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援護

本屋に着いて物色する。


数学の参考書と科学、物理とかだ。


やはり結構忘れている。しかし、本って高いなぁ。必要だなと思う物を全部買ったら金貨が飛びそうだ。学園に戻ったら図書館に行くか。


各参考書を見て戻していくとアンデスが寄ってきた。


「随分と難しい本を見てましたね」


「えぇ。年明けに飛び級の試験を受けるつもりですの」


「これ、卒業する時に出題されるような内容というか、錬金術コースで首席で卒業するぐらいのやつですよ」


どうやら、学年で習うやつでも難易度が違うようで、錬金術コースは理系の最高峰らしい。そこの首席を狙うような参考書とのこと。今見た感じ、内容的には大学入試程度のやつだったけど。


「そうなのですね」


「買わないんですか?」


「学園に戻ったら図書館に行きますわ」


「このレベルのは図書館に置いてないと思いますよ。この本屋は特殊な店ですので置いていますが」


だからめちゃくちゃ値段が高いってこともあるのか。


「私はまだ稼ぎもありませんし、このような高い本は買えませんわ。それに首席を狙っているわけでもないので、図書館にある本で勉強します」


「こちらで買いますよ」


「結構です。アンデス王子が稼いだお金なら甘えたかもしれませんけど、メロン国の税金で買って頂く訳には参りません」


そう断ると頭をポリポリとかいた。


そう、俺はメロン国の王族でも国民でもないのだ。


ちょっと冷たい言い方をしてしまったが、アームスにもアンデスにも自分に固執されては困るからな。なるべく距離をおいておかなければ。


錬金術や魔法その物の本は無い。護衛騎士に聞くと、学園で学ぶ内容ですら門外秘らしく、本も出ないそうだ。別に法律でそう定められている訳ではないが、そういうものらしい。


稼ぎが減るとかそんなのもあるんだろうな。



「ねぇー、まだぁ?」


こいつ・・・


俺達は服屋でどれだけ待ったと思ってるんだ?


今日はこれで終わりとなり王宮へ戻った。ユーバリーから他にどこか行きたい?とか聞かれたけど予定外の店とか周りに迷惑過ぎる。


それに赤い髪が珍しいのか結構見られてたし。


予定より早いのでそのままゼルの所へ連れて行ってもらったのはいいが、なぜアームス達まで降りるのだ?


ほら、アームス達が降りたから兵士達が敬礼してクインシーに怒鳴られたじゃないか。



今日のゼルは絶好調だな。

多対1に慣れたのか少し余裕すら感じる。


「貴様らっ!たった数日で女一人にその様は何だっ、気合入れんかっ」


クインシーに檄を入れられて気合を入れ直した兵士達は唸りを上げてゼルに襲いかかる。


「ゼル、やってやれっ」


「はいっ」


こちらも負けじと応援する。


ゼルは気合の入りまくった兵士達を撃退した。


兵士達はクインシーに腹を踏まれながら腹筋させられている。ご愁傷様である。


「姫様、今日は来られないんじゃ無かったのですか?」


「少し早く終わったからこっちに来たんだよ。ゼルは多対1にだいぶ慣れたみたいだね。強くなってるよ」


「はいっ。後ろに姫様がいると思って訓練しております」


そっか。


少し嬉しくなってゼルを抱き締めて背中をポンポンする。


「姫様、汗だくなので汚いです」


「大丈夫」


腹筋が終わった兵士達もこっちにきた。やはり男は汗臭いがこれは仕方がない。


アームス達にもう一度敬礼したあとこちらに来て、


「姫様、ありがとうございます」


「何が?」


さらに近くに来てコソッと


(理不尽に殴られる事が無くなりました)


