理想の五人 イルビナ編
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レイドの提案から新生会長の初仕事としてエレノアは各クラスの代表選出に着手。
選考基準を元にエレノアなりに情報を集めたことで大凡の当たりは付けていたこともあり、精霊術クラスと精霊騎士クラスは望んでいた名前がリストに記されていたのでほぼ決定。
対するあまり接点のない騎士クラス、精霊学クラス、仕官クラスは前任の選んだ候補者と選出理由も参考にして最終的に決定するつもりでいたところ、三クラスとも一人ずつエレノアの中では除外していた人材が記されていた。
故に真っ先に興味が向いて前任の選出理由を質問したが、その内容はとても簡潔なもの。
と言うより三人ともエレノアには変に前情報を与えるより、直接会って自身の目で確認して欲しいようだ。
確かに除外していただけあってエレノアは候補者三人との面識がほとんど無い。むしろ一人を除けば言葉を交わしたこともないだけに、実際に会って見定めることに。
そして候補者の中で今日中に会える者がいると分かるなりエレノアは行動開始。
向かったのは訓練場、ただし精霊術クラスや精霊騎士クラスの利用する区域ではなく騎士クラスが利用する区域で。
つまりエレノアの目的はグリードが選出した騎士クラス代表候補。アヤトの存在から以前にも増して利用する者が増えているだけに、エレノアが居ることに驚かれてしまったが気にせず待つことしばし。
「イルビナ=フィン=シーファンス」
「…………?」
目的の人物が施設から出てくるなり呼び止めるエレノアに対し、相手は振り返るなりこくんと首を傾げる。
「エレノアさま、ワタシなにかした?」
「…………」
からの第一声にエレノアは困惑の表情に。
今まで言葉を交わしたこともないからこそ、急に王族が声を掛ければ警戒するのは仕方ない。
しかしエレノアが困惑したのはイルビナの印象。人形のように生気を感じさせない瞳や抑揚のない声音と、イルビナから感情という感情が一切伝わらない。
また王族を前にしても戸惑ない対応も。
もちろん学院内では王族だろうと立場は対等、同い年なら尚更過剰な敬意も必要ないので構わない。
「私の知らないところで何か悪さでもしたのか」
「してない。でも急に声を掛けられたからびっくりした」
「……びっくりしていたのか」
故にからかい半分で指摘すれば逆に驚かされてしまうがそれはさておき、イルビナがグリードの選出した候補者で。
エレノアが除外した理由は主に二つ。
一つは実技、座学共にイルビナの成績が平均的なこと。要は選考基準の一つ、成績という基準が足りないこと。
そしてもう一つはイルビナの実家、シーファンス家は古い仕来りに囚われている傾向がある。現にイルビナの兄もマイレーヌ学院在学時、地位や精霊力の有無による差別意識があったと聞く。
もちろん兄がそうだからと言ってイルビナも同じとは思えないが、やはり能力の低さから候補に入らなかった。
だがイルビナは毎日のように訓練を欠かさない模範生とグリードは評価していた。
『時には努力が結果に繋がらないこともある。俺の知る限り騎士クラスで最も努力を怠らないのはシーファンスだ』
成績では分からないイルビナの努力から、模範となる代表に相応しいとグリードは選出理由を教えてくれた。
確かにグリードの言う通り、平均的な成績だから資質がないと除外するのは違う。努力家という面も模範として評価できる。
ただグリードの評価に私情を感じたのが引っかかる。代表として騎士クラス全般を気に掛けていた彼にしては、イルビナに対して妙に入れ込んでいるように見えたのは気のせいか。
そういった違和感を含め興味を持ったエレノアは直接会って確かめるつもりで。
「少し話がしたい。よければ付き合ってもらえるか」
「はい」
いくら人気の少ない時間帯と言えど会いに来た理由が理由、誰かに見られて変に勘繰られないためにもエレノアは移動を提案。
「シーファンスは毎日訓練を欠かさないらしいな」
「どうしてエレノアさまが知ってる?」
「グリードさんから聞いた」
「他にやることがないから」
「そうか……。シーファンスは寮暮らしとも聞いている。なにか理由でもあるのか」
「ワタシは一人で居る方が落ち着くから」
「なら両親に自ら望んだと」
「そう」
移動中も積極的に話題を振るがイルビナからは掴み所のない返答が。
訓練を欠かさない理由は意欲を感じず、子爵家にも関わらず寮生活をしている理由も協調性がないもの。
正直なところ模範となる資質はない。しかし言葉通りに受け取って評価するにしては、やはりグリードの選出理由が引っかかるわけで。
加えて感情が表に出ない分、イルビナの本質が読み切れないのもあり、エレノアは小細工を止めて反応で確かめることに。
「グリードさんはシーファンスを次期騎士クラス代表候補の一人に選んでいる」
「…………びっくり」
「は?」
「ワタシをグリードさんが候補に入れたのがびっくり。どうして?」
「……それは私にも分からない。だからこうしてお前を見定めに来た」
……したのだが、相変わらず言葉と反応がちぐはぐでエレノアは脱力。
まあ実際は理由を知っているが、さすがに本人に話すわけにもいかずイルビナの本心を探る。
「率直に聞くが、騎士クラス代表になりたいか」
