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第五話:すべてが薪へと焚べられるその日まで

『――すまない。こんなことになったのも、全ては僕が神通力という存在の特異性と、退魔師の捜査能力を見誤ったことに要因がある。君は何も悪くないのに……本当に、君に合わせる顔がない』

「……だからボクの呼びかけに応じずに、会ってくれなかったの?」

『……この夢の世界への干渉も神通力を使っているから、それで……いや……ごめん、これは言い訳だね。そうだ、どのツラ下げて君と話をすれば良いのかわからなかったんだ』


 僕の神通力が今回の争点となっている以上、神通力の行使は慎重にしなければならない。

 幸いこの夢の世界における対談は、魂間の神通力行使で完結しており、外部で検知されることはない。

 まぁ、こんなことは初日の時点で判明していたので楓眞に告げたように言い訳でしかない。


 ……初めての感覚を持て余していたんだ。

 今まで、つまりは前世でだって、他人から人でなしと指差されていたぐらいには無遠慮な振る舞いをしていた。それで自分以外の誰かが不幸になろうが、何も感じたりしなかった。


 だが今僕は、僕の振る舞いによって理不尽を被って辛そうな顔をする楓眞を見て、胸が張り裂けそうなほどに苦しい。

 だから、楓眞を見ないようにしてしまっていた。今日、この夢の世界で邂逅するのも酷く腰が重かった。


『許されるとは思わない。僕の不注意で君を傷つけたんだ。君と玲沙、二人の大切な世界を台無しに――』

「……それは、違うよ」

『……え?』


 頭を下げながら続けた、僕のくだらない贖罪を楓眞が否定し、思わず彼に目線を上げる。


 そこにはやはり今日も輝かしい命の躍動を感じさせる、子供らしさと大人らしさが同居し始めた微笑みがあった。


「カエデ……キミはボクの我儘を受け止めて、ボクたちの世界を守ってくれたんだ。感謝こそすれ、責めるなんてあり得ないよ」

『そんな……こと……そもそも、僕は本来存在しない……君にとってむしろ邪魔な――』

「――それに、ボクはお母さんと二人きりの世界だけが大切なんて言った覚えはないよ」


 僕の言葉は再び切られ、楓眞が続ける。

 その内容に僕の口は音を紡げなくなる。


「ボクとお母さんと、そしてキミの三人で歩む世界が大切なんだ」

『……ッ……そういえば、そんなことも言っていたね……』


「それにあの時、ボクが先に意識を失っちゃったから言えなかった想い……伝え損ねていたから改めて言葉にするね――」





「――いつも影から見守ってくれるボクの最高の()()()()()……ボクを助けてくれてありがとうッ!!」

『ッッ……!』


 この子はいつだって、その純な心で僕の欲しい言葉をくれる。

 彼の言葉の一つ一つが、欠陥だらけな僕の人として足りていなかったピースを埋めていくような感覚。


「ちゃんとボクの想いが届くまで、何度だって伝えるよ。――キミも、生まれた時からボクの大切な家族(宝物)なんだ。だから……自分のことを邪魔なんて言わないで。ずっと変わらず、ボクのそばにいて」

『……ぅ……ぁぁ……』


 楓眞の目を見ていつものように軽い調子で返そうとする。

 しかし、なぜだか僕の口は上手く言葉を紡げない。

 ハクハクと音を成さない空気が吹き抜けるだけ。僕からは見えないが、なんとも間抜けな有様だろう。


『ぅ……ぐ……ッ……なんだ、これ……視界が滲んで……愛しい君の顔が、見えないよ……』


 ようやく意味を成す言葉を発しても、今度はそれを向けた相手である楓眞の姿が捉えられない。

 一体どうしたことだろうか……。


「――うぇ?!あ、あのカエデが、泣いちゃったッ!!――てぃ、ティッシュ……ないッ?!あ、そう言えば何もなかった、この空間!!」


 泣く……?まさか、この僕が泣いて……?


