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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
外伝 いろいろな物語
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理想の五人 レガート編

アクセスありがとうございます!



 シエンと面会を終えた後、エレノアは普段通りの一日を過ごしていたが、最後の候補者と会う場は既に用意が出来ていたりする。

 その候補者は交友関係が広く、常に誰かと一緒に居るのだ。イルビナやシエンにも内密を約束させたように、生会長に就任したエレノアが代表候補と個別の接触を知られて妙な噂が広がらないよう多少なりとも配慮は必要。


 故に学院が終わるなりエレノアはまず学院生会室で前任と一緒に候補者の選別、またイルビナやシエンの印象を語りつつ引き継ぎを熟していたが。


「そろそろ行ってきます」


 一時間程で五人に断りを入れたエレノアは移動を開始、向かうのは序列専用の訓練場で。

 訓練区は同じでも一般の訓練場と序列保持者専用の訓練場は離れた位置にある。つまり序列保持者専用の訓練場周辺にいるのは基本序列保持者と関係者のみ、学院終了から時間をおけばより一般の学院生と出くわし難いのだ。

 序列保持者に候補者と一緒に居るところを見られても広まることはなく、自身の訓練場なら密会には持ってこいの場所で。

 もちろん候補者にはルビラから約束を取り付けてもらっているので、早めに到着したエレノアは訓練場の管理を任せている使用人に二人分のお茶を用意させた。


 ――コンコン


 そして約束の時間ピッタリにノックの音が。


「入れ」


「失礼します」


 使用人を下がらせると同時に許可を出せばドアが開き、恭しい一礼と共に待ち人のレガート=フィン=エンフィードが入室。


「お久しぶりですエレノア殿下。本日は――」

「形式張った挨拶はいい。座ってくれ」

「……そうですか、ではお言葉に甘えて」


 からの礼儀正しい対応に対し、早々に着席を促せばレガートは素直に従い対面のソファに着席。


「わざわざ出向いてもらって済まないな」

「お気遣いに感謝します。ですがエレノア殿下からのお誘いであれば私はいつ、どこにでも参じる所存ですよ」

「そう言ってもらえて助かる。とりあえずお茶でも飲んでゆっくりしてくれ」

「ありがとうございます。では……失礼して」


 また所作も丁寧で勧められるままお茶を一口。


「……こちらは教国産の茶葉でしょうか」

「帰省の土産にミューズからもらった物だ。よく分かったな」

「つい最近飲む機会がありましたから。王国産に比べて渋みが強めですが、これはこれで癖になる味わいですね」


 微笑むレガートに遅れてエレノアもカップに口を付ける。

 本来は急な呼び出しを受ければ気になるもの。しかしレガートは話題に触れることなく、態度にも見せることなく共にお茶を楽しむのみ。

 相手が王族故に急かすことなく言われたままの行動に留め、挨拶から受け答えまでここまでの対応は完璧なのは想定内。

 なんせレガートは伯爵家の子息と、除外していた候補者の中でエレノアが唯一面識のある相手だ。

 まあ入学式でレガートから挨拶に訪れ、以降もお茶会の席で何度か顔を合わせた程度の間柄。それでも貴族としての教育や社交馴れしているのは充分知ることができた。

 つまりエレノアから切り出さない限り本題に入れないわけで。


「ルビラさんからどのように言われた」

「エレノア殿下が内密に私と会いたいと」

「他には」

「それだけです」


 もちろんルビラには事前に確認済み、レガートも用件を察しているだろうがあくまでエレノア主導を譲らないつもりらしい。


「仕官クラス代表候補の一人にエンフィードの名前が記されていた」


 ならばとエレノアは率直な切り出しを。


「故にここからは本音の語らいというこう。多少の無礼にも目を瞑ると約束する」

「望まれるのなら構いませんが、何故でしょうか」

「私はお前を代表候補に入れていなかったからだ」


 更に駆け引きなしでエレノアから先制代わりの本音をぶつけた。

 と言うのもレガートは仕官クラスでも成績は常にトップ、品行方正で問題など一度も起こしていない。また精霊術士でありながら精霊力の有無による差別意識もないと、選考基準は充分満たしている。

