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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十六章 いびつな絆を優しい未来に編
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触らぬ神に祟りなし

アクセスありがとうございます!



 クローネの元に訪れたアヤトは協力のお礼を告げた後、約束通り自身の秘密をうち明けるつもりでいたが王都に滞在していた全商会員を動かしたために商会は遅れた事業の再開やスケジュール変更等に追われていた。


『よければお話しは屋敷に帰ってからでいいかしら。サーヴェルも帰ってくるでしょうし、どうせならゆっくりお話ししたいの』


 故に秘密のうち明けは今晩にでもとの提案にアヤトも了承、お礼のみ伝えてそのまま王城へ。

 もちろん忍び込む形になるのだが、事前に合流場所を決めていたのでまずはアレクの自室に向かった。

 エレノアも一緒に待機していたがレイドの姿は無く、聞けばレグリスが帰ってくるまで強硬策に対する反省として自主的に謹慎しているらしい。


『私も同じ立場だけどね』

『……仕方ないとは言え、お兄さま方はやりすぎです』


 まあアレクも似た境遇、なのでエレノアが呆れるのも仕方ないがそれはさておき。

 ラタニの診断結果に安堵する二人にレグリスが帰ってくればまず自分が話を付けること、それまでは待機するよう指示。故に戻り次第、いつもの応接室に来るよう言伝を頼み続いてレイドの自室へ。

