91話 マスタールーム
家で見た時は軽く目を通しただけだったが、改めて見ると壁だけでも相当な種類がある。
カラーバリエーション豊富な普通の壁紙から、打ちっぱなしのコンクリート。近未来的に光る壁もあれば、洞窟風というただの土壁もあった。珪藻土や漆喰といった和風っぽい素材もあったし、木製の壁は木の種類だけでかなりの量だ。他にもタイルとかレンガとか色々ある。
それが床にも同じレベルで種類が揃ってるのだから、組み合わせは無限大だ。
これは最初にテーマを決めないと一生決まらないな。
西洋風とかファンタジー風とかやろうと思えば色々できるけど……ここで暮らすことを考えたらやっぱり居心地の良い空間にしたい。
だとするとシンプルに今住んでる部屋と同じ感じにするとか。
いや、それだとつまらないか。
今住んでる部屋に和風要素を混ぜた感じのおしゃれな部屋にしてみよう。
とりあえず壁紙は白の漆喰壁を選んだ。
この時点で今住んでる部屋からかけ離れた気がするが、今は気にしないでおく。
壁紙は指定した範囲で変更できる。
だから四方の壁それぞれ違う素材にすることはもちろん、1面の中で1部分だけ変えることもできた。その機能を利用して、入って左手の壁の一部を木材に変更してみる。
床はグレージュの木目調という渋めの色をしたフローリングに変えた。
なかなかいい感じの雰囲気だ。
一旦これでいいや。
決定ボタンを押すと、部屋が真っ暗になった。
まぁ光源が無くなったらそうなるよな。
仕方ないので灯りの設定もしておこう。
暗闇の中、照明の欄を見てみると、やっぱりこれもびっくりするほどいろいろあった。
普通の部屋にあるシーリングライトからオフィスにありそうな蛍光灯。豪華なシャンデリアやテープライトとかいろんな形の卓上ライトとか細々したの。浮遊する光る物体まである。
俺のマスタールームのテーマは和風っぽい部屋なので、それっぽいライトを探す。
あ、この提灯のように横に筋が入ってる丸いシーリングライトでいいかな。和っぽいし。
ライトを設置すると、部屋に灯りが戻ってきた。先ほどまでと同じレベルの明るさだけど、壁と床が真っ白じゃなくなった分、目は痛くない。
部屋を見渡した感じスイッチとかリモコンとかはありそうにないけど、どうやってつけたり消したりするんだろう、これ。
「マスタールームの明るさ調整したい時どうしたらいい?」
『回答。音声で明るさの調整が可能です』
なんだかスマート家電みたいだな。
「豆電球くらいの明るさにして」
試しにそう言うと、シーリングライトライトはオレンジ色に薄く光った状態になった。
なんとなく辺りを認識できるレベルの薄暗さである。
まさしく豆電球くらいだ。
「元の明るさに戻して」
すると部屋は最初の明るさに戻った。
“豆電球くらい”も“元の明るさ”も割と雑な指示だったと思うけど、ちゃんと対応できるんだな。
というか、俺はシーリングライトを選んだけど、蝋燭を使うシャンデリアを設置してた場合でも音声で調整できるのだろうか。松明とかもあったけど、あれもずっと燃え続ける感じ?
ま、いいか。俺の部屋に設置する予定ないし。
それよりも、壁と床を整えたらベッドとか机とかの家具も置きたくなってきたな。
薄々こうなるんじゃないかと思ってたけどさ。
この後特に予定ないからこのまま全部揃えよう。
風呂とトイレは生活に必須だけど、この部屋には置きたくない。ポイントを使ってちょっと部屋を広げよう。
キッチンは……必要になったら設置すればいいか。完成された料理がショップにあるから、食材を購入してわざわざここで何かを調理したいとはあんまり思えないし。
置く家具はとりあえずベッド、ローテーブル、ソファくらいか?俺の家にはないからカーペットも敷いてみたい。
あとはおしゃれな部屋によくあるフェイクグリーンとかも置いてみよう。
暮らすことを考えたら収納も必要か。部屋を拡張してクローゼットを作るか、ラックを購入するか。
うーん。今はラックでいいかな。シンプルなやつを選んでおこう。
あとは……時計も必要だよな?ないと時間の感覚とか日付の感覚が絶対にずれる。24時間表記で日にちがわかるやつあるかな。
やはり膨大な種類がある家具から好みの物がみつかるまでひたすら探す。
とりあえず今の時間が知りたかったので、細かい機能が揃ってるデジタル時計を最初に購入した。
10万ポイントもしたが必要な出費だ。
むしろ安い方である。これをダンジョンでドロップさせようとしたらもっとポイントがかかるからな。
色々見たけど、マスタールームのアイテムはドロップ品より高かったり安かったり、基準がよくわからない。生活必需品は割と安く設定されていそうではあるが……向こうの奴らはダンジョンマスターはここで暮らすことを推奨でもしているのだろうか。それとも、この価格設定もマスタールームを望んだかもしれないダンジョンマスターの要望だろうか。
そんなことをつらつら考えながら、自分の気にいる部屋が出来上がる頃には、時刻は19時を過ぎていた。
アパートの部屋で帰還ボタンを押したのが確か14時くらいだったので、もう5時間くらいはここにいたことになる。
通りでお腹空いてきたなと思ったわ。
……試しに食事も取ってみるか?
せっかくいい感じのローテーブルとソファを置いたんだし、使ってみるのはありだ。
食事の欄も案の定バリエーションが豊富だ。
和食もあるし、中華もあるし、イタリアンもフレンチもある。流石に見慣れない料理があるな。俺の知らない民族料理も混ざってるんだろう。
ふと料理の説明欄が目に入った。
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【ホルグボルグ】
ホルグの肉をさまざまな野菜と一緒に煮込んだ料理。
赤い色をしているが辛くはなく、まろやかな口当たりをしている。
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……ホルグの肉って何??
俺も地球の全ての動物を知っているわけじゃないけど、ホルグのステーキ、ホルグパイとホルグの肉が使われている料理がたくさんあるのに、俺が知らないことあるかな。
その可能性も無くはないけど、よくよく見れば他にも見知らぬ食材の名前がちらほらと説明欄に書いてある。
俺が民族料理だと思ったやつさ。向こうの料理だったりしない?
若干他と比べてポイントが安いのは再現しやすかったからとか?
食文化から向こうのことわかるかな。
でも奈那さんに向こうの料理のこと伝えたら絶対食べたいとか言い出すだろうなぁ……
「マスタールーム用のショップで購入したモノって持ち出せる?」
『回答。不可能です』
「例外はない?」
『回答。例外はございません』
まぁそうだよな。これができたらドロップショップより安いアイテムはこっちで買って、自分で配置、みたいなこともできてしまう。
「じゃあマスタールームに人類が入ることはできる?」
『回答。可能です』
こっちはできるんだ。
コアは部屋の外にあるんだから、立てこもりさせてくれてもいいと思ったんだけどな。
俺のマスタールームには、というかコアがあるこの階層には奈那さん相手でも入れたくないから、奈那さんがマスタールーム見たいだとか向こうの料理を食べたいとか言い出したら蓮見に対応してもらおう。
あいつあの姉妹に保護してもらってるんだしそれくらいやってくれるだろ。たぶん。