あー、暑くてへばってもそれは上の責任だと言ったやつか。


「暑いから体調管理は重要だよ。ご飯に豚肉とにんにくとか食べると疲労回復にもなるからね。後、鶏肉とか大豆とかちゃんと食べなよ」


「わかりましたっ」



「クインシー様、この時間帯に随分と兵達は元気ですね。楽な訓練でありますか?」


「ふっ、私がそんな訓練をすると思うのか?」


「いえ、思いませんが、みなハツラツとしております」


「シャルロッテが来たからだろう。こいつは兵達に人気がある」


「ほう、将の才能がお有りなのですかな?」


「いや、守りたくなる存在なのだ。小さく可憐であるだけでなく、護衛を身体を張って守りに来るようなやつだからな。それに私に対しても護衛の為に平然と怒鳴り返して来るのだ。兵達もそれを見たら惚れるだろ?」


「そうでしたか。やはり将向きでございますな。戦略や戦術は参謀がやって兵達を鼓舞されたら良いでしょうな」


「ま、この国の人間ではないからな。残念な話だ」


「殿下とご婚約になにか問題でも?」


「あいつは息子達には全く興味がない。ストロベリー家を離籍したことで家の為にとかもないからな。望みがあるとすれば、愚息達があいつにとって興味を持ってもらえるぐらい成長するしかないな」


「アームス殿下、アンデス殿下は贔屓目を抜きにしても、魅力的だと思うのですがね。お二人はタイプの違う魅力ですが」


「無理だな。ゼルのように自らの力で全身全霊を掛けてアイツの為に頑張れるようでないと無理だ」


「なるほど。ゼル殿が恋敵ライバルというわけですな?」


「ふふっ。お前、代わりにその恋敵ライバルと真剣に立ち合ってみるか?


「宜しいのですか?」


「あいつはこの3日程で遥かに強くなったぞ。シャルロッテが自分の為に戦いの場に飛びこんできた事を嬉しく思いながら恥じていたからな」


「では、私も殿下に恥ずかしい所を見られる訳には参りませんな」


「兵隊長。お前らは本日は上がって良い」


「まだ終了の時間ではありませんが」


「これからこいつと立ち合わせる」


「騎士隊長とですか」


「うむ。お互い恥ずかしいところを見せられん戦いだ」


そんな事になってるとは知らないシャルロッテは休憩時間中、ゼルをヨシヨシしていた。


「姫様、疲れが吹き飛びました」


「うん、あと少しだから怪我しないように頑張れ」


「はいっ」


「ゼル、訓練内容を変更する。今からこいつと立ち合え」


「え?そうなの?」


ゼルと立ち合うのは今日、俺に付いてくれていた護衛の偉いさんだ。


「ゼル殿、初日とは違いますぞ」


「はいっ。胸をお借り致します」


ゼルは初日に勝った相手だが、手を抜かれているのは理解していた。



兵士達も上がっていいと言われたが誰も帰ることなく見学していくらしい。


「ゼルっ!頑張れっ」


兵士達の一人がそう声を出すと、皆も応援しだした。


「なぜ兵士達がお前の護衛を応援するのだ?」

 

