88話 事情聴取をされる(本日2度目)
「この後用事があったんですよね?よかったら近くまで送っていきましょうか?」
おそらく善意から来る発言なんだろうけど、蓮見が車で誘拐されたのを知っていると到底乗る気になれない。知らなくても断っているだろうけどさ。
「いえ、結構です。なるべく早めに帰っていただけたら助かるんですけど」
「……わかりました。それではこの辺で失礼いたします」
ようやく2人は腰をあげた。帰ってくれる気になったようだ。
「あ、そうでした!」
「まだ何か?」
「すみません。最後に聞いてもいいですか?」
「どうぞ」
「若島様はドラゴンを倒した後、看板で注意を促されていましたよね?あまりにも人類に配慮された対応だと思うのですが、どうして看板を出したのでしょうか?」
ポイズンスライムの毒で1人でも死んだらドラゴンを倒した功績がなくなるだろ。
「俺が出したスライムの所為で何かあった時に責められても困るからですね」
「そうでしたか。改めて今日はありがとうございました」
「いえ」
2人は大人しく帰ってくれた。
想定より聞かれる内容が少なかったな。蓮見についてもそうだが、もっとモンスターが出現させられるバグについても突っ込まれると思っていたのだが。
まぁ、これでいいならいいや。わざわざこちらから言う必要はない。
2人が帰った後、念の為30分遅れて家を出た。また遭遇するのは嫌だし。
電車ではネットニュースを見て時間を潰した。
仙台のダンジョンから盗まれたモンスターは高速道路にあるサービスエリアの駐車場で見つかったらしい。
聞きなれない動物の鳴き声が聞こえて気になって車の窓から覗いてみたらそこに居たのがモンスターで通報に至ったというわけだ。
犯人は3人組で、“売れると思ったからモンスターを捕まえた”と供述していると記事に書かれていた。
さて、ドラゴン騒動の件で特殊建造物の管理人への対処に関する法、略してダンジョン法の内容を改めて見直したのだが、ダンジョンの外にモンスターを解き放った場合は厳罰な処罰を行うとされていた。罰則の対象はダンジョンの外にモンスターを持ち出したら、ではなく解き放ったらである。
蓮見は街でドラゴンを解き放ったから完全にアウトだけど、仙台ダンジョンから盗まれたモンスターはどこにも解き放っていない状態で見つかった。犯人グループは捕まったけど、どう処罰されるのだろう。法が不完全だから不起訴になるんだろうか?
もうちょっと法律について勉強しとけばよかったな。とりあえずSNSで犯人たちがどうなるのかみんなの意見を見てみたけど、犯罪であるという意見と犯罪ではないという意見で2つに割れていてあんまり参考にならなかった。
情報収集をしていると、電車が実家の最寄駅に着いた。夏休みにも1度帰省していたので、実家に帰るのはおおよそ4ヶ月ぶりである。
駅から実家まではギリ徒歩圏内ではあるものの、今回は迎えに来てくれるとのことだったので素直に頼んだ。
ロータリーに出ると見慣れた車が止まってる。
母も俺に気づいたようで車の鍵を開けてくれた。
「ただいまー」
「おかえりなさい。元気そうでなによりだわ」
「まぁ特に何もなかったからね」
車に乗り込んでシートベルトをつける。
「買い忘れたモノあるからスーパー寄るわね」
「わかった」
馴染みのスーパーでは俺も一緒に降りた。特に買いたい物は無かったけど、荷物持ちのためだ。久しぶり〇〇くんのお母さんに会って、とかあのお店潰れちゃったの、みたいな話を聞いて買い物をして回る。
探索者をしていることやドラゴン騒動の件は聞かれない。
俺が警戒しすぎてたか?夕飯時とかその後にでも聞かれるのだろうか。まだまだ油断はできないな。
実家に着くと、リビングで父がテレビを見ていた。ただいまと声をかけ、広島のお土産を渡し、荷物を自分の部屋に置きに行く。
夜ご飯は天ぷら蕎麦とカニらしい。今までだったら蕎麦だけだったので今年はなんか豪華だ。
夕飯時は母が一方的に話をして、父と俺が相槌を打つ。無口な父と違って母は大変お喋りな性格をしている。俺はあんまり自分から話すタイプじゃないから多分父の方に似たんだろうな。
食器を片付けるのだけ手伝い、ソファに座って寛いでいると、食器を洗いながら母が話を切り出してきた。
「ねぇ蒼斗、広島どうだった?」
「ドラゴンの所為でダンジョン探索どころじゃなくなっちゃったけど楽しかったよ」
「そう。テレビつけたらニュースに瑛士くんが映っててお母さんびっくりしちゃった。怪我人を助けるだなんて瑛士くんはすごいわね。蒼斗はその時どうしてたの?」
来た。1番困る質問だ。
「ダンジョン内に居たよ。瑛士はすぐ外に飛び出たんだけど、俺は外から避難してきた人たちに流されて全然身動き取れなくなってさ。怪我はしてないから安心してよ」
100%の嘘である。
万が一確認されてもいいように瑛士にも話を合わせるように言ってある。
ドラゴンを倒していたなんて言えるわけがないから、この嘘を突き通すしかない。
「そうだったの。ダンジョン内だとスマホが使えないとは言え返信遅かったんじゃないかしら。母さんものすごく心配したんだから」
「ごめん。今度から気をつけるよ」
「それに、瑛士くんたち4人で行くって聞いてたから遊太くんと光介くんと一緒だと思ってたわ。わざと勘違いするような言い方してたでしょ。別に女の子と一緒でもいろいろ言ったりしないから誤魔化さないでほしいわ」
これは確信的な言い方をしているからアイツらと一緒じゃなかったってバレてるな。
女の子と一緒だったって思ってるのは瑛士と寧音が一緒に写った写真からだろうか。
誤魔化すなと言われてもどういう関係の人なのか伝えるのが難しかったからそうするしかなかった。当然交通費や宿泊費のお金を出してもらってることも伏せてる。
ドラゴン騒動さえなかったらここら辺も気に留められなかったんだろうか。
とりあえず関係性は特に怪しまれていないようなので、誤魔化したことを素直に謝っておいた。これ以上深く突っ込まれたくない。
「次からはもうしないでね」
「うん」
「あ、そうだ。蒼斗はドラゴン倒したのが誰か知らない?」
「いや、知らないよ」
「やっぱりそうよね。ほらニュースでは町田ダンジョンのマスターが倒したんじゃないかって言われてたんだけどね。噂では、町田ダンジョンのマスターって瑛士くんとお友達みたいなの。だから蒼斗も何か知ってるんじゃないかって思ったんだけど……違ったみたいね」
こっわ。その噂どこで仕入れてきたんだ。
確かに瑛士と友人関係なのは隠してないけど、わざわざそんなことニュースで言わないだろ。だから誰かから聞いたんだと思うんだけど、その人経由で町田のダンジョンマスターが俺かもしれないって母に伝わったらものすごく困る。
もっと身バレを気にした方がいいな。俺と結びつかないように積極的にフェイク情報を発信した方がいいかもしれない。
本当は声も変えた方が良かったんだろうけど、今更どうしようもない。せめてもの抵抗として敬語で話すのは続けていこう。




