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第二十二話:霧は晴れて

「――ここにいましたか、『七理』……いえ、楓眞くん。鬼ごっこの次はかくれんぼですか?」

「……なんだ、圭さんか」


 趣のある街並みの影、路地裏のゴミ箱の裏に身を縮めて息を潜めていた僕を、圭が覗き込むように上から見下ろしている。

 先ほどまで、僕の身柄を捕らえようと躍起になっていた退魔師たち……彼らの、直接的ではないにしろ上司に当たる人物だ。また、僕の保護者で共犯者でもある。


「鬼が追われる方だったり、二対一だったりしたけどね。……もう合流して大丈夫なの?」

「えぇ、しばらく捜索していたようですが、負傷もあって一時帰還したようですよ。むしろ応援が駆けつけるまでに退散した方が良いかと」


 それもそうか、と薄汚れた地面から立ち上がり、迎えに来てくれた圭の横に並んで歩き出す。


 時は既に日を跨いでいた。

 日中はそれなりに人通りがある道も、今は閑散としている。

 ここは最も安全で発展した国として世界に君臨する日本国、その都市だ。皆、どこかしら身体を休める場所を用意しているのだろう。……酔い潰れでもしていない限り。


 僕たちも帰路に着きたいところだが、あいにく帰りの手段は持ち合わせていない。僕の神通力が半分も残っていれば、圭の家に直接『門』を繋ぐこともできなくはないが、現在神通力はすっからかんだ。回復には少なくとも三日はかかる。

 しかし、どうやら圭には宿のあてがあるようだ。それも秘匿性の高い、伊織家の息が掛かっている旅館の一つが。……お世話になりすぎて、楓眞にこの身体を返す頃には返しきれないほどの恩が積み重なっていそうだ。


 そんな話をしつつ、しばらく静かな夜の秋を眺めて歩いていると圭の方から、「それにしても」と話題を今回の依頼についてへと転換される。


「最初の依頼としてはかなりハードな内容となってしまいましたね。……討伐はできたようですが、『魔素』の回収は問題なくできましたか?」

「うん、この通り。……ただ、〝血呑〟には最後にしてやられたから、量としてはかなり少なくなっちゃった」

「……確かにこれでは買取価格には期待できませんね。まぁ、討伐証明には十分でしょうが」


 懐から『魔弔筺』を取り出して語らう。

 圭の評価も妥当だろう。いくらエネルギー密度が高い『大魔族』の魔素であっても、搾りかすほどの量しか取れなければ実用性はほとんどなく、まともな値段は付けられない。

 討伐依頼達成の証明として提示すれば、報酬自体は受け取れるだろう。それで十分な金にはなる。


 しかし、今回の依頼で得た利益はそこが主ではない。


「――でもね、それ以上の価値ある情報を手に入れたかもしれない」

「ほう、〝灼呪〟について何か有益な情報でも得ましたか?」

「近くはある。そして下手すれば、それ以上の価値がある」


 事態が収束した今、よりその価値の高さに対する実感が湧き、思わず勿体ぶった話し方をしてしまう。

 圭が少し怪訝な表情を浮かべている。僕が現在、〝灼呪〟の手がかり以上に求めていることが想像できないからだろう。

 だが僕は、その場限りの一つの決定的な手がかりよりも、再現性のある手段こそ価値があると断ずる。





「――どうやらボクは、魔素から魔縁の匪徒(彼ら)の『記憶』を覗くことができるかもしれない」

「ッ、それは……!」

「まだ試していないから可能性の域を出ないけどね。だから、圭さんの前で実証してみたかったんだ。圭さんなら、ボクが知らない〝血呑〟の情報を持っているかもしれないから」