と、アームスが聞いてくる。


「数日とはいえ、共に本気で訓練しているからじゃない?仲間と思ってくれたんだよ」


「シャルロッテも兵士達に人気あるわよね?」


「パンチラサービスしたからじゃない?」


「何をしたのだ?」


「秘密だ」


アームスがいるからリーリャが隣に座ってくれないのだ。邪魔だよアームス。



「宜しくお願いします」


「本気で参る」


クインシーが合図をするとゼルが初手を取ろうと仕掛けた。それを落ち着いていなす騎士隊長。


カカカカカカっとスピードに乗せて攻撃をするが剣が軽いのか簡単にいなされているように見える。


「どうなってるの?」


ユーバリーに聞かれるけど俺もわからん。


「よくわからない」


ゼルが押してるのか上手くあしらわれているのか判断が付かない。初めは声をあげて応援していた兵士達も固唾を飲んで試合を見ている。


「騎士隊長とあそこまで打ち合えるようになっているのか」


と、兵隊長が言う。


「騎士隊長は強いの?」


「メロン国の騎士の中で実質ナンバー1です」


「騎士隊長は本気出してる?」


「手を抜いているのではなく、指導している剣に見えます」


なるほど。ゼルを導いてくれているのか。


「ふっ、あいつめ。本気でやらんと痛い目を見るぞ」


と、クインシーが言う。


「どういうこと?」


「あいつはまだゼルを下に見ているからあのような剣になるのだ。本気を出すというのなら、初撃で決めねばならん」


「ゼルが勝つ?」


「どうだろうな。ゼルは初日と同じぐらいの強さで試している。それで油断させてからの一撃を狙ってるのだろう。その事にアイツが気付いてなければ勝つかもな」


クインシーってやっぱり凄いな。見ただけでそんな事がわかるのか。


その話をした刹那、ゼルが今まで見せなかった体重を乗せた体当たりに近い攻撃をお見舞いした。騎士隊長は一瞬焦ったような感じでそれをいなそうとしたが予想以上に重い剣だったのか態勢を少し崩した所に一転してスピードに乗せた剣を振るうゼル。


「グッ」


騎士隊長はその剣を間一髪払い除け攻撃に転じた。


ヤバい、ゼルが負けてしまう。


そう思ったシャルロッテはクインシーの胸を掴んだ。


「な、何をしておるかっ」


「クインシー様、フワッフワッです」


その大声が騎士隊長に届いた瞬間、ほんの少し出来た隙をゼルが突いて騎士隊長の木剣を弾いた。


「ふぅ、参りました」


「ありがとうございました。次回は初撃から本気でお願いします」


「そうすることにしよう。いつ姫様の援護が入るかわからんからな。しかし・・・、あーはっはっはっ」


と、笑い出す騎士隊長。


「おい、負けた罰だ。腕立て千回」


と、言われ騎士隊長とゼルも腕立て伏せを始めた。クインシーは負けた罰としか言わなかったので、ゼルは自分が負けていたと思っていたのだ。


腕立て伏せが終わった後に騎士隊長がやって来た。


「見事な援護でしたな。ついそちらを見そうになりました」


「フワッフワッでしたわ」


「羨ましい限りにございます」


ゼルは兵士達に囲まれて、やったなぁとか肩を叩かれている。


「さっきのは何だ?」


「フワフワ中毒の発作が出ました」


「妙なものに発作を起こすな。やるなら後にしろ」


「はい。今日も一緒にお風呂に入って下さいまし」


向こうから、また明日なっ!とか兵士達がゼルと言い合っていた。


ゼルがこっちに向かうと兵士達が俺に手を振るのでこちらも手を振り返しておいた。


「ゼル、勝って良かったね」


「勝ってなどおりません。しかし、ちゃんと相手にして下さったのが嬉しいのです」


「ん?どういうこと?」


「姫様、男とは厄介なものでございましてな、軽くひねってやろうと相手して勝てないとわかるとわざと負けたようなふりをしたりする者もおるのですよ。まぁ、そんなやつにはゼル殿は思いっきり止めを刺しておりましたが」


なるほどなぁ。


「またゼルの相手をして下さいますか?」


「姫様の援護が出ない内に倒してみせましょう」


と、騎士隊長も嬉しそうだった。


馬車に乗れと言われたが、ゼルと手を繋いで帰る事に。代わりにクインシーが馬車に乗った。



「実に良い姫様でございますな」


「面白いだろ?」


「ええ。クインシー様が後見人になられた理由がよくわかりました。とても愛らしい姫様です。アームス殿下、アンデス殿下。今ならまだ手が届くかもしれませぬぞ」


「うるさいっ」


カッコカッコカッコ・・・


馬車からはそのままクインシーと騎士隊長の笑い声しか聞こえて来なかったであった。


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