『(……そうか、『人』ってのは悲しい時以外にも涙を流すものだっけ。……うん、知識としては知ってはいたが、どうもこれは……)』


 僕の周りをオロオロと動き回り、百面相しながら背中をさすろうとする楓眞に、気にしないでいいという旨の言葉を告げる。





 それから、制御できない始めての感情に四苦八苦してしばらく――。


『ふ、うま……』

「えっと……だ、大丈夫……?」

『……ありがとう……君の想い、これからは忘れず胸に刻んでおくよ』

「っ……そっか、届いて良かったよ。――それじゃあ、これからもまたよろしくね!」

『あぁ……こちらこそよろしくね、僕の唯一無二の宝物(楓眞)


 何のためにこの一度終わりを迎えたはずの命に記憶の続きがあるのか、なぜこの子の中に居座っているのか、ずっと考えて答えを出せないでいた。

 前世の僕なら、確実にどこかのタイミングで肉体の主導権を奪い取っていたはずだ。


 だが、この子を見て共に過ごしていると、到底そんな事できやしなかった。

 既に僕は致命的なまでに、この子の心というものに影響を受けているのだろう。


 己の性質が根本から変えられていく……しかし、それは決して忌避すべきものではなく、むしろ僕にとっては歓迎すべき祝福であったといえよう。





 ――君と出会ったおかげで、前世と変わらぬはずだったモノクロの世界に、淡い光と色彩が差し込んできた気がした。





 ***





 ――新潟県『名塚村』。

 神通力を狙う存在の目から逃れるため、楓眞が単身住みつくこととなった人口の少ない村。


 そこで新生活は始まった。

 薄明かりが差し込む中、ゆっくりと視界が開く。

 寝ぼけ眼を水で洗い流し、運動着に着替えた後は体力を付けるためのランニングに向かう。


「ハッ……ハァッ……あ、蒲田のおじいちゃんッ……ハッ……おっはよー!」

「ん、おぉ……楓眞くんか、おはようさん。今日も朝から元気だのぉ」


 体力を付けるために行っているので、ランニングに魔力は使わない。いくら魔力で身体能力を向上できても下地となる基礎体力や運動能力がなければ充分に扱いきれない。

 ゆえに日々のルーティンとしてランニングを行う。


「――ふッ……シィッ!……ふぅ……」


 一時間ほどいつも通りのコースを走った後に、今度は魔力強化した肉体で圭から教わった『形』を行う。

 戦闘時の肉体制御、魔力制御を同時に熟すための『形』。


 そしてシャワーで軽く汗を流してから朝食を口にして、朝の支度を終えるとパソコンに向かい合う。オンラインフリースクールへの参加だ。

 これは不登校児に対する学習支援で、オンラインでの個別指導やグループワークなどを通じて、一定の条件を達成して学校長に認められれば出席扱いとなる。


 もちろん、楓眞自身の性質に問題があって学校に登校できていないわけではない。ただ、楓眞は記録上、現在も東京で玲沙と共に暮らしていることになっており、新居の学校に通うとなると矛盾が発生してしまうからこのような措置を取っている。