 普段ポーカーフェイスを崩さない彼女が、しばし目を丸くして驚きを露わにするほどには衝撃的な内容らしい。


「……貴方は、ご自身の研究価値を高めることがそんなに好きなのですか?」

「怖いってば。ま、圭さん以外には気軽に言えない内容には違いないね」

「ふむ、やはり【神魔戴天】……その魔力へのアプローチの特異性が原因……?……いや、どちらかといえば何か一つの要因となるものが――」


 圭は立ち止まり、ぶつぶつと研究者の如き側面を覗かせる。

 実際、彼女は『魔力工学』と呼ばれる分野への専門性を持っており、独自の研究室も所有しているらしい。

 もし僕が庇護対象でなければ、彼女こそが真っ先に僕を捕らえて研究のための標本にしていたのかもしれない。


 それからしばらく考え込んだ後、とある要求をされる。


「――楓眞くん、今ここで実証してもらえますか?」

「ここで……?まぁできるだろうけど、家に帰ってからの方が都合がいいかと思ってたよ」

「いえ、これに関しては早期の方がいいでしょう。『記憶』とは薄れるものです。主人を無くした魔素がどれほどの間、主人のことを覚えていられるか……」

「なるほど、確かに急いだ方が良さそうだ」


 圭の指摘に納得を示す。

 確かに記憶とは、特にそれが概念でなく固有のものを指すものであるとき、時間が経つに連れてどんどんと遠く霧がかって見えなくなる。

 僕自身も前世の記憶について、知り合ったヒトの顔や名前、出来事なんかは随分遠いものに感じる。大切な何かがあればまた違ったのかもしれないが、残念ながら僕が『人』としてかけがえのない大切なものを見つけたのは、この世界で楓眞(あの子)と出会ってからだ。


 さて、思い出せない過去よりも、これからの重大な指針となるかもしれない目の前の『魔素』についてだ。


「うーん……やっぱりこの魔素の量だと、読み取れても断片的な情報だと思う」

「読み取る『記憶』に指向性を持たせられるかを試したいですね。それから、端的な情報かつ楓眞くんが既知でないもの、となると……」


 それら全てを満たすような情報……そう考えると、中々難しいように思えてしまう。

 それに、小難しいアプローチは圭に任せた方がいいだろう。論理的思考は彼女の方が圧倒的に優れている。


 だから敢えて、僕は知りたいことを挙げてみようと思った。

 まず最初に〝灼呪の大魔〟のこと、それから『名塚の大火』という魔縁災害が起きた経緯。

 次に、魔縁陣営では現在どのような存在が統率を行なっているか、あるいはバラバラの意志をもって人世に禍いを振り撒いているのか。


 しかし、これら全てに共通していることとして、情報過多になって読み取りが途切れてしまったり、下手すれば何も読み取れないでフリーズしてしまったりする可能性が否めないことだ。

 最近情報機器に触り始めたからか、やや思考がそちらに寄ってしまった気がする。

 考えすぎだとしても、もっと端的な情報で僕の知りたいことがわかるものがいいだろう。


 知りたい情報、〝血呑の大魔〟について……薄れていく『記憶』……名前……そうか、『名前』か。


「……圭さん」

「――!何か、思いつきましたか?」

「うん……ボク、実は彼について一つ知りたいことがあったんだ」


 魔縁の匪徒とは、ヒトに禍いを齎すことのみを使命に生まれ、ヒトを喰らうことで力と知恵を手にしていく。

 僕が羨望し、敬愛する『人』とは決して相容れない存在だ。彼らの存在自体が、数多の『人』という在り方を踏み躙り否定するものでしかない。

 僕は魔縁として生きる彼らを、【災禍の魔祖】の都合の良いように操られるだけの彼らを、唾棄すべきこの世界の不純物だと断ずる。





 だが、そうだとしても――


「彼の、〝血呑の大魔〟なんていう冷たい無機質なものじゃなくて……誰かを想って、あるいは誰かに祝福されて付けられた、生きた彼の本当の『名前』を知りたい」


 ――ただヒトに仇なすためだけに生み出されて、それから支配された役割から逃れた後も、誰にも彼という存在が記憶されない……それは、なんだか少し寂しいのではないかと思う。


「……」

「あぁ、心配しないで。別に魔族に絆されてるわけじゃないから。魔族は滅びるべき、これは絶対間違いないよ」

「……そうですか」


 前世での自分の名前すらも記憶できていない僕が何を言ってるんだ、と内心で思わないでもない。

 しかし、この世界で楓眞と出会って、名前を呼ばれたり、お兄ちゃん(特別な呼び名)を貰ったりすることの尊さを学んだ僕だからこそ、今度はちゃんとみんなのことを知って覚えておこうと思える。


 ……たとえ気まぐれであったとしても、定められた魔縁の本能を振り切って、僕に告げる必要のない価値ある情報を与えた上に正々堂々たる闘いを望んだ彼は、僕が名前を知る(記憶する)に値する存在だろう。


