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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十六章 いびつな絆を優しい未来に編
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心の強さ

アクセスありがとうございます!



 変貌したラタニとの戦闘中、爆発的に膨れあがった黒焔の精霊力によってアヤトは重傷を負ってしまった。

 黒焔の精霊力に直接触れたであろう両腕と両足は火傷を負ったように肌が爛れた状態。触れる直前に体を丸め触れる面積を最小限に抑えたお陰で顔や腹部は裂傷で済んでいたが、落下による衝撃で背骨や肩を骨折。

 もし黒焔の精霊力を全身で受けていればもっと悲惨な姿になっていただけに、咄嗟の判断はさすがと言える。

 むしろ良く生き延びたと思える程で、それほどの重傷を治療したカナリアの技量と合流するまで懸命に治療術を施し続けたミューズによって何とか一命は取り留めた。


 しかし大量の出血や意識が戻らないことから医師に診せることとなり、ツクヨがアヤトを担いで急いで王都へ。

 ニコレスカ邸に到着すればグッタリとしたアヤトに使用人は驚き、しかしロロベリアやミューズは事情説明をするよりも先に医師を手配してくれて。


「私とツクヨさんは陛下の元へ向かいます」


 客間のベッドにアヤトを横たえるなりカナリアは予定通り王城へ。

 アヤトの容態も気掛かりだが、行方を眩ませたラタニも気になる。故にサクラと話し合った結果、ツクヨと共にレグリスへ報告することに。


「アヤトさんは精霊種の出現によって避難している中、怪我を負って意識を失っていたところを発見したミューズさまが治療術を施した。いいですね」


 なので診察を受ける際、医師に状況説明を求められた場合の回答を用意してくれたが――


「……それとご両親を失った後、引き取られた家庭であまり良い待遇を受けなかったことにしてください」


 悲痛な面持ちで続けるカナリアの言い分に首を傾げるも、なぜこの回答が必要なのかロロベリアとミューズは嫌でも理解することになった。


 それは医師が到着して間もなく、カナリアの用意した状況説明を終えて容態を診るために衣服を脱がした時のこと。


「これは……っ」


 ボロボロのシャツを脱がせた医師は言葉が続かなかった。

 というのもアヤトの()()()()()()()()()()()()。余りに惨たらしい傷跡に医師も目を反らす程で。

 傷を負って間もない内に治療術を施せばほとんどの傷は跡も残らないが、半端な治療で放置すれば別。

 そしてこの古傷は非合法な人体実験中に刻まれたものだ。苦しみから自らの手で掻き毟ったもの、実験の成果を試すために受けた訓練で負ったもの。

 中には自傷を繰り返したような跡が残っているのは、地獄のような時間から解放されようと考えたのか。

 それでも最後に思いとどまっているからこそ生き残ったわけで、アヤトが常に長袖を着ているのもこの傷跡を隠す為なのかもしれないと、幼少期に治療役を務めていた際に見たカナリアが教えてくれた。


「……彼の傷はいったい」

「実は――」


 とにかくカナリアが用意した言い訳で悟った医師も深く追求しなかったが、事前に聞いてなければロロベリアやミューズも衝撃のあまり返答できなかった。

 それほどまでに痛々しい古傷を実際に目の当たりにしたからこそ、ミューズは診断中も涙を堪えるのに必死だった。

 もちろんロロベリアも同じ。アヤトの体に刻まれた傷跡がシロとの約束を果たそうと耐え続けた証となれば複雑で、自分以上にショックを受けているかもしれない。

 故に診断の結果、いつ目を覚ますか分からないが命に別状がないと伝えられるまで二人は無言のまま見守っていたが――


「ミューズさん、アヤトの看病をお願いできますか」

「……え?」

「私は今の内に休んでおきたいから」


 医師にお礼を告げて見送ってすぐ、そう告げるロロベリアにミューズは面食らっていた。

 この状況以下で休もうとするロロベリアに驚いたのではない。むしろノア=スフィネの精霊石を浄化したことでかなり精霊力を消耗しているだけに、アヤトの無事が分かったのなら休むべきとミューズも考えていた。

 ただ自分から切り出す前に進んで休むとは予想外で。


「お姉ちゃんがおかしくなったのは黒い霧が原因。それにミューズさんの報告を聞いた跡、アヤトは私の保有量を確認したんです」


 なによりロロベリアの表情。

 自分と同じように表情を曇らせ、精霊力の輝きも沈み揺らめいていたハズなのに今はどちらも落ち着きを取り戻している。


「私の精霊力が必要になるかもしれない。だからいつお姉ちゃんの居場所が分かっても良いように、早く回復しておきたいんです」


 その理由はアヤトの無事が分かったからこそ、次を見据えて切り替えたからで。

 自分の精霊力がラタニを元に戻す鍵になるのなら、今は落ち込むよりも回復を優先する。

 悲惨な過去を見た後でも引きず、命に別状がなくても心配は変わらなくともやるべきことをやる。


「でもミューズさんも疲れてるかな。だったら――」

「問題ありません」


 ロロベリアの前向きな姿勢にミューズも首を振り、無理矢理切り替え今の自分に出来ることを受け持つことに。


「ならお任せします。後は朧月と月守を隠しておかないと……アヤトが目を覚ましたら絶対にお姉ちゃんを探しに行くから」

「真っ先にわたしが引き止めますからご安心下さい」

「もし強引に行くようなら精霊術で引き止めてくださいね」

「それはさすがに……」

「ミューズさんは優しすぎるんです」


 またロロベリアとのやり取りで笑顔を浮かべてはいるも。


(……情けないですね)


 どんな困難が起きようと前向きでいられるその強さに、ミューズは自身の弱さを改めて痛感していた。




オマケその二は『前途多難』での一文『偶然でもアヤトの悲惨な人生の一部を知ってミューズの心は沈んでいた』について触れてみました。

アヤトの悲惨な人生の一部、というのはもちろん非合法な実験で負った多くの傷跡ですね。改めて地獄のような日々を過ごしていたと知って頂くものと、普段からアヤトが黒一色で暑苦しい服装をしている理由も明かされました。

また同じようにアヤトの過去の一部に触れて、前途多難な状況下でも落ち込むだけの自分に対し、前向きに切り替えられるロロの強さを垣間見たことでミューズの心が沈んでいました。

実際にロロは今作で最も無鉄砲……ではなく、逆境に強いタイプですからね。その悪足掻きのお陰でマヤさんからヒントを得たわけですが、後にフロッツの助言を元に成長してしっかり成果を上げたミューズのも心の強さが備わっていると思います。



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読んでいただき、ありがとうございました!


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