 レイドにもラタニの容態を伝え、強硬策について事情を聞いた後は同じように指示して一端王城を後に。


 そしてレグリスの帰りに合わせて応接室のバルコニーで待機することしばし――


「アヤト、居るのであろう」


 マーレグと共に応接室にやってきたレグリスの呼びかけにアヤトは窓から入室。


「お疲れさん」

「ほんに疲れたわ……。なんせダラードに到着してすぐにとんぼ返り、これほど長時間馬車に揺られたのも久しぶりよ」

「なら労い代わりに茶でも煎れるか」

「茶よりもチェスに付き合え」

「チェスは話の後で。チェスを始めると陛下はろくに話を聞きませんから」

「……少しくらい良いではないか」


 そのままマーレグを交えて挨拶代わりのやり取りを。

 もちろんレグリスやマーレグも今回の一件については不可解なことばかり、早々に納得のいく説明を聞きたい気持ちはある。

 しかしアヤトから接触した時点で急かすまでもない。また最も懸念していたラタニが無事なら落ち着いた状態で話を聞くつもりで。

 こうした信頼や配慮が出来る辺りもアヤトやラタニもレグリスを指示する由縁……まあこの二人と関わっていれば妙な耐性がつくのもある。


「それで、アレクから詳しくはお主に聞けと言われておるが、これだけ予を振り回したのならそれは愉快な話を聞かせてくれるのであろう?」


 なのでこのような場でも嫌味を踏まえて問いかけるレグリスに、肩を竦めつつアヤトは向かいのソファに着席。


「今はニコレスカ邸でおねんねしているがラタニは無事だ」


 まずは改めてラタニの容態を報告。暗号のような形でレイドから聞いているが、アヤトから直接無事と聞いて二人は安堵の表情。


「今回の一件について全て話すつもりだが、事情が少々ややこしくてな。故にまずは俺の妹について話しておく」

「会ったことはないがお主の妹といえば……マヤ、であったな」


 そのまま本題に入るもアヤトの導入にレグリスは首を傾げる。

 マヤの存在はマーレグも含めて知っている。ただラタニが描いた筋書きとしての出会いでしかなく、直接会う機会はなかった。

 にも関わらずなぜマヤの話題に触れるのかと、神妙な顔つきで続きを待つ二人にアヤトはため息一つ。


「なら会わせてやるよ。出てこい」


「――はーい」


「「………………っ」」


 呼びかけに答える可憐な声にレグリスとマーレグは息を呑む。

 突然アヤトの隣りにマヤが姿を表せれば当然の反応。しかもマヤは宙に浮いたままなら尚更で。


「国王さまや宰相さまを見下ろすなど不敬でしたね。失礼しました」


 言葉とは裏腹にその反応を楽しむようクスクスと笑いつつマヤはゆっくりと降り立ち、カーテシでご挨拶を。


「マヤ=カルヴァシアと申します。またの名を時空神クロノフ、あなた方人間の言う神でもありますわ。そして兄様と契約を交わしております」

「なにがまたの名だ。逆だろうが」

「最近はすっかりマヤ呼びが定着していますからね。それに兄様の妹という立場の方が神として過ごすよりも楽しく過ごせていますから」

「そりゃどうも」


 普段通りのやり取りを交わす間も二人は口を開いたまま硬直状態。

 そんな二人を一瞥したアヤトは気に掛けるどころかほくそ笑み、新たな情報をうち明けることに。


「妹の紹介を終えたついでに、こいつも明かしておくか」


「「………………っ!?」」


 立て続けに起こる不可思議な現象に硬直していた二人はこれでもかと言わんばかりに眼を見開いた。

 というのもアヤトの黒髪が右前髪一房を残し、黒い瞳の左側が煌めきを帯びた白銀に変化したのだ。滅多なことでは動揺しない二人もさすがに取り乱してしまう。


「マヤに取り憑かれたことで精霊力を失った変わりに神気という奇妙な力を得た。この姿を俺は擬神化と呼んでいる」

「神に対して取り憑くとか、奇妙な力とか兄様は相変わらず罰当たりだこと」

「そりゃ済まなかったな。とにかく精霊術士さまや精霊士さまが精霊力で解放した姿と似たようなもんだ」


 我関せずで擬神化についての情報を開示したアヤトも別に驚かせる為にマヤの正体や擬神化を明かしたわけではない。

 ラタニの一件を説明するにはこの二つを知った上で説明した方が分かりやすいというのもある。

 もう一つは明かす度に驚かれては話が進まないと、要は最も衝撃を受けるであろう情報を早々に明かしてスムーズに話し合うのが目的だった。

 それでも一国の王というべきか。真っ先に我に返ったのはやはりレグリスで。


「……いつ、神と契約した」

「ラタニと出会う前だ。あんたたちに隠していたのは、施設を襲撃したら神さまが居ましたと報告すればバカにするなと叱られるから、と言っていたな」

「他にも理由があったと記憶していますが?」

「俺が神と契約していると知られれば利用されるかもしれんとの老婆心か。確かに教国なら面倒事になりそうだが、国王さまや宰相さまが妄信するはずもねぇよ。なにより気まぐれな神さまをどうこう出来んしな」

「牽制のつもりか……?」

「するはずがないと言ったばかりだが? つーか国王さまだからこそ安心してうち明けているんだがな」

「……ふん」


 まだ多少動揺はしているも今まで隠していた理由、うち明けた理由を元にアヤトの真意を探るだけの余裕を見せていた。

 これほど重大な秘密を隠していたのはラタニの方針。元よりアヤトに普通の生活を送らせたいと願っていただけに、少しでも面倒事に繋がる情報を伏せていたのだろう。

 そしてこの場でうち明けたのは言葉通り、レグリスが真実を知っても変わらないと信用してのこと。でなければここまで正直にうち明けないはず。


「なるほど……まさに白銀と呼ぶに相応しい見目ではあるが、陰湿なお主にその明るい髪や瞳は似合わんのう」

「かもな」


 つまり対応を変えないことが正解とレグリスは嫌味で返せば苦笑交じりにアヤトは擬神化を解く。


「それとマヤ嬢……いや、ここはクロノフ神とお呼びするべきでしょうか」

「マヤで結構ですよ。先も申したように、わたくしは兄様の妹としての立場を気に入っていますので。むしろわたくしこそ陛下に対しもっと敬意を払うべきですから」

「兄以上に無礼でなければ構わんよ」

「なら問題ありませんね。この世に兄様以上の無礼者などいないでしょうし」

「……たく」


 鬱陶しげに肩を竦めるアヤトはさておいて、不気味さは拭えないが僅かなやり取りでもマヤは王国の敵に回るような存在ではないと理解する。

 ただ人間に興味を示していないだけかもしれないが、なんにせよ関わらなければ害はないだろう。

 もちろんマヤの正体、アヤトが神と契約したと知れば利用しようと企む者は居るだろう。それほど人を狂わせる魅力的な情報だ。

 しかしレグリスの望みは民が安心して暮らせる国作り。

 その為には今後もアヤトだけでなく、ラタニの力は必要。二人の信頼を失うくらいなら、この情報を盾に博打に出るような真似はしない。


「マーレグもよいな」

「……畏まりました」


 マーレグにもクギを刺せば、レグリスの意思を汲み取り一礼を。

 今後もレグリスの望みを叶える為アヤトには尽力してもらうよう上手く利用させてもらうがこの方針は今まで通り、むしろ利用しているのはお互い様だ。

 要は今回の後始末をレグリスが受け持つことで、どれだけアヤトに借りを作れるか。その為にやるべきことは一つ。


「しかし神さまが関わっているとなれば、想像以上に愉快な話が聞けそうだ」

「ご期待に応えられるといいがな」


 故に何事もなく当初の予定通り情報交換が始まった。




オマケその三はアヤトやマヤさんの秘密を知ったレグリスさまの反応でした。

マヤさんの正体やアヤトとの関係を知っても尚、変わらない対応を選ぶ辺りがレグリスさまです。

権力者として無理な野心を抱かず、まずは民を第一に考える。この方針を変えないからこそアヤトも誠意としてうち明けられたわけですが、今後もお互いに利用する関係に変わりはないんですけどね。

特に今回の火消し役を担うことで、どうやってアヤトに借りを作らせるかを考える辺りが強かなレグリスさまでした。



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