「――わかりました。実際、名前というのは良いアイデアかと思います。私は〝血呑〟の個体名を知っていますし」

「それじゃあ、さっさと取り掛かるよ。まぁ魔素に触れて感じるだけなんだけどさ」


 そして『魔弔筺』から魔素を取り出す。

 〝血呑の大魔〟から入手した魔素は、手乗りサイズの暗い紫色をしたモヤのような浮遊物となっていた。

 それに触れて念じる。君の名前はなんだ、と。

 魔素は応えた。頭の中で聞き覚えのある彼の声が小さく、しかし力強い声音で反響する。


『――〝レヴォーグ〟』

「……そっか。キミの『名前』はレヴォーグというのか」

「まさか……いえ、驚きました。私の持つ情報とも合致します」

「うん、ありがとう……それじゃあおやすみなさい、レヴォーグ」


 魔素は沈黙した。

 そしてどうやら、これ以降は別の質問を念じても何も覚えていないようだ。

 考察するに、魔素の記憶を読み取るまでは無意識の記憶データ集合体のようなもので、こちらが何か記憶を取り出すとその記憶が表層化して固定化されるのだろう。詳しいところは圭と共に検証を重ねる必要がある。

 二人でこの場で出した結論は以上だった。










 再び、今晩の宿に向かう足を再開する。

 魔素に関しては期待通り、当初の想定以上の戦果だった。

 これからの楓眞の魂の行方や玲沙の解呪のための外法師活動に大きな指針ができた。

 力を付けた魔縁の上位者を討伐し、その魔素を読み取る――。


「……それにしても、〝血呑〟も退魔師も凄く強かった。どっちもまともに戦えばやられていたかもしれないぐらいに」


 ――だがそれを為すためには、今の僕は少々実力が足りていないと感じさせられた。


 焼け爛れた左手を見る。

 握るだけの力すら入らない。神経も傷ついているのだろう。

 圭も同じく僕の手を見て尋ねる。


「それはどちらが……?」

「んー、退魔師のおじさんの方」

「……沖島さんですね。二十年以上現場にいる大ベテランです。強かったでしょう。それで、手の方は大丈夫ですか?」

「ははっ、こちとら神徒だぜ?」

「それは良かったです。中には虚津神に嫌われていて、治らない方もいますから」


 一般の人間、あるいは魔力適正者であっても確実に後遺症として残るだろう火傷だ。

 しかし、僕たち神徒は神通力を通して虚津神の干渉を受けているという面で特別である。

 虚津神たちは己の好みで神徒の容姿を弄ってしまうほどの干渉力を持っている。だから方向性こそ様々だが神徒には容姿が飛び抜けて優れた者が多いし、怪我をしたとなれば復元する。

 僕の神様は僕の意思を汲んで楓眞の顔から変えないでいてくれるが、神通力を集中して込めていればこの程度、一週間も経てば元通りになる。……流石に欠損の場合は復元する物がないと難しくなるようだが。


 そこで、今回圭に助けられたことに改めて礼を言う。


「最後、本当に助かったよ。ありがとう」

「いえ、焚き付けたのは私ですから」

「でもさ、『祓魔の剣』使って良かったの……?」

「……当然、良くはないですね。しかし『神殺し』の力を使わずに、となるとこれしか方法がなかったのも事実」


 ――退魔導具『祓魔の剣』。

 これもまた、神器から派生して量産されている退魔導具の一種で、退魔師が難度の高い任務や大規模な魔縁災害へ対処する際に所持することができる。

 その効果は非常にシンプルで、魔に対する特効性。魔力に対抗し、強靭な魔素を豆腐のように切り裂く。


 ただし、魔力で構築される『浄土結界』にも特効性を発揮するため、慎重な扱いが求められる。

 ゆえに本来、任務における携帯の許可を取るために申請をしなければならず、その管理体制は厳重である。


「『結界』を壊したのが『祓魔の剣』だと知られたら、退魔師が外法師と内通してることはバレちゃうね」

「彼らは本部にも名が通った優秀な退魔師です。そこに考えが及ばないなんてことは考え難い。……ですが楓眞くん、貴方という個人にまで到達しなければどうとでもなります」

「ふふん、()()のことだね?――大丈夫、戦ってる時も肌身離さず着ていたよ」


 僕は圭の隣で、身につけている服を見せつけるように一回転する。

 ふわりと舞う、このベージュに黒の斑点が入ったデザインのコート……これが〝血呑〟を騙し、退魔師からの身バレを防いでくれる。


「――神器『蝕智の外套』、効果は『認知阻害』だっけ。多分今頃は、お互いの認識が合わずに混乱してるんじゃないかな」

「疑念の種は芽生えるでしょうが、最低限の情報規制はできました。最悪消えてもらわなければなりませんでした。一人は『退魔公家』の人間なので、面倒にならずに済んだことを喜びましょう」