『(神通力を探っている中で、現場付近の住民が引っ越せば疑いをかけられるかもしれない……)』


 そこで、先の魔縁事件で精神的な疾患を患い、家から外出することができなくなったということにして、東京都に存在しない虚構の門浦楓眞を作り上げる。

 これにより『神通力を探る者』たちの目を欺くという作戦だ。


『(ふん、『神通力を探る者』ねぇ……これが僕の予想通りなら、それをはっきりと口にしないのは彼女なりの親心ってやつなのかな)』


 閑話休題。

 どうやら午前の授業が終わったようだ。一度通信を切断し、昼食を口にするためキッチンへ向かう。

 今日は八宝菜を作るようだ。作業場が楓眞にとってはまだ少しだけ高いため使いづらそうにしているのが可愛らしい。


 端末でレシピを調べながらであれば、今どき子供であれどある程度の料理は作れる。……壊滅的なセンスでなければ。


「よし、できたっ」


 幸い楓眞の料理センスとスキルは、可もなく不可もなく普通である。つまり公開されているレシピ通りであれば手際は拙くとも、美味しく完成させられる。





 昼食を平らげて、午後の授業に向かう。

 午後は主に自主学習や担当教員との個別指導である。

 そして楓眞は歳に不相応なほど基礎科目を習得しているため、課題などをすぐさま終えて中学範囲の学習に手をつける。


 その日の学習範囲で解説を見ても不明なところは、この情景を共に見ている僕に夢の中で教わる、という他の人ではまずあり得ない学習方法である。使えるものはなんでも使う精神は中々素晴らしいと感心する。


 間に休憩を挟みながら二時間の自習を終えて、個別指導の時間になる。


『門浦くん、こんにちは〜。聞こえてるかな〜?』

「聞こえてるよー。こんにちは、かなちゃん先生」


 問題を抱えている児童はこの個別指導でコミュニケーション能力を養ったり、カウンセリングを行ったりするが、楓眞に根本的な心身の問題はないので、本人の嗜好に沿った学びを与える時間となる。やりたいことを見つけて、将来のための技能を身につける機会を与えるということだ。


『――最近やってるプログラミングのお勉強は楽しめてる?続けられそうかな〜?』

「うん、結構楽しいよ。勉強することもいっぱいあって飽きなさそう」


 楓眞が興味を示したのはプログラミングだった。

 決まったゴールがなく、それでいて学びきれないほど膨大な情報が飛び交う中、自由にスキルを身につけていくのが性に合っていたらしい。

 僕も前世でPCに本格的に触れる機会はなかったため、一緒に学ぶことができて面白い。直接触れることはできないが。


『門浦くんは吸収が早いからね〜。それじゃあ今日も一緒に遊んでみよっか!』


 PC越しに緩い口調の女性の声が流れる。画面には想像と隔離しない、ゆるふわな雰囲気のおっとりした若い女性が写っている。

 この担当教員には楓眞の事情が伝えられており、口が固くて優秀な人材として割り当てられている。


 見た目や口調とは裏腹にバリキャリだった過去があるとか。

 楓眞のコミュニケーションスキルも歳に似合わず、それでいて子供らしい天真爛漫さも兼ね備えているため、二人はすぐに打ち解け、いつも個別指導の時間には会話が弾んでいる。





