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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十六章 いびつな絆を優しい未来に編
771/779

優先したもの

アクセスありがとうございます!



 アレク、エレノアと別れたアヤトは続いてレイドの自室へ。


「よう」

「本当に王城を自由に移動しているんだね、キミは」


 バルコニーの窓から声を掛けるアヤトに呆れつつレイドはお出迎え。

 そもそも持たぬ者が精霊術士や精霊士に匹敵する身体能力を持っているとの想定で警備態勢を行っていない。加えてアヤトの隠密能力があれば王城など簡単に潜入できるだろう。


「まずラタニは無事だと伝えておく」

「報告ありがとう」

「それで、品行方正な元生会長さまはどんなやんちゃをしたんだ」

「アヤトくんほどのやんちゃはしてないけどね」


 それはさておき向き合うようソファに着席した二人は簡潔なやり取りから本題へ。

 レイドの犯した強硬策についてサクラやエレノアから聞くことも出来たが、あえて本人の口から確認する為だ。

 というのも自らの意思で謹慎中と聞いて、レイドは二人きりで話す時間を希望していると悟ったからで。

 もちろんアヤトなら気づいてくれるとレイドは最もらしい理由で場を用意したのだが。


「結果的にキミの許可なくルビラくんに話してしまった。申し訳ないね」

「元よりルビラを仲間外れにするつもりはねぇよ。要は頼りになる先輩になら構わん」

「……そうか」

「むろんこれ以上広めるつもりはない。必要もねぇしな」


 一通り説明を終えた後、独断について謝罪をするもアヤトは一蹴。まあ許してもらえると予想しての行動だったが、流れでいい本心が聞けた。

 緊急事態とは言えアヤトは他者の力を頼った。しかも自分たちに対する信頼も感じられるとは嬉しいもので。


「なんにせよ、ルビラに処罰が向かないよう納めたのはお見事だ」

「ボクのわがままに彼女を巻き込むわけにはいかないよ」

「確かに。だがいくら()()()()()()()()()()()()()、少々やりすぎに思えるが」

「かもしれないね」


 しかし余韻に浸る間もなくアヤトが本題に入る。

 やはり強硬策を選んだ真意に気づかれていたようで、レイドは苦笑交じりに肯定するしかない。

 実際のところもっと穏便にレグリスに状況を伝える方法はあった。にも関わらずレイドは自ら軍関係者の心証を下げる方法を選んだ。


 理由はアヤトに指摘されたよう、王位継承権でエレノアを有利にするためで――



『どうせ王位か何かだろ。俺は権力や地位に興味はねぇよ』

『間違ってはいないしそれはボクも同感だ! でもね、ボクが王位に就くために協力して欲しいわけじゃないよ』

『あん?』

『エレノアこそ王位に相応しいとボクは思っている』



 最初はラタニを越えるほどの力を持つ持たぬ者なら、自分の知らない所でレグリスも目を付けているだろう、程度の期待から。

 だが後にアヤトの過去を知り、レグリスからラタニと同等の信頼を向けられていると知って期待以上の存在で。

 もちろんエレノアが自分の期待通りの成長を遂げた上で、との話になるがラタニが中立を宣言している以上、陰で王国を支えてくれるアヤトがエレノアに着けば王太子に選ばれるのも難しくない。