 もちろん彼らが戦力として残ったことが最も良い点でしたが、と圭が続けた。

 その通りだと思う。人類が強く存在し、無闇に魔縁に奪われないことが第一である。

 僕個人としても、彼らにはなるべくその『人』としての輝きを持ち続けて欲しいと感じる。





 ***





「――で、最後の『結界』の崩壊……ありゃあ一体何だったんだ?」


 最近になって京都の夜に頻発していた失血死事件――並びに〝血呑の大魔〟の調査任務に向かっていた俺たちだったが、〝血呑〟に関しては外法師に先を越され、その外法師を捕えることもできず、魔縁対策機関京都支部に帰還していた。

 敗走といっていい有り様だが、後悔はもう終えた。今はこれからのために起きた出来事の整理が必要だ。


「そうね……まず、あの時不覚にも一瞬意識を飛ばして、上書きした『結界』の維持を手放しちゃった。そして復帰してからは、すぐに基点となるあの外法師の張った『浄土結界』が無事なことを確認して、神通力の干渉を妨げる機能の復元に取り掛かってたわ」

「あぁ、彼はあの瞬間、転移を諦めていた。あの神通力には、かなり繊細な操作が必要となるんだろう」


 これは想像しやすい。

 転移……というよりも、どうやら異空間を渡ることで現実空間を跳躍するような能力だと見受けられた。その異空間にいる間に場が乱されれば、下手すれば二度と現世に帰って来れないというような、大きなリスクを抱えることになるかもしれない。

 さらに空間に干渉する系統の能力だから、茜ちゃんと同じように座標の特定が必要であることも予想できる。


「――でも、復元途中だった神通力不干渉の『結界』を避けて、基点としていた『浄土結界』だけを狙って壊されたの」

「……なるほどな」

「結界という形を成す前に、その効果を優先させた影響で『浄土結界』と共に神通力不干渉の『結界』も崩壊……と、まぁこんな感じね」


 かなり高度な神通力運用をしていたようだ。

 その機転の良さには脱帽する。俺がバディとして組んだばかりの時は、その溢れる才能を少し持て余しているような印象だったが、現場を学んでとんでもない早さで自分の糧にしている。

 やはり俺の目に狂いはなかった。この子は、次代の退魔を象徴する存在になれる逸材だ。 


 だが、今回ばかりはその機転の隙を外から突かれてしまったようだ。

 虚津神に愛された宝石のようなその瞳でぼうっと遠くを見つめ、肘をついて溜め息を吐いている。全身で不機嫌だというアピールをしている姿には、まだまだ未熟な若さを感じる。

 

 そんな風に少し微笑ましく思っていると、無視できない発言が彼女から飛び出した。


「それで、私が気になることとしては……多分だけど、『祓魔の剣』が使われたことね」

「なに……?」

「あくまで感触の話だからうまく説明できないけど、こう……『浄土結界』を編んでいる魔力を直接乱されたような、そんな感じだったの」

「……それが、どういう意味かわかってるかい?」


 そうだとしたら大問題だ。

 退魔師が退魔導具を横流ししている。あるいは外法活動に加担している。


「当たり前でしょ。こう見えて私、『(すめらぎ)家』本家の人間なのよ」

「ふっ……あぁ、すまんな。それに茜ちゃんが感じた『祓魔』の気配についても疑っているわけじゃない。……ただ、ね」

「――えぇ、上層部が関与してるかもね」


 そう、茜ちゃんの言う通り。

 先に挙げた事例は、こう言うのもなんだが割とあるにはある。

 ただし、『祓魔の剣』は強力かつ神器由来の退魔導具であることから、その管理と自由な持ち出しの権利を持っているのは『退魔公家』や『将官』以上の退魔師に限られる。

 彼ら魔縁対策機関の上層部が関与しているとなると、一気に事態はややこしくなる。下手をすればこうして話している俺たちの身が危うくなる可能性も。


「さらに、これは状況証拠を組み合わせた勝手な考察でしかないが、繋がっているのが魔縁の襲撃を引き起こしている神徒かもしれんことも問題だねぇ……」

「……()()()ね。相当な実力者だったし、何より神通力と魔力を併用してたこともある。――魔族と繋がりがあると見る方が自然よね」


 外法師相手にここまで手痛い反撃を受けたのは久しぶりだ。

 もちろん名の知れた実力者もいるにはいるが、基本的に外法師なんてものは退魔師くずれや退魔師にすらなれない実力の者が大半だ。あとはチンピラや反社会的勢力の末端などか。

