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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
外伝 いろいろな物語
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理想の五人 シエン編

アクセスありがとうございます!



 イルビナと話し合った翌日、学院の開門時間に合わせてエレノアは登校。

 学院関係者以外はほとんど登校していない時間帯に訪れたのは、前任の選出した代表候補と接触するため。

 情報によるとその候補者は学院のある日は誰よりも早く登校するらしいが、実のところエレノアはこの情報を聞いて意外に感じていた。

 とにかくそう言った理由も含めて直接会って話がしたいと向かったのは図書館。様々な専門書や歴史書から小説などが収められた図書エリアの他に、実習エリアも置かれている大きな施設で。

 図書エリアに並ぶ本棚の間を一つ一つ確認していると、専門書に目を通すやや小柄な銀髪緑眼の男子学院生を見つけたエレノアは読書の邪魔をするを忍びないと思いつつ声を掛けた。


「おはよう」

「…………」

「……おはよう」

「…………」


 ……掛けたのだが、よほど専門書に夢中で全く反応がない。


「シエン=ローエン……おい、聞こえているのか」

「なんです……?」


 故に距離を詰めて声をかけ続けてようやく顔を上げたシエンは目の前に立つエレノアと目を合わせるなりパタンと専門書を閉じた。


「エレノアさま、おはようございますです」

「おはよう」


 妙な言葉遣いではあるが、ぺこりと頭を下げるシエンにやっと挨拶を交わせたとエレノアは意味もなく安堵。


「ここにエレノアさまが来るとか珍しいです。そもそもこの時間帯で見掛けるのはアヤト=カルヴァシアくらいですよ」

「もしかしてカルヴァシアと面識があるのか」

「ないですよ。向こうも読書が目的で自分に興味ないですし、自分は興味ありますが面倒くさそうなので積極的に関わろうと思わないですからね」

「……確かにそうか」


 からの、念のために確認すればシエンは否定。ただ辛らつな言葉ではあるも、他の学院生に比べてアヤトに対する印象は悪くないようだ。

 それはさておきシエンがズークの選出した候補者で、精霊学クラス内でも常に十位以内をキープしているので成績はギリギリ問題ない。またズークの情報で知ったが、このように早朝から図書館に通い知見を広める努力もできる。

 しかしエレノアが除外した理由は素行の悪さ。

 最近は減っているもののシエンは遅刻の常習犯で、単位の問題から追試も受けるほど。

 加えて講習中に同級生とよく衝突しているとも聞く、つまりあまり良い噂がないのだ。

 ただ遅刻の常習犯にも関わらず早朝から登校しているのが予想外ではあったが、ズーク曰くシエンは他の候補者にはない強みがあるらしく。


『僕としては……シエンのような視点も必要だと……思う』


 だからこそ実際に話してみればと勧められたわけで。


「ローエンは普段からこんなに早く学院に来ているのか」

「そうです」


 ならばとまずは疑問の解消として質問すれば、シエンはしれっと返答を。


「ではなぜ遅刻ばかりしている」

「開始の鐘に気づかないです」

「……は?」

「鐘のタイミングと一息つくタイミングが合えば気づくですが、良いところだと気づかないです」


 言われてみれば先ほども声を掛けても全く反応がなかったが、あまりの理由に呆れてしまうわけで。


「ズーク先輩やシャルツ先輩が声を掛けてくれるので助かってるですが、お二人とも忙しいですからね」

「だからズークさんと面識があるのか。そもそも自分で気をつけろ」

「反省してるです」

「なら同級生と衝突しているとの噂は何か理由があるのか」

「理由と言うより実験や考察において意見をぶつけ合うのはおかしいことではないです。それに質問してばかりで申し訳ないですが自分は持たぬ者なので、精霊力を感じられる人の考察は貴重ですからね」