 にも関わらずエレノアが除外したのはレガートの立ち位置。貴族重視でもなければ、平民を蔑む態度もない謂わば中立派。

 加えてエレノアに対する対応や微笑みも取り繕っているようで。


『ここに書かれている候補者の中でエレノアちゃんと唯一相性が悪いからだよ~』


 現にレガートを推薦したルビラの評価通り、彼のように本心を見せず上辺だけで相手に取り繕うようなタイプをエレノアは好きではない。

 それでも尚、ルビラが推薦するなら理由があると、敢えてエレノアは本心を伝えた。

 信用できない者とこれから共に学院生会を担っていくことは出来ないとの真意を込めて。


「……エレノア殿下らしいやり方ですね」


 この真意が伝わったのか、レガートは小さく息を吐きつつカップを置いた。


「お願いがあります」

「聞こう」

「多少ではなく、私の言動や対応全てに目を瞑って頂けませんか。それと私とのやり取りはエレノア殿下の心に留めて頂ければと」

「ほう……?」

「もちろんエレノア殿下も懇意にされているアヤト=カルヴァシアほどではありません。あくまで念のためです」

「いいだろう……互いに気にせず語らおうじゃないか」


 アヤトの名前を出した際、ようやくレガートが本心を見せたのか挑発的な視線を向けられるもエレノアは望むところと了承。


「ありがとうございます」


 だからといって豹変するわけもなく、レガートの所作や表情に変化はない。

 元々そのような振る舞いなら構わないが、確実に変化しているものがあった。


「誤解のないよう宣言しておきますが、私は学院の理念に賛同派です」

「そうなのか」

「そもそも国王陛下がそのような政策を進め、レイド殿下やエレノア殿下が賛同している理念に逆らう理由がありません。むしろ古い仕来りや理念に固執し、己の地位しか誇れない無能は理解に苦しみますよ」


 口調は変わらず、しかしルビラを彷彿とさせる毒を含んだ物言い。

 そのせいかレガートの雰囲気が柔らかなものから一変、心に突き刺す棘のような空気を纏っていた。

 些細な変化でも今まで見せなかった一面に、望むところとエレノアも集中してレガートの本心を見定めることに。


「なら中立を保っているのは何故だ」

「私にも立場というものがありますから。一方に荷担すれば一方から疎まれ、時には利益を損なう。ならば当たり障りなく中立でいる方が何かと便利なんですよ」

「つまり、お前は利益を優先した結果賛同派なのか」

「おかしなことではないかと。貴族である以上、家の安寧を第一に考え行動する。でなければ恩恵を受けている平民にも被害が及びます。違いますか?」

「……違わないな」


 故に賛同派であることを隠している理由を突けば正論が返されてしまった。

 民を第一に考えるのも良いだろう。しかし国王であれば国を、領主であれば領地を安定させるには何より統治者の安定が重要になる。もちろん己の利益を優先する余り民を苦しめるなら別だが、レガートの思想は民の利益も見据えているだけに否定はできない。

 ただ正論でも根本がエレノアと反りが合わないだけに、渋面の肯定になるわけで。

 にも関わらずレガートは平然としたもので、更なる本心をうち明ける。


「ですがルビラさんのお陰で私にもチャンスが巡ってきました。今までは中立を保ってきましたが、学院生会に入れるのであれば喜んで賛同派を宣言しましょう」

「仕官クラス代表になれば箔も付く、私との繋がりも生まれる。元より賛同派ならば拒む理由もないか」

「私は次男ですから。既に家督は兄が継ぐと決まっています。なら卒業後を見据えて少しでも有利になる立場を求めたいと思うでしょう?」


 今まで保っていた中立派から賛同派を宣言するのも厭わない姿勢も、やはりエレノアには受け入れがたいもの。

 中立から賛同に鞍替えするだけの恩恵が学院生会にはある。しかし学院をより良くしたいとの信念ではなく、自分の利益を優先したものだ。

 知れば知るほど自分とレガートの相性の悪さが浮き彫りになる。

 例え目的は同じでも思想は別、しかし予定している各代表の顔ぶれを考えればレガートは足りない要素を埋める存在なのも確か。

 物事の捉え方、先を見据えた立ち振る舞い、なにより本音で語り合ったことでレガートの強かさ、参謀としての資質を知ることが出来た。

 それでも一年前の自分ならレガートを素直に受け入れられなかっただろう。

 しかしエレノアもこの一年で成長したと自負している。


「いいだろう。前向きに検討する」

「ありがとうございます」


 明言こそ避けたがエレノアはレガートの仕官クラス代表入りを決定。

 別の思想も言い方を変えれば自分とは別の観点で物事を計れる。視野が広がれば様々な対処も可能となるだけに、私情を挟まなければレガートは今後の学院生会には必要で。

 利益という分かりやすい思想だけにレガートは汲み取りやすい。行き過ぎた行動をしないように生会長の自分が目を光らせれば良いこと。それにレガートの手腕は学べる物が多い、ある種私情を加えるなら自身の成長にも繋がるのだ。

