もう一つの終章 共感する時間
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ラタニが目を覚ましたとの朗報を受けた翌日――
「ありがとうございました」
警備員にお礼を告げたロロベリアは軍施設内に居たりする。
ここに来た目的はもちろんラタニのお見舞い。ただ親善試合の訓練などで何度か来てはいるが医療施設の場所までは分からず、警備員に確認すれば丁寧に教えてもらえて内心安堵したものだ。
なんせ昨日の面会でレグリスにお見舞いの許可を貰ってはいるが、場所が場所だけに話が伝わっているか分かるまでは緊張するもの。
本当はアヤトと一緒に行くつもりでいたのに今朝方王城に向かったまま既に昼過ぎ。早くラタニの様子をラナクスに戻ったみんなに伝えたいのもあるが、自分が王都に残っているのはレグリスとの面会があってこそ。もしアヤトの用件が終われば明日にでもラナクスに戻らなければならない。
つまり行ける内に行っておこうと一人で来たわけで。
ちなみにミライは今も眠ったまま。もし滞在中に目覚めなければ一緒のラナクスへ戻り、しばらくミューズの屋敷でお世話をしてもらう予定だ。
なんせ使用人がいないので日中は留守、対しミューズの屋敷には事情を知るレムアだけでなくフロッツとダリヤも滞在中。二人も色々と気になっているだけにミライから話を聞くまでは王国にいるらしく、軍にもリヴァイを通じて休暇を申請してもらうそうだ。
お陰でミライが目を覚ましてもフロッツが対応できる。彼女と唯一言葉を交わしているだけにフロッツが居れば逃げ出すようなことはしないだろう。
「……あの建物だよね」
それはさておき、教えてもらった道を順調に歩いていたロロベリアは聞いた通りの外観を確認。そのまま向かいつつ考えるのはラタニの状態について。
精霊力が解放できなくなったと聞いた時は衝撃的で、マヤ伝手に報告したミューズやサクラもかなり動揺したらしい。
命に別状がないのは唯一の救い。しかしこのまま症状が回復しなければラタニは精霊術士ではなくなってしまうのだ。
もし黒い精霊力や自分の浄化が関係しているのなら、ミライから何か聞けば理由は判明するのか。
そう言った意味でも早くミライに目覚めて欲しい。自分の謎について知る怖さはあるも、半端なまま居るよりは――
「――白いのじゃねぇか」
「わひゃあ!」
などと神妙な面持ちで思考を巡らせていたロロベリアだったが突然現れたアヤトに声を掛けられ間抜けな悲鳴を上げた。
「……変な声を出すな」
「あなたのせいでしょ! というかいま上から来たよね!」
冷ややかな視線で批判されるも文句が言いたいのはロロベリアの方だ。
そもそもなぜ上から落ちてきたのか。
周囲に大きな建物もないのにどこから来たのか。
「まあいい。ここに居るならラタニの見舞いか」
「聞いて? 私の話を聞いて?」
質問を投げかける前にアヤトは勝手に話を進めるので堪らず突っこむもやはり無視。
「残念だが今はお取り込み中だ」
「取り込み中……? なら、さっきまでお姉ちゃんの所に居たの?」
「故に見舞いは明日にしろ」
「……だからね、私の話を聞いて」
「心配せずとも帰る前に立ち寄る余裕はあるからな」
「そこは安心したけど……」
「つーわけで行くぞ」
「……そろそろ私の話を聞いても良くない?」
一方的に話を進めるや否や、今まさにやって来たばかりの道を返答も待たずに戻っていくアヤトに愚痴を零しながらもロロベリアは後を追った。
・
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「ほらよ」
「…………ありがとう」
――のだが三〇分後、何故かロロベリアは商業区の公園でアヤトからお茶を受け取っていたりする。
てっきりあのまま帰宅するかと思いきや、急に寄り道をすると言いだすので着いてきてみればこの状況。
もちろん不満はない。公園のベンチでゆっくり過ごすのはデートのようでちょっと……かなり良い。
しかしアヤトから誘われて、デートのような時間が始まれば嬉しいよりもぶっちゃけ気味が悪い。なによりアヤトにそんな意図など確実にないと言いきれるだけに、ぬか喜びしないよう意識的に感情を抑えてしまう。
「不満があるなら付き合わなくても構わんぞ」
「不満じゃなくて急すぎるから驚いてるの」
まあこれまでの扱いから警戒しているだけ、この時間を無駄にするロロベリアではない。
特に最近は色々ありすぎて二人きりの時間もなかった。
「面倒事はまだ残っているが、一先ず落ち着いたからな。たまにはこんな時間を過ごすのも良いだろう」
「それは賛成」
ただ自然と二人に会話はなくお茶を飲みつつ過ごすことに。
本当に色々あったからこそ、ゆったりとした時間を満喫したいのかもしれない。
故にロロベリアもなんとなく公園で遊ぶ子どもや露店で飲み物を買う家族連れ、カップルらしき男女を眺めていたが――
「何事も経験だな」
「ん?」
独り言のような呟きに自然とロロベリアの視線が向かれる中、空を見上げたアヤトはほくそ笑む。
「悪くない時間だ」
「そうね……色々あったからゆっくりするのも久しぶり」
まさにアヤトも同じようなことを考えていたようで、些細な共感にロロベリアも空を見上げて笑った。
もちろんラタニを救えて全てが終わったわけではない。ミライが目を覚ました時、なにを知ることになるのか。
自分の精霊力も含めてまだまだ考えることは多くある。
それでも今くらいはこの優しい時間に浸ってもいい――
「せっかくだ、なにか意味のない話でもするか」
「なにがせっかく!?」
などと浸る間もなくアヤトからそれこそ意味不明な提案をされてロロベリアは突っこみを抑えきれなかった。
しかしアヤトは止まらない。
「くだらない話でも構わんぞ。そう言った話は得意だろう」
「まるで私の話が全部意味なくてくだらないように聞こえるんだけど!」
「なんせ白いのだ」
「またそれ? せっかく良い雰囲気だったのに……」
無粋を通り越した失礼な物言いに、やはりがっかりするオチが待っていたとロロベリアが肩を落としたのは言うまでもない。
今章ラストは久しぶりの主人公二人の時間でした。
アヤトの急な誘いにロロが警戒するのは仕方ないとして、珍しく共感した気持ちに嬉しくなるロロですが、しっかりオチも用意しているのがアヤトですね。
ただアヤトが何に共感して悪くないと口にしたのかは……まあそう言うことですよ。なので深くは触れません
しかしアヤトくん、意味のない話とかくだらない話とかは提案することではないんですよ……と、誰かさんの変わりに突っこんだところで第十六章もこれにて終了。
なので次回からはお約束のオマケが始まります。十六章内で描ききれなかったあんなことやこんなことを読んで頂くことで、第十七章をより楽しめるようになっている……ハズ!
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