理想の五人 前編
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水精霊の周季一月末日、信任投票を文句なしの支持率を得たエレノアは来期の生会長に就任した。
「エレノア、生会長就任おめでとう」
「おめでとー」
「おめでとう」
「よかったね~」
「順当な結果……だった」
「確かにな」
投票終了後、引き継ぎを受ける為に学院生会室へやってきたエレノアにレイドを皮切りにそれぞれが拍手と共に祝福を。
「ありがとうございます」
対するエレノアは表情を緩めることなく真摯な態度で一礼、その反応にピタリと拍手が止んだ。
「あまり嬉しそうじゃないね」
「もちろん嬉しくあります。ですが私は生会長としてまだなにも成し遂げていませんから」
レイドの問いかけにもエレノアは凜とした顔つきで返答。
「故に気を緩めず、まずはやるべきこと一つ一つに集中したいと考えています」
「いい心構えだ」
その覚悟にレイドも満足げに頷く。
生会長に就任したと言ってもまだスタートラインにすら立っていない。引き継ぎや各代表を選出してエレノアを中心とした学院生会を発足して始めてスタートラインに立つ。
要は生会長に選ばれた程度で浮かれるような者は学院の長となる資格はない。そう言った心構えを確認する為にも、レイドたちは敢えて盛大な出迎えをしたわけで。
「でも片意地を張りすぎるのも違う。そういった態度は時として学院生に威圧感を与えてしまうからね」
ただ時と場合によっては柔軟な対応も必要、特にエレノアは生真面目な一面もあるからこその忠告を。
「だから覚悟は胸の内に秘めるに留めるにしようか」
「レイドのようにな。まあこいつの場合、胸の内に秘めているのはろくなものではないが」
「表向きは優しい王子さまなのに、内側は陰険の塊だからね~」
「……二人とも酷いなぁ。とにかく、もっとリラックスしてくれた方がボクらも引き継ぎをやりやすい。もちろんボクらが育んだ学院生会を真似する必要はないけど、良いところや悪いところを自分で判断して取り入れていくように」
「わかりました」
カイルやルビラの嫌味に肩を竦めながらも教えを説くレイドに、ようやくエレノアも表情を緩めた。
レイドの言うように今期の学院生会は学院の理念を体現した理想の組織で、エレノアも憧れていた。しかしだからといってそのまま引き継ぐのも違う。
要はレイドたちにはレイドたちのやり方があるように、エレノアにはエレノアなりのやり方がある。故にその為には生会長の自分が進んでらしさを見せていくべきだ。
改めて生会長としての在り方を教わった所で、次は学院生会の引き継ぎが始まる。
ただ以前から学院生会の仕事を手伝えど引き継ぎ等のやり方までは知らない。
故にレイドに教わったように覚悟は胸の内に秘め、普段通りの姿勢でエレノアは引き継ぎ業務に取り組むことに。
「なら早速引き継ぎを始めるけど、まずは代表選出だね」
「? お兄さま……どちらに?」
……したのだが、始めるなりレイドが席を立つのでエレノアはキョトン。
「生会長としての引き継ぎは帰ってからでもできるからね。ボクは一足先に帰らせてもらうよ」
確かに兄妹なので住居は同じ、わざわざ学院で無くても生会長に関する引き継ぎは屋敷で出来る。時間を有効に使うなら学院に居る間は代表選考をメインに行いうべき。
引き継ぎを担うのは生会長だけではない。各代表も前任との引き継ぎがあるのだ。
故に代表選考を早めに終えるだけ新学院生会としての準備を進められるのだが、まさか先に帰るとは思いも寄らず。
「選出については五人に任せてるから問題ないよ。それとボクは一切の口出しをするつもりはないから、決定後に報告すればいいからね」
更に代表選出は完全な放任、少しくらいはアドバイスをもらえると思っていただけに予想外な展開。
まあ五人とも良く知る仲なので気後れはしないが、毎年このような引き継ぎ方法なのかと訝しむわけで。
「言っておくが本来は前任も含めた話し合いで決める。これはレイド独自のやり方だが、レイドは話し合いをするまでもなく誰を選出するかを決めていたらしい。もちろん前任の代表が選出するリストに決めていた者の名前があればの話だが……」
「リストをもらうまでもなくここにいる五人が候補に入っているのは予想できたからね。お陰でスムーズに決められたよ」
「……そうですか」
カイルの補足にエレノアは早速洗礼を受けた。
要は生会長に就任する前からレイドは準備を進めていたのだ。各代表に相応しいと思える人材の情報を集め、更に前任が選ぶだけの資質があると見込む者を元に理想の学院生会を発足する為に。
エレノアもそれなりに情報は集めているが、五人とも自分が相応しいと考える人材を見込んでいるかは自信がない。加えてレイドを含め、前学院生会のアドバイスや選出した者の情報を元に最終的に決めるつもりでいた。
