。いつから探索者やってんの?」
「ダンジョンに潜り始めたのは大体去年の6月くらいです」
「なら俺らより先輩じゃーん。あれ、敬語使わないとダメか?これ」
「いえ別にいいです」
「そっかぁ。あ、そうだ。先輩には変わりないから互いにタメ語で話そうぜ」
「そーだな。他校の一個下にタメ語使われたところで俺ら別に気にしないし」
他2人に視線をやると、同意をするように頷いていた。
町田のダンジョンマスターの時はいつも敬語なので、むしろ今タメ語で話せるなら助かる。口調で疑われたくないからな。