『――それじゃあ今日はこの辺にしよっか』

「はーい。それじゃあかなちゃん先生、また明日」

『えぇ、楽しみにしてるわ〜。バイバ〜イ』

「バイバーイ」


 そう言ってビデオ通話のミーティングルームから退出する。

 個別指導で行っていたツールを消し、PCの電源を落として今日のオンラインスクールは終了となる。


「……さて、と」


 外は陽がまだギリギリ赤くなり始めていない頃。

 少しの間だけぼうっとした後、楓眞はふと思い立ったように立ち上がり、外へと出かけるようだ。


 ガラガラと古臭い引き戸の玄関を開け放ち、外へ身を乗り出す。

 朝と同じ景色のはずだが、陽の傾きの違いからかなぜか全く印象が異なって見える。


 金色の稲穂がさざめき、スズムシやコオロギの風情ある鳴き声が畑に響く。

 肺にいっぱい空気を取り込んでから、遠く聞こえてくる快活な笑い声に釣られて楓眞はとある場所へ歩み始める。


「――よっしゃ、抜けた!」

「お前ら、止めろー!」

「くっ……ッ、健ちゃん、パス!」

「な……ちょ、どこ蹴ってんだおい!そっちは……!」


 広めの空き地となっているそこは、この村の子どもたちの溜まり場となっており、ゴールに見立てたネットの周りで叫び声やら笑い声やらが行き交っている。


 楓眞がそこに辿り着くと同時に、ボールを持ったまま囲まれた男の子が苦し紛れに出したパスが水路に向かっていく。


「――よ……っとッ!」


 そのボールの向かう軌道に素早く回り込んだ楓眞が右足でトラップして、間一髪水ポチャを防いだ。

 鮮やかな登場に、サッカーに興じていた男子たちからはもちろん、ゲームや手遊び、お喋りをしていた子たちからも注目を集めた。


「やっほー、みんな。ボクも混ぜて?」

「楓眞くんや!」

「あはは、なんだそのイケメンな登場ッ!」


 楓眞の登場に子どもたちのテンションが上がって、楓眞の周りに人だかりができる。

 この空き地に集まっているのは地区の小学生のほぼ全てでその数、十人と少しといったところ。


「ったく、おせーぞ楓眞!先始めちまってたぜ!」

「何言ってんのお兄ちゃん、フウちゃんは今日ウチらの番でしょ!」


 みんな少し離れた場所にある、村唯一の小学校に通う子供たちである。


 始めは珍しい外部の人間かつ、学校にも通わない楓眞に、好奇心と警戒心が混ざったような対応をしていた。

 しかし楓眞から彼らに積極的に絡みに行ったことで、その包容力と快活さを両立した不思議な魅力に子供達はすぐに心を開き、今ではこの村の子供達の中心人物の一人になっている。