「なったら頑張る。選ばれなかったらそれだけ」
ストレートな質問にもおざなりな返答。
ここで意欲を示してくれればまだ違ったと思う反面、少なくともイルビナは地位や名誉に興味はないとも取れる。
だがここまで意欲がなければ微妙なところ。代表は学院生を引っ張っていく立場、半端な気持ちで勤まるものではない。
「では騎士クラス代表になったら、シーファンスは何を頑張るつもりだ」
故に最後の質問として、イルビナの目指す学院を確認したが――
「頑張りが認められる学院にしたい」
「…………」
明確な返答を得られたが、抑揚のない声音にほんの僅かイルビナの感情を感じ取れてエレノアは立ち止まる。
「どうかした?」
「……それは自身の努力が結果に繋がらないことを嘆いているのか」
初めて伝わった感情は毎日訓練を欠かさないにも関わらず、成長しない自分を憂いてのものなのか。
それとも評価されない虚しさから来るものなのか。
「? ワタシは努力とかしてない」
「なにを言っている。お前は毎日欠かさず訓練を――」
「さっきも言ったけど他にやることがないからやってるだけ。努力じゃない」
「…………」
「でもワタシ以外の騎士クラスの子は強くなりたいって頑張ってる。もちろん全員じゃないけど確かにいる。なのに学院は全然注目しない。精霊術クラスや精霊騎士クラスにばかり目を向ける」
「そんなことは――」
「ならどうして騎士クラスが選ばれる公式戦がこの学院にはないの? 序列入れ替え戦、選考戦、去年のような交流試合の選考戦や精霊祭の序列戦、色々とあるのに騎士クラスが選ばれる公式戦はない」
「…………」
「もちろん騎士クラスにも出場資格はある。現に去年アヤト=カルヴァシアが出場した。凄かった、ふんす」
「…………」
「じゃなくて資格はあるけどないようなもの。精霊力を持つ者に持たない者は勝てない。分かってるのに学院は騎士クラスの舞台を用意してくれない」
「…………」
「しかもアヤト=カルヴァシアが勝てば否定する。不正、何かの間違い、偶然、たくさんの言葉で否定する。彼の努力が実を結んだと認めない人ばかり」
「…………」
「結果が全てと言うのに結果を出しても持たぬ者だから認めない。そんな学院で騎士クラスのモチベーションは上がらない」
「…………」
「だから頑張りが認められる学院にしたい……けど、頑張ってないワタシが言っても説得力がない。ごめんなさい、ぺこり」
「自分が努力をしていないと、本気で言っているのか」
「言ってる」
「……そうか」
相変わらず感情が読めないだけにイルビナが本気で言っているのかは判断に悩むが、このような意見を口にする者が果たして努力をしていないと言い切れるか。
とにかくイルビナの言う通り平等と謳いながら学院には騎士クラスが表舞台に立つ機会を与えていない。
もちろん理由はある。例えば精霊力を解放せず、純粋な剣技を競う場を用意しても最後は精霊力の有無による軋轢が生まれる。
騎士クラスのみの大会を開いたとしても、持たぬ者の競い合いと嘲るものが現れると危惧して足踏み状態が続いている。
だがいつまでも放置するわけにもいかない。そう言った意味でもイルビナの意見はエレノアの学院改革に必要なもの。
なにより耳が痛い意見。アヤトが常識を覆しても結局精霊力の有無で認めない、まさに騎士クラスのモチベーションに関わる議題だ。
なにより精霊力の有無、家柄の差別とはまた違う、純粋な努力が認められる学院。
ある種、学院の理念にばかり目を向けていたエレノアにとって新鮮な響きで。
王族を相手にも臆さずハッキリと物事を伝える姿勢や、騎士クラスの状況をしっかり把握した意見は意欲がなければ出来ないはず。
頑張りが認められる学院と返答した際に感じ取れた感情も踏まえて、エレノアの中でイルビナの評価が変わっていた。
「私との話は内密に頼む」
「わかった。しー、する」
その為か、無表情のまま口に指を当てて約束するイルビナの仕草が不気味よりもおかしくて。
「どうして笑うの?」
「どうしてだろうな。とにかく時間を取らせて済まなかった」
「どういたしまして。エレノアさま、さようなら」
「ああ、気をつけて帰るんだぞ」
呆気なくテクテクと去って行くイルビナの背を見詰めつつ。
(念のため、他の候補者とも話してみるか)
残りの候補者とも話した上で最終決定をするつもりではあるが、エレノアの中ではほぼ誰を選ぶかは決まっていた。
前編に続いてのイルビナ編は如何でしたでしょうか。
イルビナの過去を知っているだけに、彼女が欠かさず訓練をしている理由を避けたり、頑張りが認められる学院と口にした理由は分かって頂けるかと思います。
とにかくエレノアの中での決め手はやはりイルビナが語った学院の在り方ですね。もちろんイルビナの頑張り続けた七年間があったからこその説得力がエレノアの心に響いたのでしょう。
それと一風変わった所も少々でしょうか、アヤトやラタニを気に入るレグリスの娘と言うべきか、王族はどうも変わり者に惹かれる性質のようです(笑)。
ちなみにイルビナ編と称したように、今回は前編も踏まえて五話構成となっています。
つまり後編の前に他の候補者がメインの話を挟みますが……誰がメインになるかはまあ分かりますよね(汗)。
とにかく次回の候補者とエレノアのやり取りをお楽しみに!