今度こそ素直に
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アヤトから始まりアレク、小隊員やカイルたちと懇意にしているメンバーも次々とお見舞いに訪れた。
まだ目を覚ましたばかりなので込み入った話は出来なかったが無事を喜ぶ反面、精霊力を解放できなくなった事を心配してくれて。
それでもラタニ自身があまり気にしていないだけに重い空気にならず、それぞれ笑顔で語り合えた。
のだが、面会時間終了間際――
「調子はどうだ」
「………………」
ノックと共に入室してきたナーダにラタニの表情が強張った。
と言うのもナーダの口調は普段通りで笑みこそ浮かべているものの、目が全く笑っていないのだ。
まあ気持ちは分かる。アヤト曰くレグリスから今回の騒動に関する事情をナーダはある程度聞いているらしい。その中にラタニの出生も含まれているのだ。加えて精霊の咆哮による作戦で相当心を痛めていたはず。
いくら事情が事情とは言え、あれだけお世話になっておきながら隠し事まみれ、挙げ句散々心配を掛ければさすがのラタニも気まずいわけで。
ただレイドの言伝を受けて王都に戻ったのはレグリスとマーレグのみ。統括という立場からナーダはダラードから簡単に離れられないだけに、顔を合わすのは先になると思っていただけにこの不意打ちだ。
「今朝方、陛下からお前の容態について報告を受けたが、だからこそ心配でな。そんな私にミルバが王都に向かうよう勧めてくれたよ」
「…………」
「陛下のお考えとはいえ、今回の騒動でダラードは随分と振り回された。故に陛下だけでなく、騒動の張本人から一連の事情について直接伺ってはどうかと」
「…………」
「先に陛下の元へ向かったのでこんな時間になってしまったが、間に合って良かったよ」
「…………さいですか」
そんな疑問も見越していたのか、訊ねる前に説明を受けてラタニはうな垂れるしかない。
対するナーダはベッド脇の椅子に腰掛けため息一つ。
「まず聞くが、今度こそ本当だな」
「本当です……はい」
端的な質問でもナーダが示しているのは精霊力が解放できなくなった事。前科があるだけに疑われても仕方ない。
「治る見込みは」
「……感覚的な話になるけど多分無理です……はい」
「随分と大人しいが、まだ体調が優れないのか」
「ナーダさまも意地悪っすね……さすがのあたしも反省してるんですよ」
「そうか」
続く嫌味も甘んじて受け入れるラタニの態度にナーダは小さく笑って。
「反省しているのならいい。そもそも事情が事情だ、隠したくなる気持ちも分かる」
「そう言って頂けると助かります……はい」
「だが私にはうち明けて欲しかったよ。それとも、お前の出生を知って私が一線を引くような薄情者に見えたのかな?」
「だから、意地悪しないでくださいよ……」
「したくもなるさ」
出生を隠したいとの気持ちを酌んだ上で、自身の本音も伝える辺りがナーダで。
恐らくうち明けてもナーダは変わらなかっただろう。同情をしてくれて、両親の所業に対する怒りを露わにして、最後はラタニをラタニとして見てくれる。
それでも怖くてうち明けられなかった。そんなラタニの気持ちも察しているからこそ本気で攻めることなく、笑い話で終わらせてくれる。
「ちなみにナーダさはまはどこまでご存じで?」
故に全てをうち明けようと、今度はラタニから切り出す。もう隠す必要がないので今さらかも知れないが、せめてもの誠意として自分の口で話すつもりだ。
「陛下とお会いした際、お前の弟分から一通り聞いた」
「……アヤトも居たんかい」
話すつもりでいたのだが、偶然にも居合わせていたアヤトのお陰で話すことはないらしい。
「さすがに驚いたよ。特にマヤか……お前や弟分に比べて礼儀正しい対応をしてくれたが……急に目の前に現れてな」
「あの子はそう言う子なんですよ」
「神にをあの子と呼ぶか」
「つってもマヤを普通の女の子扱いしてるのって、アヤトかロロちゃんくらいですけど」
「ロロベリア嬢か……お前の後継者とも聞いているが、スカウトするのは難しそうだ」
「あの子もわけ分かんないですからね。まあ、ミライって子が起きれば何か分かるでしょうけど、それまではそっとしといてもらえませんか。つーか下手にロロちゃん巻き込めばアヤトが敵に回りますよん」
「……あの二人はそう言う仲なのか?」
「どうでしょ? あたしもアヤトの考えは良く分かんないから」
