平和な光景
アクセスありがとうございます!
治療を終えて一息ついた所でまずカイルたちが合流。
ラタニの救出に喜ぶ反面ミライがいるやロロベリアの保有量が増えていることに驚き、また途中で見た白輝きの柱はなにかとの話題になったのは言うまでもなく。
しかし説明する前にグリードたちが合流、同じような反応を見せたのも言うまでもないが――
「俺も詳しくは知らんがその話は後にしろ。早くラタニを休ませたい」
アヤトはこの場に留まり話し合うよりもラタニの体調を優先。確かに黒い精霊力の影響か随分と消耗しているだけに、早々に検査をさせるべきとみなも納得。
予定通り詳しい話は帰路でとグリードとイルビナが御者を務める馬車にはアヤト、ロロベリア、ミューズ、ツクヨ、フロッツ、ミライが。
レガートとシエンが御者を務める馬車にはエニシ、ダリア、スレイ、カナリア、アレク、ラタニ、ズークが乗り込むことに。
この組み合わせはミライの乱入時に意識を失っていたアヤトと暴走から記憶のないロロベリアに一部始終を共有する為。故にミライと唯一言葉を交わしたフロッツも同席させたがダリアと別の馬車になったことで不満を漏らしたがそれはさておき。
自らの足で戻るカイルたちも含め、改めて王都で情報共有の場を設けることになり一時解散。
「なにがあったんだ」
「とりあえずアタシが話そうか」
からの馬車が出発するなり早速情報を求めるアヤトにツクヨが対応。
ロロベリアがマヤの提案で精霊虚域を使用した際の変化から、四大の精霊術を駆使してラタニを圧倒している所にミライが乱入したことを。
続いてフロッツがミライとのやり取りを報告、やはり全く覚えていないようでロロベリアは驚きのあまり茫然と聞き入るのみで。
「――とまあ、以上がキミが眠っている間にあった出来事か」
「一応聞くが二人には今の白いのがどう視える」
対するアヤトは最後まで冷静に聞いた上でまずツクヨとミューズに確認を。
「変わらず綺麗な流れしてるぜ。ただみんなが指摘したように保有量は別物、例えるなら海みてーに底が視えなくなってるわ」
保有量を除けばツクヨが確認する分には目立った変化はなく、精霊力の流れもミライが整えてくれたことで元通りになっているらしい。
「……わたしの眼にはロロベリアさんの腹部に白い輝きが視えるようになりました」
「ほう?」
「恐らく白い精霊力かと思いますが、精霊虚域を使用した時に視えた生き物のような感覚ではなく、小さな塊として鎮座しているように……でしょうか」
しかしミューズの眼にはこれまで視認できなかった白い精霊力が視えるようになっているのなら、ロロベリア自身に自覚はなくともやはり確実に変化が起きている。
精霊虚域を使用した際は無我夢中で、詩を紡ぎ終えた後は言わずもがな何も覚えていない。
ただこの変化はミライという少女のお陰である程度予想は付く。
彼女は白い精霊力を纏う自分を見て『どのようにして封を解かれたのか』と気にしていた。
更に精霊力の乱れに気づいた後『完全に解除されてない』と驚いていたという。
そしてマヤが提案した精霊虚域が引き起こした変化なら。
恐らく精霊虚域によって何かの封印が解かれ、白い精霊力が視えるようになった。
だが不完全な解除が故に表立った変化は保有量の増加や解放時に髪や瞳の輝きが鮮やかになり、内側はミューズの眼にしか視えない白い精霊力の塊がある程度のもの。
とにかく自分には白い精霊力が封印されたことになる。
いったい誰がいつ封印したのか。
そもそもなぜ封印された状態で浄化の力があったのか。
なによりミライが自分を見て『ローエル』と呼び、以前から口にしていた『ローゼア』という存在。
ここに来て新たな謎が増えたことで、ロロベリアは自分が何者なのか分からなくなっていく――
「白いの。ラタニやフロッツのように保有量を少なく感じさせられるよう制御は可能か」
「……え?」
ハズだったが、アヤトから急に話題を振られてロロベリアはキョトン。
「今は不明なことだらけだが、そこにいる奴が目を覚ませば明らかになる。それまで平穏に過ごしたければ普段は抑えておくべきだ」
しかし理由を聞いて納得。
確かに今まで学院生でも平均程度の保有量が急激に増えれば周囲は違和感を覚える。前例がないだけに騒ぎになるのは火を見るより明らかだ。なら今は知られないよう抑える必要がある。
なによりミライを保護したことで自分に対する謎の解明は確実に前進したのだ。
「……だな。もし良ければ俺が抑え方を教えるぜ、ロロちゃんの制御力ならすぐにコツを掴めるだろ」
「です……ね。お願いします」
故に謎について、延いては自分が何者なのかについてはミライが目を覚ましてから考えればいい。
要は思考の渦に囚われることなく、今はラタニを救えたことを純粋に喜べば良いとロロベリアは前向きに捉えてフロッツの提案を受け入れた。
「少なくともこの子はロロちゃんの敵じゃない。だからってわけじゃないけど、約束したんでこの子の保護を頼むわ」
「なら一先ずニコレスカ邸で匿ってもらうか。指名手配については俺から国王に話しておく」