 楓眞が子供達と対等かつ楽しそうに遊ぶ姿には、以前まであった全能感や傲慢さといった邪気が見られない。


「楓眞くんっ、あのね……今日授業でわかんないところがあって……」

「おっけー!このあと一緒にやろっか。ここでやる?」

「んぇ……えっと、よかったらあたしの――」


 しかし決して己の能力を理解していないわけではない。過信するのをやめて、人と同じ目線に立つことを覚えただけだ。

 身の丈を知り、先人から全力で学び、それをまた人へと還元する姿勢……どれだけの大人がそれを実践しようとしてできているか。


 楓眞の心は著しい成長を続けている途上である。力を持つ者はその力に振り回されない強い心を持たなければならない、という玲沙の教えを忠実に守ろうとしているようだ。


「――えー?なになに、フウちゃんに勉強教えてもらえるのー?ウチも聞きたーい!」

「はんッ、お前ら学校終わってまで勉強とか……むしろ馬鹿だろ!」

「お兄ちゃんは学校でもろくに勉強してないじゃない!この馬鹿兄貴!」

「んだとテメェ!」

「二人ともまぁまぁ……健ちゃんが勉強できないのは当たり前でしょ。一時間も机にくっついてたら蹴り倒してでも逃げ出すし」

「はぁ……?!一時間ぐらい俺にだってできらぁ!!よっしゃ今からやる、やってやんよ!宿題、かかってこいやぁ!!」


 まぁ、こうして他人のことをより考えられるようになって、人心操作能力も上がったのはご愛嬌というやつだろう。


 健ちゃんと呼ばれた子を筆頭に、とても勉強をしているとは思えないほど騒がしいまま、男の子たちは下敷きを敷いて地面に寝転びペンを動かし始めた。


「あははッ!……おっと」

「……」


 それを笑って見下ろしていると、最初に勉強を教わろうとした女の子が俯いているのに気づいた楓眞はトントンと肩を叩き、声を顰めて話しかける。


「――!」

「ふふ……みんな帰ったあとでも良ければ個別で教えるよ」

「ッ!……うん!」


 ……人心掌握や女誑しの方のスキルツリーも伸ばし始めているのは、少しだけ気がかりかもしれない。





 青空教室……夕方なので夕空教室だろうか、を終えて、最後に声をかけた女の子とも軽く勉強とお喋りをしてから帰宅する。

 残りは少し遅めの夕食を食べてお風呂に入って寝るだけとなる。


 それから楓眞が寝床に入った後は、夢の世界で僕たちは勉強の振り返りや一日の出来事、くだらない話から僕の昔話など色々なお話をして再び朝を迎える。


 寝て起きて、食べて遊んで学んで、己を鍛えて……。


 そんな充実した日々も、気づけばあっという間に一年と半分が過ぎていた。

 その間一番身近にいた僕から見ても、楓眞はとても逞しく成長したように思う。

 それでも一人きりの十一歳の誕生日だけは、玲沙からの電話を受けた後、ホロリと泣いていた。

 その場で抱きしめておめでとうと言ってやらないことが悔しくて仕方なかった。


 とはいえ、そんな寂しさも空き地に集まる子供たちとの交流で紛らわす事ができていた事が救いだった。










 そんなこんなで新生活にも慣れが出始めたころ、この村に住人が一人増えた。


「ぇ……お母、さん……?本物……?」

「ひでぇな、一年半で母親の顔忘れちまったか?……なーんて、冗談だ」

「どうして、ここに……?来れないんじゃなかったの……?」

「あぁ、諸々片付いたからな。何も言わなかったのは……ハハッ、ちょっとしたサプライズってやつだ」


 新年度の始まりを控えたその日、来客の予定がないはずの中、突如家のチャイムが鳴り恐る恐るドアを開けると大きな荷物を持った玲沙の姿があった。

 彼女はニヤニヤとした悪戯な笑みを浮かべてそう言う。


 楓眞はドアの取手を握る手が次第に震えて、フラフラと玄関から母の元へ歩み寄る。


「つまり、おかえり……ってこと?」

「フッ……あぁ、ただいま楓眞。これからまた一緒に暮らそうぜ」


 期間にしてみれば一年と半年、字面では短く感じるかもしれない。

 されど終わりの見えない中、庇護する者のいない家で独り過ごす日々は、いくら歳不相応にしっかりしているとはいえまだ幼い楓眞には辛いものだっただろう。


「ぅ……うん゛っ……お゛かえり……おかえ゛りぃぃ……!!」

「おぉ、よしよし……寂しい想いさせたなぁ」

「ぅぅ……寂し、かったぁ……ぁぁ……」


 寂しかった、という涙ぐんだ言葉には寂寥や安堵などの様々な想いが詰まって聞こえた。





 玲沙は一年半の月日で神通力に関する熱りが冷めた頃を狙って、退魔師の仕事を長期で休み、この名塚村へと引っ越してきたとのこと。

 退魔師として働いてきた蓄えと休暇手当てにより、生活に困ることはないと言っていた。

 実際に、玲沙が越してきてはや四ヶ月、今のところ何も問題は起きていない。

