95話 進展
今日は奈那さんから内密に話がしたいと言われてたので、ダンジョンのいつもの隠し部屋に来ている。
特研の東畳さんから貰ったカメラを弄って待っていると、奈那さんが部屋に入ってきた。
「お久しぶりです」
「久しぶりだな。何か変わった事はなかっただろうか?」
「ないですよ。あっても運営システムが少し変わったくらいで、内容はメッセージで送ったのが全部です。最近魔法陣に興味を持ったので色々調べてますけど、魔法陣についてはたぶん奈那さんの方が詳しそうですし」
「あぁ、魔法陣か。確かにダンジョンに設置されているものは一通り調べたな。一番大きい四角と三角、それに外円の次に大きい円で飛ばされる先の階層を表していて、内側の細かい図形で条件設定がされている予想だ。魔法陣を解析したところでダンジョンの秘密には近づけないと判断して今はもう気にしていないが……」
「その説ネットで見ました。大元は奈那さんだったんですね」
「そういえば何人かには話したな。まぁ、これくらいのこと、他の誰かが予想していてもおかしくはない」
いったいいくつの魔法陣を見たらこれくらいのことって言えるようになるんだろうか。
俺はその説を見てから検証をし始めたというのに。
「貴女の他にもダンジョンについて研究してる人はいますからね。魔法陣については個人的に勝手に調べてるだけなので今はいいです。それで今日の要件はなんですか?」
ここではもう何回か話し合いをしているが、最初の1回以外は全部俺から希望を出して来てもらっている。
その最初の1回は奈那さんではなく寧音が強引にセッティングしたものだった。
要するに、こうやって奈那さんからダンジョンで話がしたいと言ってくるのはかなり珍しい。
たぶん俺が誰かに干渉されるのが好きじゃないから配慮してくれているのだと思う。まぁ貴重なダンジョンマスターとの交流を断ちたくないだけかもしれないが。
ともかく、普段言ってこない奈那さんから話がしたいと言われれば内容が気になる。雑談は置いておいて、さっさと本題に入って欲しかった。
「また、話が逸れるところだったな。では早速本題に入ろう。君に頼まれていたイギリスにいる青髪の探索者の件だ」
「もしかして、進展がありましたか?」
「あったと言えばあったが、問題も生じた。実はこの前1週間ほどイギリスに滞在したんだ」
前に直接行った方が早い、みたいなこと言ってたからいつか行くと思ってたけどもう行ったのか。相変わらず行動が早いな。
それで問題があったって……
「いったい何があったんですか?」
「彼女、と言っていいのかわからないが、ともかく目的の探索者は目立つ。元々海外のSNSから目撃情報を集めていたが、現地でも情報集めを行い、4日ほどで行動パターンを割り出した。次に現れるであろうダンジョンの前で見張っていたところ、2日目で目的の人物が現れた」
ここまでだとめっちゃ順調に進んでいる。
流石だな、という感想しか出てこない。
「もちろん接触したんですよね?」
「あぁ。ダンジョンから出て来たところを見計らって話しかけた。動画では絡んできた輩に対して迷いなく反撃していて、どこか人を寄せ付けないオーラがあったが、実際に会ってみると案外フランクに対応してくれた。だから思い切って、異世界人かと聞いてみたいんだ」
「それで?」
「お答えできませんって言われてしまったよ」
何故だか脳内再生ができた。
散々AIからお答えできませんって言われて来たからかな。
「答えられないってもう認めたようなもんじゃないですか」
「私もそう思う。何故答えられないか聞くと、私には権限が無いから無理だと言われた。その権限はどうやって手に入るのか聞けば、これもまたお答えできません。まるで機械を相手にしているようだった」
「でも、それで諦める奈那さんじゃないですよね?」
「もちろん、他にも質問をしたさ。普通の人なら苛立つ量の質問をたくさんな。途中で帰られる覚悟もしていたんだが相手は最後まで私の質問に付き合ってくれた。いくつか質問してわかったのだが、相手は“お答えできません”と返答した質問の答えを言いたくない訳では無さそうだった。むしろ言える相手を探しているように見えたんだ」
「というと?」
「目は口ほどに物を言うと言うだろう?彼女は無表情だったが、感情が無いわけではなく、それは目に現れていた。ちゃんと回答ができる質問には目を輝かせていたし、回答ができなかった場合は僅かに目を細めて残念そうにしていた。なにより、私のくだらない質問を最後まで付き合ったくらいだからな。誰かに何かを伝えたかったようにしか思えない。けど、資格が無いから私相手には無理だった」
資格がある相手なら話せるし、むしろ伝えたいことがあるっぽい雰囲気があったってことか。
奈那さんは探索者の間だったらだいぶ上位のスキルと強さを持っている。その奈那さんでも無理な資格ってどうやったら手に入るのだろう。
強さは関係ないのか?
「残念ですが、奈那さんが無理なら大抵の人は無理そうですね……」
「いや、そうでも無い」
「誰か心当たりが?」
「君だよ。蒼斗くん。町田のダンジョンマスターになら話せるのかと聞いてみたら、話せると回答があった」
「俺、ですか」
「あぁ。梅田のダンジョンマスターはどうかと聞いたら無理だと言われたし、他のダンジョンマスターもいくつか聞いてみたが、やはり無理だと言われた。だから条件はダンジョンマスター以外に何かあるのは間違いない。どうして蒼斗くんが資格を持っているのかわからないが、兎に角、町田ダンジョン内で君にだったら話せるらしい」
全く心当たりがないな。俺と瑛士の違いといえば色々あるが、まずサポートAIが違う。考えられるのはそこだけど、それ以外となるとAIと会話を重ねた量とかか?細かいことををかなりたくさん質問して来たからな。俺ほど質問をしまくっている奴はなかなかいないんじゃ無いだろうか。
だけど、今重要なのはどうして資格を持っているのかじゃなくて……
「場所はこのダンジョン内ってことは、ここまで連れて来ないといけないってことですよね?」
「あぁ。念の為質問してみたが、彼女はパスポートも戸籍も持っていない。つまり日本に密入国させるしかないのだが、流石の私でもそれはできない」
それで一番最初に問題が生じたって言っていたのか。