「つまり国王さまに全てを話すわけか」
「さすがにこれ以上は隠し通せん」
故に残るは今後の問題についての話し合いを。
レグリスにはマヤの正体を隠していたが今回ばかりは事情が事情、元よりラタニの方針で隠していただけにアヤトはうち明けるつもりでいる。
もちろんレグリスを信用してのこと、マヤの正体を知ったところでアヤトを利用するような指導者ではない……そもそもとしてアヤトやマヤを利用できるとは思えないが。
「しかも俺たちの勝手な行動であちらは大混乱だ」
「確かに事情を知らないとラタニ殿が大暴れしてんじゃないかって気が気じゃないだろうな。それに命令した部下をアレク殿下が勝手に追い返してるし」
また非常事態とはいえレグリスの知らぬ所でラタニを救う為に動いてしまった。連絡が取れない以上、今ごろダラード支部は大混乱しているだろう。
アレクについてもアヤトが弁解すればいい。完全に処罰は免れないが情状酌量の余地もある。
「……どうやら、少しは状況がマシになっているようだ」
ならば早々にレグリスと連絡を取るのが最優先と思われたが、不意にアヤトが苦笑を漏らす。
「今し方サクラから連絡が来た。国王にはレイドが報告しているとよ」
「レイド殿下が?」
「ルビラに協力してもらって少々やんちゃな方法で報告したそうだ。故に夕刻ごろ戻ってくる国王に詳しい説明と弁解を頼まれた」
「「「「…………?」」」」
どうやら王都に到着したサクラからマヤ伝手で連絡がきたらしいが、いったいレイドはルビラと協力して何をやったのかと四人は首を傾げるばかり。
ただその疑問についてはアヤトも聞いていないらしく、少なくともレグリスを始めダラード支部を大混乱にさせてないのなら確かに状況は改善されてもいるわけで。
とにかく後は王都に戻ってから話し合い、レグリスとの面会に備えると方針も決まった。
「つーわけで俺は寝る」
「「「は?」」」
「は、じゃねぇよ。王都に戻れば面倒事が待っているんだ、今の内に休ませてもらう」
……途端、アヤトの休む宣言にミューズを除く三人が目を丸くした。
ただでさえ病み上がりな状況でほとんど休まず重傷も負った身、最も負担を強いられたので休める時は休むべき。王都に戻ればレグリスの面会もあるので尚更だ。
しかし野生動物なみに警戒心が強いあのアヤトが自分たちの前で寝る行為が、どれだけ異常事態なのかを知るだけに三人が驚くのも当然で。
「多少なら騒いでも構わんぞ。ではおやすみ」
そんな三人の驚きも無視してアヤトは目を閉じてしまう。
「……めっちゃ寝付き良いな」
数秒後には寝息を立て始めるのでフロッツが呆れるのも無理はないが、本当に眠ったからこそ驚きよりも嬉しさが勝った。
「こいつの寝顔なんざ初めて見たぜ」
またツクヨも同じなのか目の前で眠るアヤトを感慨深いと眺める。
どんな心境の変化かは分からないが、少なくとも自分たちに対する壁を取り払ったからこ無防備な姿を見せてくれたのだ。
「それにしても、普段はブスッとしてるくせに寝顔はあどけないこと」
「たしかに。アタシの知らない一面だわ」
「なによりめっちゃ面白い光景だぜ」
「だな」
故に起こさないよう二人ははやし立てつつ、笑いを堪えるのに必死だったりする。
というのも馬車内はフロッツ、ツクヨの隣りにミライが眠り、向かいにミューズ、アヤト、ロロベリアという並びで。
「「………………」」
つまり向かいでは初めて見るアヤトの寝顔を凝視する二人がいた。
馬車が揺れる度に『こっちに倒れてこないかな』とドキドキしている表情が実に面白く。
「フロッツさん、どっちに傾くか賭けようぜ」
「いいねぇ。俺は兄貴分としてミューズちゃんにするわ」
「ならアタシは白いのちゃんにするか。負けた方が飯奢りってことで」
「もちろん酒もありだよな」
挙げ句賭け事にして楽しみ始めた。
ちなみに賭けの結果は、いつの間にか眠ってしまったロロベリアとミューズが同時にアヤトの肩にもたれ掛かることで引き分けに終わった。
王都に戻る道中でアヤトやロロがミライについて、また白い変改についてを知りました。
色々な情報でロロが再び不安になるのも仕方ありませんが、ミライを保護しているなら遠からず全てが解明されますからね。なので今はラタニさんの無事を喜ぶと、前向きなロロらしい切り替えでした。まあそんなロロの心情を察してアヤトが話題を変えたんですけどね。
またレイドさまのお陰でレグリスさまサイドの混乱を抑えることになりましたが、ルビラさんと協力してどんなやんちゃな方法で伝えたのかは次回として。
アヤトの変化もですがロロやミューズが寝顔を凝視したり、最後は今回の作戦に置いて鍵となった三人が仲良く(?)眠っている光景は平和が戻って来た証ですね。
そして今章も残り一話で終章となります。最後までお楽しみに!
少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!
みなさまの応援が作者の燃料です!
読んでいただき、ありがとうございました!