 楓眞のルーティンも変わったことといえば、鍛錬相手として現役退魔師である玲沙が加わって多少厳しくなったことぐらいだ。


 しかし断然、家の雰囲気は明るく賑やかになった。

 それとも元に戻ったというべきか。


「ねぇお母さん、たこ焼き食べたーい」

「あたしも食いたいし、普通のとネギマヨ一つずつ買うか。……ってかめちゃくちゃ安いな、祭り価格とは思えねぇ」

「まぁこの祭り出店してるの、村のボランティアだしね」

「なるほどな、どおりで」


 ただ東京に住んでいた頃よりも、門浦家の世界は大きくなった。

 それはひとえに楓眞が村の人たちと良好な関係を築いていたからだ。全て楓眞自らが行動し、構築した関係。

 玲沙も気持ちの良い人柄をしているため、二人揃って村人の多くが顔を出す毎年恒例の夏祭りにも参加した。


 そして――。





「「「――楓眞くん、誕生日おめでとう!!」」」

「ありがとう、みんな!!」


 九月九日の楓眞の十二歳の誕生日には、玲沙はもちろんとして、いつも遊んでいる子供達やその親御さんも招いて盛大なホームパーティをした。

 去年と比べて随分賑やかな誕生日になった。

 大人たちはビールやらワインやらとお酒と料理を楽しみ、子供達は楓眞の周りにみんなで集まってプレゼントを渡している。


「ありがとう、さっそく開けていい……?」

「おうッ!」

「さてさて、一体なにかなぁ――っと、これは……」


 楓眞が包装紙を破いて中身を取り出すと、その手にはアルバムがあった。

 早速ペラペラと開いてみると、どうやら楓眞と子供達が撮った写真が入っているようだ。


「楓眞は……まぁ、なんか事情があって学校来れないんだろ?でも今年六年生だから、かなり早めだけど俺たちなりに卒業アルバム作ってみたんだ!!アイデアは俺だぜ!!」

「あ、この前の祭りも……いつの間に」


 みんなで遊んでいる時や山に探検に行った時。職業体験として稲刈りを手伝った時や、珍しく喧嘩している時など。

 短くも様々な思い出が詰まったそれを楓眞が夢中で見ていると、途中から写真が入っていない空白となっていた。どうやらここで終了らしい。


 楓眞がアルバムから顔を上げると、それを待っていたのか、楓眞と同い年で中心人物である男の子との視線が交差する。

 彼が子供達を代表して前に出る。


「実はそのアルバム、まだ未完成なんだ。――だからよ楓眞、これからも俺たちでそのアルバムに収まりきらねぇぐらい遊ぼうぜ!!なぁ?!」

「「「おー!!」」」


 大小様々な子たちが、一様に拳を天に突き上げ叫ぶ。

 その光景大人たちは微笑ましげに見て酒の肴にしている。

 その中で、玲沙だけは肩が震えているのを見るに、どうやら感極まっているようだ。


「ふ、ふふ……あははッ」


 そして楓眞もフルフルと震え、クスクスと笑いが漏れている。

 アルバムをぎゅっと抱きしめて、目尻に少しだけ涙を混じえ、それから花が咲くような笑顔を浮かべて告げた。





「――みんな、大好きっ!!」


 その言葉と共に、楓眞の命の輝きが一等増したように感じた。


 きっと家族以外にも彼にとってかけがえの無い大切な宝物が新たにできたのだろう。

 そのことを僕もまた、我が事のことのように嬉しく感じる。










『……誕生日おめでとう、楓眞』


 僕もやっと大切なものを見つけた。

 君が愛を教えてくれて、世界が色づいて見える。


 なんと美しい世界か……そして、それ以上に君という光のなんと尊いことか。


 なんのために生きていたのか、何のために終わったはずの命に続きがあったのか、今ならば応えを出せる。


 ――楓眞と出会うために、僕はこの世界にやってきた。


 ゆえに僕は、僕の生きる意味の全てをこの子に捧げよう。

 楓眞が寂しくないように話し相手となり、道に迷えばありったけの知恵を絞り先を導く。

 力を欲すれば神通力だろうがなんだろうが差し出すし、外敵によって危険に晒されれば盾となり、時には共に戦う戦友となって君を守ってみせると誓う。


 それぐらい君には感謝しているんだ。

 ありがとう、楓眞――。





『――僕を『人』にしてくれて、ありがとう』





 ***





 ――確かにその日は、八月も終わったというのに茹だるような暑さだった。夜になっても熱気は引かず、まさに灼熱の夜。


 それでもまさか、村が文字通りの灼熱の地獄と化すだなんて誰も思いもしなかった。


 幸せな日常が崩れ去る音が聞こえる。

 逃げ惑う人々と、この世のモノならざる異形による狂騒が奏られる。





「『御門』の神徒よ……今こそ、禁足の地を開くカギとなるのだ」


 世界を丸ごと憎むが如き苛烈な焔が、その日村を包み込んだ。

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