 そんな中で、〝血呑〟を撃破し、俺たち二人をあしらう実力からして無名なのが信じられない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()し。


()()()の素性とか神通力についてはこっちでも調べてみるけど、あんまり期待しないで」

「あぁ、俺もダメ元で昔馴染みを当たってみるとするかな」


 伊達に長く退魔を生業にしてきたわけじゃない。

 外法師を始めとした、魔を悪用するヒトを主に取り締まる『退魔二課』にも知り合いは多くいる。まずは彼らに話を聞くべきだろう。





「――ところでさ、おじさんが言うならわかるんだけど、お前さんが例の外法師を「あの子」ってのはどうなんだい?」


 一頻り今回の任務の顛末を整理し終えて息をつく。


 そこでふと、先ほどから感じていた茜ちゃんの言葉の違和感に言及する。

 しかし、返ってきたのは彼女の冷たい視線とさらに少し機嫌を悪くしたような低い声だった。


「は?私の身長を揶揄ってるの……?今、冗談に付き合えるほど余裕ないんだけど」

「ん……?」

「これでも二十歳の立派なレディなんだから。おじ様、真っ先にお祝いしてくれたじゃない」

「いや、待て……違う、何かおかしい……」


 何か致命的なズレが起きている。

 肌が粟立つような不気味な違和感と、喉まで出かけている記憶が取り出せないような気持ち悪さ。


「確かに、語り草なんかはかなり若々しい感じがした。だがどう見たって、奴はお前さんより歳上だろ」

「はぁ……?おじ様、ボケるにしても早い……って、え、本気で言ってるの……?」

「……茜ちゃん、ちょっと例の外法師の特徴を挙げてみてくれ」


 茜ちゃんも事態の異常さに気付いたのか、気怠げにしていたさっきまでとは打って変わって真剣に思考を巡らせている様子だ。

 俺も思わず手に力が入り、冷たい嫌な汗が出る。

 

「……黒い短髪、やけに鮮明な赤い瞳、身長は百六十ぐらい……歳はそう、十代後半って感じで若いなって印象だったわ」

「ッ、なんだそれ……まるで俺が見た姿と違う……!」


 少なくとも背は百七十は超えていたし、見た目も二十後半か三十代に差し掛かったほどの印象だった。

 さらに『浄土結界』を準備するという外法師として果たすべき最低限のラインは弁えていたし、己の戦闘スタイルも確立していた。

 だからこそあれほどの実力がありながら、その歳まで退魔師かあるいは外法師として、一切の能力も顔も表に出ていないことに違和感があったんだ。


「……そんな、あり得ないでしょ。だっておじ様、明らかに普段より低い位置で戦ってて、やりにくそうだったもの」

「それは……いや、確かに神通力とはまた別にやりにくさを感じた覚えはある。気持ち悪い、なんだこれ……例の『結界』を破壊した奴の能力か……?」

「……もしくは『神器』って線もあるわね」

「ふぅ……なんにせよ、容姿もはっきりしないとなると調査にも苦労しそうだな」


 俺がそう締めくくると、茜ちゃんは嫌な現実を見たように目尻を歪めた。

 件の外法師、ひいては彼の神通力を求める理由がある俺と違って、彼女にとっては事態がどんどんややこしくなるにつれ面倒な仕事が増える気持ちなんだろう。


 しかし『神器』も関わってくるとなると、いよいよ『退魔公家』の人間の知見が頼りになる。

 俺も少し前までは茜ちゃんの他にも『公家』への伝があったんだけど――。



 


「(――〝蘇我〟ちゃん……お前さんが連れて行かれたのは、あの仄暗い『門』の先なのか?)」


 その繋がりは既にこの世になく、俺が例の外法師を捕える理由はそこにある。


 親友を連れ去り、長年人類を苦しめ続ける神出鬼没な魔縁災害の謎――必ずこれを解き明かし、あの空虚な棺を満たして弔ってやる。

 そのためにも手がかりとなり得るこの外法師は、退魔師としてのプライドを賭けて、俺たちが捕えてみせる。

一章、これにて完結です。

ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございます。

二章は現在執筆中でございます。楽しみにしていただいている読者の皆様におきましては、少々お待ちください。

最後に、ここまで拙作を閲覧していただき〝外法師『七理』〟を気に入って下さった方、ぜひ評価・感想・ブックマーク等よろしくお願いします。作者の今後の励みになります。

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