「……なるほどな」


 更に他の噂についてもシエンなりの理由はあった。要は持たぬ者として産まれたことで精霊力を感じ取れないハンデを補う為に質問攻めした結果のようだ。

 まあ遅刻の件は褒められたものではないが、研究熱心な面や自分に足りないものを補う努力は評価できる。

 イルビナといいやはり実際に話す方が相手の為人を知れる。だからこそ各クラスの代表が後継者を選出するやり方は隠れた人材を見つけるのに有効なのだろう。

 ならばズークが評価していた視点について最も判断しやすい質問をしてみることに。


「ローエンは学院の理念をどう捉えている」

「良いと思うですが、学院生会の雰囲気からちょっと心配もあるです」

「心配とは?」

「精霊力の有無や地位関係ない、平等に学ぶ学院と謳いながら今の学院生会は平民側に偏っているようにも見えるです。まあ悪目立ちという言葉があるように、平民が虐げられる風潮は目につくですからね。その結果偏ってしまうのも仕方ないです」

「…………」

「ただ置かれている環境をどう活かすかに身分は関係ないです。自分としては相手は相手、自分は自分で精霊力がないから持つ者に勝てない、平民だから貴族のような教養を学べなかった、みたいな甘え根性でへこんでる連中にまでよしよしする必要はないとは思うですが……難しいですね」


 最後はむう、と唸るもシエンの意見にエレノアは言葉がない。

 学院の理念を元に精霊力の有無や身分で差別が起きないよう働きかけていることで、弱者側にばかり目を向けがちなのは否定できない。

 もちろんエレノアも含め、現学院生会も貴族側を蔑ろにしているつもりはないが、一方にかまけすぎればそれもまた不平等に映るだろう。その結果、貴族側が不満を募らせて新たな火種を生む、要はバランスが重要だ。

 また後者の意見、シエンは精霊力の有無や身分を理由に立ち止まらず、自分でやれることを考えて実行している。貴族に比べて教養を得る機会がなかった分をこうして図書館に通い詰め、精霊力が感じ取れないなら積極的に質問して得ようとしているのが良い証拠だ。

 しかし自分が出来るからといって相手に強要はしない。

 いくら志が高くても様々な要素から不可能なこともある。例えば家庭環境、例えば健康問題と個々の事情もある、だから厳しい意見を述べても難しいと理解している。

 まさに相手は相手、自分は自分との考えで物事を見て捉えているからこその意見で。


「一応言っておくが、私がこのような話を持ちかけたことは内密にしてくれ」

「もとよりそのつもりです。自分が精霊学クラス代表候補だなんて知られれば面倒ですからね」


 とりあえずクギを刺すも、やはりシエンは察していたらしい。

 生会長に就任した時期も含め、早朝に利用する者がどほとんどいない図書館で、今まで接点のなかったエレノアがやってくれば目的を予想するのも難しくない。


「ちなみに選ばれなければローエンはどう思う」

「特になにも思わないです」

「だろうな」


 そして最低限の礼儀は見せるも、臆せず接した対応含めシエンは地位にあまり関心がないだけにこの答えも予想済み。


「読書の邪魔をして悪かった」

「お気になさらずです」


 故に必要なことを知れたならもう充分と話を終えれば、何事もなかったようにシエンは専門書を開くが念のため。


「ズークさんやシャルツさんはもうすぐ卒業だ。二人に頼らずに遅刻癖を直すんだぞ」

「善処するです」

「……本当に頼むからな」


 忠告を受けてもしれっと返すシエンに不安から再度念押しをするのも仕方ないこと。

 知識を得る努力の結果とはいえ、シエンが遅刻の常習犯のままで居られてはエレノアとしては困るのだ。

 つまりエレノアの中では精霊学クラス代表はシエンで固まった。


 本当の意味で平等な視点で物事を捉えられるシエンのような人材はこれからの学院生会に必要だと。




続いての候補はシエンでした。

これまで他の新学院生会のメンバーの中であまり出番がないだけに、シエンの深掘りが出来て一先ず安堵はさておいて。

学院の理念に固執する余り、仕方ないとは言え平民寄りになっていたエレノアにとって、シエンのような物事の捉え方は目から鱗が落ちたでしょう。まあシエンはズークと似たタイプで、身分や精霊力の有無よりも好きなことに関心がありますからね。

それでも相手の立場で物事を考える部分も含めて、エレノアは必要と評価しました。

また次回の候補者ですが……もうお分かりですよね(汗)

なので学院生会に入る前に、レガートとエレノアの間でどのようなやり取りがあったのかお楽しみに!



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