「とにかく自身の秘密も含めてこれ以上はうち明けるつもりもなかったが、私だけは特別だと話してくれた。姉が迷惑をかけたお詫びと言っていたぞ? 良い弟分を持ったな」
「そりゃどうも」
またナーダに伝えた理由もアヤトらしく、クギを刺すまでもなく秘密にしてくれるはず。
だからこそレグリスもナーダが知っても構わないと黙認したのだろうが、今まで全く気にならなかったのにアヤトを弟として認知されるのが妙に気恥ずかしいのは何故だろうか。
「これからどうするんだ」
などと謎の羞恥を抱くラタニに対し再び端的な質問が。
もちろん今後の身の振りに関するものと察するに容易いのでラタニは首を振る。
「どうと言われましてもねぇ。とりあえず軍は引退として、後は国王さまに相談するくらいしか考えられません」
「私には相談をしてくれないのか?」
「……もしかして、まだあたしを引き入れようとしてます?」
「ダラード総督としても、ナーダ=フィン=ディナンテとしてもな」
その返答に込められた意味にラタニも返答に窮する。
前者は精霊力を解放できなくても感じられるのなら指導者としてスカウトしたい。
後者はディナンテ家の養子として迎え入れたい。
しかし精霊力を感じられる程度の自分の指導を素直に受ける者はどれだけいるか。ただでさえ敵を多く作っていた身、余計な軋轢を生む可能性は非常に高い。
そして自身の出生を知っても尚、変わらず娘として受け入れようとするナーダの気持ちは素直に嬉しい。だが今まで隠し事をして、散々迷惑をかけた自分がその申し出を受けても良いものか。
ただもし……万が一でもアレクの想いに応えるのなら、ナーダの申し出を受け入れるべき。王位継承権を辞退してもアレクは王族、王国最強の座を失った今、侯爵家の養子になれば周囲の批判も最小限に抑えられる。
しかしそんな理由で受け入れられるはずもない。
周囲に出生を伏せたところでバケモノなのは変わらない。精霊術士としても貢献できない自分はただのお荷物でしかないのだ。
「……もう面会時間も終わるな」
葛藤するラタニを他所に、時計を確認したナーダが立ち上がる。
「すぐに答えを出せとは言わない。ゆっくりと考えろ」
「感謝します……」
その配慮にラタニもお礼を告げるがもう答えは出ている。
にも関わらずアレクの存在を抜きで、ナーダの娘になれれば幸せだろうと女々しい感情から、答えられない自分が情けないと――
「お前は恥ずかしがり屋な上に、かなり捻くれていると弟分から聞いたぞ」
「……あん?」
俯くラタニだったが、去り際に突然ナーダが切り出した。
「言われるまでもなく知っていたが、しかし私も知らない話をしてくれた」
「いや、あいつにだけは捻くれてるとか言われたくないし……」
何か嫌な予感を抱きつつ愚痴を零すラタニに構わずナーダは振り返り。
「出生を理由に断っていただけで、ずっと私を母と呼びたかったらしいな」
「――――っ」
どや顔で告げられたラタニはこの不意打ちに顔が赤くなる。
「本当にお前は恥ずかしがり屋だ」
その反応に満足したのか、満面の笑みを浮かべてナーダは背を向けた。
「いい返事を期待しているぞ」
今度こそ退室するナーダに声もかけられず、しばし茫然としたラタニと言えば。
「あのガキ……なんて話しやがったんだよ」
アヤトのお節介に愚痴を吐く反面、少しだけ開き直れた。
お陰で素直な気持ちを伝えても良いのではないかと思えるがそれよりも。
ずっと抱いていた本心をナーダに知られてしまった事実に。
「恥っず……っ」
気恥ずかしさの余りラタニは両手で顔を覆い悶えていた。
オマケその五はナーダさまとラタニさんのやり取りでした。
ラタニさんの葛藤も分かりますが、元よりナーダさまを心の母として慕っていましたからね。なのでアレクのあれこれ抜きで、その本心のまま受け入れてもいいわけで。
それでも今まで断り続けていたからこその葛藤なんですが、さすがと言うべきかラタニさんの葛藤を見越してアヤトくんが大暴露していました。
なので今度こそ素直になってもいいのではと思います……が、ラタニさんが顔を真っ赤にする程恥ずかしがるとは。まあ大切な気持ちだからこそ知られると恥ずかしいですからね、特にラタニさんのように飄々としているタイプは尚更です。
とにかくラタニさんの答えは後程として、次回でオマケもラストとなります。
最後まで第十六章をお楽しみに!
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