 故にアヤトの実力を見定めた後、エレノアの後ろ盾になるよう協定を持ちかけた。

 強硬策を選んだのもアレクが王位継承権を辞退すると見越してのこと。ラタニを選んだ時点でアレクは辞退する、なら後は自分の評価を下げればいい。

 そうすればレイドの望み通り、エレノアが王位継承権を手に入れるとの狙いだったが――


「キミの言う通り無理にボクの評価を下げるまでもなく、最後はエレノアが選ばれていただろうね」


 自分の小細工など意味もないとレイドは本音を漏らす。

 この一年でエレノアは予想以上に成長してくれた。特にその成長を感じられたのは精霊種が出現した時の対応だ。

 レイドやアレクが突然の脅威に動揺する中、エレノアだけが状況に適した行動を取った。

 負傷したレグリスに変わり、混乱する民に向けた演説。

 不器用ながらも民を第一に考えるエレノアの背中に、レグリスの思想を受け継ぐに相応しい王として器をレイドは感じられた。


「なによりエレノアの周りには多くの仲間が居る。ボクや兄さんにもいるけどね、ボクらとエレノアでは大きな違いがあるから」

「ま、民よりもラタニを選ぶお兄さまや、乗り気じゃないお前よりは民にとってどちらが良い王かは比べるまでもないか」

「そう言うことだね」


 またアヤトが結論づけるように、王位継承権を持つ中でエレノアだけが民の幸せを第一に考えているのが大きい。

 アレクが王位を目指していたのはラタニが理由。

 対するレイドはカイルと誓ったように最初は良き王として、民を導けるよう王位を目指していた。

 もちろん今でも民への想いは変わらない。しかしレイドは誘惑に負けてしまったのだ。

 ある意味アレクと似たようなもの。

 立場関係なく自由に生きるラタニの姿にいつしか憧れを抱き。

 王族という窮屈な場、多くの柵みを日に日に重く感じるようになって。


「ボクも先生のように自由な生き方をしたい。王族だからと立場を理由に決められた生き方じゃなく……ありのままのボクとして」

「…………」

「まあ先生にも柵みがあったけど……だからこそ格の違いを見せられたかな? 本当に、先生には憧れるよ」

「…………」

「とにかく兄さんと同じさ、自分本位な者が民を導く王になるべきじゃない」

「随分と固い考えだ」

「かもしれないね」


 本心を聞いて肩を竦めるアヤトにレイドは苦笑を返す。

 ただこの考えもレイドの自由な生き方の一つ。

 なにより自分よりも相応しいと思えるエレノアがいるからこそ。


「ただ強硬策に出たのは、キミの影響が大きいかな?」

「あん?」

「それなりに優等生として学院生活を送ったからね。その鬱憤が溜まっていたのかもしれない」


 ラタニとは違う自由で、型破りな生き方をしているアヤトのように、周囲が驚くようなやんちゃをしてみたかった。

 故に最後はエレノアが選ばれると確信した上で、あえて強硬策を選んだ。


「迷惑をかけて申し訳ないとは思うけど、それ以上にルビラくんと悪巧みを実行している時はドキドキワクワクしたよ」

「やんちゃは結構だが、理由に俺を持ち出すんじゃねぇよ」

「やんちゃと言えば先生よりもキミの方がお手本になるじゃないか」

「……たく」


 自覚しているから言い返せないのか、単に呆れているのかアヤトはため息と共に立ち上がった。


「言っておくが俺はどちらにもつかねぇぞ」

「この状況下でエレノアが選ばれなければそれまで、ボクが王として頑張るだけさ」

「仕方なく王位に就く王子さまに振り回される王国民が不憫だな」

「なら協定を結ぶかい?」

「結ぶかよ。つーか面倒事を妹に押しつけて終いにするんじゃねぇぞ」

「さすがにそこまで白状じゃないよ。ボクも陰ながら尽力するつもりさ、キミのようにね」

「だから、いちいち俺を持ち出すな」


 お互いの立ち位置を再確認したのなら用もないと、窓に向かうアヤトを引き止めることなくレイドは笑顔で見送った。


「確かにお前はお兄さまと国民の幸せを考えていた」

「……そうだけど」


 のだが、窓を開けたアヤトの言い分にレイドはキョトン。

 ロロベリアの乱入によって話途中で終わってしまったが卒業式の日、レイドはそう宣言している。

 王位よりもラタニとの時間を望むアレクと、エレノアが王位に就けば国民も幸せになれると。

 しかしなぜ今さらと訝しむも、アヤトは背を向けたまま――


()()()()()()()()()()()()()


「…………っ」


「勘違いだったら笑い飛ばしても構わんぞ」


 その言葉に硬直するレイドに追い打ちを掛けたアヤトは姿を消した。

 残されたレイドはゆっくりと顔を俯かせる。

 先ほどの冷やかしに対する仕返しか、最後の最後でやられたと。


 レイドが王位に相応しくないと自覚したのは、ある意味アレクと似たようなもの。


 立場関係なく自由に生きるラタニの姿にいつしか抱いた憧れと、民よりも大切に思える感情が芽生えたからだ。

 つまりアヤトの言葉を笑い飛ばせないのが答えで。


「兄さんと結ばれるのが先生の幸せなら、応援するのもボクの自由だからね」


 この生き方も自分が望んだ自由だとレイドは呟いた。



 

おまけその四は『長い一日も終わり』の後書きで触れたレイドさまが強硬策に出た真意でした。

そして第二章から引っ張りに引っ張ったレイドがアヤトに協定を持ちかけた理由も明かされました。まあ王位を本気で求めていたなら応援しているカイルに知られないようアヤトと接触する理由はありませんからね。

つまりレイドはある程度アレクとラタニの関係を知ったことで、アレクの幸せは王位ではなくラタニとの時間。また民の幸せを望んでいたからこそ、レグリスから受け継ぐに相応しいエレノアの成長を望んでいました。

結果的にレイドの望み通りの結末を迎えそうですけども、アヤトが固い考えと指摘したように、レイドは真面目すぎるのかも知れませんね。国民を第一に考えられなかったとしても、良い王として導けたと思います。

加えてアレクに王位を取らせまいとしていた理由もですね。自身の気持ちよりもアレクだけでなくラタニの幸せを優先できたレイドは優しい男でもありました。

ちなみにレイドの感情を含めた詳しい事情は別の機会でもっと詳しく触れる予定です。



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