 なにより理想論や綺麗事だけでは学院の改革は進められない。要はエレノアも物事を柔軟に考えられるようになった。

 そしてもう一つ、こちらは情けない理由だがレガートを受け入れる決め手があった。


「別クラスになるが、お前以外にも私が除外していた候補者が一名ずついた」

「それが?」

「実際に会ってみたところ、私の中ではその二名でほぼ決定している。それを踏まえて聞くが、私はルビラさんの手の平で踊らされていると思うか」

「……他はエレノア殿下の中で候補として挙がっていた者でしょうか」

「別クラスも含めてその通りだ」

「別クラスの前任は恐らくそのような意図はないでしょうが、ルビラさんであればエレノア殿下の候補者を読み切った上で、私を入れたでしょうね」

「興味を持たせるためにか」

「自分で言うのも何ですが他クラス代表もある程度予想した上で」

「あの人ならやりかねないか……恐ろしいものだ」


 レガートの予想に苦笑を漏らしつつエレノアも同意。

 学院の未来を第一に考えているルビラが、小細工をしてまで推薦したならレガートはこれからの学院生会に必要と判断したからこそ。

 つまりルビラの目を信じた決断で。


「やれやれ……お前に学院生会を乗っ取られないように気をつけるか」

「お気を付けて、と言いたいところですが心配は無用でしょう。自分が思っている以上に、あなたは長としての資質がありますから」

「それも本音から出た言葉か」

「もちろんです。そもそもエレノア殿下が無能であれば、今の立場を蹴ってまで仕えようとは思いません。なによりこれから学院を牽引する仲間、上辺やご機嫌取りの言葉など不要でしょう?」

「だと良いがな」


 結局、最後までレガートの真意を読み切れないまま会談も終了。

 ただこのままやられっぱなしで終わるのも癪と、エレノアは仕返しをすることに。


「一つ聞くが、お前はアヤト=カルヴァシアをどう見る」

「……アーメリ特別講師の弟子にしても、持たぬ者でありながらあれ程の強さを身に付けた秘密にはとても興味があります。恐らく序列保持者よりも上でしょう」


 急な質問にレガートは冷静な分析を口にする。

 不正を持ち出さずレイドよりも強いと判断できる、常識に囚われない分析は素直に感心できる。


「ですが無理して関わろうとは思いません。確かに彼の強さ、繋がりには利用価値がありますが、それ以上に厄介な存在です。なにより敵が多すぎますから」


 更に彼らしく利益を優先した結果、アヤトは不利益になると断言。


「それでも学院生会に入れば関わることになるでしょう。故にエレノア殿下の懸念も分かりますが、上手く振る舞うのでご心配なく」


 ただこの質問に込められたエレノアの真意までは読み切れていないようで、見当違いな結論。

 学院生会に加われば嫌でもアヤトと関わることになるので、拒絶せず上手く立ち回ってくれる方がエレノアとしても助かるので構わない。

 

 しかしここまで見事に読み切ったレガートもアヤトの評価だけは見誤っている。

 なら本格的に関わった際、強さも、繋がりも、捻くれた性格も含めて規格外と知ったレガートがどんな顔をするのか。


「それを聞いて安心した」


 その日を楽しみにエレノアは笑みを返した。




最後の候補者はレガートでした。

イルビナ、シエンと違って元より相性の悪さからエレノアは避けていましたが、レガートの本音や能力を考慮した上で受け入れたのはエレノアの成長とも言えますね。自身の理想に固執する余り、柔軟な考えが出来ませんでしたから。

そしてルビラさんの思惑を読み切った所もでしょうか。以前のエレノアなら視野の狭さからそういった思惑を読み取れず、やはり自身の理想に固執してレガートを認めても受け入れなかったでしょう。

まあ後を知るだけにこの判断は間違っていなかった、というのはみなさんもご存じの通りですね。何だかんだ言いながら今のレガートは学院生会で面倒見の良いお父さんポジションですから(笑)。

とにかく候補者三名との面会も終わったところで、次回で新学院生会も発足となります。



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