もちろんエレノアのやり方が間違っているわけではない。ただ同じ生会長を目指す者として、自分のようにぼんやりとではなく、明確な理想を描き準備を進めていたレイドとの格の違いを見せつけられた気分だ。
それでもレイドより劣っているのは百も承知。事実を受け入れた上で、自分なりの成長でレイドを超える生会長にならなければならない。
なら落ち込んでいる暇はない。自信を持たない長に付いてくる者はいないと、エレノアは背筋を伸ばす。
「エレノアの理想がどのような形になるのか、楽しみにしているよ」
「お任せ下さい」
受け答えも含め、妹の確かな成長を感じられたレイドは安心して学院生会室を去った。
◇
レイド退室後、改めて各代表選出の話し合いが始まった。
選考基準に序列保持者かどうか、身分や学年も関係ない。最優先は学院をより良くしていくに相応しい資質があるかどうか。その資質に成績も含まれているのも、自身の努力を怠る者に模範となる資格無しとの理由。
そして暗黙の了解として学院の理念に賛同するか否か。まあ差別意識がある者に資質があるとは思えないので当然の基準と言えた。
後は貴族平民の割合、この辺りは生会長の判断となるも基本必ず一人は平民を入れるのも通例か。貴族で固めれば視野が限定される上に、平民の学院生が要望を伝えにくい。要は学院生会と平民の橋渡し的な存在として必要になるわけで。
とにかく選考基準はエレノアも把握済み。
後は前任が用意した代表選考に必要な候補者のリストを元に、エレノアが選んでいくだけの作業。
もちろん候補者についての為人や前任が選んだ理由などは質問してもいい。特にエレノアの把握していない人材が居れば積極的に質問して、目を付けている人材に固執せず柔軟な思考で決めるつもりだ。
「まずは用意したリストに目を通してくれ」
「簡単な情報も纏めてるけど、あくまで参考にね~」
故にカイルに言われるままテーブルに置かれた用紙から、エレノアがまず手に取ったのは精霊術クラスで。
「…………カイルさまも思いきったメンバーを選びましたね」
目を通すなり苦笑が漏れてしまう。
なんせリストには四人の名前が書かれているのみで情報はなにもない。
しかも四人の内、二人は一学生だ。
「俺よりもエレノアの方が良く知っているだろう」
「ではカイルさまから見ても、この四人が後継者に相応しいと自信があるのですね」
「むしろこの四人以外に思いつかなかった。特出した人材がいると選ぶ面白みがない」
質問に対して肩を竦めるように、人材不足というよりも四人が抜きんでているだけで、エレノアも同意せざるえない。
ただミューズやディーン以外にロロベリアやユースを加えるのは予想できなかった。確かに二人は思想は当然、実力も申し分ない。サプライズとして選出しても多少の不満で済むだろう。
だが資質はあれど選ぶつもりはない。最初からエレノアが目を付けていた名前があれば尚更だ。
「もちろん俺なりの理由が知りたいのなら質問をしてくれ」
「後ほど参考程度に聞かせてもらいます」
故に興味本位で理由は聞くつもりで、続いて精霊騎士クラスのリストに目を通す。
「聞きたいことがあるならなんでも聞いてねー」
同時に目をキラキラさせるミラーを他所に、内心エレノアは安堵していた。
ミラーが選出したのは三人と少ないが簡潔に纏められた情報も含め、エレノアも予想できるメンバーが綴られている。
更に最初から加えるつもりでいた名があればやはり尚更、もちろんミラーの理由も参考にさせてもらうが精霊術クラスと精霊騎士クラスの代表はほぼ決まったようなもの。
残るは三クラス。エレノアの中である程度目星は付いているものの決め手に欠けている人材ばかり。
つまり前二クラス以上に前任の情報が参考になると、騎士クラスから目を通していく。
「…………?」
しかし騎士クラスから精霊学クラス、仕官クラスの候補者を確認するにつれてエレノアは困惑が増していく。
というのもリストに書かれている名前に目を付けていた人材が居るには居るが、それぞれに一人だけノーマークの人材が居るのだ。
しかも情報欄に綴られている内容も過去の基準と反している部分がある。
「グリードさん、質問があります」
故にエレノアが前任の選出理由を確認したのは言うまでもない。
まずはエレノアを生会長とした、新学院生会が発足するまでのお話しです。
実はカイルがロロやユースを選出していたという新情報もありましたがそれはさておき。
結果としてラン、ディーン、レガート、シエン、イルビナが選ばれましたが、エレノアがこの五人を選んだ明確な理由、更には前任が選出した思いを知ることで五人をより知る機会になればと思います。
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